2008.12.14.

姉との生活
01
紅いきつね



■ 1

俺には血の繋がらない姉がいる。姉ちゃんは俺が3歳のころに家にやってきた。姉ちゃんの本当の親は事故で亡くなったらしく遠い親戚であるうちにひきとられたのだ。
初めの頃はおとなしくしていたがすぐに俺とも打ち解けて仲良くするようになった。
俺が高校生になったとき親が仕事の都合で海外に行ってしまい俺と姉ちゃん二人でくらすようになった。
親が海外に行ってから2ヶ月ほどたったとき、それは起こった。

あれは多分夜中の3時位だったと思う。
直前まで自分の部屋で海外サッカーの試合を見ていたから間違えないと思う。贔屓のチームがひどい負け方をしたんでふてくされてベッドに潜り込んだのを覚えている。
明日というか今日は土曜だからぬっくり寝れるぞと思った時だった。俺の部屋に誰かが入ってくる気配がした。うちには今俺以外に姉ちゃんしかいないはずだから、消去法で言えば入ってきたのは姉ちゃんという事になる。
最近は殆どないが、姉ちゃんが中学生に入る位までは怖い夢を見たとかそういう理由で来ることがたまにあった。
だから半分寝ながらもこんなん久しぶりだなあと思いながら声をかけた。
「智姉ちゃんどした? また怖い夢でも……」
次の瞬間、布団を被っていてもわかる位の強烈な光が当てられた。光というのは後々わかった事で、そのときは一体何事かと驚いただけで正体はさっぱりわからなかった。
うわっと叫びながら跳ね起きたとき、痛い位に強烈なライトが俺に向けられ、暗闇に慣れた目は全く何も見えなくなり、パニックになった俺が走り出そうとすると何かが足に引っかかりそのまま床に倒れこんだ。
かなり強く鼻をぶつけてしまい、激痛で泣きそうになっている俺の腕をこともあろうに何者かが後ろにねじり上げた上に手錠のようなものをがちゃりとかけやがった。
「何しやがる」
やっとの事で苦情を言うと今度は乱暴に立ち上がらさせられた。鼻と目と腕が痛い。
「何だお前話せこのやろっ」
大声で叫ぶと今度は猿轡をかませられて強制的に黙る羽目になった。しかも「静かにしろ、近所迷惑だ」とわけのわからん注意までされてしまう。近所を心配する前に俺に迷惑かけるなっつーの。

感触から言うと俺の両側にはかなりがっちりした体型の男がいて、両腕をがっちり押さえ込んでいるようだ。
「歩け」
また誰かが俺に命令しやがる。抵抗のしようがないので仕方なく歩くことにした。
しかしこいつらは何者だろうか。泥棒やら強盗にしちゃ様子が変だ。そういえば姉ちゃんはどうしただろうか。俺と同じように捕まっているのか……。
うちはさほど広くない一戸建てで、俺の部屋は2階にあり、もう一部屋は姉ちゃん、そして物置という構成になっている。どうすんのかなと思っていたらまるで荷物を抱えるように両側のやつらが俺を持ち上げ、宙に浮いた状態で階段を降りたようだ。そして行き着いた先はリビング。我が家に唯一のソファーに放り投げられるように座らされた。
「勇くん大丈夫!?」
心地よい声は姉ちゃんだ。両手は自由らしく俺の右腕を抱えるようにくっついてくる。密かにオナニーネタにしている姉ちゃんの形のいいおっぱいの感触がダイレクトに伝わり、しかもノーブラらしく乳首の感触まで出血大サービス。一瞬自分の置かれた状況を忘れ神に感謝してしまった。

ようやく目がまともに見えるようになってくると、自分の置かれている状況がわかってきた。
まあ判ったからと言って嬉しいわけではないのだが、何も判らないよりはマシというものだろう。
「へ?」
俺は思わず間抜けな声をあげてしまった。というのもいつも俺達がくつろいでいるリビングには真っ黒な服を着て、軍隊がつけるようなごついヘルメットと防弾チョッキを身に着けた絵に描いたような軍人が5人もいたからだ。全員が目の部分だけくりぬいたマスクのようなものをしているので顔はわからないが、見える瞳が青いので白人なのだろう。
一人を除き短機関銃を構えていてそれは全て俺に向けられていた。極めて日常的な光景に極めて非日常的な物体が置かれていると妙におかしい。
一旦おかしいと思い始めると何もかもおかしくなってしまうわけで、俺は笑い出さないように必死で我慢しなければならなかった。でもそんな自分が更におかしくなってしまってもう苦しくてたまらない。
「君が渡良瀬勇君か」
一人だけ短機関銃を持っていない男が口を開いた。
微妙にイントネーションがおかしい日本語だが、まず流暢と言えるだろう。でも今の俺には爆発的にツボに入ってしまう。
「ぶほっ」
変な声を出してしまい、それがまたおかしくて身体をくの字にしてくっくっくと必死に我慢する。
「勇くん!?」
何か怖がっているとでも思ったのか姉ちゃんが背中に手を当ててくれた。暖かい手のひらの感触がようやく俺を落ち着かせてくれて、お笑い地獄からようやく抜け出せたようだ。


