バレンタイン
「……十六、十七、十八。十八個! どうだ、リョーマ!」
 気合をこめて数え終え、リョーマを睨む隼人にリョーマはあっさりと、普段通りのどうでもよさげな無愛想面で答えた。
「俺二十七個」
「………っ! 負けたぁーっ!」
 心底悔しげにどんっ、と机を叩く隼人に、天野は苦笑する。
「隼人くん、なにもこんなことで勝負挑まなくても……」
「っせーなっ、騎一は黙ってろ! これは俺とこいつの問題だっ!」
「ったくバッカじゃないの、はやぽんなんかがリョーマ様に勝てるわけないじゃない! リョーマ様ファンクラブ会長の私が断言してあげるわよ!」
「うっせ、会員お前しかいねぇくせにっ!」
「あーらなに言ってるのかしら? リョーマ様ファンクラブはね、順調に会員を増やしていまや会員二十人を突破してるのよ?」
「へ……じゃ、まさかこのチョコ……」
「とーぜん、ファンクラブ会員のも入ってるわよ。普段はもちろん抜け駆けは厳禁だけど、バレンタインにはそれぞれの方法でチョコ渡してもいいってことになってるしね」
「んだとっ!? ずりぃぞリョーマ、組織票じゃねーかっ!」
「そんなことでいちゃもんつけられても困るんだけど?」

 二月十四日、全国的にバレンタイン・デイ。
 ことの発端は数日前、巴が大量に製菓用チョコレートを買ってきたことから始まった。
「お、今年もチョコ手作りすんのか?」
「うん! 今年はトリュフチョコに挑戦してみようと思うんだ!」
「……チョコ?」
 怪訝そうな顔をするリョーマに、巴がぽん、と手を叩く。
「あ、リョーマくんはアメリカ育ちだから知らないんだね。日本ではバレンタインって――」
「女から男にチョコを渡す日なんだろ? 知ってるよそれくらい、親父から聞いたし。そうじゃなくてさ……お前、誰かにあげるの?」
 リョーマのぶっきらぼうな、けれどどこか切迫した響きの声に、巴はあっさりうなずいた。
「うん!」
「誰に」
「お父さんに送ってあげるのとー、はやくんにとー。テニス部の先輩たちとー。おじさんにもあげなくちゃね。騎一くんとはチョコ交換する約束してるし。あ、もちろんリョーマくんにもあげるよ?」
「……は?」
 唖然とした表情になるリョーマに、隼人はふと気づいて言った。
「リョーマ、お前日本のバレンタイン、女が好きな男にチョコあげるもんだって思ってるだろ?」
「……違うの?」
「違うよー。そりゃもちろんそういうのもあるけど、そういうのは本命チョコっていって別口なの。お世話になってる人に配る義理チョコとか、女の子同士で仲いい子にあげる友チョコとかだってあるんだよ。むしろそっちの方が多いんじゃない?」
「…………クソ親父………!」
 リョーマは吐き捨てて南次郎のいるであろう鐘突き場の方を睨んだ。隼人はぷぷっと笑いながらリョーマをからかう。
「なんだよーリョーマ。お前なに? 巴から本命チョコもらえるとか思ってたわけ? ばっかでぇ」
 そう言うと凄まじい目で睨まれた。
「別に」
「嘘つけよ、このジイシキカジョー男ー。巴に意識されてるっていい気になってたんだろ?」
「えぇっ!? リョーマくんって私のこと好きだったの!?」
 巴に大きな声で叫ばれ、隼人は慌てた。
「そーじゃねぇって! こいつが単にジイシキカジョーなだけだって!」
「……あーなんだ、そうだよねー。リョーマくんが私のこと好きなわけないよねー。あーびっくりしたー……」
「…………」
 ぎぬり、とリョーマに凄まじい殺気をこめて睨まれ、隼人はわずかに身を引いた。なに怒ってんだ、こいつ?
