セオは荒い息をつきながら、ラグに向かい礼をした。
「ありがとう、ございました、ラグさん……」
「いや。君を鍛えるのは、俺たちにとっても必要なことだから」
これでもう数度目になるやり取りだが、それでもセオは申し訳なさに泣きそうになる。
「ごめん、なさい……ラグさんには、なんの鍛錬にもならないのにっ、俺のわがままにばっかりつきあわせてしまって、なのにちっとも成果が上がらないでっ……」
「セオ」
「ごめんなさい、本当に本当に、ごめんなさい………」
泣きそうな気持ちで必死にそう言うと、ラグが小さくため息をついた。
とたん、心臓が跳ね上がる。セオが謝ると、ラグはいつもため息をつく。そのたびにセオの心臓は、今にも壊れそうに跳ねる。
やたらに謝ってはいけないというのはわかってはいる。自分に接した人間のうち何人かは、『やたらに謝るな、鬱陶しい』『卑屈っぷりが苛々する』と言ってきたから。
だけど、謝る以外にどう表しようがあるだろう。ただいるだけで相手を苛つかせてしまう自分、どんなに頑張っても相手してくれる人に勝てない自分、周りの期待に応えられない自分が、本当に本当に心から、申し訳ないと思っていることを。
それで謝意が示せるなら、腕を切り落としても、足を切り落としてもいい。自殺はいけないことだと思うけど、それで世界を平和にできるなら今すぐ首を落としてもらってもかまわない。
自分なんかの命で、みんなが助かるなら、いくらだって差し出すのに。
現実はそんなに甘くはなく、自分は自らの力で、生き抜いて全てを成し遂げねばならないのだ。成し遂げるべきなのだ。
課された目標を達成することも、オルテガの息子という名に少しでも恥じない行動をすることも、勇者という称号に寄せられる期待に応えることも。
世界を救うことも。
ナジミの塔から三週間。セオたちはレーベの村を越え、エニルヘヤ山脈に至っていた。
ナーシンに教えてもらった、ナジミの塔からレーベの村近くまで半日で行ける空間の歪んだ通路のおかげで時間は大幅に短縮できたが、レーベの村から先の道中は思ったよりも長かった。山脈に至るまでは街道があったが、そこから先はアリアハンでもほとんど開発されていない地域。山々を登っては降り登っては降り、山間の村々に寄って食料を補給しながら旅を続けた。
その間、地図には載っている村が廃村になっていたりで食料やら薬やらが補給できなくなったことも何度もあったが、何度も靴擦れを作りながらも(一応その時のために薬草は準備してあったので事なきを得たが。フォルデが辛そうだったのでラグに薬草を渡してもらって怒鳴られた)、飢えや渇きのような大過なくやってこれたのは、ラグとロンのおかげだろう。
旅慣れた二人は予定の場所で補給ができなくとも(むろん余裕を見て食料は準備していたのだが、普通の食料を日持ちさせるには保存の魔法をかけねばならない。そしてセオはまだその呪文を使えない)、寝床を確保する時に狩りをしたり、山歩きの時に水場を見つけたり、とその経験で自分たちの面倒を見てくれたのだ。
そして、レーベの村から、二人はセオ――とフォルデに、野営の前に半刻ほど稽古をつけてくれていた。
勇者はレベル上げで強くなれるが、だからといって日々の修練が無駄なわけではない。得た力を操るのはその身に叩き込まれた経験だ。
だから、セオは、ある程度旅にも慣れてきたと思えた時から、二人に稽古をつけてもらおうとしたのだが――
「そっちも終わったか」
ロンがぐったりとしたフォルデを支えながらやってくる。ラグは手を上げて応えた。
「ああ。そっちもまた大変だったみたいだな」
「それなりにな。元気がいいから手加減するのに苦労する。こいつの素早さは実際大したもんだしな。……で、そっちは?」
「普段通りだったよ」
その言葉にセオはきゅっと体を小さくする。自分がいかに不出来な生徒かということは、身に沁みている。――今日もまた普段通りに、一本も取れなかったのだから。
ロンはふぅん、と軽く笑みを浮かべた。面白がってるんだろうか、と少し不思議に思う。
