「へっへっへっ……お嬢ちゃん、そんなに怖がるこたぁねぇんだぜぇ」
「そうそ、俺らはこれでも紳士だからよぉ。ぎゃっはっははは!」
じわじわと縮まってくる周囲の包囲網に、リクトはぎゅっと唇を噛み締めた。
包囲網を形成しているのは、ロマリア各地を荒らしまわった大盗賊カンダタの一味。背後には主悪たるカンダタが、逞しい体を揺らしながら、にやにやと下衆な笑みを浮かべている。
ここはカンダタ一味の本拠地、シャンパーニの塔。不意を討つべくこっそりと侵入した自分たちは、塔に生息していた魔物たちに行く手を阻まれ、戦っているうちに盗賊団に場所をつかまれてしまったらしく、罠を仕掛けられて分散させられた。そして、自分は今、カンダタ盗賊団の連中に囲まれている、というわけだ。
正直仲間たちと離れてしまったのは痛いし、大きな戦力減なのは確かだ。だが、今自分は盗賊団の首魁、カンダタを目の前にしている。ここでうまく戦ってカンダタを討ち取ればロマリア王から受けた依頼は一発で片付く、ロマリアの女の子からも(今のところ出会った女の子たちは店のウェイトレスさんまですごく嫌そうな顔をして自分を見るばかりだったが……周りの男どもが女の子無視して自分の方口説こうとかしやがるから!)モッテモテに違いない! とむしろ気合を入れたのだが……
周囲の連中はそんなことちーとも考えていないようだった。勇者であるリクトを前にして、どいつもこいつも鼻の下が伸びきっている。リクトは愛剣バスタードソードをいつでも振り下ろせるよう構えているというのに、周囲の連中の反応ときたら「お嬢ちゃーん、そんな物騒なもん持ってたら怪我するぜぇ?」「そうそう、ないないしとかねぇとなぁ、ぎゃっはっははは!」ときている。これはなんとしても、この剣でこいつらの性根を叩き直してやらねば、とリクトは現在機をうかがっているところなのだ。
と、ずいっ、と背後から巨漢、と言うにふさわしい男が進み出てきた。リクトははっと剣の柄を握り直す。首領カンダタが、ようやくお出ましというわけだ。
「へっへっへ、頭ぁ、こんなお嬢ちゃんに頭がお出ましになる必要ありやせんぜ?」
「そうそう、いくら高そうな剣持ってようが、こんなかわいこちゃんにやられるほど俺らもなまっちゃいませんや」
「いいからすっこんでろ。お前らは口説き方ってのがなってねぇんだよ。せっかくのかわいこちゃんなんだ、顔だの体だのを傷つけて値打ちが下がっちまったら興醒めだろうが? こういうお嬢ちゃんにゃあな、素直に可愛がられるようにさせる仕込み方ってのがあんだよ」
そんなことを抜かしながら、カンダタは武器すら抜かずこちらに近寄ってくる。その無造作な動きに腹を立て、リクトは構えた剣を振り上げて、「やぁぁっ!」と気合を込めて斬りかかる――
が、それよりも早くカンダタはこちらに踏み込み、ふぅっ、と耳に息を吹きかけた。
「っ………!」
それから鎧の隙間に手を差し込み、さわっ、と服の上から尻を撫でる。揉みしだく。服の上から後孔に指を差し込む。その愛撫は、これまでリクトが味わった中でも、有数、むしろ随一と言いたくなるほど巧みだった。
「や……や、やぁっ……」
「なぁにが嫌だ、ド淫乱が。ちっと触っただけで腰砕けになりやがって」
「や……だって……だって……」
「本当はヤられたかったんだろうが? 男どもによってたかってヤられたくてしょうがなかったんだろうが? おうら、前もこんなに濡らしやがって。ちっちぇえもんもこんなにおっ勃てやがって、嫌だなんぞ言える台詞か?」
「あぅっ……や、やだ、やっ……」
「くくっ……認めちまえよ、てめぇが淫売の、男好きだって。本当はここに来た時から、ヤられたくてヤられたくてしょうがなかったんだろ?」