「……自意識過剰とかなんとか、チョコの当てが赤月しかない奴に言われたくないんだけど?」
「なっ……んだとぉ!? 言っとくけどな、俺は小学校の頃からクラスメイトとかからけっこうもらってたんだからなっ!」
「へぇ。物好きもいたもんだね」
「ぁんだと、コラ!?」
「あーそういえばはやくんってけっこう一部の女の子にはモテてたよねー。運動神経いいし体育の時間とかだと目立つから」
「ほーれみろっ!」
「でも一部の女子からは嫌われてたよねー。デリカシーがない、って」
「なっ……」
「……ふぅん」
 馬鹿にするように笑われて、隼人は思わず頭に血が上った。
「んっだよリョーマっ! つかな、そもそも俺だってお前みてぇな奴にチョコがどーとか言われたくねーっつの! てめぇみてーな冷血ゴーマン野郎にチョコあげるよーな女の子、どこ探してもいねーよー」
「いやー少なくとも朋ちゃんと桜乃ちゃんはあげるんじゃない? 私もあげるしさ」
「巴は黙ってろ!」
 確かにその通りだが、それを認めてしまったら負ける気がする。
「少なくともお前には負けないんじゃないかと思うけど?」
「ぁんだと、コラ!? 上等だ、どっちがチョコ多くもらえるか勝負すっか!?」
「いいよ、別に」
「二人ともなにもそんなにムキにならなくっても……」
『巴は(赤月は)黙ってろ(て)!』

 そうしてバレンタイン当日、いざ勝負、となったのだが。
「なんっで下駄箱にチョコが四個も詰め込まれてんだよ! 机の中にも入ってるし上にも置かれてるし! おまけに休み時間ごとに呼び出しでチョコもらってるだぁ!? なんだよその猛攻勢っぷり!」
「別に、俺が頼んでしてもらったわけじゃないんだけど?」
「わーってるよんなことっ!」
 あーくそムカつくっ、と隼人は放課後の教室でどんっと椅子に腰を下ろす。今日は部活の開始時間が少し遅いため、掃除の終わった教室でこうやっていつものメンバーでだべっているのだ。
「だっからはやぽん風情がリョーマ様とチョコの数で競おうってこと自体が間違ってるのよ。……ていうかはやぽんが十八個ももらえるとは思わなかったわ……なんて世の中には目の悪い女の子が多いのかしらっ!」
「んっだと小坂田っ!」
「でも、小学校のころと比べても確かに多いよねー。やっぱり一年でテニス部レギュラーっていうのが大きいのかな? 全国優勝にも貢献したしね」
「あ、そ、そうか?」
 隼人は少し照れた。そう巴に言われると、自分ってけっこうすごいのかも、と思えてきてしまう。
「なに言ってんのよ巴、他のテニス部レギュラーとははっきり言ってカッコよさが違いすぎるでしょー! こんなにもらえたのはきっとあんたのあまりのサルっぷりに誰もあげないんじゃないかと同情したせいね!」
「んだとてめっ……!」
「そうじゃないよ」
 天野が苦笑しながら言った。
「隼人くんって女子の間ではけっこう人気高いんだよ。背高いし、顔もカッコいいし、なんといっても運動神経が抜群だし。話しても気軽に答えてくれるし気軽に優しくしてくれるし。もちろん全国大会で優勝したテニス部レギュラーってせいもあると思うけど」
「え、そ、そうなのか?」
「でも子供っぽいっていうか、ノリが小学生だって嫌ってる女の子も多いけどね。だから隼人くんのこと好きな子ってこっそり心の中だけで思ってるみたい」
「うぐ……」
「おほほー、しょせんあんたははやぽんってことよ! ノリが小学生ですって、小学生」
「うるせぇっ!」