自分なんかが人を面白がらせる役に立てるとは、とても思えないのに。
「……人のこと荷物みてーに担いでんじゃねぇ、タコ……っ」
「おお、まだそんな口を利ける元気があるか。素晴らしい。次からはさらに重りを増やしてみよう」
「やめろバカ!」
「……重り?」
「ああ、荷重を増やして筋肉をつけるために稽古の時には重りをつけることにしてるんだ。セオから聞かなかったのか?」
「いや……」
「ご、ごめんなさい、ラグさんには、話すなって、フォルデさんに言われてて……」
「てめぇこのボケ勇者っ、あっさりバラしてんじゃねぇっ!」
「あ、あ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「フォルデ……」
「んだよっ、言っとくけど稽古楽にしようと思ったわけじゃねぇからなっ、俺ばっか岩背負わされてんのが納得いかねぇからだ!」
「……心配しなくてもそんなことしないから。旅のさなかじゃそんな修行したら体を壊すぞ、ロン」
「大丈夫じゃないのか? セオがこっそりホイミかけてるみたいだから」
「………っ! てめぇっ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい………!」
そんな会話もいつものことになってしまっているが、セオは一向に慣れない。この人たちの会話の雰囲気をいつ壊すかいつ壊すかと一緒にいながら気が気でないのだ。
だからいつも、泣きそうにドキドキしながら、話が終わるのを待っている。
野営の時はいつも食事当番が火を熾して食事の準備をする。これもセオは申し訳なくてしょうがない。
本当なら、数少ない自分ができることなのだから、自分がしなければならないのに。この人たちは、何度言っても『食事当番は平等に持ち回り』という考えを変えなかったのだ。
自分は半泣きになりながら普段の戦闘で自分は少しも役に立てていないのに、と主張したのだが、フォルデに『んなこと考える暇があったら戦闘で役に立てるようになりやがれ!』と怒鳴られ、引き下がるしかなかったのだ。
今日の食事当番はロンだった。ロンの作る料理は異国風で、風味が珍しい。秘蔵のダーマ産の調味料を少しずつ使っているのだと聞いた。
もっとも食料の限られている現在の状況では作れるのは干し肉のスープがせいぜいのところだが。それに固パンを炙って一緒に食べる(スープが一緒でないと固くて歯が立たないのだ)。
食事を終えれば火の回りで全員すぐ休む。明日も早くに出るのだ、少しでも多く眠って体力を回復しなければならない。
最初の見張り番はセオだった。毛布に包まりながら、全員が寝息を立てるのを待って道具袋からいつものノートを取り出す。
最初の二週間は緊張もしていたし、足も痛いし地面は冷たいしでそんな余裕はなかったのだが、野営にも慣れてきて、見張りの間の退屈な時間を持て余すようになってきた。そして誘惑に勝てず、こっそりノートを手に取ってしまったのだ。
始めてしまうとその行為はやはり快感だった。家にいた時も見つからないように隠れながら睡眠時間を削りながらやっていたものだ。
この時だけは、自分は――何物からも自由になれる。
ノートを開き、ペンを取り。以前の続きから書き始める。
『……四人の冒険者たちは今日も人少なき山脈を進む。空は幸いにして晴れ上がっているが、セオの心中は晴れ上がりとはいかなかった。心の中に稽古に勝てないことが引っかかっている。』
行を替え、さらに書き進める。
『自分が強いと思っているわけではない。だが、自分の弱さに今更ながらに愛想が尽きてきていたのも確かだった。稽古を始めてもう二週間、一本も取れぬのはひどく惨めだ。』
いや、最後がこの文章では音律が悪い。二本線を引いて、その横に新しく書き進める。
『一本すら取れぬのは惨めにすぎる。』
格好つけすぎだろうか。少し考えて保留にし、少し間を開けて書くのを再開する。
