2002.5.30.

悪魔のメール
02
木暮香瑠



■ 恥辱的なメール1

 昼休みの時間も終わり、5時間目の授業が近づいている。美樹と由布子は、次の授業のあるパソルームに向かった。美樹の通っている高校は、パソコン学習に力を入れていた。週に2時間、IT授業と称したパソコンを使った科目がある。パソコンルームには、40台のパソコンが装備されていて、インターネットも出来る。生徒全員に、メールアドレスも与えられていた。昼休みと放課後は、それらのパソコンも自由に使うことも出来た。

 二人がパソコンルームに入ると、クラスのみんながメールのチェックをしていた。いつもとは違うざわめきが起こっている。
「お前のところにも来てるか? このメール……」
「わたしのところにも来てる。嫌ね」
 クラスメートの一人が、
「美樹、由布子。見てみなさいよ、変なメールが来てるわよ」
 美樹と由布子は、クラスメートのパソコンを覗き込んだ。メールには、

わたしのイヤらしい所、見て……。恥ずかしい格好を見て……。


美樹 と、一行だけ書かれている。そして、画像が一枚添付された。その画像は、トイレで写されたものだ。一人の女性が、トイレを行っているところがローアングルで写されていた。胸から下だけが写されていて、誰だか判らないものだ。和式の便器にまたがり、大きい方を行っている。スカートを捲くり、ピンクのパンティーが膝のところに纏わり付いている。そして、丸い真っ白なお尻から茶色い便が、今まさに便器の底に落ちようとしているところだった。縦裂は、脹脛に辛うじて隠れ見えないが、便器の金隠しと脹脛の隙間から、陰部の繊毛が見て取れる。陰になった股間の陰毛は、濃く茂っているように見えた。

「すげーな、自分でこんな写真送ってくるなんて」
「ああ、でも、このウ○コ、太くねえか? お前のチ○ポなら入りそうだな、この娘」
「ほんと、お前の小さいチ○ポなら入るぞ、きっと」
 男子たちは、ふざけて笑いながら写真を見ている。メールは、クラスの全員に送られてきていた。

 美樹には、その写真を直視することが出来ない。写真に写っていたパンティーに見覚えがあるのだ。先週の金曜日に、ピンクのパンティーを履いていた。美樹は、慌てて自分の席に座る。異様なざわめきの中、美樹もパソコンを立ち上げ、メールをチェックした。差出人不明のメールが一通届いている。美樹は、恐る恐るメールを開封した。メールには、みんなと同様に画像が一枚添付されている。その画像は、クラスメートに来たものとは違い、顔まで写っていた。美樹自身の顔が写っていたのだ。メールの文面には、

この授業中にトイレに行き、パンティーを脱いで来い。ノーパンで授業を受けろ。
さもないと、顔つきの写真を学校中に送信するぞ。


と、書かれていた。美樹は、慌ててメールを閉じた。先週のことを思い出してみる。金曜日、確かに学校のトイレで使った。お昼休みに、大きい方をした。そのとき、履いていたパンティーが、写真に写っているピンクのパンティーだった。美樹は、家以外で用をたす時は、和式トイレを使っている。誰が座ったか判らない洋式の便座に座ることを躊躇われるからだ。写真に写っていたのも、和式トイレで用をたす姿だった。
(あの時だわ。だ、だれ? 誰がこんなことを……)

「これ、学校のトイレだよな」
「じゃあ、こいつ、うちの学校の女子かよ?」
「このクラスの女子かもよ?」
 男子たちは、相変わらずメールをネタに騒いでいる。女子も、ヒソヒソと会話をしている。クラス中のみんなが、自分の排泄姿を見ていると思うと、美樹は恥ずかしくなり顔を赤く染めた。

 写真の中には、それが美樹だと断定するものは何もない。美樹自身とメールの送信者だけがその事実を知っている。クラスメートたちは、無責任に写真を話題にした。
「今井じゃないのか? この写真……」
 男子の一人が、冗談ぽく由布子に言う。
「バカ言わないでヨ! わたし達、こんな太いウンコ、しないわ。ねえ、美樹」
「う、ううん……」
 美樹は、曖昧に相槌を打つことしか出来なかった。

