2005.05.05.

新・青い目覚め
02
横尾茂明



■ プロローグ2

(何でもします・・・)
 孝夫は少女の言った意味をどう解釈すべきか戸惑った。
(この少女は私になにをしてくれると言うのだ・・女の言葉・・まさか?)

「何でもしますって・・どういう意味なの?」

「・・・・・」
「それは・・おじさんが・・絵美にしたいこと・・」
「ひどいことされても我慢しますからそれでどうか許して下さい・・」

「・・・・」 (ひどいこと・・・)

「ひどいことって例えばどんなことを言ってるの?」

「この本に書いてあること・・」
 少女は机の上の本を見つめた、そして青い顔でブルっと震えた。

(この少女は一体・・)

 孝夫は少女の環境を思った・・こんなに清楚で理知的な少女に何が有ったというのか・・孝夫はこの少女の心の奥を痛烈に知りたくなった・・それは美しすぎる少女だからかもしれないが・・。
 毎日の本をながめるだけの単調な生活に・・少しだけ心をときめかすような出来事が欲しかったのかもしれない。

「絵美ちゃんと言ったね・・君はこの本の内容を知ってて言ってるの?」

「・・・・・」

「あまりよくは・・わかりません・・この間SF読本と間違えて中を少し見てしまったの・・女の子が縛られて・・何かされてて・・私・・恥ずかしくて・・胸が苦しくなって、それからは毎日・・この本の事が気になって・・」

「私・・何故こんな事をしてしまったの・・今でもわかんない・・気が付いたら本を持って走ってたの・・」

「おじさん本当にゴメンナサイ・・私どうかしてたんです・・許して下さい」
「こんな事・・お母さんが知ったら・・私・・もう生きて行けません」

 少女は胸のつかえを吐き出すように吐露すると・・悲しそうに泣き始めた。

 孝夫は何となく感じた・・この少女はマゾではないかと・・小説の世界だけの事と今までは思っていたが・・現実を目の当たりにして寒心してしまった。
 孝夫はSMに興味は持てなかった。排尿排便を強要するまでエスカレートすることには興醒めどころか嫌悪感さえ孝夫には有ったのだ。

(この少女・・万引きの罪を許して貰えるなら・・この本に書いてあることを行使してもよいと言う・・肉体と羞恥を代償に許しを乞うている)

 孝夫は思った。この美しい少女の肉体を現実として弄ぶことがもし出来たなら・・中年の醜いこの俺がこの白い柔肉を蹂躙出来たなら・・それこそSMとは言えないだろうか・・と感じた。

 いま孝夫は自分の部屋に小鳥が舞い込んだような気がした・・もし窓を閉めたなら・・いや・・締める勇気が有ったら・・。

 今のこの清楚な少女は、自分の犯した罪の大きさに耐えきれないでいる。俺がもしこの罪を俺と少女だけの秘め事にすると約したなら・・。

 孝夫はここまで考えた時・・肌に粟が立っているのを感じた・・。

 孝夫は今日に至るまでがむしゃらに働き・・12年間女性の肌にも触れていない・・孝夫は興奮のあまり腹が大きく脈打った・・口が渇き葛藤の渦の中、立っていることさえ辛く感じるほど興奮した。

 それから20分ほどの沈黙の時間が流れた・・それは淫靡な葛藤の流れとも言えた。

 少女の嗚咽はまだ切れ切れに続いている、そんなとき店側のドアが沈黙を破るかのように勢いよく開けられた。

「社長! 客が立て混んできましたのでバックアップ・・」
「社長・・どうかされました?」

 バイトの子が二人の姿を怪訝そうに見つめた。

「今行くからレジは店長に頼んで!」

 バイトは少女の涙を見ながら首を傾げてドアを閉じた。


「絵美ちゃんもう泣くのはやめなさい。おじさんも事を荒立てるつもりは無いから・・でもこんな破廉恥な罪を簡単に許すわけには行かないよ」
「おじさんきょうは忙しいから、今度の火曜にまたここに来なさい。店は休みだから裏口を開けておくよ」
「それから生徒手帳を出して、コピーを取らして貰うからね」

 絵美は涙を拭きながら事の成り行き次第では許して貰えそうとの予感で・・
少し安堵の色が顔に現れ始めていた・・。

 孝夫は絵美から生徒手帳を受け取るとコピーし手帳を返しながら・・
「絵美ちゃんこの余白に今からおじさんが言う事を書いて」

 孝夫はコピー紙を絵美に渡しボールペンをノックした。

「私は本を万引きいたしました。罪を恥て今後このようなことは二度としないことを誓約いたします」

「それから氏名も書いて」

 絵美は言われるままに書いた・・氏名を書く時は一瞬躊躇はしたが・・。

 孝夫は絵美の美しい字に舌を巻いた・・(俺よりうまい)

「じゃぁもう帰りなさい。あっ・・それからこの本は持って行きなさい。涙で濡れちゃったからもう売り物にはならないよ」

「・・・・・」

「お・・お金払います・・いくらですか?」

「いいんだよ! 君この本が欲しかったんだろ。あげると言ったんだから黙って持って行きなさい!」

 絵美は孝夫が機嫌を損ねたと思いたじろぐ思いであったが・・孝夫がすぐに微笑んだのを見て安堵した。

「おじさん本当にゴメンナサイ・・今度の火曜には絶対来ます・・」

「分かったよ・・さー気を付けてお帰り」


 孝夫は裏口を開け絵美の背中を押した・・絵美は何度も振返り、お辞儀をしながら街の雑踏に消えて行った。

(あの子・・もう来ないかもしれないな・・まっ、でも年甲斐もなく少し興奮し叶わぬ夢を想像することが出来ただけでヨシとしようか。しかしあの時バイトがもし入ってこなかったら・・何を馬鹿なことを考えて・・さー仕事仕事!)

 孝夫は店に出ると何事も無かったようにまたレジの前に佇み・・初夏の陽光を背中に感じ・・客の流れを嬉しそうに見つめはじめた。



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