2007.10.13.

内側の世界
(インサイド・ワールド)
―鬼神伝承―
03
天乃大智



■ 第1章 想念2

今日も、ふわふわしてたら、
急に、目の前に、
天使が、現れた―
天使、かな・・・?
天使だと、思う。
人間の姿をしていて、翼がある―
大人の女の人、天女の羽衣を着ている。
腰のところを帯で結んでいる。女の人の胸と臀部が強調され、女の人の見事なプロポーションを引き立てていた。
なめらかそうな白い肌、赤い唇、憂いを含んだ瞳・・・
絶世の美女。
非の打ち所のない美人であった。
天使が、僕のほうを向いて、驚いた顔をした。
その表情が止まり、綺麗な瞳を大きくした。黄金の瞳であった。
そして、目の見えない人が、空中をまさぐるように、両手を差し出した。
目の焦点が、合っていない。
僕のことが、見えないらしい―
でも、僕に気付いている。
どんどん、僕に近付いて来た。
良く見ると、その天使の翼は、天使のそれではない。
黒い、まるで蝙蝠の翼のようであった。
栗色のさらさらした髪の中に、異物も見えた。
角?
それじゃあ、天使じゃない。
悪魔だ。
僕は、急に怖くなった。
逃げた。
僕は、雲の中に逃げ込んだ。
「だめ、離れないで・・・、お願い―」
悪魔は、追ってくる。
僕は、逃げた。
僕は、雷雲に逃げ込んだ。
真っ黒い雲の中に、稲妻が走る。
轟音の中に、僕は、身を潜めた。
長い時間が経った―
僕は、悪魔を振り払った。
その時、光が射してきた。
僕は、見上げた。
雷雲が大きく裂け、真ん中から広がっていく様子を―
今まで、雷雲が立ち込めていたところに、青い天空が広がった。
ちょうど、雲の上に出てしまった様な感じであった。
その雲の中から、大木が現れた。
落葉樹林らしい。葉はない。
東京タワー程の大きさであった。
僕は、圧倒された。
続いて、頭部。
それは、大木ではなかった。巨大な頭部から生えた角であった。
カモシカのような角であった。
その頭部には、長い銀髪が、風に靡いている。
そして、顔。
長い眉毛。
髪の毛と同じ銀色の長い髭。
その巨大な顔を支える為の、巨大な首。
その首の根元から、肩の筋肉が盛り上がっている。
悪魔であった―
角が三本あった―
悪魔の上半身が、上空を覆い尽くす。
僕は、度肝を抜かれ、動けなかった。
「やっと、見付けた―」
悪魔が、悪魔の声で呟く。
開いた悪魔の口から、巨大な牙が見えた。獅子口であった。
飛行機の音が、突然聞こえた。
その時、悪魔の後方から、ジャンボジェット機が飛んできた。
そのシルエットが、巨大な悪魔を透かして見えた。
悪魔は、幻影なんだと思った。
ジャンボジェット機が、悪魔の後頭部から侵入し、牙の生えた口から出て来た。
その時、巨大な悪魔が、ジャンボジェット機を挟み込むように、合掌した。
巨大な掌が、左右からパンとジャンボジェット機を叩く。蝿を叩く様であった。
危ない。
僕は、一瞬ヒヤリとした。
ジャンボジェット機は、何事も無かった様に、飛び続けた。
「天鬼の魂を召還せん」
 悪魔の太い良く通る声が、聞こえた。
 僕の腰が、後の方から強く引かれた。
くの字に体を曲げて、引き込まれた。
僕は、落下した。
地球に引き込まれた―
まるで、吸い寄せられるように、・・・巻き込まれるように。
どんどん速く、・・・どんどん深く。
今まで僕を無視していた地球の引力が、急に気付いた。そして、引っ張り出した。そんな感じである。実体を持った僕は、落下した。堕天といった方が、良いのかも知れなかった。僕は、広大な「無」のなかを落下していく・・・
人間の世界がずっと下の方に見える。
地表が、近付いて来る。島が近づいてくる。都市が近付いてくる。白い建物が近付いてくる。
ユーラシア大陸の東の果て・・・、小さな島のほぼ真ん中に―
落ちた。
白い大きな建物に落下する。
屋根を通り貫け、床を通過した。
その中に入る前に、僕は見た。
女の人が、ベッドに横たわり、さっき見た悪魔と握手をしているところを―
女の人の顔は青白くやつれ、二十歳を幾らも超えていない様な、幼い面影を残していた。
握られた手から、何かがたれている。
きらきら光る綺麗なもの。
その周りを、医師と看護婦が、忙しく立ち振る舞っている。
皆、悪魔に気付いていない。
見えないんだ・・・
その悪魔が、僕をチラリと見た。
そして、満足げに、口元の髭を波打たせた。
微笑したのだ。
僕に見えたのは、それだけであった。
僕は引き返そうとしたが、何も抵抗出来ずに、吸い込まれた。
暗く、狭いところに向かって―湿気の多い、熱いところ、僕の退化した感覚が蘇る。
「暗い」
「狭い」
でも、なんだか、居心地が、良い。
大きな愛を感じる。
私の大切な、・・・大切なもの。
大きく育って・・・
ここは何処? 
今、誰が喋ったのだろうか? 
何か音が、聞こえる。
ドンドン。ドンドン。
絶え間なく、規則正しい音が。
ドンドン。ドンドン。
その音が、次第に速くなってきた。
ますます、速くなってきた。
すると突然、ギューッと物凄い圧力が掛かってきた。
押し出される。
嫌だ。
ここにもっと居たい。
大きな愛に抱かれていたい。
嫌だーッ。
・・・僕は、押し出された。
気が付くと、物凄く居心地の悪い小さな所へ、ぎゅっと押し込められていた。今までのような無限の広がりはない。
体が、ぬるぬるして気持ちが悪かった。
そして、寒い。
今までの一体感もなく、ただただ眩しい。
とても目が見えない。
僕の全感覚は、この状態を拒否していた。その拒絶反応も虚しく終わる・・・
「はい。元気な男の子ですよ」と言う女の人の声がする。
「私に・・・」と言う別の女の人の声が、聞こえた。弱々しい声である。
この赤ちゃん、歯が生えてるわ・・・
鬼っ子?
僕は、その女の人に抱かれた。
僕は、何も出来ない。
ただただ、嫌だ。
「帰してくれ・・・」と叫んでいた。



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