2006.10.14.

出会い
01
大門



■ 1

俺は小峰 隆一。
一昨年平凡な大学を卒業して、今ではそこそこの会社に勤める平凡なサラリーマン。
いつものようにラッシュアワーの満員電車に揺られていると、目の前の女子高生が明らかにその後ろに立っている男に嫌悪感を示しながら、体をもぞもぞと満員電車の中で動かしていた。
「痴漢か……」と思っていたが、変な正義感が働き、ちょっと出来た隙間に手を突っ込み、痴漢をしていた男の手を掴んで、女子高生と一緒に鉄道警察に突き出した。
会社に行かなければならないので、警察には状況説明だけをした後、またホームに戻ろうとしたときに、被害者の女子高生に呼び止められて、小瓶を渡された。
「お礼です。」と言われて、手渡され、耳打ちされるように「彼女に使ってみてください」と言われた。
俺は女子高生の名前も聞かずにとりあえず御礼だけして、また電車に飛び乗った。
電車に乗る前は小瓶の中の液体は気にしてなかったが、電車に乗ってしまうと気になりだしてしまった。
「彼女に使ってみてください……か……」
と言っても、俺に彼女はいない……。
「う〜〜〜〜ん、まあ、使うときまでしまっておくか……」と思いながら、結局かばんに入れておいた。
仕事は現在携わっているプロジェクトの締めが近いので、忙しくあっという間に時間は経ち、小瓶のことは忘れてしまった。
思い出したのは、帰りの電車に乗ってからだ。
「とりあえず、また明日(女子高生に)会うかもしれないから、直接聞いてみるか……」
翌朝、いつもの電車に乗るが女子高生はいなかった。
「痴漢にあったから、電車変えたのかな……」と思いながら、また2,3日経っても現れなかった。
そのうち仕事の締め日までのギリギリの作業が続き、小瓶のことはたまに気になっている程度になっていた。
小瓶のことは誰にも話せず、というか、話すほど気にならなかった。
ところが、無事にプロジェクトは成功し、ほっとした後も、女子高生に会うことはなく、仕方なく試してみることにした。

隆一はプロジェクトで終電が続いて、久しぶりの定時での帰路に、幼馴染の由美子の携帯にメールをした。
『今日、飲みに行かないか?』
由美子は隆一とは恋愛関係にはないが、幼馴染の間柄で何でも話せる仲だ。
数分後隆一の携帯に、由美子から『いいよ!! じゃあ、地元にもうすぐ着くから改札で待ってるね!』と返信が来た。
隆一は自分の最寄り駅に近づくたびに、小瓶の事を考えて、好奇心と由美子に対する何か罪悪感みたいなものの狭間にいた。
最寄り駅に着く頃、隆一は決意したようにかばんに手を入れて、小瓶を取り出し、スーツのポケットにしまった。
駅に着いて、電車が止まるまでの間ポケットに手を入れて小瓶を握り締めていた。
改札で小柄な由美子を発見すると、隆一は一瞬戸惑ったが、勤めて笑顔を見せた。
久しぶりに会う由美子は大学を卒業してから、一般企業のOLとして、社会人に染まり幼馴染の目から見てもどんどん綺麗になっていた。元々派手な顔の作りをしており、昔から周囲の憧れの的だったが、隆一は特別変な感情は抱かなかったので、今までも友達関係が続いていた。
それでも、街中で注目される幼馴染を連れて歩くのは彼女がいない隆一にとっては、ちょっとしたステイタスになっていた。
1件目にいつも行くお好み焼き屋に行き、お好み焼きと酒を楽しみ、隆一の提案で2件目にカラオケに行く事にした。
隆一はカラオケに向かう間、スーツのポケットにたまに手を入れて、小瓶を握った。
2人でいるので、狭い個室に通されて、酒を注文するが、酒に強い2人は2杯目からはめんどくさいのいつも安い焼酎のボトルと氷だけを頼み、ロックで呑みながら、カラオケをボトルが空くまで楽しむのが、常だった。
その由美子の姿を見ている隆一は由美子に対して、特別な思いが湧かなかった。
由美子もそういうことが平気で出来るのは隆一の前だけで、他の男と2人で行くときは基本的にはカクテルかちょっと高めの焼酎のロックをグラスでちびちびと飲んでいた。
2人の間には幼馴染という思いしかなかった。
その由美子が途中でトイレに立ったときに、隆一は意を決して、小瓶の蓋を開けて、付いていたスポイトで中の液体を3滴ほど由美子のグラスに垂らした。
無色透明で無臭の液体が焼酎に混ざっていた。
隆一はカラオケよりも由美子の様子が気になっていた。
珍しく由美子の顔が赤くなっているのが、分かった。
由美子は基本的に酒を飲んでも顔には出ないタイプで隆一でも由美子の顔が赤くなったのを見たのは、中学のときに好奇心から飲んだ時くらいだった。
そして、隆一が歌っている間に由美子は席を立ったかと思うと、個室の電気をかなり暗くして、ムードを盛り上げようとしていた。
「由美子、どうしたの?」と隆一が思わず聞いた。
「う〜ん、ちょっと分かんない……」と言いながら、隆一を見る由美子の目は少し女を感じさせていた。
由美子はまたトイレに立った。
隆一は「おいおい……大丈夫かあいつ?……でも、少し面白い……」と色々な心の中での葛藤があるものの、また由美子のグラスに2滴足した。
由美子はそのグラスを飲み干す前に隆一に懇願するような顔で「ねぇ……お願いがあるんだけど……隆一の膝の上に乗っていい?」と隆一からしたら、訳分からないことを聞いてきた。
何かを求めている由美子の目を見て、隆一は断れなかった。
小柄な由美子が隆一の膝の上に乗り、隆一が後ろから抱っこしているような状況になった。
『どこまで大丈夫なんだろう?』と思った隆一は手を由美子の服の中に徐々に入れていった。
由美子のお腹をじかに触っても嫌がられない、隆一の手は段々と上に上がり、由美子の胸を覆っていた。
由美子は服の中にある隆一の手に自分の服の上から両手でそれを覆うようにしていた。
隆一は試しに「ブラのホックを外して」と呟くように言ってみた。
隆一の声は緊張と興奮で震えていたが、由美子はその言葉に従い、ほぼ隆一の顔の目の前で由美子は自分でブラのホックを外した。
由美子の胸にじかに触れるようにして、しばらく時間が経ったときに由美子から、また懇願されるように「隆一、お願い、今夜ホテルに行こう……いや、連れてって……」と隆一は言われてしまった。

