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「で? 速水くんと滝川くんはほんっとーに仲直りしたの? どうなの?」
 原に箸をつきつけられ、加藤はちょっと困ったような顔になった。
 昼休み、食道兼調理場。そこは二組女子全員と加藤で占められていた。
 原が加藤を食事に誘ってきたのは、どうやら一組にいる自分から速水と滝川の様子を聞くためだったらしい。
 昨日の戦場で、急に滝川にアドバイスを始めた速水。これまでほとんど滝川を攻撃するような言動しかしてこなかったのに、なぜ突然そんな事をしたのか、噂好きの女子ならずとも気になるところではある。
 まー話せることなら話すけど、ウチかてそんなに詳しいこと知ってるわけちゃうねんけどな。わざわざ二組女子全員呼ばんでも。
 そう思いながら、困惑げに口を開く。
「はあ……まあ、仲直りっちゅーか……」
「気もたせないでよまつりん。あの腹黒司令が、ゴーグルバカにまたインネンつけてたかどうかってだけの話なんだから。現場見てなくても、わかるでしょ雰囲気でなんとなく」
「ゆ、勇美ちゃん、落ちついて……」
「いや、インネンつけてたって様子はなかったけども……」
「元通りに仲良くなったデスか? よかったデス」
「いや、それもちょっと違うような……」
「あーもーうざってぇな。要するにあの二人はどうなったんだよ」
「いや、その……」
 普段は噂話に興味を示す事などなさそうなヨーコや田代までここにいるとは、この話題はよほど注目されてたんだな、などと思いながら加藤は言った。
「……なんちゅーか、一方的な冷戦状態っつーか」
「冷戦状態ぃ?」
「なんですかそれは」
「あんな。滝川くん、いつもみたく一、ニ時限目サボって芝村さんと一緒に三時限前の休み時間に教室に入ってきよったんよ。そんで元気にみんなに挨拶してってな。最後に速水くんのとこ近づいてってな、妙に明るく『よ……よー!』って言いよったんよ。むっちゃぎこちない顔で」
「それで?」
「そしたらな。速水くん、ちらっと滝川くん見て、いきなり立って教室出ていってしまいよったん。あからさまやろ?」
「うわ、なにそれ。ムカつくー」
「そのあと、滝川くんかなり落ち込んだ顔しとったんやけど。それでも昼休みになったらさっさと飯食うて芝村さんとどっか行ってしまいよったで」
「うーん……芝村さんの心は相変わらず滝川くんにあるようね」
「腹黒司令はバカゴーグルのこと変わらずに嫌ってるみたいだし」
「じゃああの戦闘中のアドバイスはなんだったんでしょうか?」
 女子連はうーんと考え込んだ。
「滝川くんが来るまでの速水くんの様子はどうだったの?」
「なんかいじょーに無表情でしたで」
「昨日のことはそれなりに思うところがあったってことですよね」
「なにか、きっかけがあったんじゃないでしょうか?」
「きっかけって何のきっかけよ、マッキー」
「えーと……自分の行動を省みるところがあったとか……」
「やっぱり速水クン、滝川クンと仲直りしようとしてるデス。間違いないデス」
「それはないよヨーコさん。あの腹黒司令がそう簡単にそんな殊勝なこと考えるわけないじゃん」
「……あのな。言っとくけど、速水はそんな悪い奴じゃねーぞ」
「かおりんは速水びいきだもんねー」
「なっ……なんだと、コラァ!」
 みんなでぎゃいぎゃいとかしましく騒いでいると、ふいに声がした。
「噂話が好きなのは女性の性だが、あんまりやりすぎると男に嫌われるぜ。ま、俺は女性のそういうところも可愛いと思うけど」
「瀬戸口くん!」
 女子連に注目されながら食堂兼調理場に入ってくる瀬戸口。
「何しに来たの?」
「ここは食堂だぜ? 飯食いに来たに決まってるだろ。おれの可愛いお姫さまとね」
 その言葉と同時に瀬戸口の後ろからひょこんとののみが現れた。
「えへへ、こんにちはなのよー、みんな」
「……お姫さまって、ののちゃん?」
「ロリコン」
 にっこり微笑んでの原の一言を、瀬戸口はやはり笑顔でかわした。
「幅の広い愛の持ち主、と呼んでほしいですね副司令」
 そう言いながらののみと奥のテーブルにつこうとする瀬戸口の腕を、原が微笑みながらがっしと掴んだ。
「……あの、副司令?」
「ちょーっと話を聞かせてもらえる? 瀬戸口くん」
 他の女子連もにこにこ笑いながら視線を瀬戸口に集中させる。
 まずいところに来ちまったな、と瀬戸口は内心舌打ちしたが、ののみがにこにこしながらついてきたのでやむなく抵抗するのをやめた。
「みんなでごはんだね。うれしいね、たかちゃん」
「そうだね」
 そう答えつつ席につくやいなやたちまち質問が飛んできた。
「で? 速水くんと滝川くんの仲って、どうなってるわけ?」
「……先輩、それなんだか違う意味に聞こえます」
「んなことはいーの! グッチ、バカゴーグルと腹黒司令の間になにがあったか知らない?」
「なんで俺に聞くわけ? 本人に聞けば? 第一俺が知ってるわけないじゃないか」
「聞けるもんならとっくに聞いてんだよ! 聞けねえからお前に聞いてんだろ?」
「それに。大介から、昨日の前の戦闘のあと速水くんをどこかに連れていったのはあなただって聞いてますけど?」
 わちゃ、と瀬戸口は内心思った。茜の奴、余計なこと喋りやがって。
 仕方なく、口を開く。
「……俺も、あの二人の間に何があったのかは知らないよ。二人が今お互いをどう思ってるかもな。……ただ……」
「ただ?」
「速水の奴も、滝川にあんなことを言ったんだ。あいつなりに、少しは吹っ切れたんじゃないか?」
「吹っ切れたって、何がよ」
「いろいろ……芝村の姫さんのこととか、滝川自身とのわだかまりとかね」
「あっちゃんとよーちゃんのはなし?」
 ののみがくりくりした瞳をしばたたきながら話に入ってきた。
「そうだよ、ののみ」
「あっちゃんとよーちゃんはね、なかよしなのよ」
 周囲の女子の間から失笑が漏れた。
「ののちゃーん、そりゃないよー」
「あのな、ののちゃん。司令は滝川くんにいろいろ意地悪してるんやで? そりゃもうものごっつーえげつないこと」
「それは、ふたりがいろいろちがうからなのよ」
「え?」
 よくわからないことを言われてきょとんとする女子連に、ののみは言い聞かせるように言った。
「あっちゃんとよーちゃんは、いろいろちがうの。だからいろいろむずかしいの。ふくざつなのよ。でも、おなじほうをむこうとしているの」
 そう言うと、にっこりとそれこそ天使のような微笑みを浮かべる。
「だから、いろいろむずかしいけどなかよしなのよ」
 瀬戸口は苦笑し、女子連は毒気を抜かれて互いの顔を見合わせた。

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