2007.12.06.

お姉さんの種
01
一月二十日



■ 1

僕はお姉さんが欲しかっただけだ。
でも僕より後にお姉さんは生まれない。
だから僕はお姉さんの種を作ったんだ。
そして今目の前にその大きな種が転がっている。
「水をやらなきゃ。」
僕はズボンをずらした。
そして温かい水を掛けたんだ。

何日水を掛けたろう?
僕の部屋はすっかりおしっこ臭くなっている。
お姉さんの種はちょっとずつふやけて来ている。
多分もうすぐ芽を出すだろう。
でもいきなりお姉さんだから、きっと話す様になったらあれこれ偉そうなこと言うんだろうな。
でもいいや。お姉さんなんだから。
賢く言うことを聞こう。
でも楽しみだなぁ。どんな顔でどんな声でどんな身体をしているんだろう?
おっぱいは大きいんだろうか?
あそこにもちゃんと毛が生えているのかなぁ。

また何日か経った。
おしっこ臭い部屋にはちょっと参るけどお姉さんの種は確実に変化してきた。
種は大きな楕円形をしているけど、その表面がふやけて所々破け始めていた。
そしてある日僕は驚いた。
楕円形の真ん中より少し下の方に黒いものが現れていた。近寄ってみたら黒ではなくて少し茶色い毛だった。
ちりちりした柔らかそうな毛が種から出ていた。
僕は近寄って「フッ」と吹いてみた。
誰もいない僕だけのおしっこ臭い空間でその柔らかそうな毛は、僕が息を吹きかける間だけ揺れた。

そうだ、もう少ししたらお姉さんが生まれる。服とか買っておかなきゃ。
僕は慣れない買い物をして部屋に帰って来た。
また驚いた。
破れていた皮はすっかり剥けていた。そして毛の生えた楕円形には無数の血管が浮かんでいた。それはまるで巨大な臨月の乳房の様だった。
「ただいま。」
僕はお姉さんの毛に挨拶をしてそっと吹いた。
お姉さんの毛は「おかえり」とは言ってくれなかった。その代わり無言で揺れた。
僕は種に耳を当てた。
ドクンドクンと血が流れる音がする。
「お姉さんいつ生まれるの?」
僕は種に聞いていた。

次の日、また変化があった。
部屋の壁は僕のおしっこのシミだらけだった。
楕円形のてっぺんに、今度は長い毛が生えていた。真ん中辺の毛とおんなじ茶色い毛だけど、こっちはもっと柔らかくてまっすぐだった。
こっちは吹いても揺れそうじゃないから直接指で掬い上げた。本当に柔らかい。
楕円形は相変わらず血管を脈打たせてドクンドクンという音を立てている。
僕は勝手に想像した。
このドクンドクンの中でお姉さんのとがった部分…乳首とか唇とか鼻の先とかがとっても興奮しているんじゃないかな?
そう思うとまたおしっこがしたくなった。
僕はまたお姉さんに水を遣った。
楕円形に掛かった水はあっという間に吸い込まれて行った。
「お姉さんお腹空いてるの?」
僕は楕円形の上に跨って、天井を向いて力んでいた。

次の日、部屋に入ったらおしっこ臭さに甘い香りが混ざっていた。そして何より、部屋が暖かかった。
楕円形の真ん中より上が、ピンク色になっていて、ピンク色の真ん中辺がポチョっと突き出ていた。
怖かったけどそこに触った。
すると楕円形がムニュムニュと動いた。
面白くなってまた触った。
またムニュムニュ動いた。
それにしても変な形になってしまった。
この甘い香りは、そのポチョっと突き出ている先っぽから出ていた。あまりに美味しそうな香りだから、僕はその先っぽに口を当てた。先っぽを口をいっぱい広げて口の中に入れた。甘くて仕方ない。僕は興奮してしまった。もっともっと甘いのを吸いたい。身体中がこそばゆくなって、我慢出来なくなってちょっと歯に力が入ってしまった。
楕円形の中でずっとしている「ドクンドクン」がいっぺんに大きくなって、楕円形はポヨンと僕を跳ね飛ばしてしまった。
部屋の壁で身体を打ってしまった。お姉さんに怒られてしまったみたいで嬉しかった。