『今勝てずともいつか勝つために稽古をしているという正論に頼るのは容易だったが、セオの理性はそれを肯んじなかった。このままではいつまで経っても勝てない、とこれまでの修練で少なくともそこだけは磨かれてきた戦技に対する勘がそう告げていたのだ。』
だんだんのってきた。ペンが軽い。すらすらと文章がノートに書き写されていく。
『ラグの瞳は優しい。だが、セオはその瞳にすらまるで急き立てられるような罪悪感を感じていた。それは、かつてアリアハンの将軍に稽古をつけてもらっていた時に感じていたものと似ている、とセオの記憶は言っている。』
みるみるうちにページが埋まり、新しい真っ白なページが繰られる。セオは夢中になって書き進めていた。
『こちらをそっと見つめる優しい瞳、こちらの肩をそっと撫でる大きく暖かい手。そういうものにセオは狂うほど焦がれながら、深い恐れを感じていた。むしろ畏れというべきか。彼らのこちらに向けてくる視線は、セオを人として見ようと努力していることを』
「セオ……なに書いてるんだい?」
「!」
セオは仰天してばっと立ち上がりノートを後ろに隠した。声の主はラグだった。焚き火から適度に離れた場所に寝転がり、毛布の中からこちらを優しく見上げている。
「ラ……グ、さ、ん…………」
セオは心底からの恐怖に震えた。どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしよう、知られてしまった!
怒られる、きっと怒られる、ううんそれだけじゃない嫌われる! なんて軟弱なって、勝手に人のこと書くなって、お前みたいな奴が人のことを偉そうにどうこう言うなって――あの優しい人に、心底軽蔑したみたいに言わせて、怒らせちゃうんだ………!
そして――このノートを―――
あまりの恐怖に凍りついて声も出ないセオに気づいているのかいないのか、ラグは微笑みを崩さず言ってくる。
「そろそろ見張り交代の時間だろ? あんまり熱心に書いてるから邪魔するのも悪いかなとは思ったんだけど、やっぱり君も眠っといた方がいいしさ」
「…………」
答えなくちゃ、なにか言わなくちゃと思うが舌が喉に貼り付いて動かない。体中が固まって指一本動かすこともできなかった。
「――なにを、そんなに熱心に書いてたんだい?」
ラグが瞳を、きゅっと真剣にして訊ねる。セオは動けない。ラグも動かない。しばし鉄より重い沈黙が二人の間に漂った。
――先に動いたのは、セオの方だった。
「…………ごめんなさい」
緊張に耐えかねて、ずん、とその場に膝をつく。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
もはやラグすら目に入らず、ただ謝罪だけを虚ろを見つめながらひたすらに繰り返す。呼吸が勝手にどんどん荒く、激しくなってくるのがわかった。以前も何度か味わった、心臓が壊れるかと思うほどに早鐘を打ちまともに息もできなくなる状態――
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―――」
「セオ!?」
ラグの声がひどく近くに聞こえた。それでもセオはひたすらに謝罪を繰り返す。
こんなのはよくない、とセオの中の良識は非難した。ラグさんに答えもせず謝るばかりで。なにより、いつもと違って本当に悪いと思っているわけじゃないのに謝るなんて。
自分は今、ただ相手に許してほしくて謝っている。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな―――」
「セオ! しっかりするんだ! ちゃんと息をして!」
まともに息継ぎもできない状態のまま謝罪し、謝罪し、謝罪する――それでも必死にノートは抱えこんで離さなかった。触れられたような気もしたが、その瞬間振り払って懇願した。
これだけは。
そんな台詞を吐けたかどうか。
セオは必死に祈っていた。これだけは。お願いですからこれだけは。
なんでもしますからこれだけはどうか許してください、と。
