■ 夜中過ぎの電話
日中の疲れもあり、もうすでに僕は眠っていた。
「花金」なんて言うけれど、彼女と別れてしばらく経ったものの、街に飲みに出る気はしない。
すごく日々がだるく、ナンパをする気にもならない。
ていうか、もう30過ぎの中年だからついてくる女の子なんていない。
相手にしてくれるのは、せいぜいスナックか風俗のねーちゃんくらいだろう。
『いい女だったのになぁ……真剣につきあわないで、もうちょっとおもちゃとして遊んでいたならあきらめがついていたかなぁ……』などと考えているうちは、まだ元気があった。
最近は、僕が経営している塾の生徒からも、「先生、気が抜けてますよ〜」なんて言われる始末。
「そんなことないぞ?」と言ってはみるものの、ため息が出たりして。
しばらくは、アルバイトだけに任せてもいいかなぁ………
夜中過ぎに電話が鳴った。
まだ疲れが残る体で、布団から這い出し受話器を取る。
「はい……」夜中にかかってくる電話にろくな事はないので、不機嫌な返事をわざとする。
「あ! 先生? ごめん! 終電反対方向に乗っちゃって最悪なの!」
寝ぼけ頭にキンキン響く若い女性の声。
それに、けらけらけらっ……と背後から笑い声がしている。
「先生! 覚えてる? 市杉と花村と水田だよ〜」
あ……3・4年くらい前に塾で教えていた子たちだ。
中学卒業しても、時々参考書抱えて、塾に押し掛けていたっけなぁ。
あまり相手にしなかったけど、空き教室使って勝手に勉強していたなぁ。あっ確か今年3人とも大学合格したんだったな。
「おう、覚えてるぞ。今年みんな大学受かったんだったな。おめでとう。」
「ありがとう先生! ってもうすぐ夏だよ!」
向こうは突き抜けて明るくハイになっている。お酒をかなり飲んでいるんだろう。
「ところで、どうして水田がついていて乗り間違えるんだよ?」
水田みどりは、仲良し3人組のなかでもいつも冷静で、かなりしっかりした子なのだ。
「あははっ、みどりちゃん半分寝ちゃってたもん。」
「花村でぃ〜〜っすっ、よっぱらってまぃ〜〜っすっ」
酒のにおいがこちらまで漂ってきそうだ。
「で、今どこの駅なんだ?」
「千鳥が丘です。」
落ちついた水田の声。
「はぁ?」すぐにはどこだかわからない。
「えっと間違って南に下ってしまいまして、ちょうど県境くらいなんです。けっこう遠いんですけど……迎えに来てもらえませんか? 完全に足がないんですよ。」
「親とかは?」
「ん〜無理かも……みんな今日は私のアパートに来る予定だったから、もう寝てると思います。」
おい! 親を起こしてはだめで、何で俺を起こす?
「親に頼め親に。」
ちょっとむっとして言い返す。
「そこを何とか。」
「こんなに遅くまで飲んでるのばれると、おこられちゃいます〜」
市杉が横から言ってくる。
あ゛〜酔っぱらいが………
「高速使っても1時間以上かかるよ? 待てる?」
「いいんですか?」
「しょうがないだろ? だいたいおまえら彼氏の1人くらいいないんかよ?」
『いませ〜ん♪』
向こうでそろって言ってるよ……
「はいはい……外は急激に冷えるから、暖かい物でも飲んでなさい。」
『は〜い♪』けらけらけら……
全くいい気なもんだ。
さて、外に出てみるとけっこう冷えてきている。一度アパートにジャケットを取りに戻り、毛布も2枚持ってきて車に放り込む。
どうせ昼間暑かったから薄着で行っていることだろう。
水田を除いては。あいつはいつでも………
高速道路は、スムーズに流れいてる。
僕の加速の遅いおんぼろ軽ワゴンでも120kmで走ることが出来る。
行って戻って……3時間近くなってしまうなぁ……どうしようかなぁ……明日は予定がないにはないが……
駅に着いたら、彼女らがばたばたと車に乗り込んできた。
「さむいさむいさむい……自販機、冷たいものしかなかったよ〜……」
「先生最高!! 毛布ありがとう!!」
やっぱり彼女たちは水田を除いて薄着をしていた。
二人とも、大きくふくらんだおっぱいの上の部分がもろに出ている胸元が大きく開いたキャミソールの重ね着、そして太もものほとんどが剥き出しになっているデニムのマイクロミニ。
これじゃあ寒いはずだ、毛布を持ってきてて正解だった。
すこしだけ酒臭いけど、そんなにひどくなくちょっと酔っぱらっている程度で、泥酔って訳じゃないようだ。
すこし車を走らせる。
「ところでどうするつもりなんだ? 水田のアパートだってここからずいぶん遠いんじゃないか?」
「私のところは大学の近所ですから……」
僕は頭を抱えた。この場所からだと、僕の家のさらに先………
「車ん中泊まるか?」
「それもいいですけど……」
「あっラブホテルは!!」
がんっ
僕はハンドルに頭をぶつけた。
「あのなぁ……俺も男だぞ?」
「大丈夫大丈夫。こっちは女3人だから」
けらけらけら。
市杉が手を上下にぱたぱた振ってあっけらかんと笑いながら言う。
「私行ったことないで〜す。」
花村も興味ありげに目を輝かせ、身を乗り出して手を挙げて賛同している。
ルームミラーには花村の胸の深い谷間がしっかり映っている。
水田だけは静かにしている。
「水田はどうなんだ?」
「私は、かまいませんよ。」
いつものように淡々として冷静なのだが、この子にしてはちょっと期待しているような声色に聞こえた。
その水田は、ゴスロリの服を着たまま、助手席に座っている。
黒地のワンピースなのだが、白いフリルがいろんなところにあしらわれ、そのスカートは白く大きなフリルが幾段にも重ねられていて、裾は大きく広がってふくらんでいる。
フリルの中から白いオーバーニーに包まれた太ももが少し見える。
胸元はかなり大きく開いていて、大きな膨らみが形作る深い谷間が見えるのだが、そこには、肩の部分の大きな白いレースのリボンが垂れ下がり、胸元のレースとともに、巨大な乳房の形をわかりにくくしているようだ。
頭には白いフリル付きの小さな黒い帽子が乗っている。
後頭部には大きな白いリボン……
この子は、中学時代から変なかっこしていたよなぁ……
こんなかっこして居酒屋に行ってたんだ………頭痛い……
いや、その前に市杉がよく居酒屋に入れたな……どう見ても今もって小学生か中学生……
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