2010.05.08.

百花繚乱
01
百合ひろし



■ 第一章 亜湖とさくら1

いつもの通りに登校し、そしていつもの様に下校する、そうやって3年間通い、そして卒業していく。殆んどの高校生はそうである。

県立相生高校のいつもの放課後、茶色のブレザーとブレザーよりは少し色の薄い茶色のミニスカートの制服に身を包み、高校生では珍しいツインテールの髪型をした身長165cm位のやや大柄な少女が2年生の教室を目指して走っていた。
その少女の胸には赤いバッチがついていた。赤は一年生の色だった。
「亜湖センパイ」
1組の教室のドアを開け息を切らしながら先輩の名前を呼んだ。呼ばれたのは長崎亜湖、清純派のアイドルのような顔立ちで髪型はボブカットにしていた。
身長は169センチ、ほぼ170cmとクラスで大きい方だった。
「さくら、待ってたよ」
亜湖は笑顔で返した。亜湖の友人も亜湖の後輩の宮田さくらが毎日来ることは知っていて亜湖と帰るときはさくらも一緒にいる、という構図が出来上がっていた。
さくらは亜湖とその友人と帰るのがいつもの楽しみだった。また、亜湖の友人もさくらを妹のように可愛がった。
その時に見せるさくらの可愛らしい笑顔はみんなの心をを潤した。


亜湖とさくらの二人は国道の路地で友人たちといつもの様に別れた、そして自分達の家―――、と言っていいのだろうか? 二人が目指したのは国道沿いの施設だったからである。相生坂田孤児院―――。ここが二人の帰るところだった。
二人は孤児だった。亜湖もさくらも小さい頃に両親を亡くし、ここの孤児院に入った。二人は年が近く、更に他の同年代の子供達は一人、また一人と親戚やその他の引き取り手が現れて引き取られていったが、引き取り手が無く最後まで残った関係で二人は励まし合って今迄生きてきた。

しかし、ここから先はいつもの様にはいかなかった―――。
様子がおかしかった。孤児院に近づくと増えて来る工事用の車両。更に近づくと、孤児院の正面入り口からダンプトラックが出て来たのだった。廃材を積んで―――。
「え―――」
亜湖はダンプトラックが出て来て行った後、その場所がどうなってるのかを見て驚いた。それ以上声が出なかったのだった。
「セ、センパイ……」
さくらが声を掛ける。亜湖は、
「ちょっと……聞いてくるよ……」
と言って一人で行こうとするとさくらは亜湖の袖を引っ張り、
「私も」
と言った。二人は工事車両を指揮しているヘルメットを被ったおじさんに声を掛けた。
「ああ、ここのお嬢ちゃんか。実はね―――」
工事のおじさんはかなり話を詳しく知っているようだったが言い辛そうに話した。ここの孤児院は1年前から税金を滞納し続けていてその関係でここからの立ち退きを要求されていたのだが、それを断り続け、更に亜湖やさくら、そしてここに住んでいた他の人達にはその事実を知られないようにしていたのだった。
しかし、それにも限度が来たと見るや、施設長の坂田氏と一部の上役は夜逃げしてしまったのである。その為、施設は差し押さえられ、取り壊しの為の車両が入ってきて取り壊しを行っているのであった。
「そ……そんな……」
亜湖は膝から崩れ落ちた。そして両手で顔を覆った。しかし、さくらが居た為に泣く事は出来なかった。さくらも亜湖の横で膝をつき、呆然としていた。おじさんは
「かわいそうだけど、俺達も仕事なんだよ。やらなきゃいけないんだよ……」
と言った後、亜湖の肩を叩き、
「せめてと思って、まだ職員さんが一人残ってたから、協力してもらってここの子達の出せる荷物は出して置いた。みんな自分達のは持って行ったよ―――」
と言って庭を指差した。そこには二つ、小さなタンスが置いてあった。

