2006.03.13.

新・売られた少女
01
横尾茂明



■ 奸計の章1

「園長さんよ! もう3ヶ月も返済が無いたーどういうこった!、俺が仏面してる内にどうにかせんとただじゃすまねーぞ! コラー」

「し……柴田さん……もう少し……もう少しだけ待って下さいよ……必ず……なんとかしますから……」

「園長さんよー、先月からのそのセリフはもう聞き飽きたぜ……テメー本当に返すあてはあるんかい!」

「……………」

「元金200万、利子含めてもう300万にもなってるんだぜ、テメーにそんな金返せるわけねーだろーが」

「……利子が法外で…………」

「こら! テメー、借りるときなんつーた……1ヶ月で返すから利子が少々高くても結構とその口が言ったんだぜ!」

「そうおっしゃられても……子供達も食べ盛りで……経営も大変なんですわー」

「アホかテメーは、いい年こいて中坊なんぞに手出すからこんなことになったんだろー」

「それは…………」

「なっ……前にも言ったように……おたくの学園の聡美ちゃん……俺との養子縁組をなんとか承知すりゃ貸した200万と金利は全部チャラにするといって言ってんだろー、ええかげん観念せーや!」

「その件は……もう少しだけ考えさて……」

「アホかテメー! そんな言い逃れはもー聞きたかねーんだよ! もたもたしてると福祉課にみんなバラすぜ! コラすぐにでもなんとかしろ!」

「……市の福祉部児童課が目を光らしてるんで……すぐにと言われましても……ものには順序が……」

「よしわかった……じゃぁまた来週電話するからそれまでなんとかしろ!、これが最後だぜ!」



武雄は電話を切ってほくそ笑んだ、ようやく狙った獲物が手に入りそうな予感がしたからだった。

武雄は欲しいと思ったらどんな手を使ってでも手に入れる狡猾な男だった、この計画には数ヶ月をかけた。

事の発端は今年の1月である、車で信号待ちをしていると……横断歩道をランドセルを背負った一人の少女が歩いてきた、武雄はその少女を見て初めは奇異な思いがした、それは躰に不釣り合いなランドセルにあった。

高校生がランドセル……? (いや……違う……)

大人の体躯に幼い顔……不釣り合いとも言える小学生のコスチュ−ムに小さなランドセル……。

しかし少女が車の前を横切ったとき武雄は目を見張った……それは眩しいばかりの美少女! 今まで見たことないほどの愛くるしい可愛さに腕・脚の白さと光り輝く肌……武雄はこれほど美しい少女は見たことがなかった……優性遺伝の極地……すぐにはその形容が思い浮かばない程の美少女であった。

武雄は最近……無意識に何かを求めていた……が、この刹那……はっきりと輪郭が見えた気がした。

少女が視界から消えたとき後方のクラクションで我に返る、武雄は舌打ちをし信号を通り抜け道路の端に車を停め少女の去った方向を見た。

武雄はこの時……痛烈なる渇望を感じた……(あぁー欲しい……)

武雄は何を血迷ったのか……車から飛び降り道路を横切り、少女の去った脇道に走り込む。

前方に少女が歩いている……このまま連れ去りたい衝動に駆られ走り出したい思いに耐えた、喉奥が乾いて視野が白く濁る。

少女はすっと横道にそれる……武雄も足音を消して後を追う、少女は走り出し……塾のような建物に駆け込んだ、明るく、「ただいまー」と大きな声を上げ扉を開けて中に消えた……。

武雄の心臓は早鐘のように鳴り、耳奥にキーンという耳鳴りを感じた、己の興奮に思わず笑ってしまう……。

(こんな興奮は何年ぶりだろう……)

建物の入り口の上にかかっている看板らしきものをみた……(友愛学園……塾なのかな?)

暫く佇むが少女が出てくるはずもなく、この時……武雄は車のエンジンを切っていないことを思い出した。

(少女の手がかりが掴めただけでもよしとするか……)さも惜しそうに振り返りながら表通りに向かう。



その日以来武雄は友愛学園を徹底的に調べた、分かったことはその学園が小舎制の児童養護施設であったこと、目的の少女は吉岡聡美、小学6年生、3才の時……都内のデパートで迷子として見つけられ1週間経っても親は現れず、捨て子としてこの学園に預けられた。

さらに一ヶ月の後……蛇の道は蛇、その学園の園長が院内の女子中学生に強制猥褻したらしくその女子中学生がつきあっている男に口止め料を要求されていることも突き止めた。

(これは使えるぜ……)

武雄はすぐにその男と女子中学生を組の者に言葉巧みに事務所まで連れてこさせた。

二人を応接室に通し紳士的に事の内容を男に問いただした……男は武雄を園長の友人くらいに思い、武雄の質問に答えず大声で傷物になった俺のオンナをどうしてくれると喚き散らし机叩いた。

「本当に園長さんはこの子に淫行したんですかい?」

「コノヤロー……俺たちが嘘でも言ってるというのか!」
男は立ち上がって武雄を睨み付けテーブルの湯飲みを蹴散らした。

お茶が武雄のスーツに降り注いだ刹那……武雄はキレた。

「ナメるなくそガキャ!、チンピラがヤクザ相手になめたことしやがって!」
武雄の靴が唸りをあげて男の顔面を襲う、男は弾かれるように壁まで吹っ飛び床に崩れる。

応接室の扉を開け、武雄は外で待機している数人の男に中に入るように言い、

「おーかまうことねーからこいつの腕の一本もへし折ってやれ! そうすりゃ口のきき方も少しは思い出すだろぜ」

男は野獣に豹変した武雄の形相に背筋を凍り付かせる……しかし相手がヤクザと気付くのが遅すぎた……。

鼻血をたれ流しながら許しを請う男を数人の男が強引に担ぎ上げて事務所の奥に連れて行く……。

すぐに濡れ雑巾を叩きつける音と悲鳴が錯綜しはじめた……武雄の前で真っ青に震える少女は涙目で、聴きもしないのに事の事情を譫言のように喋り始める。

分かったことは……男と女子中学生とはグルであり、どうやら金目当ての美人局だとわかった。

武雄は聞くだけ聞いてから泣きじゃくる少女の髪を引っ張って事務所の奥に引きずり込んだ。

半殺しの体で床で痙攣している男を蹴り起こし、「ガキがヤクザのまねをしやがって二人仲良く揃って死んでみるか?」

男と少女は泣きわめいて許しを請う……。

「よーし分かった! オメーら命は取らんから園長に……そうさなー……200万要求しろ!」

「分かってるだろうが……園長からいただいた200万はきちんと俺の所に持ってくるんだぞ! わかったな」

「逃げやがったら……きさまら地の果てでも追い込んで殺すからナー」

哀れな男と女子中学生は事務所から蹴り出された。

「オイ! 例のチラシを持ってこい!……お前ら、このチラシを友愛学園の周りに貼ってこいや」

チラシには……200万・担保不要で即融資! と書かれてあった。



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