2013.11.20.

ボクとアイツと俺
001
木暮香瑠



■ 幼馴染から恋人へ1

 柔らかい西日が差し込む部屋で、ショートカットの髪のちょっとボーイッシュな女の子がランジェリー姿でベッドの上に仰向けに寝ている。大きな胸が、いつもより早い呼吸に大きく上下に隆起を繰り返す。その胸の上で両手の拳を握り締め、小さく身体を震わせている。
「本当にいいのか? 志穂」
 すでに全裸になり志穂の足元に座っている圭一が訊ねる。
「良いって言ったじゃん! 決めたんだから……。今日、圭一に処女をあげるって……」
 強気な言葉を吐きながらも、顔を横に向け硬く目を瞑り震えている志穂。その姿を見詰めている圭一も、志穂の緊張を解す優しい言葉を掛けることも出来ない。

(どうすればいいんだっけ……。パンティ脱がして、股を開いて……。えーーーっと、その前に愛撫した方がいいのかな? 愛撫して濡らして、それからパンツを脱がして……)
 初めての圭一は戸惑うばかりだ。頭の中をいろんな考えが堂々巡りを繰り返す。
「はっ、早くしろよっ……」
 志穂の声が震えている。
「今日……、圭一と……一つになるって決めたんだから……ボクの気が変わらないうちに……早く……」
 いつものハツラツとした声ではなく、人見知りの小学生の女の子のような、か弱い声で圭一を急かした。



 少女の名前は中田志穂、男の名前は小林圭一。小学生からの幼馴染の二人は、同じ中学、同じ高校に進んだ。その間も友達としていつも一緒だった。そして圭一から告白して、付き合い始めて二年が経つ。

 今日は両親が結婚記念日で二人で外食している。
『今度の結婚記念日くらい、たまには二人で外食したら? 恋人時代に戻ったつもりで』
 そういって両親に外食を勧めたのは志穂だった。それが一週間前。お互いに、この一週間は緊張とドキドキの一週間だった。周りの友人や家族に悟られないように、弾む心を抑え平静を保つのに苦労した。そして遂にこの日が来たのだ。

「パンツ、脱がすよ……」
 志穂に掛けた圭一の声が上擦っている。
「いちいち聞くなっ! は、恥ずかしいだろ……」
 両の掌で覆った志穂の顔が真っ赤に染まっている。

 ゆっくりパンツを下ろしていく。股間の翳りが現れる。あくまで淡く慎ましい茂み、そして硬く閉じた縦裂が圭一の目に入ってくる。
(これからここに……俺のチ○ポを入れるんだ……)
 そう思うだけで股間の肉根に血液が集まり硬く太くなっていく。
「イ、イクよ……」
「う、うん……」
 志穂の弱々しい声に、圭一の胸はキュンッとする。幼い頃から一緒にいて、やっと迎えた今日の日。今まで育ててきた二人の関係が今日から変わる。そのことが恐いような、新たな関係が待ち遠しいような、気持ちが揺れる。
(今日から本当の恋人同士になるんだ)
 圭一は自分に言い聞かせ、目の前の志穂を見詰めた。

(最初はキスからかな……。そうだよな、キスから……)
 圭一は、志穂の顔を覆っている掌を剥がし顔を近づけていく。硬く閉じた瞳と唇が小さく震えている。圭一は、そっと志穂の唇に自分の唇を重ねた。
 浅く短いキス、圭一が志穂とキスするのは初めてではないが、やはり格別のものだった。

(えーっと、次は……なんだっけ、もう入れて良いのかな?)
 昨晩から何回もシュミレーションした手順なんか、目の前の志穂の下半身を目にするとすっかり飛び去っていた。愛撫して、そして志穂のオマ○コが濡れたら挿入……、しっかりと何度も繰り返し覚えたはずなのに、頭の中は真っ白になっていた。早く入れたいと気が逸るばかりだ。

