滝川はひどく緊張しながら教室へ向かっていた。 今日は、遅れるわけにはいかない。 今日、自分は舞とちゃんと話をする、と昨日速水と話して決めたのだから。 やっぱり拒絶されるかもしれない、無視されるかもしれない。 でも、自分がもうだめだ、と思うまで、何度でも話しかけてみよう。 自分は舞を失いたくないと思っているから――どんなに苦しくても、見苦しくても、自分が諦めるまでくらいついてみよう。 怖くて怖くてしょうがないけど――でもやれることは全部やっておきたい。 だから、頑張る。今まで訓練を頑張ってきたみたいに。 これは、自分の意思だ。 教室に入ると――わりとたくさん人がいたが、そいつらがほとんど全員さっと身構えた。みるみるうちに空気が緊張していくのがわかる。 自分のせいで。 それはやはり、胸のあたりにきゅっと絞まるような感覚を覚えさせることだったが、それでも、そんなことがあったとしても、今の自分にはやりたいことがある。 滝川は教室の中を見渡す。 ―――いた。 舞は自分の席に座っていた。椅子にまっすぐ腰掛けて、やはりまっすぐ前を向いている。 やっぱり芝村はいつも凛としている、と滝川は思った。背筋を伸ばしてしっかり前を見ている姿は、カッコよくて、綺麗で、わりと可愛い。 舞はまだこちらに気づいてはいない。すうはあすうはあと、何度か深呼吸して――一歩踏み出した。 「―――芝村」 舞は一瞬びくりと震えて、ゆっくりとこちらを向いた。その顔は見事なまでの無表情だ。 滝川はもう一度だけ息を吸い込んで、声を張り上げた。 「話が、あるんだ。―――大事な話だ」 舞の瞳が一瞬大きく揺れ――― 「―――許さないぞ」 割り込まれた。 これからって時に! と歯噛みする思いで声のした方を振り向く。 ――そこにいたのは狩谷だった。 「……なんだよ、狩谷」 「許さないぞ、絢爛舞踏」 滝川は背筋を一瞬ぞくりと震わせた。狩谷の目が、あまりに恨みがましく、呪詛と怨念に満ち、しかも明確な攻撃の意思をもってこちらを見ていたからだ。 「狩谷……?」 「僕の思いを踏みにじるなんて絶対に許さない。強ければなんでも許されるつもりか。お前達はみんな同じだ。僕をあわれみ、あわれみながら、僕から離れようとする」 そこまでのろのろと、噛み締めるように言ったかと思うと――次の瞬間爆発した。 「許さない! 僕は許さないぞ! 僕はどこにもいけないのに、なぜお前だけ救われるんだ! 僕を一人にしていくのか! 僕を置いていくのか! いかせない、いかせないぞ! 僕は一人なのに、お前だけ一人じゃなくなるなんて許さない!」 オ、オオオオオオオオ―――――― ――――狩谷が、変わり始めた。 「させるか! させるかぁ! あぶぶぶぶぶぶ! ころ、ころぶぅ!」 |