僕には楽しみが増えた。
いったいいつ人間の形になるのか分からないけど、毎日僕がちゃんと水を掛ければ、お姉さんの種は変わっていってくれてる。これはお姉さんの優しい部分だろう。
それに最近ここは暖かい。寝るとき布団が要らない。
こうして楕円形の下の方を抱えていればとても温かい。
パジャマも要らない。
楽しみは、こうして楕円形の下の方から上を見上げる時。変な毛があってその向こうがピンクで全体は透ける様な白で、そして青い血管が大きくなったり小さくなったり。
まだ巨大な乳房みたいな変な形だけど、それはそれである意味満足している。
だって僕より大きい身体の一部分って面白いから。
そこに全身でしがみついてあの先っぽを舐めて振り落とされることを何回も繰り返して、疲れて、そしてまた楕円形を抱えて眠るんだ。

ある朝楕円形に片手だけ生えていた。
それは確かに女の人の手だった。
白くて細いけど、触ったらとても柔らかかった。
まだ何も見えないからかその片手はしきりに宙をまさぐっていた。そのたびに楕円形の血管が浮いてドクンドクンしていた。
僕が手を握ってあげるとぎゅっと握り返してきた。
そしてドクンドクンも落ち着いた。
その手をあのピンク色のポチョっと突き出た所に当ててやると、とても慣れた動きでゆっくりと揉み始めた。
やっぱりお姉さんは気持のいいことを知っているんだ。
僕は少し離れて膝を抱えて座った。
片手はピンク色の突き出た所を手のひらでゆっくり揉んでいた。そのうちつまんだり引っ張ったりし始めた。
するとドクンドクンが大きくなって、楕円形はごろごろ転がり始めた。
ちりちりの毛が上になったり下になったりする。
時々勢い余っておしっこのシミだらけの壁にぶつかった。

そのうち楕円形は汗をかくようになった。
少しずつ人間に近づいてきた様だ。
僕はタオルを掛けてあげた。でも楕円形は嫌がってすぐに手で払いのけてしまう。
仕方がないからぽんぽんと拭いてあげる。
その間は楕円形は大人しくしていた。
まだ視覚も聴覚も利かないかも知れないけど、僕は拭く時に「きもちいい?」と声を掛けて笑っていた。
片手が生えただけで、楕円形はえらくお姉さんっぽくなっている。手も賢くなって、楕円形を起こして支える様になってきていた。
そしてそこうするうち、僕が帰るたびにもう一本の手、片脚、もう一本の脚が生えていた。
楕円形に手足が揃った。
でも脚はまだ自分が何者なのかわからないみたいで、ただいたずらに放り投げられているだけだ。
水遣りは相変わらず続けていた。
僕のおしっこがお姉さんには唯一の食べ物だ。

そしてとうとう、楕円形に目がひとつだけ出来た。
ただ忙しそうに瞬きしている。
脚は相変わらず投げ出されたまま。
手は重たい楕円形を支えてるだけ。
はっきり言って巨大な乳房に手足と片目が付いただけ。
そして意味不明の毛。
これが今のところの僕のお姉さん。
でも僕は最近この手に抱いてもらっている。
初めて目が現れた日に、目は僕をじっと見てた。
ただそれは僕を慈しむ様な目じゃなかった。
しきりに下の方を見てる。
あの毛の辺りだ。
身体を支える手が片方、そっちへ伸びようとして躊躇していた。
「あ、触りたいの? 姉さん?」
目は激しく瞬いた。
お姉さんはどうやらその毛の辺がどうなっているのか触りたいみたいだ。
「でもなんにも無いんじゃないかなぁ。」
僕は聞こえないだろうけどそう言って
「ま、いいか、うん、触ってごらん?」
と、躊躇したままの片手を掴んで毛の辺へ持って行った。
手は中指と薬指を立てて毛の下の方から何度も上下した。目は宙を見てうっとりしている。でもすぐに激しく瞬いて、僕を睨みつけた。
「え? 姉さんどうしたの?」
僕はお姉さんの手をのけてそこを触った。
毛の下はただの平面だった。
「あ、まだ出来てなかったんだね?」
そう言うや否や楕円形のピンク色の突起から甘い汁がぴゅーぴゅー噴き出した。
「ごめんね、まだ早かったね、姉さん。」
僕は蜜まみれになりながら必死になって楕円形におしっこを掛け始めた。



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