2006.10.27.

女麻薬捜査官和美
01
若光



■ 拷問編1

「お前から得る情報は全て得たようだ」
 尋問者が言う。
「キーボードをどけろ」
 和美の足元からキーボードが部下により取り除かれた。
「下ろせ。しばらく眠らせろ。これからお前がどうなるのかは起きてから教える」
 後ろ手に縛られた手首が天井のフックに吊られていた。手首は背後で合掌して括られ、全ての指は第二関節で同じ指同士が括られていた。手首を括った縄はフックに和美の上半身が下に倒れ目が膝の位置になる迄の高さになっていた。和美を拘束する縄は長さ自体はごく短いが絶対的な拘束であった。足は自由ながら動けようがないのだ。和美の口には、ポールギャグが嵌められていた。自決を許さぬ為だ。練習用ゴルフボール状の玉で、呼吸可能な様、穴が開いている。とめどない唾液が流れ続ける。唾液が鼻に入らぬ様、顔を上げねばならない。この姿勢では、床と平行に迄しか上がらない。首から肩そして乳房の辺りがひきつりきってもはや感覚すらない。布地の類を許すような尋問者の筈がない。和美の鼻頭から、顎から、肩先から、乳首から、股間の漆黒の叢から、汗が滴り落ちる。その汗は足元に貯まり、滑るのを堪える為足を不必要に力まねばならない。それが下半身をひきつらせる。これまでの拷問で当初、幾度かは失神して、瞬時の忘却の自由があった。しかし度重なる拷苦は幾度かの失神の後はその自由すら和美から奪った。フックから縄が外された。和美の身体はそのまま前に倒れ、俯せに汗と唾液の中に沈んだ。今後の家畜としての使途の為、怪我をさせないよう、落ちる速度は調節された。

 和美は汗と唾液の中で、意識が遠退いていった。失神ではなかった。守るべき全てを吐出された後の虚無の中でのやはり眠りだろう。薄れる意識の中で、捕縛された最初にとらされたのも、先程の姿勢だったと思い出した。

 村田和美。27才。162p 48s サイズ83・58・87 麻薬取締官。
 和美は麻取(通称)が初めて養成した、プロパーの女取締官だ。敢えて大卒を避け高卒者を採用した。大学生が呑気に過ごす4年間で、麻薬取締官としてのあらゆる能力を仕込み抜こうとするのだ。肉体的に鍛える事は当然だが、むしろインテリジェントリテラシーが求められた。麻取にとり、『面が割れる』則ち麻薬組織に顔を知られたらもう潜入捜査はさせられない。そもそもリスクを考慮せねばならず捜査官の安全の為、一人の人間はそう何度も潜入させ得ないのだ。二人一組は捜査の原則だ。通常ベテランと新人で組む。よほどでなければ一人での潜入はない。ベテランといっても五回程度で潜入捜査からは引退である。その後は管理職になる。すると管理職ばかりの組織になってしまう。女麻取の大量(といっても数人だが)採用に踏み切ったのは、女なら潜入捜査引退⇒寿退職となるのでは、との意図があった。
 二人一組の原則は絶対ではない。単独潜入も有り得る。だが、これまで女取締官の単独はなかった。さすがにためらわれた。しかし単独が適切と判断された今回事件で、女だからとのみの理由で、回避する時代でもないとの判断が上司にあった。二回程度の潜入経験者で、信頼の最も篤い者。
 誰もが彼女ならと考えたのが村田和美だった。