 圭一の肉根は、早く早くと急かすようにピクピクと痙攣している。
(入れたい、早く志穂と一つになりたい。志穂の温もりをチ○ポで感じたい)
 圭一は、目の前のまだ濡れていない亀裂にカチンコチンに血液を集めていきりたった怒張を宛がった。
「いくよ……」
 志穂の縦裂に怒張を宛がった圭一が言う。
「やっぱり恐い」
 大好きな圭一なのに、股間に宛がわれた肉根は期間を切り裂く刃物のように恐ろしいものに志穂には感じる。自分がまだ受け入れ態勢を取れていない、十分に濡れていないことに気付かず……。
「優しくするから……」
 圭一も志穂の恐怖心を読み取り、優しい声を掛ける。
(いきなり挿れたら、痛いだろうな。志穂も初めてなんだし……。ゆっくり、ゆっくりと……)
 ゆっくりと縦裂に亀頭を埋めていく。
「ひっ!」
 柔肉を他人の身体の一部に初めて押し広げられる感触に、志穂が小さく短い声を上げる。
「ごめん、痛かった?」
「ち、違う。びっくりしただけ……」
 志穂はそう言うと、真っ赤に染まった顔を横に傾げた。

 志穂を恐がらせないように、ゆっくり、ゆっくり……。心でそう唱えながら圭一は挿入を再開する。
(ここ? どこに入れればいいんだ?)
 頭の中では何度もシュミレーションしたはずなのに、いざ本番となると戸惑うことばかりだ。
「も、もっと……たぶん、下……」
 志穂は、戸惑う圭一に助言した。
(えっ、どこ? ここか? もっと下の方?)
 圭一はまだ濡れていない亀裂を、亀頭で探りながら押し進める。
「うっ!」
 やっと見つけた深みに亀頭を押し込んだ時、志穂が短い悲鳴を上げる。
(なに? 何か……? これが処女膜? この奥が……)
 亀頭に感じる抵抗に、圭一は妄想を巡らす。
(急に入れたら痛いんだろうな? 処女膜が破けたら……。ゆっくりと……)
 圭一は亀頭に柔らかな抵抗を感じながら、ゆっくりと自分の分身を押し進める。
「いっ! ……」
 志穂の小さな悲鳴に圭一の身体が強張る。
「いっ、痛い! 恐い!! やっ、止めて!!」
 再び挿入を再開しようとした圭一の胸を志穂が押し返した。

 身体を離した二人の間に、沈黙が流れる。
「……ゴメン、ボクが臆病で」
 沈黙を破ったのは、申し訳なさそうに俯いた志穂の謝る声だった。
「俺と二人の時はボクって言わない約束だろ?」
 圭一はセックスを失敗したことから気を逸らすように、明るく彼女の『ボク』という言葉を嗜める。
「ゴメン……」
「それに、チャンスはまだ何回だってあるさ」
 天井を見詰めながら圭一は努めて明るく言い、優しく志穂の頭を撫ぜた。



 志穂が自分のことをボクって言い出したのはいつからだったろう。幼い頃の記憶を辿る。

 小学生四年生の頃までは、志穂は普通にかわいい女の子だった。髪だって背中に届くほど長かった。お互いの家が近く、通学路が一緒ということもあり、圭一と志穂はすぐに仲良くなった。そして悪戯好きの後藤宗佑、圭一と同じサッカークラブに入っていて仲良くなった。いつの間にか、三人でいることが多くなった。

 四年生の頃、学校でスカート捲りが流行った。
「きゃーーーっ!!」
 悪戯好きの宗佑が志穂のスカートを捲った。恥ずかしさに顔を真っ赤にしてスカートを抑える志穂の仕草がとても可愛かった。
「やーーーい、志穂のパンツ、ウサギのパンツ!」
 そのキャラクターがプリントされたパンツをからかった。
「宗佑のバカ!!」
 泣きそうな顔で恥ずかしがりながらも、宗佑を睨みつけていた。

