「それでは指揮権限により、滝川戦士の二番機パイロットへの配置変えを行います」 善行司令は落ちついた声でそう告げ、全員の顔を軽く見回してから続けた。 「本日のミーティングを終了する。解散!」 「よっしゃあーっ! これで間違いなくパイロットだぜーっ!」 会議室から外に出るやいなや、滝川がガッツポーズで快哉を叫んだ。 速水はそんなに大声で叫んだら、ミーティングに出たメンバーだけじゃなく女子校の人にまで聞こえちゃうなぁと思いながらもにっこり微笑んで言った。 「よかったね、滝川」 「おう!」 あーマジでパイロットなんだよな夢じゃねえよななどと嬉しげに言う滝川に、速水は微笑みながら続ける。 「まだ誰もニ番機パイロットに立候補してなくてよかったね、そうしたら負けてたかもしれないし」 「そうだな! ……って、あれ?」 滝川は首を傾げたが、速水は気にした風も見せない。 「これでようやく無職脱出だね、おめでとう。心配してたんだよ、いつまでたっても戦車技能取らないからこのままずーっと無職なんじゃないかって」 「……あのさ、速水。お前、もしかして……俺のこと、キライ?」 「なんで?」 おずおずと上目使いで言う滝川に速水は微笑む。表情からはまったく他意は読み取れない。 ならいいけど、と言って滝川は頭をかく。 そこに速水が微笑みながら首を傾げてたずねた。 「ねえ、滝川。滝川はなんでパイロットになりたいの?」 「へ?」 滝川は虚を突かれたという顔になった。 「なんだよ、やぶからぼうに。前にも話しただろ?」 「ううん、聞いてないよ僕は。滝川の夢がエースパイロットで勲章が欲しいとかアニメ化されるかもとかいう話は聞いたけどね」 えーそうだっけ、と滝川は首を傾げる。 「言いたくないなら、別にいいけど?」 「んあ? 別にンなこたねーよ」 滝川はニッと口を笑ませ、嬉しげに言った。 「俺ちっちぇ頃からずーっと憧れてたんだよなー、パイロットに。だってやっぱカッコイイじゃん。みんなのヒーローだぜ? かっけーロボットに乗ってバンバン敵をおとしてくなんてさ、考えただけで燃えてくんじゃん!」 「ふうん」 速水はまたちょっと微笑んだ。 「滝川ってそういう理由で頑張って訓練して死ぬかもしれないパイロットに志願できるんだ。正直ちょっと尊敬しちゃうな」 「なんだよ、それ……変な奴」 そう言って滝川もちょっと笑った。 いつ頃から俺はパイロットになりたいって考えてたんだろう? 覚えてない。ずっとずっと前、物心ついたときにはもう思ってた気がする――パイロットになりたいって。 小さい頃からロボットアニメが好きで好きで。毎週三十分前から正座して見てた。 一個だけ買ってもらったロボットのおもちゃで何千回遊んだっけ。 だってすごくかっこよかったから。 たった一機で何十倍もの敵と互角に渡り合う。どんな敵にも負けない無敵のヒーロー。みんなに慕われて尊敬される、世界を救う人間。 憧れて、自分もそんな奴になりたくて。 でも現実は思うようにいかなくて。 だから人型戦車の事を聞いたときにはすごく嬉しかった。絶対それに乗るんだって思った。 訓練するのはすごく嫌だったけど。もしかしたら死ぬかもしれなくても。 ……死ぬ? そうか、死ぬかもしれないんだ、俺。戦場に出るんだから、当たり前だよな。 他のみんなと同じように、俺だっていつ死ぬかわからなくなるんだ。何でそんな事に気づかなかったんだろう。 なんで……。 「滝川!」 速水の声に滝川ははっと我に返った。尚絅高校の廊下に、坂上先生の声が響き渡っている。 「201v1、201v1、全兵員は現時点で作業を放棄、可能な限り速やかに教室に集合して下さい。繰り返します201v1、201v1……」 「出撃だ。行くよ、滝川」 「……お、おう」 「どうしたの、顔が青いよ?」 心配そうな顔になってたずねる速水。 「……いや、なんでもねえよ」 自分の顔は心配されるほど青いのか。滝川はこっそり拳を握りしめた。 「じゃあ、早く行こう。早くしないと本田先生に怒鳴られるよ」 「…ああ」 それを最後に、滝川と速水は、教室に向け走り出した。 |