その発作はしばらくすると治まり、呼吸が整い始めた。セオの頭に少しずつ周囲の状況が入ってくる。
とたんセオは恐怖のあまり顔を真っ青に染めた。ロンとフォルデが上体を起こし、目を開いてこちらを見ている。――起こしてしまったのだ。
「ごめんなさいっ!」
セオはだらだら涙をこぼしながらその場に土下座した。呆れたような雰囲気が漂うのにも気づいていたが、それ以外に謝意を示す方法が思いつかなかった。
「ごめんなさい、起こしちゃってごめんなさい、迷惑かけてごめんなさい、いやな思いさせちゃって本当に本当にごめんなさい――」
「そんなことはいいから!」
ラグに声を荒げられ、セオは泣き濡れた瞳のまま顔だけをびくんと上げた。三人のパーティメンバーの視線の中、申し訳なくて申し訳なくて、かたかた体が勝手に震える。
だが、その震えもラグがこう言うまでだった。
「――そのノートはなんなんだい」
「――――!」
セオは硬直した。
恐怖。さっき感じた恐怖がまた体を満たすが、今度はそう都合よく発作を起こすことはできなかった。
ラグも、ロンも、フォルデも、真剣な顔でこちらを見つめている。
言わなければ。言わなければならない。聞かれているのだから。
その絶対的な思いだけが、セオの口を動かす。
「………俺の、日記兼………」
声が震える。体も震える。恐ろしくて恐ろしくて逃げ出したい。
でも、言わなければならない。自分には聞かれた時に答えない権利など、生まれた時から持ち合わせていないのだから。
「―――自伝小説の、ノートです………」
セオは言い切って、うつむいて、断罪の時を待った。
『………はぁっ?』
――だが、三人の反応は思っていたものとはまったく違っていた。
それぞれわけがわからない、という顔をしてこちらを見ている。セオの方こそわけがわからずおずおずと土下座ポーズから三人の顔を見上げた。
「おい待てよ、んだよそりゃ。それがなんであんな発作みてぇなの起こすことになんだよ?」
「え………だって………」
「というか君は自伝小説なんか書いていたのか? 呪文の詠唱が詩だという時にも思ったが、なかなか風雅な趣味だな」
「え、いえ、そんなことは」
「――君は、もしかして、あのノートを奪われると思ったから、怖くて発作を起こしたのか?」
セオは一瞬考えて、大筋では当たっていたのでうなずいた。
「そう、です………」
『……………………』
「だーっもー馬鹿馬鹿しい! なんで俺がこんな奴の阿呆な行動につきあわなきゃなんねぇんだ! 俺は寝るぞ眠いんだから!」
「ごっ、ごめんなさっ、俺今日徹夜してみなさんの代わりに見張りしますからっ」
「てめぇ俺たち馬鹿にしてんのかこのボケ野郎っ! 第一そんなんやったらてめぇが明日潰れんだろうが!」
「ご、ごめんなさい……気を遣わせてしまって……」
「阿呆かてめぇはっ! 筋違いなことで謝ってんじゃねぇっ!」
「す、すじちが……?」
「心配したんだよ、俺たちは」
ラグが苦笑しながら言う言葉に、セオは目を見開く。
「し………心配?」
「そう。仲間が突然発作起こしたみたいに暴れ出したら心配して当然だろう?」
「そ、そんなっ、俺、心配されるような、そんな価値のある人間じゃないしっ、どんなに苦しもうが死のうが当然の卑怯でずるくて最低の人間だしっ………!」
「セオ。それはちょっと俺たちを馬鹿にしすぎじゃないか?」
ラグに厳しい声で言われ、セオは固まった。
そんな声をラグに出されるのは、初めてだ。
「セオ、君と俺たちは仲間だろう? 仲間を心配して悪いのか? 心配っていうのは価値があるとかどうとかじゃなくて、その人が自分にとって大切だから、自然にしてしまうものだろう?」
「―――た………いせ、つ?」
セオはまた、今度は単純に驚きで硬直した体を動かして聞き返す。ラグは当然のようにうなずいた。
「まだ一ヶ月の仲間でしかないけどね――それでも俺たちは一ヶ月の仲間なりに、君のことが大切だよ」
「―――――」
セオは呆然と瞳を開いてラグを見つめた。大切? 本当に? そんなことが、ありえるの?