「……話をしても構わんかね?」
手ぶらなのがボス格なのだろう。俺に向かって話しかけてくる。ちょっと声がいらついているような感じだが、夜中に突如人の家に侵入してきて睡眠を邪魔しているのだからそれくらいは我慢しやがれ。そこでようやく猿轡が外された。
「……どうぞ」
俺の右腕にしがみついたままの姉ちゃんの腕に力が込められるのがわかった。俺は後ろ手に手錠をかけられたままなので何もできないのがちょっと悔しい。
「君は自分が何者なのか、そしてどういう立場なのかわかるかね?」
「……渡良瀬勇16歳、都立城西高校1年2位組所属。今現在不法侵入してきた謎の武装集団に取り囲まれている最中」
ボス格の目がすっと細くなるのがわかる。ちょっと怖い。
「ふむ、思ったより度胸もあるな。さすがだ。」
「俺達をどうするつもり? できれば姉ちゃんだけでも助けて欲しいんですけど」
「それはできない」
即答しやがった。でもすぐ殺す気はないようだ。だってそうなら寝てるままズドンとやればいいんだもん。わざわざこんな面倒な事はしなくてもいいだろう。
「まず名乗っておこう。私はロメリア王国親衛旅団のシュバルツ中佐だ。」
「それはどうもご丁寧に。で、その中佐さんが日本までどのようなご用件で? うちはごく普通の一般家庭であって国際紛争とかには縁がねえよ」
「ふむ、説明にはかなり時間がかかる。場所を移すとしよう」
「はあ?」
シュバルツ中佐とやらが手をさっと振ると、いきなり轟音と共にうちのたいして広くもない庭へあからさまに軍用っぽいヘリコプターが降下してくる。明け方だっちゅうのにこれこそ近所迷惑だっつうの!
もちろんヘリが着陸できるほど広い庭なはずもないので途中でホバリングしている。ヘリが発生させる突風で庭にある様々な物がどっかへ飛んで行く。ご近所の皆様、アホ共が早朝から大変ご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございません。俺のせいじゃないからね。
「失礼致します、姫殿下」
俺と姉ちゃんは引き離されるとそれぞれリビングにいたやつらに抱きかかえられ、ヘリから降ろされたロープで引き上げられた。
人生初体験のヘリ搭乗が誘拐だなんてまったくもって俺の運命はどうなっているのやら。

初めて乗ったヘリの中は想像以上にやかましく、かつ広かった。姉ちゃんと並んで座らされ、向かいにはずらりと覆面姿の軍人が座っている。全く私語を発しないところからみて、奴らはきっとロボットに違いない。あのシュバルツ中佐が操縦していやがるんだきっと。
「私達どうなっちゃうのかな……」
姉ちゃんが俺の耳に口を寄せて話してきた。そうでもしないとやかましくて会話が成り立たない。
「……わかんねえけど、俺が絶対守るから」
俺も姉ちゃんの耳にそうささやく。すごく嬉しそうな顔をして俺の腕にぎゅっとしがみついてくる。そういや俺達は寝たときそのままの格好だ。幸い春先でそんな寒くはないけど、さすがにかわいいピンクのパジャマの姉ちゃんはともかく、Tシャツにトランクスという俺の格好はこの状況ではいかにも間抜けだ。それにさっきから姉ちゃんのおっぱいが当っているせいで息子が異様に元気になっている。まいったな、姉ちゃんにばれないといいけど。
何となく視線を感じて顔を上げると、覆面で表情は見えないけどアンタ絶対ニヤニヤしているねという感じのシュバルツ中佐と目が合った。
そういえばこの人さっき姉ちゃんに向かって「姫殿下」とか言ってたな。何のこっちゃ。
そもそも模範的一般家庭である我が家に軍の特殊部隊っぽのが突入してくること自体俺の理解を超えているわけなのだが、こんなことはハリウッド映画の中だけにして欲しい。何せ実際こういう状況に陥ってもブルース何某とかは助けに来てくれないし。
そんな馬鹿なことを考えているといい香りがふわっと匂う。これは姉ちゃんの髪の匂いだな。
俺達は本当の兄弟ではないけれど、本当の兄弟以上に仲良く成長してきた。
姉ちゃんは姉ちゃんの癖に頼りなくて、よく近所のクソガキから虐められては泣いていたっけ。その度に俺が助けに行って、泣きじゃくる姉ちゃんの手を引いて家に帰ったものだ。