「対してリョーマくんは顔貌がきれいだから、少し遠巻きにして憧れられてる感じかな。ファンクラブに入ってる子が大半だし。リョーマくんって実際に話すと当たりがきついから、どっちかっていうとミーハーにアイドルっぽく好かれてるかな」
「そうよリョーマ様は私たちのアイドルなのよっ!」
「ミーハーに好かれてるだけだろー? そんなもんはモテてるとは言わねぇっ!」
「……別に、どうでもいいけど」
「でも、二人ともちゃんと人気があるのは確かだよ」
 ふいに真剣な顔になって言う天野に、隼人はわずかに気圧された。
「え……」
「二人はバレンタインのチョコなんてただのお遊びだと思ってるかもしれないけど。その中には本当に二人を思ってくれてる子からのもちゃんとあるはずだよ。そういう真剣な思いを茶化したり、ただの人気のバロメーターとしか見ないというのはよくないと思う」
『…………』
「だから、こういう風に勝負とかいうのはどうかと思うよ。真剣な思いには真剣に応えなくちゃ。たとえ義理でも、それなりの気持ちをこめて渡したチョコを、そういう勝負に使われてるって知ったら嬉しく思わない子はいっぱいいると思う」
「う……わかった、悪かったよ……」
「…………」
 隼人は思わずしゅんとした。まったくもってその通りの正論で、反論のしようがない。リョーマも仏頂面はしていたものの、少し拗ねたようにそっぽを向いているから悪かったとは思っているのだろう。
「ちょっとっ、きーくんリョーマ様に対して生意気よっ! そもそもきーくんは何個もらったのよ。はやぽんより少なかったりしたら笑ってやるから!」
「え……」
 少し戸惑ったような顔になる天野に、隼人は注目の視線を向けた。リョーマとの勝負は別にしても、他の奴らが何個もらってるかというのはやっぱり気になる。
 天野はおずおずと、少し恥ずかしそうに言った。
「さ……三十九個、だけど……」
『…………』
『え―――っ!』
 隼人と小坂田は思わず声を揃えた。三十九個。自分の倍以上ではないか。天野はそんなに女子に人気があったのか?
「い、いや言っとくけど、これみんな義理チョコ……っていうか交換チョコだよ?」
「……は? なんだよ交換チョコって」
「いやだからさ、俺が朋ちゃんたちとチョコレート交換する話してたらさ。その話聞きつけた女の子が『私も天野くんとチョコ交換していい?』って……」
「……なんでそーなるんだ?」
「たぶん俺が料理に自信があること、どこかで聞きつけたんじゃないかなぁ。それでどんどん話が広まってって、別のクラスとか先輩までそれに加わってさ。最終的にはもう四十人近くになっちゃって……」
「はぁ……」
 そういえば確かに、天野は昼休み女子たちに囲まれていた。あれがチョコ交換会だったんだろうか?
 巴から天野とチョコの交換会をする、と聞いた時には驚いたが、それならまぁ納得できなくも……と思いつつも、やっぱりなんだか、ちょっと面白くない。隼人はちょっとぶすっとして椅子を揺らした。
「? どうしたの、隼人くん」
「別にー」
「……まぁ、きーくんだったらしょせんはそんなところよね。そんなにたくさんの女子と交換してたんだ。ふーん」
「朋ちゃん……どうしたの、なんか怒ってない?」
「怒ってないわよ!」
「? ……あ、そうだ。まだ二人には渡してなかったよね」
 言って天野は今朝から持ち込んでいたクーラーボックスを開き、中からなにやらお菓子を取り出した。そしてすっと隼人とリョーマの前に差し出す。
「はい、チョコレート。いつもお世話になってるお礼」
「へ?」
 隼人はあんぐりと口を開けた。なぜ天野が、チョコを自分たちに渡すのだ?