 次の日から志穂はスカートを止め体操着のショートパンツ姿で登校する様になった。その頃の男子は、遊んで汚すことを気にしなくて済むので、体操着のショートパンツで登校していた。
「ちぇっ」
 それを見た宗佑が、スカート捲りを封じられた悔しさから舌打ちをする。
「これで宗佑にスカート、捲られないよね」
 志穂が俺に向かって微笑んだ。

 六年生になる頃には、人より胸の成長が良い志穂は男子児童たちの注目の的となった。そして、幼馴染でいたずらっ子の宗佑の格好の餌食となった。

「志穂がブラジャーしてるぞ! オッパイタッーチッ!!」
 宗佑が志穂の胸に掌をタッチする。
 志穂も驚いただろうけど、僕も驚いた。女の子の胸を触るなんて……。志穂は両手で守るように胸を押さえて、顔を真っ赤にして今にも泣きそうだった。

 次の日、志穂は髪を切って登校してきた。そして自分のことをボクって呼ぶようになった。自分が女の子であることが悪戯される原因になってると、まるで男子のような格好に男子のような言葉遣いで自分のことをボクと呼び出したのだ。

 中学になっても、志穂のボクという喋り方は変わらなかった。いや、変わらないというより今までより一層少年のような喋り方になった。
「制服がスカートなんてイヤだな。風が強いと捲れちゃうんだよな」
 そう言って、スカート姿になった分、より少年っぽく喋るようになった。それが一層男子生徒たちの注目を浴び、明るく優しくボーイッシュな女の子って男子にも女子にも人気者になっていった。
「スカートの下に、どうせ体操着穿いてんだろ」
「穿いてはいるけど……」
 志穂はそう言って顔を赤らめた。いくら体育用にショートパンツを穿いていても、風でスカートが捲れることを恥ずかしがるように……。

 その年代の男子の話題といえば、誰が美人だとか、誰がかわいいとか、誰の胸が大きいとかだ。
「C組のXXの胸、でかいよな」
「でも顔がね。あの顔じゃ、オッパイがどんなに大きくても勃たねえな」
「やっぱ志穂じゃね? あいつ意外に大きいぜ、オッパイ。ボーイッシュだけど、目も大きいし結構かわいい顔してるぜ」
「それに、あいつの脚、なげーしな。あの顔にあの胸、スラリとした足って反則だよな。体育の時のアイツの生足見てたら、勃っちゃってしょうがねえよ」
「勃つ、勃つ。きゅっと吊り上がったお尻から伸びた足、見てるだけで勃っちゃう」
 その頃には、胸もさらに大きく成長し、それを悟られないようにスポーツブラで押さえ込み、ちょっと大きめの身体のラインの出ない服を着るようになっていた志穂だが、それでも隠れ巨乳として男子の間では評判になっていった。

「アイツ、カワイイとこもあるぜ。雑誌のグラビア見せたら、顔を真っ赤にして顔背けるぜ」
 志穂の話になる時には、いつも宗佑が話題を切り出す。
「そうそう、Hな話になると、途端に大人しくなって逃げてくよな。男っぽくしてるけど、その辺の女子以上にウブだよな」
 志穂が男っぽくすればするほど、女の部分が際立って注目を浴びていた。

「なかだし、ほ!」
 彼女の名前、中田志穂をもじってそう呼ぶ宗佑に、
「なかだじゃない、ボクの苗字は『なかた』だ!」
と、志穂が食って掛かる。宗佑は近づいてきた志穂に雑誌のグラビアページを見せる。巨乳グラビアアイドルの小さなビキニを身に着けた姿のグラビアページだ。
「そんなもんボクに見せるな! バカ佑!」
 強気な言葉とは裏腹に、真っ赤になった顔を背ける志穂。男子も女子も、そんな志穂を可愛く思っていた。



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