「よし、最後にもう一度調整しなおそう。私のパーソナルパターンとシンクロさせて――」 舞はそこまで言って言葉を切り、滝川を睨みつけた。 「何を見ている」 「へ?」 「私を勝手に見るなと言っただろう! 第一今はお前から仕事に誘ってきたのだぞ、よそ見をしている奴があるか!」 「あ、うん、ワリィ……」 ふん、と舞は顔を赤くしながら鼻を鳴らすと、コクピットに乗りこんだ。 滝川は士魂号の外で計器に目を向ける。だがなかなか集中はできなかった。集中しなきゃ、と思えば思うほど、別のことに頭がいってしまう。 主に、舞のこととかに。 なんだかなぁ。本当に、俺、芝村の彼氏ってやつなんだろうか。 なんだか自分でもまだ信じられない気がするのだ。本当に芝村と、自分は彼氏彼女の関係になってるんだろうか。なっちゃっていいんだろうか。こんなに簡単に。 不安のような、はっきりしないものをはっきりさせたい気持ちのような、よくわからない気持ちだ。できるかどうかもわからないことをいきなりやれ、と言われてすくむ時のような気持ちに、似ているかもしれない。 ただ、それでも舞が自分の彼女なんだ、という認識がわーっとやってくると、もうどうしようもないくらい嬉しくなって思わず顔がにやけてしまったりするのだけれど。 滝川はそんな自分が妙に恥ずかしくなって、一人顔を赤らめた。 「滝川、数値はどうなっている?」 「あっ、ああ!」 コクピット内から聞こえた舞の声に、慌てて計器を見なおす。 「えーと、レベル1オッケーレベル2オッケーレベル3オッケー…どのレベルもオールグリーン、問題なし。神経誘導値256、神経同調値317………総神経接続値1175。ベストな数字だと思うぜ」 「そうか」 舞はごそごそとコクピットの中から外に這い出てきた。髪をうるさげにかきあげて言う。 「とりあえず、いつでも出撃できる準備は整ったな」 「……え」 「もう前の出撃から三日目だ。いつ出撃がかかってもおかしくない」 「………」 滝川は自分の体温が下がる音を聞いたような気がした。 そうだ。自分たちは学兵だ。 戦場に行って戦うのが仕事。一歩間違えば死ぬ場所で、世界人類を守って戦うのが自分たちの役目。 いまさら思い出すことではない。なのになぜ、自分はこんなにショックを受けているんだろう。 今度からは、複座型で、恋人であるところの舞と一緒に戦うことになるというのに。 その認識に至ったとたん、体中に強烈なわけのわからない感覚が走った。 心臓と頭はひどく熱いのに、手足は凍えたように冷たい。嬉しいのとも違う、悲しいのとも違う、あえて言うなら暗く狭いところに閉じ込められた時の感覚に似ていて、けれどそれよりひどく激しいような―― ウォォォォォン…… 多目的結晶体から警報が鳴った。 『201v1、201v1、全兵員は直ちに作業を放棄……』 「噂をすれば、だな。行くぞ、滝川」 「……うん」 少なくとも、今は考えている場合じゃない。 小さく頭を振って、滝川は舞の後について駆け出した。 |