 小坂田がはーっ、とため息をつく。
「きーくんあんた、まだそれやってたわけ? やめなさいって言ったじゃないのよ」
「いいじゃない、みんな喜んでくれるし。嫌だって言われたことまだ一回もないよ」
「えと……どーいうことだよ?」
 小坂田がため息をつきつつ説明する。
「こいつはね、料理が得意だからって、バレンタインには仲いい男子とかにチョコあげるのよ。で、仲いい女子とは交換会するわけ。小学校の時からそーなのよ。普通男子が男子からもらったって引くだけだっつってんのに」
「いいじゃない、せっかくの機会なんだもん。義理チョコがあるのに女の子だけっていうのはずるいよ」
「そーいう問題じゃないでしょーっ!」
「………はぁ、まぁ。その、ありがとな……」
「……どーも」
 隼人とリョーマはもそもそと礼を言って、出された菓子にかぶりついた。隼人のはエクレア、リョーマのはチョコ風味のシュークリームだった。大きく口を開けてあんぐりと食うと、香ばしい皮の香りがぷんとして、さくっと心地いい感触が歯に伝わり、中から皮とぴったりマッチしたとろけるように甘いクリームが広がる――
 つまりは、とてもおいしい。
「んぐあぐっ、ん。うめっ! 騎一、すっげーうめーよ! やっぱ騎一の作る料理はサイコーだなっ!」
「そう? よかったー、ありがとう。リョーマくんはどう?」
「……うまいよ」
 男子からバレンタインにチョコレートをもらうというのは隼人としてはもんにゃりした気分だったのだが、食ったらそんな気持ちはあっさり忘れてしまった。こんなうまい菓子食えてラッキーだぜ、と一人ほくそ笑む。
「……はー……まったくはやぽんはお子様なんだから。女の子からもらえるチョコより男からもらえるチョコを喜ぶなんてねー」
「っせーなっ、少なくともてめぇがくれたもろ義理のチロルチョコよりゃ千倍いいんだよっ!」
「ふんっ、別にあんたに喜んでもらおうとは思ってないわよーだ。リョーマ様は私のチョコの方が嬉しいって思ってくださいますよね〜?」
「……別に」
「二人とも、私のと比べてどっちがおいしい? 食べ比べてみてよ!」
「いや、巴のは家に帰ってからゆっくり食うから……」
「えー、朋ちゃんとか那美ちゃんとか桜乃ちゃんのはすぐ食べたのになんでー!?」
「だってお前は同じ家に帰るんだからすぐ感想言えるじゃん」
「………あの」
 ふいに、静かな声がした。
 全員思わずそちらの方を振り向くと、そこには見覚えのない女子が立っている。顔を赤くして、もじもじしながらこちらを見るその姿に、まず小坂田が噛みついた。
「なによあんた」
「あの、私……」
「言っとくけどリョーマ様への告白だったらまずリョーマ様ファンクラブの会長の私を通してよね! バレンタインだから抜け駆けって言う気はないけど、それでも統制は守らなきゃ――」
「そっ、そうじゃなくて! 越前くんじゃなくて、あの、私――」
 小さく唾を飲み込んで、真剣な顔できっとこちらを見て女子は言う。
「赤月くんに、ちょっと、お話があって」
「………俺ェ!?」
 隼人は思わず愕然とした。そりゃ確かに今までも、今日だってチョコをもらったりはしたが。それはみんな教室の中で「はい、あげるー」「お、サンキュー」みたいな感じで。お呼び出し≠ネんていうのははっきり言って初めてだ。
「隼人くん、モテるじゃなーい」
「あんたなんかにお呼び出しなんて目の悪い子だとは思うけど、ちゃんと答えてあげんのよっ」
「う、うるせぇっ! 黙ってろ!」
 ひゅーひゅーと歓声を飛ばす小鷹や小坂田、苦笑する天野、恥ずかしそうな桜乃。巴は興味深そうに自分とその女子を等分に見つめ、リョーマは思いきり仏頂面でこちらを睨んでいる。
 ひどくいたたまれなくて、隼人は急いで立ち上がり歩き出した。女子もそのあとからついてくる。
「……話っつったけど、どこでする?」
「……四階の、踊り場で……」

 四階の踊り場は授業が終わってしまえばめったに人の来ないスポットだ。2m×4mのごく狭い空間の中で、隼人とその少女は対峙する。
 心臓がドキドキと鳴っているのがわかった。体が熱い。むやみに何度も、バレないように小さく唾を飲み込んで、女子が話し始めるのを待つ。
 女子は顔を赤くしながらしばらくもじもじしていたが、やがて口を開いた。
