2007.07.14.

アイノカタチ
03
白楽天



■ 1章「始まり」3

「え……その……き、聞いたって……?」
佳奈は恐る恐る顔を章介に向け尋ねる。
声が震えているのは気のせいではないだろう。
むしろ上ずらずに声が出せただけ優秀なのかもしれない。
「ごめんね。私が話しちゃったのよ。佳奈ちゃんの家の事情のこと。章ちゃんが結構佳奈ちゃんのこと気になったみたいで、ね。」
「ごめんよ。俺が無理やり聞いたんだ。リツコさんを攻めないでくれるかい?」
「私の……家のこと……」
佳奈は俯いたまま、鸚鵡返しに繰り返す。もしも先ほどの愛撫について言われていたらどうすればいいのか考えることすらできなかった。
確かに家の事情をつい先ほど会ったばかりの、それも店の客に知られてしまうのは恥ずかしいことには違いなかったが、今も身を燻らせ続ける“熱”のことを知られるよりは幾分かマシに思えた。
「それでね、章ちゃんと私から提案があるんだけど?」
リツコがスッとしゃがみ、ベッドで横になっている佳奈と同じ視線になる。
佳奈も上体を起こそうとしたが、胸をはだけさせていることを思い出しシーツを顔の近くまで上げた。
佳奈は顔だけを挙げリツコの方に向ける。
瞳が潤み、“熱”で上気している顔が美しい。
「提案、ですか?」
「そう」
今度は章介がしゃがみこんで笑顔で続ける。
「佳奈ちゃんさえよければ、俺が生活の手助けをしてあげよう。こう見えてもね、結構お金は稼いでいるんだ。佳奈ちゃんの学費や生活費は援助できるよ」
「え? え、あの、そ、そんなの困ります。ついさっき会ったばっかりの人に援助していただくなんて……」
佳奈の性格からして最初に辞退することは眼に見えていた。
章介は驚くこともなく笑顔を崩さずに二の句を次ぐ。
「ダメかい? もちろん君だけでなくて、ちゃんとお母さんの医療費も工面するよ。バイト代だけじゃベッド代を賄うのが精一杯だろ? いつまで経っても満足な治療を受けさせられないんじゃないかい?」
母親の医療費。
確かに佳奈にとっては大きな額だった。章介の言うとおりベッド代と過去の治療費に当てるのが精一杯で新しい手術は厳しいものがある。
だから佳奈は平日でも学校を欠席し働いたりすることもしばしばあった。
しかし母が身を削って入学させてくれた学校をやめるわけにもいかず、出席日数ギリギリで出席しながら、授業を受けないぶんバイトや通学の合間を縫っては独学で教科書を使って勉強し試験だけは進級、卒業に足りるように努力していた。
(お金は必要よ……でもどうしてこの人はこんなにも親切にしてくれるの?)
「でもそんな……」
佳奈は眼を下に泳がせる。
「遠慮はしなくていいんだよ。俺はただ君のようなコが気に入っただけさ。ただしちょっとだけ条件があってね……」
「条件?」
(やっぱり……でも何か要求されても私には何も……)
「そう。俺の女になること。高校生らしく言ったら彼女ってとこかな?」
「え? だって私まだ高校生だし……章介さん…は大人だし……それに……」
佳奈にはまだ章介の目的がつかめなかった。
そもそも“彼女”の本意を理解できなかった佳奈には到底答えの出せない質問だ。
「それに?」
「私……まだ誰かと付き合ったことないし……付き合うってどういうことかわからなくて……子供だし、たぶんつまらないと思います」
「そんなことは問題ないさ。渋谷で昼間から遊んでいるような奴らに比べれば十分大人だよ」
「そう、なんですか……?」
「いいじゃない? 章ちゃんって結構魅力的な男性だと思うわよ」
ずっと微笑んでいたリツコが佳奈の手をさすりながら口を開く。
また佳奈にゾクゾクっと電流が流れた。忘れかけていた、というより忘れようとしていた感覚が再び佳奈に快楽を呼び戻す。
「どうする? 生活や学費の心配がなくなる。お母さんの医療費の心配もなくなる。さらに今ムズムズしたその気持ちも楽にして上げられるよ」

「え?」
佳奈はまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
(リツコさん、やっぱり話しちゃってたんだ……)
(ああ、そんな……こんな恥ずかしいこと知られてしまうなんて)
「そんなぁ……恥ずかしい……」
佳奈は顔を両手で覆うようにすると嗚咽を漏らしながら涙した。
女として、まだ男性と関係を持ったことのない佳奈には耐えられないくらいの辱めだ。
「ほら、泣くんじゃない。人間誰だって感じたりはするんだから。素直になってごらん、すぐにもっと気持ちよくなれる。」
章介は優しい口調ながらも佳奈の両手を引き剥がし左手で押さえつけた。
「いや! やめてください!! こんなの、いや!!」
佳奈は必死に抵抗を試みるが所詮女だ。男である章介には到底敵うはずもない。
まして、今の佳奈は体中を駆け巡る快感に力が入ってない。
「いやだって言っても、ほら? 身体は正直だね。」
章介はスッと佳奈に顔を近づけると優しく耳を甘噛みして首筋に息を吹きかける。
「はぁう……」
佳奈は顔をのけぞらせながら吐息をこぼす。
(やだ……リツコさんの時と同じ……)
(またおかしくなっちゃうよ……)
「それに、俺たちには隠せないよ……こっちもね。」
そう言うと章介は空いている右手でシーツをさっと払いのける。
途端、はだけたパジャマの隙間から佳奈の白い肌とリツコが貸した赤いブラが顔を覗かせた。
「いやぁ!! やめて!! 見ないでぇ!!」
手で隠そうとするが両手は押さえつけられていて動かせない。
(こんなの……いやよ……)
(押さえつけられて、裸を見られるなんて……)
(助けて……もう死んでしまいたい……)
「言ったろ? 素直になってごらん。さっきの条件のことはそれから考えればいい。」
章介はジタバタと暴れる佳奈の足を押さえるようにまたがり、右手でブラのカップの隙間から指を入れ、乳首に優しく愛撫を加える。
「ああ、いやぁ……ダメっ……そんな……」
佳奈は苦悶の表情を浮かべながら愛撫に耐えようとするが、再び勢いを得た火は佳奈には止められなかった。その証拠に先ほどまでの抵抗が嘘のように止んでいる。
もはや、わずかに残った理性が抵抗の文句を並べさせているだけなのだろう。



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