そして、その晩、初めて隆一と由美子は男と女の関係になった。
翌朝、由美子が一人でシャワーを浴びているときに「これが効能なのか……いわゆる媚薬なのか……」と思ったが、それにしても普段隆一に対しては少し高飛車な由美子が行為前後での隆一に対する少し服従した態度がまだ隆一には引っかかっていた。
実際に、シャワーを浴びる前の由美子の態度は隆一に対して高飛車だった。
昔から由美子とその歴代の彼氏から聞いている話では、由美子はどちらかというとSだと思っていた隆一はそこが疑問だった。
ホテルの部屋を出る頃には普段の幼馴染の関係に戻っていた。
由美子と別れて会社に向かう道中、それも不思議だった。
隆一の考えた薬の効能としては、
『媚薬ではあるが、それはその前にある人間関係を崩さずに、しかも、対象の相手を服従させることが出来る』
「本当なのか?」
少し暇になった仕事中に隆一は思わず、自分のデスクで呟いてしまった。
「こらっ!! 何をぼおーっとしてるんだ!!」と隆一を叱責する上司の姿が目に入った。
「すいません……」とまた仕事に頭を切り替えようとするが、まだ隆一は由美子とそういう関係になったことに対しても信じられていなかった。
そんな事を考えていると、今度は後ろからいきなりバーンっと叩かれた。
驚きながらも頭を掻きながら、見上げると、会社の先輩である宣子が立っていた。
宣子は30代前半の独身OLでいわゆるキャリアだが、隆一を弟のように可愛がってくれて、そのお陰で隆一はわざわざ同じ社内のお遊びサークルに無理やり入れさせられたくらいだった。
「ちょっとあんた何考えてんのよ? こっち来て、頭冷やしなさい!!」と隆一は宣子に誘われて、休憩室に連れて行かれた。
「何があったの?」と少し険しい顔で問い詰めようとしている宣子に対しても、何も正直には答えられずにいたが、隆一は内心『この人とそういう関係になったら、小瓶の効能は確証できる……』と思い始めていた。
そして、最後に「社内では言いたくないから、今日2人で飲みに行かないっすか?」といつもの軽いノリで誘ってみると、宣子はOKを出してくれた。

一方の宣子は実際に隆一が弟のように可愛かった。
宣子は休憩室から隆一を追い出すようにデスクに戻した後、タバコを一服して自分のデスクに戻った。
「なんだろ? 社内で言えないって……」と宣子は気にしながらも仕事を進めた。
仕事に一区切り付いたときに、「後輩のために一肌脱ぐか」とネットで良い店を探した。
個室でそれなりの雰囲気を見つけて、予約した。
就業時間も終わり、隆一のデスクへと向かうと、仕事で頭を抱え込んでいる隆一の頭を叩いて、「ほらっ 行くぞ。」と声を掛けた。
隆一は「ちょっとこれだけ片付けさせてくださいよ〜〜」と弱気な声で言った。
宣子は「あんたの為に、良い店も予約してやったのに」とまた隆一の今度はデスクを小突きながら答えた。
「おっ まじっすか? じゃあ、すぐに終えます!!」と答えた隆一はほんとに仕事を適当に終わらそうとした。
「仕事はもっときちっとやりなさい!!」と宣子は一喝した。
仕方なく、宣子も隆一の仕事を手伝って、なんとか予約した時間までに店に着いた。
「へぇ〜〜 宣子先輩、彼氏いないくせに良い店知ってますねぇ……」と感心した声をあげる隆一に宣子は「こらっ!! 余計なことは言わなくていいの!!」とまた怒った。
隆一は席に通されるまで、スーツのポケットに手を突っ込んで小瓶を握っていた。
『個室かぁ……ここで早速……』と『ここじゃ……やばいだろ……』と心の中で葛藤していた。
とりあえず生ビールを二つ頼んで、店員が個室の扉を閉めた後、妙な静寂があった。
ビールが二つ並び、乾杯を終えて、しばらくするとタイミングが良いのか悪いのか、宣子の携帯が鳴り、宣子は席を離れた。
隆一はまだ心の中で葛藤していたが、小瓶を出し、一気に5〜6滴ビールに液体を注いだ。
戻ってきた宣子を見て、隆一は緊張感が高まったが、何も知らない宣子がビールを一気に飲み干す姿を見て、とりあえず平静を装う為に、「2杯目は?」と聞いた。



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