■ プロローグ
「若旦那、いい加減決めて下さいましな!」
「あんたもボーとしてないで、少しは若旦那を口説いて下さいヨ」
「・・・・・・」
「本当に・・この人はいつまでも煮えきらないんだから!」
「口うるさい女だなー、全くお前という女はどうしてそんなに性悪になれるんだ!」
「何言ってんの! その女がよくて桑名くんだりまで付いてきたのは何処のどいつヨ!」
「まあまあ・・二人とも私の前で痴話喧嘩はよしとくれヨ!」
「決めるも決めないも・・あの子次第じゃないか」
「戦前ならともかくも、戦後十年以上も経とうという時代に・・
娘を儂に売りつけようなんて・・鬼畜の所行だぜ・・あんたら!」
「若旦那・・そうはおっしゃいますがネー、私ら夫婦・・あの子の母親にはとんだ煮え湯を飲まされてるですよ・・、その娘なら体で母親の借金を返す!・・当然のことじゃありませんか、ねーおまえさん!」
「お前はそうポンポン言うが・・あの娘はお前の姉の子供じゃないか!」
「姉さんだって天災で亡くなったんで、わざと借金作った訳じゃないだろー」
「お前には情というものは無いのか!」
「ヘッ・・お笑いだねー、お前さん・・よくもしゃぁしゃぁと言えるもんだ!
あんたが夜な夜なあの娘に何しているか・・私が知らないとでもお思いかい。
毎夜あの子の泣き声が私の寝所まで聞こえてくるだよ」
「ちょっと待った! 黙って聞いてりゃー、なんだい・・あの娘は御亭主のお手つきなのかい?」
「若旦那、待って下さいよー・・あの子はまだ生娘ですぜ!」
「俺があの子にしているのは作法・・そう・・男の喜ばせかたの教育ってやつですよ!」
「お前さんも・・うまく言うもんだねー、なんとかかんとか言いながら結構楽しんでいるくせに・・本当にあの子・・未通なんだろうねー?」
「お前まで何を言うんだ! 俺はあの娘を少しでも高く売ろうと女の伎を・・仕込んでるんじゃないか!」
「フン! 旨く言い逃れたもんだネー」
「お・・お前・・妬いてんのか?」
「・・・・・・・」
「若旦那! あの娘の体は絶品ですぜ・・そりゃー1度見たら手放せなくなりますよー!」
「ああゆうのが男をとろかす体と言うんですかねー。
お乳も尻も・・そりゃー肌にくっつきそうなくらいの餅肌でね」
「色の白さなんざー混血特有の透けるような肌ですぜ!」
「ほー! そんなにいいのかね?・・・・・」
「そりゃーもー震い付きなるくらいですぜ!」
「まっ! それならご主人!・・一度拝ましてもらってから決めるとしようかね」
「旦那さん・・是非とも決めて下さいましな・・うちも今は
火の車でね、若い芸子がこの前も男と駆け落ちされて
後は婆さん芸子ばかり!、商売になりませんのよ」
「しかし・・まだその娘、中学生なんだろ・・いいのかい
後々警察沙汰は絶対いやだからねー」
「そりゃーもー若旦那には御迷惑は掛けませんや・・日頃からあの娘には充分に言い聞かしておりやすからね」
「本当かい?・・じゃぁ・・ちょっと娘さんを見せてもらおうじゃないの」
「それにしても・・・あの娘・・きょうは遅いネー」
「お前さん・・ひとっ走り見てきておくれ」
「何処かで道草でもしてたら・・首根っこ引っぱっておいでな」
「んー・・じゃぁちょっくら見てくることにしようか!」
「若旦那、それじゃーちょっと待ってて下さいましよ!」
久三は下駄をつっかけ表に走り出た。
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