「赤月くん……私、赤月くんのこと、好きです。付き合ってください」
「………………」
 隼人はしばし黙ってその言葉を反芻した。好きです。付き合ってください。そんなことを言われたのは初めてだった。
 気持ちいいな、とこっそり思う。誰かに好意を持たれるというのは、嬉しいことなのだというのがわかった。照れくさく、恥ずかしく、むず痒いけれど、胸は高鳴るしその高鳴りは気持ちいい。
 だけど。
「……ごめん。俺、今はテニスだけに集中したいから」
 そう言うと、その女子は顔を赤くしたまま小さくうなずいて、だっと走り去ってしまった。
 姿が見えなくなるまで同じ姿勢で耐えて、それからはぁ、と小さく息を吐き出す。あの子、知らない子だったけど、俺のどこを好きになってくれたんだろう。
 恋愛とかそういうの、はっきり言ってよくわからない。普通の好きじゃない好き、なんてどこから降ってくるんだろう。俺のどこがあの子を惹きつけたんだろう。さっぱりわからない。
 だけど――今は女の子とかそういうのより、テニスに集中したいというのは間違いのない事実だ。テニスが好きで、大好きで、それが生活の大部分を占めていて、それ以外の部分には友達や、テニス部の仲間や、共に暮らす家族や(京四郎は一緒に暮らしてはいないが)――そういうものが詰まっていて、もうこれ以上入る余裕がないのだ。
 隼人はふ、と息を吐き出して階段を下りかかる――途中で階段の下の廊下に続く道から、影が伸びているのに気がついた。
「…………のやろ」
 小さく舌打ちして、一気に走り出す。階段を一番上から下まで一気に飛び降りて、影の伸びる元へと駆ける――
 そこにいたのは、予想通り小坂田をはじめとするいつものメンバーだった。
「……お前らな……」
「なっ、なによっ、私はただはやぽんがとち狂ってあの子を襲ったりしないかって心配だったから」
「いやーだって乙女としてはやっぱ、ねぇ? 気になるじゃない?」
「ごめん、隼人くん……暴走する朋ちゃんたち止められなくて、俺もついどんな返事するのかとか気になっちゃって……」
「ちょっと」
 後ろにいたリョーマがずいっと前に出てきた。
「んっだよリョーマ」
「そろそろ部活の始まる時間だと思うんだけど?」
「ん? ……げ、やべぇ! 急ごうぜ、リョーマ、騎一、巴、小鷹、竜崎さん!」
「うわっ、ヤバい遅れたらまたグラウンド走らされるよー!」
「そうだね、急ごう! じゃあね、朋ちゃん!」
 言って小坂田をのぞく全員で走り出す。位置の関係上最後尾になった隼人に、リョーマがすっと近づいてくる。
「ねぇ」
「ん、っだよっ」
 走りながらでも会話はできる。伊達に毎日何kmも走りこんでいるわけではないのだ。
「お前、断ったんだね」
「……ああ」
 リョーマにしては珍しい無駄口に、隼人は戸惑いながらも答えた。
「俺、やっぱ、今はテニスに、集中してぇしさ」
「ふぅん」
 走りながらリョーマは、突然にっ、と余裕たっぷりに、皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「まぁ、お前じゃ、テニスと同時に、女の子と付き合うなんて、無理そうだからね。不器用そうだし」
「んっだとっ、のヤロ」
「いいんじゃない? Jr選抜も、近いっていうのに、今より弱くなられちゃ困るし」
「ぁんだと、コラ!?」
「Jr選抜でも、楽しませてくれるんでしょ?」
 珍しく、ひどく楽しげにそう言われ隼人は一瞬言葉を失った。
 そうか、こいつ、俺に期待してるんだ。
 今まで何度もこいつと繋がった≠ニ、他の誰とやるよりすごいテニスができていると感じたあの高ぶりは、やっぱりこいつも感じてたことだったんだ。
 それをちゃんと知って、隼人はにっと笑みを返してやった。
「たりめーだろっ! お前の方こそ、期待外れな試合すんなよなっ」
「するわけないじゃん。お前じゃ、あるまいし」
「ぁんだと、コラ!?」
 お互い怒鳴りながら、騒ぎながら、喧嘩しながら。隼人とリョーマは、全速力でテニスコートへと向かっていった。
 ――さぁ、これからが一日の本番。部活の始まりだ!

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