潜入の開始からすぐに和美はつまづいた。とてつもなく警戒が厳しいとは聞かされてはいた。しかし、これ程とは。売人と接触した当初、二回は普通の売買だった。三回目で、和美は車での同行を求められた。行くしかなかった。車内ではアイマスクをされた。何処へ向かっているかは全くわからない。車を下りてからは数歩、歩いた。エレベーターで何階分か昇り、またしばらく歩き、背後でドアが閉まった。椅子らしい物が膝に当たった。
「座って」
 男の声がした。和美は手探りで椅子を確かめ座った。
「マスクを取るが絶対に振り向かないように」
 和美としては頷くしかない。視界が開けると、丁度選挙の投票スペースのような囲いが前と左右にあった。振り向けない以上確認できないが、左右の壁は身体の後ろ迄ありそうだ。机上に典型的な麻薬の注入セットが一揃いあった。
「ヤクだ。ここで打ってもらう」
 ついにこの場面が来たと和美は覚悟した。常習者である事の証明は打つしかない。もちろん打ち方は何度も研修した。常習者とビギナーの酔い方の違い、初酔いなのに常習の酔いを装うすべも訓練はしていた。しかし本当にやってのけるのは初めてなのだった。一度位なら適切な治療で常習性は回避できると教えられた。身体が震えそうになるのを必死に堪えた。手慣れた手つきで打った。
 和美は常習者を装う事に集中した。だが、明らかに教えられたのとは違う異常が身体に生ずるのを知覚するのだ。
『なんなの、これ……頭が重い…絶対違う』
 和美の記憶はそこまでだった。

 和美の次の記憶は身体に軽い電流らしいしびれを感じるところから始まる。意識を取り戻すにつれ、自分の状況が理解できた。後ろ手に手首を手のひらを合掌されて細めの縄で拘束されていた。左右の十本の指は、親指同士、人差し指同士と同じ指同士が第二関節で縛られていた。目はアイマスク、口はポールギャグが施されていた。視界を奪われているのでわからないが服を着けている感触はない。ブラもショーツも感触がない。足先迄感じる空気と俯せの身体の前側で感じる床の感触は全ての衣服が奪われた事を意味するのだろう。絶望はしていなかった。ただあるのは羞恥心と挫折感だった。麻取を甘くみないで、まだ和美はそう考えていた。
「起きたな」
 多分、先程の男とは違う男の声がした。
「説明しないと今の状況がわからないだろうな。さっき打ったのは睡眠薬だ。眠っている間にレントゲンを撮った。サツか麻取ならまさか身分証明書を持って忍び込まんだろう、あるとすれば身体のどこかだ。本当の馴染み客になる者かどうかのテストなのだよ。」
 聞きながら和美は震え出すのを止められなかった。確かに『それ』は『そこ』にないのだ。
「女麻取らしい所に発信機があったな。ヴァギナからはもちろん外して始末した。あの場所から移動する車内でな。尾行車は全くなかったからお前一人か。大した女と褒めてやる。」
 甘く見ていたのはこちらだった。和美に絶望感が広がりだした。レントゲン迄用意しているとは。
「現在、我々の組織に不審な兆候はない。全く連絡を絶たれた単なる女に過ぎないのだ、お前は。スパイが他にいるなら大至急で必要事項を聞き出さねばならない。拷問は死んだら死んだでいいやり方になる。お前の場合は違う。時間が掛かっても確実に口を割らせるようにやる。一応聞くが、素直に話すか?」
和美は決然と首を横に振った。
「引き上げろ」
 即座に男が言う。当然予期していたのだろう。手首の縄が強く引き上げられた。和美は足を踏ん張り股間をあらわにしながら立たされていった。手首のみが上がるから上半身は下がる。爪先がかろうじて床に着く高さで、止められた。足裏を床に着ければ手首がちぎれそうになるのだ。爪先立ちの方が少しは楽と和美は思った。
「先ず浣腸する。間違えるな、安っぽいSMの世界じゃないぞ。これからの拷問で漏らされたら臭くてたまらん。単にそれだけだ。こんなのを拷問だと思うな。」
 言いながら和美のむきだしの肛門に入ってきたものがあった。和美の適度に鍛えた肉体は健康そのもので、浣腸などした事がない。和美は肛門に力を入れ、始めは入れさせまいとした。だが、男から「手術の前には浣腸するだろう。漏らされて臭いのは、医者も我々も同じなのだ」と言われ力が抜けた。生温い液体が入って来た。この連中は本気で拷問しようとしている。和美は自分の立場を理解しつつあった。
「移動便器は始末が大変だ。便所で出せ」
 イチジク浣腸なのだろう、二本を直腸に入れられた和美はそう言われて、ホッとした。せめてトイレで、できるのだと。しかしすぐに、こいつらの目的は自分を恥ずかしめるのではなく、徹底して麻取の内部を聞き出す事にあると思い知らされた。トイレ迄行く為、吊り上げられた縄が緩められたがアイマスクでは脱出などもとより不可能だ。数歩、歩き洋式便器に座らされた和美は排泄を堪えたりするのが愚かしい事を悟った。素直に肛門の力を抜いた。歩く間だけは漏らすまいと入れていた力が抜けた肛門からは、最初少量の液体がそして大量の塊が出た。糞便の臭いを他人と共に嗅ぎ、自分の中の何かが崩壊していくのがわかった。虚脱と絶望と共に羞恥心が再度和美を襲った。アイマスクの中で、涙が出た。ギャグから垂れ流す唾液が乳房から贅肉のない腹筋が軽く浮き出た腹部をつたい、漆黒の陰毛に達しつつあった。汗の混じる涙は和美の鼻孔を刺激して、鼻汁を溢れさせた。鼻汁が混じり粘液性を増した唾液は落下が遅くなった。和美は小刻みに身体が震えていた。そして思い出したように小水が出た。
「やっと小便が出たか。出す物は全部出せ……ではお待ちかねの拷問だ。」
 小刻みに震える和美の身体が一瞬硬直した。この上は耐え抜くしかない。覚悟が決まると不思議と落ち着いた。男の手により手首の縄が引かれ和美は立たされた。肛門が拭かれる事はなかった。水を流す音がした。始末されない排泄器とくに小水口から滴る何滴かの滴の事など今の和美には気にもならなかった。
 和美は再び先程の場所に連れていかれた。

