ポットに注いで
 翌朝。
「圭吾さまが、出てこない?」
「朝食の時間になってもお部屋からお出にならないんです! お呼びしてもご返事がなくて……! 扉には中から鍵がかかってるし……!」
 泣きそうな顔で田辺に報告され、岩田はしばし真剣な顔で考えた。
 そしていきなり猛烈な勢いで腰を回し始めた。
「フフフフフハハハハハ、ハーッハハハハ。変態ですねェェ!? タイガー、あなたは一人部屋の中で人知れず変態行為に励んでいるのですねェェ!?」
「は……? あの、もしもし、岩田さ……」
「というわけでのぞきにいきましょう。田辺、田代はどこにいますか? 扉を壊します!」
「は、はいっ」
 慌てて走り出す田辺を尻目に、岩田は遠坂の部屋へと向かった。
 扉の前にはすでに壬生屋、ヨーコ、茜、石津、加藤といった客たち、それにメイドの新井木と遠坂の護衛である田代――そして端っこのほうに車椅子の狩谷とこの屋敷にいる者が全員揃っている。
 岩田が部屋の前に着いたのとほぼ同時に、田辺が走りこんできた。
「ご、ごめんなさい岩田さん! 田代さんどこを捜しても見つからなくて……え? 田代さん?」
「気づいてなかったのかよオメー。……どうすんだよ、岩田さん? 中で倒れでもしてたらことだぜ。坊ちゃまの部屋は外から中はのぞけないようになってるしよ……」
「ふふふ、のぞきそれは甘美なる誘惑。変態行為はデッドオアアライブ。というわけでやっちゃってください」
「おっしゃ!」
 言うや田代は扉に体当たりを始める。遠坂家御曹子の部屋なのだからそう簡単に壊れるような扉を使ってはいないが、田代も伊達や酔狂で遠坂の護衛を任されているわけではない。
 十数回の体当たりの末、鍵が壊れ扉が開いた。
 中はカーテンが締め切られて真っ暗だった。おまけに遠坂の部屋の窓ガラスは色がついているのでよけいに暗い。
「明かり、明かり……」
 田代は壁のスイッチをひねってガス灯をつけた。部屋の中がこうこうと照らされ、その場にいた全員が部屋の中をのぞきこむ。
「………! い、いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」
 田辺が絶叫した。
 部屋の中には、シャンデリアからぴんと伸びたロープに吊るされた、遠坂の死体が揺られていたのだ。

「……その後岩田執事はすぐ警察に連絡、俺達がやってきた。それまで部屋の中には誰も入っていないそうだ。岩田執事が瞳孔反応と脈と呼吸の確認をしに一度だけ入ったのを除けばな」
「ふうん……いろいろ聞きたいことはあるけど、ま、それは若宮さんの話が全部終わってからにしようか」
「痛いーっ! 速水痛えよーっ! 腕っ! 腕放してーっ!」
「ダメ。これは話の途中に音をたててものを食べた君へのおしおきなんだから。心配しなくても関節外したら後でちゃんとはめといてあげるから不都合はないよ、はめる時死ぬほど痛いけど」
「やだやだやだやだやだよぉっ! 助けてーっ、来須センパーイっ!」
 懇願された来須は、無表情のまま帽子を目深に被って視線をそらした。


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