優等生の秘密
アサト:作

■ 23

「これを、撮っている人間がいるのよ? 先生達なら、男二人で女一人を無理矢理犯して、その口止めのために写真を撮った、そう思うでしょうね。」
 聡子の言うことももっともだった。だが、夏美は諦めたくなかった。
「それを、先生に見せる時に、なんで真田君の携帯にその画像があるのか、不審がられないの?」
「だれが、携帯で見せるなんて言った?」
 その言葉に、夏美の表情が凍りついた。
「いくらでも手段はあるわ。印刷して、学校中に貼り出してもいいし、学校中にメールで送るっていうのもいいわね。」
「けど……!」
「夏美、もういいよ。」
 貢太はそう言って、夏美に歩み寄った。そして、優しくその肩を抱いた。
「俺が、お前らの言うとおり、お前らの監視できる所にい続ければいいんだ。無駄に抵抗したりせずに。そうだろう?」
「そのとおりだ。」
 京介はそう言って、安堵したような笑みを浮かべた。そして、用は済んだと言いたげに聡子の肩を抱き、踵を返した。
「……なあ。もし、万が一、俺が真田の成績を抜いたら……その時は、その画像、ちゃんと処分してくれるか?」
 背中に投げかけられた言葉に、京介の足が止まった。一瞬、何も言わずにいたが、その提案がさも可笑しいと言いたげに低い声で笑い、ゆっくりと貢太の方を見やった。
「約束しよう、まぁ、そんな事は万が一にもありはしないが……」
 言ってから、京介達は静かに教室を立ち去った。貢太と夏美は無言で、その背中をただ見送っていた。
「……貢太、ごめん……」
「夏美が、謝ることじゃないよ。俺が、ちゃんと頑張ればいいんだ。」
 貢太はそう言って、拳を握り締めていた。強く握り締めすぎて、きりりと音がした。だが、そんな事にかまっていられる余裕は貢太には無かった。
 そう、自分が頑張りさえすれば、あの画像を取り返すことなどたやすい。そして、いつか聡子を……貢太はそこまで考えて、自分の中の欲望に初めて気がついた。
(俺は、辻野を……)
 そこまで思って、慌てて貢太はその考えを振り払うかのように首を横に振った。
「夏美、帰ろうか。」
「う、うん……」
 夏美は貢太の様子に少し戸惑いつつも、にっこりと微笑む貢太に何も言う事が出来なかった。

 聡子が京介を連れて家に帰ると、丁度母親が出かけようとしているところだった。
「母さん、ただいま。」
 聡子の母親は、その声に少し驚いたように肩をすくめた。そして慌てて振り向いて、笑顔を取り繕う。
「おかえり、聡子。あら、京君も一緒? いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
 京介はそう言って、ぺこりと頭を下げた。幼い頃から、京介と聡子は家族ぐるみの付き合いをしていたのだ。聡子の母親は、京介が小さかった頃からの「京君」という呼び方を未だに使っている。
「母さん、今日も遅くなる?」
「うん、ちょっと仕事先の人のお祝いで……もしかしたら、泊まってくるかも。」
「そっか。じゃあ、ゆっくりしてきてよ。」
「そうするわ。」
「いってらっしゃい。」
 聡子はそう言って、笑顔で母親に手を振った。母親も、それに答えて笑顔で手を振る。聡子は母親の姿が見えなくなるまで見送っていたが、その姿が見えなくなった途端、聡子の笑顔は消え、冷たい表情でその姿が消えた方向を睨みつけていた。
「……母さん、ちゃんと化粧してた。今夜は京介のお父さんの所ね。」
「……だろうな。」
 京介の父親と、聡子の母親はもう何年も前から男女の関係になっていた。聡子の父親は聡子が生まれてすぐに事故で亡くなっていたし、京介の両親も、京介がまだ幼い頃に離婚していた。幼馴染だった京介の父と聡子の母は、その頃から頻繁に会うようになっていた。突然母親がいなくなり寂しい想いをしていた京介と、父親というものを全く知らなかった聡子は、純粋にそれを喜んでいた。そして、同い年ではあったが、兄弟の様な存在が同時に出来たことも嬉しかった。お互いの親の関係に気づくまでは……

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