2017.09.23.

悠里の孤独
001
横尾茂明



■ 刻まれた快感1

 悠里の母・静恵が余命半年と診断されたのは2月初めのころ、だが季節は既に夏を迎えその半年も過ぎようとしていた…。
悠里の姉・麻衣は担当医より「現在の衰弱から静恵さんの命はもって2週間」と告げられ、新潟の小千谷に住む伯父の祥一の元へ静恵危篤の連絡を入れた。

祥一は連絡を受け急遽上京すると病院に直行し担当医に静恵の病状を聞いた、担当医は「既に終末期で現在はモルヒネの投与のみ」と無情にも応えた。
それを聞いた祥一は嘆き悲しみ、病床に付き添っていた麻衣に「せめて臨終まで看取らせてほしい」とその日から病院に近い悠里の家に泊まり込み、病床で苦しむ母の介護に当たるようになった。

伯父の祥一は悠里の母とは二人兄妹で、小千谷で二百年続く老舗の酒造会社を営んでいた。
これは後日、伯父から聞いた話だが、母・静恵は二十歳のとき見習い杜氏と恋に落ち姉を身ごもったという、それを知った祖父は怒り心頭に見習い杜氏をクビにすると静恵に堕胎を迫った、だが静恵は深夜、見習い杜氏と手に手を取って小千谷を出奔、東京に駆け落ちし姉を出産したという。

勘当となった静恵は実家の両親からは見放され、十数年後その勘当が解けぬまま両親は他界、残された膨大な遺産は伯父一人が全てを受け継ぐことになった。
だが伯父は歳の離れた静恵を子供のころより可愛がり、静恵が勘当になった後も両親の目を盗んでは生活費を仕送り、いつも気に掛けていたと言う。


 伯父の祥一が家に来て1週間が過ぎたころ、姉の麻衣は伯父と交代のため、いつものように悠里に声を掛け母の介護のため病院に出掛けた。
午後3時過ぎ、姉と入れ替わるように病院から戻った伯父は初めて2階の悠里の部屋を訪れた、伯父は女の子らしく飾られた悠里の部屋を一瞥すると、その狭さに苦笑し「これはベッドに座るしかないな…」と独り言のように呟き遠慮顔でベッドの縁に腰を掛けた。

「悠里ちゃん、きょうは妙に静かだと思たら宿題やってたんだ、だったらオジさん邪魔だったかな」

「いえ、宿題はもう終わります、邪魔だなんて…」

「そうかい、じゃぁ少しだけ喋っていこうかな」
悠里は宿題の手を止めると椅子をずらし伯父の方に体を向けた、すると伯父は悠里がまだ幼かったころ…この家に1度来たことがあると言い、そのとき麻衣と悠里を連れ動物園に行ったことなどを話し、悠里も僅かに残る記憶を辿り懐かしく聞き入った。

だが30分もたったころ、伯父の視線が露わになった悠里の脚や股間に注がれていることに気付き慌てて脚を閉じミニスカートの裾を引っ張って顔を赤らめた。

「おっと、ゴメンあまり綺麗な脚だったから伯父さんつい見とれちゃった」

「だけど悠里ちゃんは中学時代のお母さんに本当によく似てるね、1週間前この家に来た時は中学時代の妹が立ってると思いビックリしちゃったよ、でも本当に綺麗な顔してるね…こんな綺麗な子が小千谷の街なんか歩いたら誰もが振り返って驚くだろうな」
そう言いながら濡れた瞳で悠里の体を舐めるように見回し「中学生なのに背丈はオジさんより高いようだが…いま何センチあるの」と聞いてきた。

そのとき「危険なオス」の臭いを感じ取った、その臭覚は女性特有の感性であろう。
だがそれは一瞬のこと、すぐに伯父はいつもの優しい表情に戻っていた。

それでも悠里はドキドキし極力平静を装うと「165センチ、クラスで二番目に高いのよ」と立ち上がり女の子らしい仕草で返した。

「ほぅ悠里ちゃん165センチもあるんだ、もう1センチで追い抜かれてしまうな」
伯父は笑いながら、透明感漂う美しい悠里の貌と均整のとれた体躯を再び嘗め回すように見つめた。