「先ずは前菜にしよう。このくらいで屈服するなよ。」
 和美は足首を縛られ逆さ吊りにされた。痛みを感じた時間は短かった。吊られた足首からはすぐに痛覚そのものが失われた。血が逆流する苦しみと、唾液が鼻に入る苦しみが和美を襲った。和美の身体は前後にゆっくりと揺れていた。静止しつつあった時、最初の鞭が和美の尻に放たれた。アイマスクの和美は全く無防備だった。なんの備えもないところへの初鞭だ。凄まじい悲鳴はギャグに押し殺された。唾液が噴きだし、思わず角度を変えた鼻孔に直流し、むせまくった。
「しゃべるか?」
 顔を横に振り和美は拒否する。それからは鞭の嵐が来た。鞭は一本鞭だが、適度に弾力があり、最強力の鞭ではない。しかし数秒ごとの数の量だ。唾液にむせてひきつる腹、乳房、太股、腕、肩、次がどこを打たれるかわからないから筋肉を緊張させられない。常に鞭を受ける部分は弛緩しているのだ。あまりの痛みは数打たれるに従いむしろ意識から遠くさえなった。次にどこが打たれるかわからない恐怖がまさった。弾力ある鞭にしたのは、一打ごとの痛みが少々減殺しようとも、鞭打つ側の体力を長く保つ為なのだろう。いつまでも続く鞭に、和美はしばらくは悲痛な苦悶の悲鳴を挙げていた。だが、そのうち声も出なくなった。そして失神した。さっき出した筈の小水がまだ少しはあったのか、ほんの少量がにじみ出て陰毛の下の割れ目から一滴腹の上を、尻の割れ目から背骨の上をこれまた一滴、したみ降りていった。

 和美が意識を取り戻した時、やはり極く弱い電流が身体を流れるのを感じた。スタンガンを微量にしてやっているのだろうと想像した。
「しゃべる気になったか」
 先程と同じ手首を吊られ頭を前に倒した姿勢だった。足首の縄が逆さ吊りの時のままなのだけがさっきとは違った。意識の無い為全体重がかかった手首はちぎれないのが不思議な程に思えた。和美は爪先立ちの姿勢をとり、ほんの少々の自由を確保し、賭けに出ようと考えた。
 和美の首が縦に振られた。
「しゃべると言うのか」
 呆気にとられたような男の声だった。当然猿轡が外されるだろう、その時、舌を噛もうと考えたのだ。
男が、何かを持って来る気配があった。まず足首の縄が解かれた。ここで救出されてももう一般の生活に戻れない。救出される時、屈辱的な己の姿が、同僚に見られる。もう普通に彼氏を作り結婚等望めない。もう死のう。そう考えた。



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