2004.9.11.

虜囚にされたOL
01
木暮香瑠



■ 罠に嵌ったOL1

「ねえ、麻希。またこっちを見てるわよ、太田産業の社長さん……」
 隣の席の同僚OL・佳奈子が麻希に耳打ちした。麻希は、デスクに落としていた視線をチラッと挙げて受付カウンターの方を見た。受付カウンターには、太田産業の社長、太田幸造が細い目をこちらに向けていた。

 ガッチリとした大きな身体に角刈りのヘアスタイル。これでサングラスでも掛けていれば、太田が会社の社長とは思う人はいないだろうという風体である。実際、外出する時はいつもサングラスを掛けている。今日はさすがに、取引先の会社に訪問するということで、きちっとした身なりをしている。

「気にしない、気にしない。さあ、仕事しましょ」
 麻希は、デスクの書類に視線を移し佳奈子に言った。
「それにしてもいやらしい目をしてるわね、太田さん。きっと麻希を見てるのよ」
「悪口は言わないの。取引先の社長さんなんだから……」
 麻希は、佳奈子との会話を終わらすように書類のチェックを始めた。しかし、佳奈子は相変らず麻希に話し掛けている。
「ねえ麻希、知ってる? 太田産業とうちとの取引、打ち切りになるらしいわよ」
「えっ! そうなの……」
 麻希には、思い当たることがあった。麻希の恋人・小林亮輔が太田産業との営業担当なのだ。
(太田産業さん、最近、不良品率が多くて困るって亮輔さん言ってたな……)
 デート中に亮輔がポツリと嘆いた言葉を思い出した。
「あっ、そうそう。営業の小林さんの名刺、出来てるわよ。先週頼まれてたヤツ」
「そう? 急いでたみたいだから、わたし、これから届けてくるね」
 加奈子の声に、麻希は名刺を受け取ると席を立った。

 営業課に急ぐ麻希の後姿に、太田幸造は鋭い視線を注いでいた。
(それにしてもいいケツをしてるな。胸も大きそうだし……。それにあの腰のくびれはどうだ、ファッションモデルと言っても通用するぜ)
 白のブラウス、ピンクのベストとお揃いのタイトスカート。会社のユニフォーム姿の麻希が、通路を営業課に向かって歩いている。膝上5センチのタイトスカートに包まれた双尻がクリッ、クリッと揺れている。麻希の姿に、幸造は目を細めた。



「小林さん。依頼のあった名刺、出来ました」
 営業課に着いた麻希は、小林亮輔の席の後ろから名刺の入った袋をデスクに差し出した。
「あっ、ありがとう」
 亮輔は振り返り、麻希にお礼を言うと共にデスクの上にメモ用紙を置いた。

 メモ用紙には、『麻希へ』と書かれてある。麻希は、営業課の社員たちに気付かれないようそのメモ用紙を受け取りポケットの中に忍ばした。

 営業課を後にした麻希は、急いでお茶室に入った。幸い誰もいないお茶室の中で、メモ用紙を広げてみる。

麻希へ。
誕生日、おめでとう!
今日は、二人だけで君の誕生日を祝おう。
七時にいつものレストランで待っていて
くれ。

 麻希は、一人だけのお茶室で小さく頷いた。

 麻希と亮輔が付き合いだして一年になる。今回が初めての二人っきりの誕生日になる。麻希は、入社すぐに独身男性社員たちの間で話題になった。そのスタイルの良さを褒める者もいれば、黒目の大きい瞳に魅了されるものもいた。素直な性格のよさも、女子社員や既婚者にまで良い評判となっていった。麻希を誘う独身男性の中で、麻希の心を射止めたのが亮輔だった。真面目で仕事も堅実にこなす亮輔は、上司の信頼も厚い。露骨にアプローチをかけてくる男性社員の中、亮輔だけは違っていた。仕事上で困ったことがあると、他の社員の見せ掛けだけの優しさといい加減なアドバイスと違い、相談に一番親身に的確なアドバイスをしてくれるのが亮輔だった。

 いつしか麻希も、そんな亮輔に引かれていった。相談を持ち掛けている内、二人で会うことも多くなり自然に付き合うようになっていた。社内で二人が付き合っていることを知っている社員は、麻希の同僚女子社員数人だけでった。



 麻希は定時に仕事を終わり、家に帰った。自室で、デートの為の衣装の用意を始めた。麻希は今日の為に、新しいワンピース、下着を買っていた。亮輔と二人で過ごす始めての誕生日を特別の日にしたかった。その日の為に、着る物全てを新調していたのだ。

 その時、携帯が鳴ってメールの着信を知らせる。
「何かしら?」
 麻希は、届いたばかりのメールを確認する。メールは、亮輔からのものだった。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
麻希、少し遅くなりそうなんだ。
会議が長引いてる。
終わり次第連絡するから待っていてくれ。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 麻希は嫌な予感がした。亮輔は今日、太田産業に出向いているはずだ。その目的が太田産業との取引中止の会議だとしたら、会議は平穏には進まないだろう。
(何かもめてるのかしら? やっぱり取引中止の通告に出向いたのかしら……)
 亮輔の心も平常ではないだろう。取引先を切るということは、その会社にとっては大きな痛手だろう。中小企業の太田産業にとっては、死活問題のはずだ。心優しい亮輔にとっては、これ以上嫌な仕事はないだろう。そんな亮輔の心情を察すると、麻希の心も曇った。
(亮輔さんは心の切り替えも上手だから、私も彼に心配掛けないようにしなくちゃ)
 麻希は、今日の為に買ってきたランジェリーを取り出し、着替え始めた。



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