「ところでお母さんはもう長くないってこと悠里ちゃん知ってるよね?」

「……うん…」

「じゃぁこれからの事お姉さんとは相談したの?」

「……お姉ちゃん…姉妹二人っきりになるけど、麻衣が悠里のお母さんになるから心配しないでって」悠里は言ってから現実に引き戻された感じに悲しげに俯いた。

「そう、姉さんもう二十歳だからお母さんの役目は果たせそうだね、でも姉さんはこれから就職・結婚と続くわけだし、そういつまでも悠里ちゃんの面倒は見ていられないと思うんだ、そこでどうだろう伯父さんちに来ないか、悠里ちゃんも知っての通り儂には奥さんも子供もいない、だから悠里ちゃんのような可愛い子が養子に欲しいんだ、もし小千谷に来てくれるなら悠里ちゃんの願いは何でも叶えてあげられるよ、だから考えてみて」

「…………」

「あっごめん、まだお母さんが亡くなったわけじゃないのに、ちょっと先走ったようだね。
でも正直言ってあと10日ほどの命なんだ、悠里ちゃんも受け入れなくちゃね、明日は悠里ちゃん学校お休みだろオジさんと一緒にお母さんの見舞いに行こうよ、お母さん今日も悠里ちゃんに会いたいって泣いてた…それにしても悠里ちゃんどうして見舞いにいかないの?」

悠里はもう1週間以上も母の見舞いに行ってない、それは母を見るのが怖かったからだ。
病床に横たわる母はもう以前の母じゃなかった、やせ衰え全身の痛みでのたうち回る姿は見るに耐えず、恐怖からその場を逃げ出し今日に至っている。

あんなに好きだった母、それがたとえ鬼の形相になろうともその場から逃げた自分が情けなかったし…再び母の姿を見る勇気も無かった。

「悠里ちゃんごめんよ嫌な話を聞かせて、でも最近は鎮痛剤が効いて、お母さんすごく穏やかになったんだ、だから明日一緒に行こうね。
さぁいつまでもそんな悲しい顔してないで伯父さんの膝においで」嗚咽しベッド縁に佇む悠里を見かね、伯父はその手をとって膝の上に座らせた。

「ほおぉっ、これで中学2年生とは驚きだ、この体ならもう立派な大人だね」
伯父は膝上の悠里を後ろ抱きすると笑いながら露わになった太モモを悪戯げにくすぐり機嫌を取ろうとした。
だがそれに反応をみせず伯父は仕方なく小千谷の風景や街の繁華などを話し、養子がイヤなら遊びに来るだけでもいいから一度遊びにおいでよと悠里の機嫌をなおそうと躍起になった…しかし悠里は依然悲しげに俯くばかりだった。


 悠里を膝の上に座らせたものの次第に話すこともなくなり、沈黙が気まずい雰囲気をつくっていく、気付けばミニスカートは腰近くまでずり上がりショーツそして白く艶やかな太モモが伯父の眼下に晒されていた。

伯父はその優美な太股に気付き先程来より目が釘付けになっていた、やがて伯父の喉が小さく鳴った、口中に溜まった唾液を呑み込んだのだろう。
その音が切っ掛けのように伯父は後ろ抱きの悠里の首筋に軽くキスをし「あぁいい匂いだ」とつぶやいた。

悠里はそのつぶやきに反応し反射的に逃げようと藻掻いた、だが伯父の腕はがっちりと悠里を抱いて離さなかった。
やがて伯父は意を決したかのように悠里の太モモに手を当てた…その手はまるで悠里の反応を探るように動きだす、それは太モモの肌感触を楽しむようでもあり少女の性を引き出す手管のようでもあった。

手は初々しい肌を品定めするように少しずつ股間へと近づいていく。
だが悠里はそんな淫らな動きに少女特有の無反応で抵抗した、それは伯父に「女」を悟られぬ少女なりの装いだろうか…そのとき悠里の心の内は「嫌がれば伯父さんの機嫌を損ねてしまう…」そんな幼い感情からむげに拒否もできず、考えついたのは幼子の様に無反応を装うことだった。

伯父は悠里が反応を示さないことに拍子抜けの感があった、ならば拒否するまで触り続けてやろうと次第に大胆になっていき、遂にショーツの裾から指を潜らせ柔らかなスリットに直に触れてきた。

「うっ」と声が洩れた、だが悠里はそれでも拒否できずそんな己を不可解に感じながらも目を瞑ってその行為に耐えた。

性器を触られているのに拒否反応を見せない少女…伯父は(おやっ)と思った、ほんの悪戯心で及んだ行為、少女がいやがればすぐにもやめるつもりでいた、だが少女は目を瞑り黙って耐えている、この反応は…祥一は昔これと同様の反応を示した妹の静恵を思い出していた。

それは今から27年も前のこと、そのとき祥一は高校三年生だった。



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