2004.03.13.

亜樹と亜美
01
木暮香瑠



■ 出会い系サイトの罠1

「亜樹ちゃん、今ごろまで何してたの? もう10時よ!」
 深夜、亜樹が玄関のドアを開けるとそこには母親の紗枝が立っていた。時計の針は、十時過ぎたところを指している。亜樹は、母親に会ったことが不服そうに眉を曲げた。
「うるさいな……。何しててもいいでしょ?」
 いつもより低い声で、しかし力のこもった声で亜樹は母親に言い放った。
「何いってんのよ、来年は受験でしょ? 亜美ちゃんはちゃんと勉強してるわよ」
 母親は、亜樹の反抗的な言葉に困惑の表情を浮かべた。
「ふん! いいじゃない! わたしが何してても……。亜美は亜美、私は私なんだから」
 そう言うと亜樹は、ぷいっと顔を背け二階へと階段を上がって行く。亜樹の背中に向かって、紗枝は言葉を続けた。
「中学の時は、二人一緒に勉強してたじゃない。亜美ちゃんは、学校では生徒会長もしてるのよ。それに引き換え、あなたは遊び歩いて……」
 母親の言葉を背中で聞いていた亜樹は、階段の真中で振り返り、
「うるさいんだよ。グチャグチャと……。ほっといてよ!」
と、その愛らしい顔を紅潮させ叫んだ。そのまま階段を駆け上がり、自分の部屋のドアをバタンと締めた。

 亜樹は、閉じられたドアに背を凭れかけ呟く。
「どうしてみんな、私と亜美を比べるの? わたしは私なのに……」
 亜樹は、月明かりだけが差し込む薄暗い部屋の中、瞳に涙が浮かんでいた。



 亜美と亜樹は、小さい頃から双子の美少女と町内で評判だった。街を歩けば、すれ違う者誰もが振り返った。その愛らしさと、そっくりな二人に二重の驚きで、少女たちを羨望の眼差しで見詰めた。その二人も、今はもう高校三年生になっている。しっかり者の亜美と元気な亜樹。クリッとした大きな瞳の笑顔が可愛い二人は、そっくりな顔とその美貌、そのスタイルの良さ、各々違った性格が見るものを驚かせた。

 大人しいがしっかり者で成績も優秀だった姉の亜美。成績は亜美ほどでもないが、いつも元気でスポーツ万能の妹の亜樹。そんな二人は、いつもクラス中心で輝いていた。学校中のみんなが、成績優秀の亜美を羨望の眼差しで見詰め、スポーツ万能で明るい亜樹に親しみを感じる。あたかも同じ顔の二人が、一人の完璧な少女のように思われた。

 そんな亜樹の態度が変わってきたのは、二人が高校二年生になった頃からだ。高校に進んだ二人は、各々のクラスでその美貌で評判になった。特に明るく親しみやすい亜樹は、すぐにクラスの人気者になり新しい友人たちに溶け込んだ。その中の一人が、背の高い竜崎健吾だった。勉強ができスポーツマンの健吾は、クラスのリーダー的存在だった。クラスの女子達の羨む中、亜樹と健吾は、すぐに打ち解け親友と呼べる存在になった。

 亜樹のクラスは、グループで映画を見に行ったり遊園地に行ったりした。夏には、みんなで海に行き、秋には紅葉を見に山にハイキングにいった。月に一回は、クラスで何かしらの行事を開催するのが恒例のようになり、その中心にはいつも、亜樹と健吾がいた。その中に混じってきたのが亜美だった。亜樹に双子の姉がいると知ったクラスメートは、遊びに行く時、亜美を誘ってくるように言った。双子に興味があったのと、亜美の清楚とした美しさに憧れる男子達の要望でもあった。

 大人しい亜美だが、妹の亜樹と一緒であることの安心感から、亜樹にクラスの生徒達と親しくなるのに時間は掛らなかった。亜樹と亜美、そして健吾の三人を中心にクラスメートとの付き合いが進んでいた。

 そんな関係が崩れたのは、二年生に進んだ頃からだ。健吾と亜美が交際を始めたのだ。健吾は、真面目な亜美の正確をよく理解し真剣に付き合いだした。もちろん清い交際だ。健吾の真剣な態度に、亜美も次第に惹かれていった。

 最初は、亜樹も二人の交際を歓迎していた。亜樹にとって健吾は、好きとか嫌いとかの感情無しに、友情で結ばれている仲だと思っていた。しかし、健吾が亜美と付き合いだすと、亜樹と健吾の付き合いはだんだん疎遠になっていった。亜美との付き合いがあるから仕方ないと判ってはいても、健吾の態度によそよそしさを感じてしまう。いつも一緒に居た亜美、親友だと思っていた健吾……、亜樹は自分だけが除け者になったような寂しさを感じるようになっていた。



 亜樹は、鞄からタバコを取り出した。部屋に匂いが残らないよう窓を開け、タバコに火を点けた。その時、部屋のドアが突然開いた。驚いて振り返ると、そこには亜美が立っていた。
「お母さんと喧嘩した? お母さん、亜樹ちゃんが心配なのよ」
 亜樹は、話し掛ける亜美を無視し吸う。
「亜樹ちゃん、タバコなんか吸って……。体に悪いよ」
「大丈夫だよ。大人はみんな吸ってるじゃん……。二年ばかし早いだけじゃん……。それより、母さんに言うつもり?」
 亜樹の心配をする亜美に向かって、ぶっきらぼうに言う。
「母さんに言ったら、承知しないからね!」
「言ったりしないわ。わたしは亜樹ちゃんが心配だから……」
 亜美の真剣な眼差しから、本当に心配していることは亜樹自身にも判っている。しかし、肉親に諭されることが嫌なのだ。それも自分にそっくりの人間に言われるのが……。

 タバコの先端から立ち上る紫煙が、夜空を背景にゆらゆらと揺れている。亜樹は、亜美を無視するように、大きくタバコの煙を吸い込みんだ。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ……」
 無理して吸い込んだ煙が肺を刺激し、亜樹は思わず咳き込んでしまう。
「ほらっ、もうやめたら? タバコなんて。亜樹にタバコなんて似合わないよ」
 そんなことは、亜樹だって気付いていた。亜樹自身、亜美がタバコを吸うところなんて想像できない。そんな亜美と、自分はそっくりなんだから……。

「健吾だって心配してるわよ。最近、亜樹ちゃんが変だって……」
「うるさいな!」
 健吾の名前が出てきたことに動揺した亜樹は、思わず怒鳴り声を上げた。
「亜美も母さんと一緒だよ、優しいふりして自分の評判が悪くなるって思ってんだろ」
「そんなこと無いわよ。わたしはただ……」
 亜美の言葉を遮るように亜樹は、ぷいっと顔を背け言い放つ。
「用事無いんだったら出て行って……。タバコが不味くなるから……」
 亜樹は、亜美を無視するように窓の外を見詰め、タバコの煙を吐き出した。
「ひどい……。そんな言い方……、ううっ……」
 亜美は、その大きな瞳に涙を浮かべ部屋を出て行った。



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