せめてもの救いだった。これで着る物が無いという事は無く、そしてタンスの上には卓上用の本棚もあった。そこには教科書等が入っていた。

しかし、これからどうやって暮らしていけばいいのだろうか―――。もう住む場所も無く、金も手持ちでお互い3000円位ずつ持っているだけである。もう学校に行くのも無理だ。だからと言って働こうにも住所が無ければ仕事に就くことも出来ない―――。どちらにしろ二人には絶望しか待っていなかった。
もう裏の世界に身を染めてしまうしかないのか―――。風俗やAV出演等、女子高生なら需要はある。
「後で……取りに来ます……」
亜湖はおじさんにそう言うのが精一杯だった。二人は肩を落としてその場を立ち去るしか出来なかった。その時一台の白ベンツが通り過ぎたが、二人が気付く事は無かった。


亜湖とさくらはフラフラと繁華街を歩いていた。流石に怪しい街だけあって色んな人が声を掛けてくる。勿論二人の体狙いが殆どだ。しかし二人とも殆ど聞こえていなかった。あるスカウトマンが亜湖とさくらに声を掛けたが返事もせずに立ち去ろうとした事に腹を立て、
「聞いてるのかコラ。今ここでヤッてもいいんだぜ」
とさくらの胸倉を掴んだ。さくらは、
「ひっ!」
と悲鳴を上げる。周りの人は5メートル以上離れ、自分は巻き込まれないよう、見て見ぬ振りをして通り過ぎて行った。
「や、やめて下さい。聞かなかった事は謝ります……」
亜湖は男に向かって進み小さく言った。
「あ、亜湖センパイ……」
さくらは消えそうな声で呟いた。
「だからさくらは離して下さい―――」
と更に言った。男はさくらを離し、
「じゃ、お前が慰み者になるって言うんだな?」
といやらしい視線を亜湖に向けた。亜湖は男から視線を外し、顔を斜め前に向けて頷いた。男は亜湖の顔、胸、腰、ミニスカートから出ている太腿―――、亜湖の体を舐め回す様に見て、
「よし、その度胸が気に入った。体格もな。胸も大きすぎず小さすぎず、丁度いいぜ―――」
と言って、さくらには、
「お前は帰りな。折角センパイに助けてもらったんだからな―――俺の気が変わらないうちに」
と言って亜湖を連れて行こうとした。さくらは何も言う事は出来なかったがその場を去る事も出来なかった。今迄自分と一緒に居た亜湖とこんな所で別れなければならないなんて想像も出来ず、また亜湖がこんな何だか訳の分からない男に犯されてしまう、という事を受け入れることも出来ずにいた。

―――と、その時―――
「その子達に用があります」
と男に声を掛けた人が居た。女の声だった。男は、
「なんだ!? 俺が先に捕まえたんだ。スッコんどれ」
と言ったが、その女は、
「私にそんな口を聞いていいのかしら?」
と言いながら、目の周りを覆っていた蝶のマスク―――、ドロンジョマスクの目の周りの赤い所だけのバージョン、と言えばいいだろうか、を外し、男を睨みつけた。
「あ、ああ……、も、もう、申し訳ありません、しゃ、社長様でしたか……」
男はそう言い亜湖を離し社長と言われた女に渡し、そそくさと立ち去った。さくらは離された亜湖に駆け寄り、肩につかまった。亜湖とさくらには、社長の目付きは彼女が深く被っていた帽子の為に見えなかったが、この男の態度の変わり振りから只者ではない事が直ぐにわかった。―――気付いたら社長は既にマスクを再び着けていたが。

亜湖もさくらも、もう驚く事は無かった。と言うか、今迄済んでいた孤児院は学校から帰ってくるや否や突然無くなってしまい、そして街に出てくれば突然ヤクザまがいの男に売り飛ばされそうになる。朝は天国夕方は地獄になってしまえばもうこの先何が起きてもどうにでもなれ、といった感じになってしまったのである。
社長は、自分の後ろについていた身長185cm程で白スーツ姿にサングラスをかけた男に―――、
「銀蔵さん。この子達を車に乗せて」
と指示した。銀蔵と呼ばれた男は、
「はっ」
とだけ返事し、さくらと亜湖に手招きをした。亜湖とさくらは完全に脱力状態になり、ただ銀蔵に付いて行くだけだった。


