2008.06.20.

女教師・千尋
02



■ 暴かれた封印

 千尋は大学時代、米国のとある州立大学に留学し、英文学を学んだ。卒業してから帰国し、予備校講師を経て私立高校に就職してから3カ月になる。まだまだ学校には慣れていないが、本場で鍛えられた英語力と、体一つで留学をした度胸とそこから来るフランクな人柄は、すでに生徒たちの信頼を得つつあった。判断が速く、しかし誠実で、生徒のことを第一に考える彼女は、生徒たちの目にも新鮮であったのだ。生徒たちは、やる気がない、または官僚的に過ぎるほかの教師たちとは、千尋が異なる存在であることをうすうす気づいているようだった。苦労人の彼女は、他方でほかの教師たちにも配慮を怠らず、概ね可愛がられていた。
 要するに、彼女はそれなりの苦労はあったが、充実したやりがいのある日々を送っていたのである。
 忘れようとしていた過去が彼女を捉まえるまでは……。

 ある、初夏の夕方。
 千尋は、学校から帰宅しPCのスイッチを入れた。メールをチェックすると、”.com”で終る見慣れないアドレスからのメールが届いていた。件名は“Sayuri”。
いやな予感を感じつつ開くと、封印したかった過去を思わせるあるurlと、彼女が勤務する高校の「全職員・生徒住所録」という表計算ファイルが添付されていた。本文は無い。
urlをクリックすると、若干のもたつきの後、ピンクを基調にした派手なホームページが立ち上がった。それは、アメリカのストリップクラブのホームページだった。
 そして、彼女はそのクラブを良く知っていた。
 カバーページには、濃厚なメイクの若い東洋美人の画像が踊っている。
 あられもなく開脚し、無毛の股間を晒している。ラビア、へそ、乳首にはピアスが輝いている。その表情は、まるで充実したセックスの途中のようで、セクシー極まりない。
 現在とは雰囲気が大きく異なるが、それでも、その写真が千尋のものであることは、誰が見てもすぐにわかるだろう。彼女は留学中の1年前、お金に困り、3ヶ月の間そこでアルバイトをしていたのだった。そのときの源氏名が、当時人気があった映画から取られた“Sayuri”であった。
 最初は嫌でたまらなかったが、背に腹は代えられず、またバイト先で知り合った知人が働いていたこと、東洋人が珍しかったのかバイト代をはずんでくれたことが決め手になった。薄暗がり、派手なライトの中で、身元がわかる危険は少ないだろうと思えた。何より、開けっぴろげな雰囲気で、働いている女性たちに陰湿さや暗さが無かったことが大きかった。
千尋は、そのアルバイトを短期間でやめた。お金が何とか間に合ったこともあるが、最大の理由は露出の快感に目覚めつつある自分を恐れたからだった。男たち……結構女たちもいたが……の視線に灼かれながらポールに女性器を押し当てるとき、彼女は自分が潤っていることを知っていた。チップを胸元に差し込まれると、自分が買われた奴隷であるあのような、背徳感があった。指名されて相対して胸をまさぐられると、体がいやらしい反応をするのを押さえられなくなっていった……。

 彼女は続けて表計算ファイルを開いた。学校で見覚えがある住所録で、最新のものだった。無言で送りつけられた二つのファイルが暗示することに、彼女は恐怖した。

 そして、彼女の帰宅を見計らっていたのであろう、携帯に電話がかかる。
「美しい体を拝見しました、サユリさん……いや、千尋さんとお呼びしないといけませんか」
 おだやかな、落ち着いた声。わずかな笑いが含まれている。
「先生などおやりになるにはもったいないですね。僕はパイパンが好きなんですよ。日本でもダンサーをおやりになるのなら、教えてくださいね。見に行きますから」
「今でもパイパンで、ピアスをされているのですか」
「本気で濡れる露出狂の踊り子として人気があったそうですね。先生にしておくには惜しいですね」
「学校の皆さんが見たら、驚くでしょうね。清楚で知的な人気教師が実は露出狂で、ホームページで裸体が見られると聞いたら、むしろ喜ぶかな?」
「ところで、一度お会いしたいですね。HPと同じ格好、というわけには行きませんが、先週土曜日の合コンのときと同じ服装、但し下着無しで駅前のハンバーガー屋の2階に来てください」
「15分後に会いましょう。お会いできない場合、先生は良く似た別人であるので、来る必要が無いということだと理解します。よく似た他人もいたものですが……」

 電話は、動揺した彼女が返事をする前に切れた。情けないことに、千尋は殆ど返事らしい返事を出来なかった。それほどに彼女は動揺していた。
 断れば、学校に連絡するという脅迫としか思えなかった。しかも、犯罪になるようなことは何一つ話されておらず、千尋がもう少し冷静であったら、電話の主が知的で注意深い人間であることを推定することが出来たかもしれない。
 無視できないことは明らかであった。
 時間も迫っているため、迷う時間すら無かった。千尋は急いで着替えた。少し胸元の開いたサマーセーターと、フレアミニスカート。先週の合コンは、某上場企業とのものであったので、期待して気合を入れたのだった。お嬢様っぽさの中に十分なコケティッシュさのある、高級な装い。しかし、ろくな男はいなかった……。真面目なばかりで、強引に彼女をひきつける魅力のない男たち……。着替えつつ、無意識の逃避なのか、現在の窮状とは関係ない思念が頭を占拠する。その間、彼女は機械的に着替えをしていた。脱ぎ捨てた下着には、うっすらと湿り気があったが、深く考える時間はなかった。
 タクシーも捕まらず、駅に向かって小走りに駆ける。
 股間を撫でる風とセーターにこすれる乳首が、忘れようとしていた快感を呼び覚ます。ゆさゆさと揺れるDカップの胸を、通りすがりの高校生が目を丸くしてみていた。その視線を感じ、さらに不可思議な感じがこみ上げてくる。

 14分後に、千尋は指定された場所にいた。外は既に薄暗かった。
 電話がかかり、窓際の席に座って足を開き、股間を自らの指で慰めるよう命じられる。
 彼女は断れない。
 彼女のそこは、露出の妖しい快感に、既に信じられないほどに濡れそぼっていた。音を立てて股間に指を出し入れする千尋。電話の主は、穏やかな声の中に、嘲りをにじませて指示をする。もっと股間を開いて……セーターをまくり上げて……抵抗しようとする言葉は、発する前に制止された。彼は彼女の弱みを熟知しており、彼女をメール一通で破滅させることが出来るのに、彼女は彼の名前すら知らないのだった。
 どのくらいの時が経っただろうか。
 彼女が自失から立ち直ったときには、すでに電話は切れていた。
 彼女はそこで30分ほどを待ったが、何のコンタクトもない。仕方なく、彼女はいったん自分の部屋に帰った。
 ほてった体と、股間に乾いた愛液の感触が、自らの淫らさを責めるようだった。元来、人一倍羞恥心が強い彼女は、自らが行った行為に恐怖した。
 帰宅したところに、電話が鳴る。
 タイミングの良さは、彼女が監視下にあることを伺わせた。
 その指示に従い、届いていた新着e-mailから、添付されていたurlを開く。
 世界的に有名な動画サイトに、目線をかけられ、しかし激しく自らを慰める自分の動画があった。
 メールに記載されていたとおり、その動画は5分後には削除されていた。



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