ティアーズ・3
 滝川は帰途、無言だった。
 自分に話しかけようとした人間は何人もいた。中にはあからさまに怒鳴りつけようとした人間もいた。
 だが、なぜか速水が自分のそばにやってきて、話しかけようとするものを一睨みで追い返してくれた。
 何か話があるのかとも思ったが、速水は自分の方を向こうともせず、近寄るものを追い返すことに専念し、滝川がカーゴに乗り込むと無言のまま指揮車に向かう。
 よくわかんねえ奴だよな、と滝川は少しおかしくなった。自分をどうしたいのかさっぱりわからない。気遣っているのかなんなのか。
 誰とも口を聞かないまま学校について、カーゴを降り、ウォードレスを脱いだ。
 整備員たちの視線を浴びながらハンガーを出て、舞の姿を見つける。
 舞は仁王立ちになってじっとこっちを見ていた。滝川も、なんとも言えない気持ちになって舞を見返す。
 数十秒間見つめあって、ほぼ同時に目を逸らした。舞は自分の横を通り過ぎて道路に出る道へと進み、滝川も舞の横を通り抜けて校舎へと向かった。
 誰もいない夜の教室。教卓の陰に座り込む。
 そして、口に拳を突っ込んで、滝川は泣いた。
「う……うっく……うっ……ううっ……」
 泣く。目から零れ落ちる涙を拭きもせず、ひたすらにすすり泣く。口に突っ込んだ拳を何度も噛んだ。
 自分はあの時、舞が死ぬなんて嫌だ、と思った。だから、体を動かした。
 体が勝手に動いたのではなく、明確な意思を持って体を動かしたのだ。
 ―――舞が死なずにすむのなら、人を殺してもいい、とはっきり思って。
 そう思ったらあとは簡単だった。士翼号はずっと前から乗っていた機体のように自分の思う通りに動いてくれた。
 幻獣は、本気で殺そうと思ったらひどく殺しやすい奴らだった。どの幻獣の動きもスローモーションがかかっているようにしか見えず、吸い込まれるように刀を突き入れたら簡単に爆散した。
 自分は今日、明確な意思をもって幻獣を殺した。そして、何かを確かに失った。
 自分は違うものに生まれ変わったのだ。自分の意思で。
 人でないものに―――
 人殺しに。
 俺に泣く資格なんてないだろう、などと馬鹿にしたように思いながらも、みんなこんなこととっくのとうに乗り越えてるんだ恥ずかしくないのか、などと叱咤しながらも。
 自分がこの世で一番汚らわしくて、厭わしい存在に思えて、滝川はひたすら泣いた。

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