だって自分は、生まれてこの方、誰かにそんな、大切だなんて言われたこと、ないのに。
ぼうっと自分を見ているセオにラグは少し照れくさそうに笑って、ぽんぽんとセオの背中を叩いた。
「だからね、なんで君があんなに取り乱したのかは知らないけど、別に君のあのノートを取り上げたりはしないから。だから今日はそろそろ寝なさい、明日もたないよ」
「俺としてはセオがなぜあそこまで取り乱したのかぜひとも聞きたいところなんだがな」
「今日じゃなくてもいいだろう? セオも疲れてるんだ、休息が必要だよ。――いつかは聞かせてほしいけどな」
そんなことを言われてぼんやりしているうちに毛布にくるまされてぽんぽんと背中を叩かれた。セオは毛布の中でぼんやりとラグの言ったことを復唱する。
『心配したんだよ、俺たちは』
『一ヶ月の仲間なりに、君のことが大切だよ』
『君のあのノートを取り上げたりはしないから』
その言葉をひとつひとつ考える。
ラグたちは自分を心配すると言ってくれた。大切だから、心配するって。
まだ一ヶ月のつきあいしかないけれど、それでもそれはそれなりに、自分のことを大切に思ってるって。
だから―――あのノートを、取り上げたりは、しないって。
(―――うわ!)
セオは顔を真っ赤にした。体の奥底からわーっと、星が爆発するような力がどんどこどんと湧き出してきていた。
(うわ! うわ、うわ!)
顔が自然にめちゃくちゃになる。ぐちゃぐちゃのぐにゅぐにゅになる。心臓がたまらなく心地よく高鳴る。
(しんぱいなんだって! たいせつなんだって! 俺なんかのことが! ずっとウザいとか鬱陶しいとか邪魔とか死ね能なしとかしか言われてこなかった俺なんかのことが!)
ぶわ、と瞳から涙が溢れた。でもそれもなぜか心地よい。瞳を濡らす熱が、胸まで一緒に暖めてくれるようだ。
(ノート取り上げないんだって! いつか理由を聞かせてほしいんだって! 俺なんかのことに興味持つ人、今までいなかったのに!)
ふわーっと体中が熱くなって、暖かくなって、たまらなく気持ちよい熱で満たされて――
(う………うっれし―――っ!)
――ラグがその時のセオの顔を見たら、きっと喜んだことだろう。
その時のセオの顔は、物心ついてから初めて、嬉しくて嬉しくてたまらないというように満面の笑みを浮かべていたから。
二日後小さな祠を経由して誘いの洞窟にたどりつき、レーベの村からキメラの翼で飛んできた魔建築研究家たちの指導のもと(飛んでくるなら別に魔法の玉をこちらに渡さなくてもよかったんじゃないかな、とちらりと思った)魔法の玉で封印を解き。
誘いの洞窟に侵入して魔物の攻撃をかわして宝箱を(その中には魔地図という自動で現在地と行った場所がわかる魔化された地図もあった)開けつつ奥へと進み。
飾り床の中心でぐるんぐるんと周囲の空気も巻き込んで回転する泉――旅の扉を発見した時も、セオの上機嫌は続いていた。気づかれたら不快な思いをさせてしまうと隠していたので誰にも気づかれなかったが。
なので、ぶぅぅぅぅん……と鈍い音を立てながら蒼く回転する泉を遠巻きにする仲間たちに、「俺が先に行って確かめてきます!」と宣言して、これがアリアハン大陸との別れになるということなど微塵も意識せず、喜びいっぱいで旅の扉に飛び込んだのだった。
――上機嫌でなかったとしても、アリアハン大陸との別れを惜しむ気持ちは、決して強くはなりえなかったろうが。