それに姉ちゃんはすごく怖がりで、でもその癖ホラー映画が大好きで、見た後は怖くて寝れないからと必ず俺の部屋に来て一緒のベッドで寝たものだ。その時、ぎゅっとしがみついてくる姉ちゃんの髪からはいつもすごくいい匂いがしていた。それは今も変わらない匂い。
姉ちゃんの事を俺の友達は「正統派美少女」と呼ぶ。これには全く同意する。ちょっと髪は茶色がかっているが、これは事故で亡くなった本当の両親のどちらかが外国人であったからという話だ。でもうちの親はその辺の事をあまり話してくれないので詳しくはわからない。
まあ身内の贔屓目なくその辺のアイドルなんて顔負けするほど整った顔立ちは、多少なりとも俺の一族の血が混じっているとは思えないほどだ。バーンと張ったおっぱいと、きゅっとくびれた腰、そしてそれだけでご飯3杯はいけそうな素晴らしい尻というパーフェクトなスタイルでよく芸能プロダクションのスカウトを受けるそうだ。
もっとも姉ちゃんはそういうことには一切興味がなく、いつでも俺のそばにいてくれる。
渡良瀬勇と渡良瀬智子はいつでも一緒にいるのが当たり前になっているのだ。姉ちゃんと離れる生活なんて想像もできない。多分、姉ちゃんも同じだと思う。

そんな事を考えているうちにヘリががくんと高度を下げていくのがわかった。
姉ちゃんが不安そうに俺の顔を見る。
俺は大丈夫だよと頷いてみせ、シュバルツ中佐を睨みつける。中佐は外人っぽく肩をすくめて立ち上がり、俺の隣に座った。
「間もなく到着だ。暴れないと約束するなら手錠は外してあげよう」どうでもいいが耳に息があたって気持ち悪い。
俺が無言で頷くと、言葉どおり手錠を外してくれた。意外といい奴なのかもしれない。

時間がどれくらい過ぎたのかはわからないが、外は薄らと明るくなってきているようだ。俺達の位置からは空しか見えないので一体どの辺りを飛んでいるのかはわからない。
「日本はいいな」
どういう感情を持ったのかわからないが、中佐がまた俺の耳にささやく。頼むから止めてくれ。
ヘリはゆっくり高度を落とし、どこかに着陸したようだ。がつん、という感じのショックが身体に伝わる。
エンジンが止まり、ようやくヘリの中が静かになった。シュバルツ中佐が俺の姿を哀れんだのかツナギを放ってよこす。慌てて着てみるが外人サイズなのかやたらぶかぶかだ。袖と裾を折り返して何とか様になる感じ。
「我がロメリア海軍空母ケンプフェルへようこそ!」
中佐が芝居がかった仕草と台詞でヘリのドアを開く。呆れた事にそこは本当に空母の上で、外には海軍のぱりっとした制服を着た1ダースほどの兵隊が整列していて一斉に敬礼しやがった。
「さあ、降りて」
ピンクのパジャマとぶかぶかのつなぎというそこはかとなくその場の雰囲気に似合わない格好の俺達はおっかなびっくりヘリから降りた。そこで気がついたが俺達は裸足だ。振り返って中佐を睨むとまた肩をすくめやがった。
「○×△◇※!」
白いぱりっとした制服にやたらごてごてと勲章のようなものとかくっつけたおっさんが敬礼して俺達に向かって何やら話しかける。つか日本語話せ。
「姫殿下にご乗艦頂き乗組員一同光栄に思います」
後ろから中佐が通訳してくれる。だからその姫殿下って何なのかそれから先に説明しやがれ。
「それは艦内で説明する。まずは朝食でもどうかね?」
「つかマジに家に戻してくださいお願いします」
「そうしてあげたいのは山々なのだが……」そういう気がない奴に限ってそう言うものだ。「実を言うとあのままでは君達は確実に暗殺されていただろう。」
だから感謝しろよ、そんな感じで胸を張る中佐。だめだ、宇宙人と会話してるような気がしてきた。
「真夜中に人を拉致した奴が言う台詞かよ……」
「※$%#◇△○!」
勲章ゴテゴテ野郎がまた何か言う。
「とにかく艦内に入ろうではないか。大丈夫、王立国防軍の名誉にかけて君達に危害を加えない事を約束する」
……どこにあるかもわからん国の軍隊に約束されてもなあ……
でも今選択の余地はない。仕方なく俺達は中佐に促され勲章ゴテゴテ野郎の後に続いたのであった。



NEXT ▼



この小説は、完全なフィクションであり、実在の人物、
団体等と何の関係もありません。
この小説へのご意見、感想をお寄せください。
感想メールはcopyright下のアドレスまで


NEXTBACK TO NOVELS INDEX


18's Summer : 官能小説、恥辱小説とイラストの部屋