2009.07.08.

蛸壷 〜海岸の美女〜
01
田蛇bTack



■ 1

その女の存在を知ったのは、なんてことのない昼休みだった。
俺の中学のころからのワル仲間であるセージが、声をひそめてこう言ってきた。

「浦島海岸に絶世の美女が出るらしいぜ」

浦島海岸とは、俺とセージが中学から帰るとよく行った海岸である。
ウラシマカイガン、その響きだけで懐かしさに心躍るには充分だった。

ただ、今回は話があまりに現実離れしていた。
俺はセージをからかってみた。


「絶世の美女ォ? なんの冗談だ。」
「おいおい冗談じゃないぜ、有名な話だよ」

「……汗」
「そんで俺、今日会いに行こうと思って。」

「会ってどうするんだよ。」


いや、セージが何をしようとしているかなんて、俺にはわかっていた。
そしてその予感も当たっていたようである。セージは中指と人差し指を軽く立て、すばやく数回折り曲げた。


「…なぁ、一緒に行こうぜ」

セージの息はもう荒い。

「いいけど俺、今日6限必修だからさ」

困ったように俺は答えた。

「うーん、わかった。先に行ってるよ。絶対来いよ」
「あぁ。」


そのあとセージは延々と絶世の美女とやらの話をしていた。
赤毛の巻き髪、肌は恐ろしいほど白くなめらかで、なまめかしいほど美しいラインをたたえた体を持つ。
瞳は深い紅色で、それを覆うまつ毛は長くしなやか。

最後にセージは彼女に心うばわれぬ者はいないと断言してきた。



6限が終わり、俺は浦島海岸行きの電車に揺られていた。初夏とはいえ、この時間になるともう暗い。こんなド田舎は外灯なんてのも少ないのだ。

ケータイの明かりと、潮風をたよりに、海岸にたどりつくと、そこには誰もいなかった。

だだっぴろく続く砂浜に、おだやかな黒い海。
セージはもう帰ってしまったのだろうか。

あーあ、せっかく来てやったのに。
懐かしい海の音を聞いているうちに、急にさみしくなってしまった。

よく遊びに来ていたのは8年ぐらい前迄だろうか。
あのころとちっとも変わっていない。

海に向かって打ち上げ花火を飛ばしたこともあった
初めての酒もタバコもセックスもここで覚えたのだ。



どれぐらい時間が経っただろう。
遠くのほうでクジラが跳ねたような音がして、目をこらして水面を見た。

黒くて細長い塊が見える。
ヒト…? いや、そんな筈はない。


「あなただったの? ずっと探していましたわ」

急に声がしたので、驚いて振り返ると一人の女がこちらを大きな目で見つめていた。

暗い筈なのに、彼女のことはいやにはっきりくっきりと見えた。

俺は声を失った。
その人がその人であるということが、何も言わなくてもわかったのだ。

「あら、どうしたの?」

こわばる俺の表情に困惑したそのオンナはこちらに手をのばした。関節を感じないぐらい細くやわらかい指…。

「すいつくような肌」
とはまさにこのことだ。
俺のすべてはまるで磁石のように彼女に吸いついていくような気がした。

「せ、せ、セージはどこだ?!」

やっと俺の口をついて出た言葉は、なんだか乱暴なものになってしまった。

女は困惑したように下唇を噛んだ。
歯があたっていない部分の下唇の肉がいやらしく盛り上がっている。

俺は女に何を聞いたかすら忘れ、それにみとれていた。

「少し、散歩しません?」

女はそのやわらかい手をさしだしてきた。
俺はまよわずその手を取った。手をつなぐと、女の髪が顔の近くにふわっとなびいた。
甘いにおいを期待して肺いっぱいに呼吸をしてみたが、女の髪にあるそれっぽいにおいは感じられなかった。

やがて女は足を止めた。目の前には木が複雑にからみあった茂み…。俺たちのかつての秘密基地だった場所。

それにしてもこの女はなんなんだ。

俺も、きっとセージも、この秘密基地に女なんて連れ込んだことはなかった。
それに絡んだことがあるなら、絶対に覚えている筈。
こんなイイ女なら尚更…。

だが俺の些細な疑問さえも、彼女の大きく深い瞳に浮かんではすいこまれていくのだった。

「さぁ。」

女はまた俺の手を引いた。どうやらしげみの中へ入っていくらしい。

こんな誰もいない海岸で…
更に深い茂みの中へ…

よく見ると、女は素足だった。
素足でこんな茂みに入ると怪我をしてしまいかねない。
だが、女はそんなこと気にしている様子ではなかった。

目の前にあるのは、深い紅の…俺を誘惑する瞳のみ。

俺はなんだか神聖な気持ちで茂みに踏み入った。

茂みの中は、月明かりに照らされて、案外明るかった。そして目の前で信じられないことが起きた。

女の髪が、みるみるうちに伸びだしたのだ。
赤い巻き髪は、女の体をまとっていく。
そのかわりに、今までつけていた女の衣服は、どこかへ溶けてしまったようだ。

女が俺の首に手を回し、うなじに歯を立ててきたので、俺は女の髪をかきあげた。

「おまえ、名前は…?」

くすくす、
女は笑った。

「お好きにお呼びください、タッちゃん。」


こいつ…。
俺の中学時代のあだ名を知っている。
でもいまだに俺はこいつを誰か思い出せない。
初対面、あぁ、そのとおりだ。


「タッちゃん」

俺の首から手を離すと、女は髪の毛をすべて自分の体のうしろにおいやった。

あ………。

白い裸体が月明かりに照らされる。


あらわになったうなじはため息がでるほどなめらかで、その下で鎖骨がゆるやかな曲線を描いている。

上向きの乳首を丸く覆う乳。八の字を描くような胴体。太ももは太いわけでも細いわけでもない。

ちょうどいい…。

女の茂みは薄く、目をこらせばなにもかもが見えてしまいそうだった。


そして俺を見つめる瞳は悩ましげで、うるおっている。それは女の股の中も同じ様子のようだった。

すぐにそこに手をつっこんでかき回したくなる衝動を抑えるのに、俺はどれほど苦労をしたのだろう。



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