2007.12.20.

拾った女
01
横尾茂明



■ 事の成り行き1

その美しくたおやかな女は……路傍に落ちていた…と表現すべきだろうか。

事の成り行きはこうである…。
深夜3時を少し回っていたと思う、俺はいつも行く渋谷外れの洒落たスコッチバーで呑み…2時過ぎにブラブラと駅まで酔覚ましに歩いた…。

途中、立体パーキングに車を停めていたことを思い出す…。
(気付くまでずいぶん歩いちまったなー)
(こんな時間…終電も無いのに…ったく俺は何で駅に向かってんだ…)

(しかし…最近は電車に乗ることも無くなったな…独立してもう10年か)

(酔ってるし…このままタクシーを拾って帰るか、しかし待てよ…ということは明日また車を取りにここまで来なくちゃならんってことだよなー)
(ホテルも金曜の夜じゃぁ…一杯だし…まいったなー)

(…酔いも幾分醒めたことだ…車で帰るか…)
(しかし…こんな時に限って検問やってんだよなー)
(まっ、そん時は運が無かったとあきらめるか…)

この想いが酔っている証拠ではあるが…。
その日はなるようになると大胆にも車を引き出してしまった…。

車が日野市に入った辺りで幾分酔いも醒め、少し冷静になってきた。
そこで俺は検問の掛かりそうな幹線道路を避けて間道を抜けることにした…。
辺りは急に暗くなる…この界隈は一昔前は殆どが畑であったはずが…今では民家がひしめいていた…。

(こんなに民家が多いのに街灯が少ない…宅地の急増に市も間に合わないのかな…)

とりとめなくそんなことを考えながら前方をボーッと見ていたとき…路上に黒い物が置いてあるのに気づく…。

俺は慌ててブレーキを踏む…(ったく…道の真ん中だというのに一体何なんだ…)

ハンドルを左に切り、黒い物体の横をすり抜けようと進めたが…途中で無理と感じた…。
(まったくついてないぜ…しかたねー、かたすとすっか)

ライトを消しチェンジをPに入れてドアを開けた…(うぅぅ寒い…)
晩秋のためか外はめっきり冷えていた…。

(やってられん…ったく…しかしどうしてこうも寒いんだ…)

その黒い物体に近づく…数メートルまで寄ったとき俺はギョッとした。
(うぇぇー…人だぜー…こりゃ何なんだ)

(酔っぱらいか…それとも…まさかひき逃げなんてのはいやだぜ…)

俺は恐る恐るその黒い物体に近づき…そっと脚で蹴ってみた…。
「ぅうん…」

呻きとも取れるその声音は若い女のものだった…。

俺は急に興味がわき…肩とおぼしきところを掴み、表に引っ繰りかえしてみる。
暗くてよく分からぬが…夜目にもその女の肌の白さは光って見えた…。

その顔をよく見ようとしゃがみ込む…(ゲッ…こりゃ血じゃねーのか…)
女の顔の半分近くが黒く濡れて光っていた…。

(ヤバ…こりゃひき逃げだぜ…)

俺は急に怖くなった…この状況は余りにもマズイ…。
(こんなとこ人に見られたら俺が犯人にされちまうぜ…)
(こりゃ逃げた方がよさそうだな…)

辺りを見回したが幸い人気はなかった…。
俺はその女の肩の下から両手を入れ、車が通れる分だけ横に引きずろうと力を入れた
その時、女が大きく呻く…。

「あぁぁぁ……痛い…肩が痛いの…」

俺は慌てて手を放し…女の顔をのぞき込む…。
「オイ! …気づいたのか、お前…一体どうしたんだよ」

「……………………」

「何処か痛いのか…?」

「……………………」

「黙ってちゃ…わからんだろう!」俺はつい女に向かって大声を出してしまった。

「ぅぅぅぅ……ご…ゴメンナサイ…思い出せないの…ぁぁぁ痛い…」

「何処が痛いんだ…」

「あぁぁぁ分かんない…体中が痛いの…」

(病院は…マズイよなー…まだ酒は抜けてないし…警察がくればアウトだぜー…)
(クソーやってられねーな…どうしようか…)

(よし…)
(このまま知らんぷり決め込んで立ち去ろう…)
(しかしこの寒空…このまま朝まで誰も通り掛からなかったら…この女凍え死ぬかも…)

(………どうしたものか………)

その時、女は起きあがろうと藻掻いて…崩れた…。

(おっ…意外としっかりしてるじゃないの)
(この分ならどうにか歩いて…何処かの民家まで行けるだろう…)

「おい…悪いが俺は先を急ぐから…もう行くわ」
「…………………………」
「ぁぁぁぁ…助けて下さい、行かないで…」

「おいおい…そんなこと言われてもなー…」

「車に乗せて下さい…」
女の声音はだいぶしっかりとしてきた、そして俺の手に縋りながらも何とか立ち上がった…。

「こんな寒いところに置いていかないで…下さい」

「ったく…しょうがねーな…」
「乗れや、何処かの病院の前まで送ってやるよ」

「あ…ありがとう御座います…」

俺は女の腋に手をまわし…その体を支えるようにして車に向かう…。

(おっ、この女…いい匂いしてやがる…)
(おっと…手が乳に当たってた…しかし…何て柔らかい体なんだろう…)
(そー言や…何ヶ月女を抱いていねーんだろうなー…)

(今年の初めだったか…女房の野郎…本当に出て行きやがった…)

俺は女を助手席に座らせ…ハンドルを握りながら久々に女房の事を考えていた…。
(ちょっと浮気をしたぐれーで…離婚はねーんじゃないの…)
(そーいや…あの女…潔癖な女だったよなー…)
(あん時も…SMじみたこと仕掛けたら…俺を変態呼ばわりしやがって…)
(フン…俺もせいせいしたぜ…あんなブス…)

ふと気づくと女が肩に寄り掛かっていた…。
(おいおい冗談じゃねーぞ…このスーツはアルマーニだぜ…)
女の頭をウインド側に押し付け、肩に手を当ててみた…(あぁぁ血で濡れてるぜ…)

「おい! 寝るんじゃねーよ」
女の肩を押すが…女はムニャムニャと訳の分からないことを呟きまた眠ってしまう…。

(おっと…病院が有った…)
(しかし…どうしたものか…)
(このまま放り出したいとこだが…こんなによく寝てちゃーなー)

(病院の中まで抱いていくか…)
(しかし…看護士に警察でも呼ばれたら…マズイよなー)

(ったく…どうしてこうもついてないんだろう…はーっ…タクシーにすりゃ良かった…)

(…よし!)
(病院に連れてくのは明日の朝にしよう…アルコールも抜けてるだろうしな)
(なーに…女も惚けてるし…朝拾ったことにすりゃ…分かりゃしねー)

俺は病院前でハンドルを切り、大きくターンをして家の方向に向かった。



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