車―――窓が黒塗りになっている如何にもヤバイ系の白いベンツの前の座席にさくらを乗せ、後部座席に亜湖を乗せた後、社長も後部座席に乗った。そして銀蔵が運転席に座り運転をする。
車が発進すると亜湖は社長が何故自分達をあの男から助けたのか、勿論助けた、という言い方はさっきの状況から考えると正しくは無いだろうとは思ったが、
「ありがとうございます」
ととりあえずお礼を言った。社長は、
「さっき、あなた達の施設の前を通ったわ―――」
と語るように言った。亜湖もさくらも下を向いていた。
「単刀直入に言うわ。あなた達、仕事が欲しいんじゃなくて?」
亜湖もさくらも顔を上げた。しかし社長は、
「楽な仕事ではないわよ。内容は事務所に着いてからにしましょうか。まあ―――さっきの男について行くよりは遥かにまともだと思いますけどね」
と落ち着いた声で言った。取り壊された施設に居たかと思えば繁華街に身を運んでいる―――。社長から見ればどう考えても突然生活に窮してまともな判断が出来なくなってしまったとしか思えなかった。要はあなた方の欲しいのは、「金」だろう? という事である。亜湖はやっぱりそっちの話か―――と思った。あんな怪しい街で声を掛けられた以上はまともだとは思えない。更にまともだったら自分の事を”まともだ”なんて態々断ったりしない筈だと思ったからである。
しかし、そんな事も言ってられないのが現実だとも思った。自分はともかくさくらを危ない目にあわせる訳には行かない―――、その為イエスともノーとも言えなかった。
「まあいいわ。話を聞いてからでも遅くは無いでしょう」
社長はそう言ってとりあえず話を切った。


少し繁華街から離れた所―――、車で10分位の所に着いた。
亜湖とさくらは車から降り社長と銀蔵についていった。
「こちらです」
銀蔵は一棟のマンションの地下に二人を招いた。そしてまるで核シェルターのような分厚い扉が目の前にあり、そこに、
―――株式会社丸紫―――
と非常に目立たない様に名前あった。丸紫の看板が見えない位置から見れば地下倉庫への扉としか思えなかった。

聞いたことがあった―――
学校の裏サイトで、5年くらい前、相生高校の生徒会長だった人が丸紫で闇プロレスをやっていた、という噂を―――、
勿論噂かその生徒会長が自分をモデルにした創作小説を書き裏サイトにばら蒔いたに過ぎないと思ったが、目の前に株式会社丸紫、なんて文字があれば信じないわけには行かなかった。しかし、丸紫という名前のみが一致しているだけかもしれないとも思った。

銀蔵が扉を開け亜湖とさくらを入れ、最後に社長が入った。
廊下を歩きながら亜湖とさくらは周りをキョロキョロと見渡した。
正面から小柄な女性―――、亜湖達より年上、20代中盤以降の可愛らしい感じの人が来て声を掛けてきた。
「こんにちは、新人?」
「こんにちは…」
亜湖とさくらは挨拶を返したがこの女の人の格好が気になった。
黄色の体操服に赤いブルマ、しかもハイレグでなんかエロい。しかも手には何故かフルフェイスのヘルメットを持っていたからだった。
そしてその女の人は近くの扉を開け部屋に入っていった。

「こちらになります」
銀蔵は事務所の扉を開け二人と社長を入れた。
事務所には大きなソファーとテーブルがあり、そしてモニタディスプレイが4台置いてありそのうちの1台だけスイッチが入っていてそこには試合の賭け金と倍率が表示されていた。
「これは…」
亜湖は画面を見て驚いた。
「それは賭けの倍率よ」
社長は答えた。
「ここは一体何をする所なんですか?」
亜湖はさっき廊下で会った小柄な人の件もあり、ここがどういう所なのか早く知りたかった。
社長は二つ目のモニターの電源を入れた。そのモニターにはリングの上で試合する女達の様子を映していた。
「ここは闇プロレスよ。闇プロレス丸紫へようこそ―――」
と言って説明をした。

やはり5年前の噂は本当だったのだ―――。当時の生徒会長はここ、丸紫で闇プロレスをやっていたのだ。
亜湖は思わず聞いた、5年前の生徒会長の事を。すると社長は、
「見覚えある制服かと思ったら、あなた達は後輩なのね…。そうよ、彼女は強かったわ」
と言い、生徒会長は高校卒業と共に引退したことを説明した。



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