「静かになさい。どうしたの?」
 教室に入ってきた教師の高橋響子が、ざわついているクラスのみんなに注意を促した。
「どうしたの? そんなに騒いで……」
 みんなは、このメールのことを響子に言っていいものか途惑っていた。
「由布子さん、何かあったの?」
 響子は、原因を由布子に尋ねた。
「変なメールが来てるんです。送信者不明の……」
「へんなって……、どんなの?」
 響子は、由布子のパソコンを覗きこむ。響子の顔が、みるみる紅潮し怒りの表情に変わった。
「だ、誰なの? こんなメール、送るなんて……」
「送信者不明なんです」
「と、とにかくみんな、削除しなさい。こんな写真、送ってくるなんて……」
 女子生徒たちは、メールを早速削除した。男子生徒たちは、しぶしぶ削除に応じた。

「みなさん、いい? あんないたずらメール、無視しなさい。では、授業に入りますよ」
 響子は、そう言って今日の授業の説明をはじめた。一通りの説明が終わると、パソコンを使った実習に入る。みんな、普段通りに実習をしているように見えるが、あちらこちらでヒソヒソ話が始まる。
「えへへ、メールは削除したけど、画像だけ別のところに保存しちゃった」
「おお、オレ、削除しちゃったよ。後でオレにもくれよな」
「ああ、今晩はこれで抜こうかな?」
「へーー、お前こんなグロいので抜けるのかよ。俺は抜けないなあ」
 そんな会話が、美樹の耳にも聞こえてくる。
(いやっ、みんな、まだ、あの写真持ってる……。どうしよう……)
 自分でも見たことのない恥辱的な写真、排泄行為を写された写真をみんなが持っている。それを考えると、どうしようもなく恥ずかしくなる。
「美樹、嫌なことする人がいるんだね。こっちまで恥ずかしくなっちゃたわ」
「う、ううん……」
 隣の席に座っている由布子が、美樹に話し掛けてくる。
「あれ、自分で送ってきたのかな? わたしは違うと思うんだけど。男子のいたずらかな?」
「わたしも、そう思う……」
 美樹は、弱々しく由布子に答えた。
「あんな恥ずかしい写真、自分で送る女の子、いないよね。うちのクラスの男子のいたずらだよね。でも、誰だろう?」
「由布子さん、美樹さん、おしゃべりしてなくてちゃんと実習しなさい」
「はーい」
 由布子が、元気よく返事をした。美樹と由布子は、響子の注意に話を止め、パソコンに向かった。

 一人でパソコンに向かっている美樹を、不安が襲ってくる。メールは、この授業中にトイレに行き、パンティーを脱いでくるように命じていた。さもないと、顔が写った写真を学校中の生徒に送ると書かれていた。
(いやっ、パンティーを履かずに授業を受けるなんて……)
 パンティーを履かずに授業を受ける自分を想像するだけで顔が赤くなる。しかし、写真を見られるのはもっと辛い。パソコンに向かっていても、とても集中なんて出来ない。顔つきの写真を見て、みんなが美樹をからかっている風景が、脳裏に浮かぶ。いまでも、クラス全員の視線が、自分に向けられているような気がしてくる。その中には、メールを送ってきた犯人の視線もきっとある。犯人は、美樹の行動を見張っているに違いない。
(パンティーを脱ぎに行かなくちゃ……。みんなに恥ずかしい写真を見られちゃう……)
 美樹の顔の写った写真を見られてしまう恐怖と恥ずかしさが、パンティーを脱いで授業を受けること選択させようとする。
(行かなくちゃ……、い、行かなくちゃ、写真をみんなに見られちゃう……)
 写真を見られる恥ずかしさと、パンティーを履かずに授業を受ける恥ずかしさの間で心が揺れ動く。しかし、パンティーを脱ぐ勇気は生まれてこない。
(きっと、ただのいたずらよ。こんなこと……、起こる訳けない……)
 美樹は、悪い夢をみているのだと思いたかった。これがただのいたずらであって欲しいと願った。
(だ、誰なの? こんないたずらするなんて……)
 美樹は、クラスのみんなを見渡した。みんな、写真のことをヒソヒソと話をしているが、誰一人としてそれらしき人間は思い当たらなかった。疑問は、どんどん不安へと変わっていく。小さな背中が小刻みに震え、黒髪がさらさらと揺れる。
(でも…、顔が写った写真が配られたら……。わたし……、生きていけない……)
 男子全員が美樹の恥ずかしい姿を見たがっているように思えてくる。クラスの皆が、怪しく思えてくる。

 しかし、美樹は席を立つことが出来ないでいた。パンティーを履かずに授業を受けることなんて考えられない。写真を見られる恥ずかしさと、ノーパンで授業を受ける恥ずかしさが交互に襲ってくる。美樹が迷い、席を立てないでいるまま授業の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。



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