断固として違ーう! とリクトの心は心の底から主張するが、体の方はどんどんとカンダタの愛撫に支配されていった。見る間に鎧が外され、カンダタの強力で服が引き裂かれ、下帯が解かれる。盗賊団の奴らによだれが出そうな顔で注視されながら、リクトの体は心に反して股を開いていってしまう。
「やっ……や、んぁっ……放して、放してって、ばぁっ……」
「あぁ? 放せ、だぁ? 放してどうすんだよ、チンコこんなに濡らしやがってよ。おぅら、ビンビンチンコちっと扱いてやったら嬉しそうに震えてんぞ? こんなカッコでよくんなこと言えるなぁ?」
「違っ、やっ、んっ、あぅっ」
「おぉ、すっげぇ。まだ油も使ってねぇのにもうケツがぬるぬるじゃねぇか。すげぇなぁ、なにも使ってねぇのにケツが濡れるガキなんぞ初めて見たぜ。お前、マジで天性の淫乱なんだなぁ、オイ?」
「違っ、違う、違うも……あひっ」
「なぁにが違う、だ。こんなに嬉しそうに指呑み込みやがって。おぉら、どんどん入ってくぞー、ぬるぬるケツマンコに指入ってくぞー。キュウキュウ締めつけやがって、んなにケツに指入れられんのが嬉しいか、あぁ?」
「違う、もっ、あぅっ、ひんっ、やっ、あぁっ……」
違うに決まってるだろ本当にそんな気持ちはまるっきりない! と理性は心の底から主張するのに、体はそれを無視して勝手に嬉しげに震える。喘ぎ、濡らし、勃て、震え、どんどんと男の手によって支配されていく。
ねろり、と首筋を舐められて、背筋に走る快感に打ちのめされる。耳を食まれて、切なく喘ぎ声を上げてしまう。引き裂かれた服の隙間から体に指が這うのを、歓喜をもって受け容れてしまう。
固く勃ち上がった乳首を弄られて、「ひぁっ!」と悲鳴を上げてしまう。くりくりっ、と引っ張られて「あぁっ、あっあっ」と体中を震わせてしまう。ちゅばっ、ちゅっちゅっ、と舐められ吸われ口の中で弄ばれて、「あぁーっ、ひぁぁっ!」と喉の奥から勝手に嬌声が漏れる。
心は心底嫌がりながら、体はもっともっとと男の愛撫を欲しがる。なんで自分はこうも男に都合のいい体をしているのだ、といつものように心底神を呪った。
と、体がひょいと持ち上げられる。リクトも男としてそれなりの体重がある(はずだ、平均くらいはきっと、たぶん……)のに、自分よりはるかに背も横幅も大きい、むくつけき大男であるカンダタは、リクトの体重などまるで鴻毛同然と言いたげにあっさりと、両の太腿を持ち上げる、という幼児に小便をさせる時のような恥ずかしい格好で股を開かせた。
この体勢はっ、と気づき、カンダタに必死に抗議の視線を送る。きっと涙に濡れて、扇情的なものになってしまっていたのだろう、興奮に赤く色づいたカンダタの顔が、唾を呑み込んだ時のように一瞬上下し――それからにやり、と悪漢らしい下卑た笑みを浮かべた。
「さぁて、お嬢ちゃん。お前の淫乱なとこを、みーんなに見てもらおうなぁ。お前のおまんこに男のチンコが入ってくとこ、最初から最後までたっぷりなぁ!」
「や……やっ……」
「くくっ、なぁにがや、だちっちぇチンコこんなにおっ勃てやがって。嬉しいよぅ嬉しいよぅって、ぴくんぴくん震えてんぞ?」
「だっ……て、やっ、あっ、あーっ!」
ずぶりっ。立ったカンダタに太腿を持ち上げられ、股を大きく開かされた、それこそ股の間にあるものが全部丸見えの状態で、カンダタのものがリクトの後孔に入ってきた。
「ひっ……あ、ぁ、あ……ひんっ!」
「おぉ、すっげぇ……淫売小僧だけあって、すげぇなお前のケツ……ここまでの名器にゃあ、女でもお目にかかったこたぁねぇぜ……」
「や、やだ、あ、ぁあっ、ひ、ぃいーっ!」
リクトは半ば狂乱状態で、必死に身をよじる。――カンダタのものが、すさまじい固さと力強さで、リクトの後孔を蹂躙したからだ。
カンダタのものの大きさは、これまでリクトが挿れられたものの中でも有数、もしかしたらオルテガのものに並ぶかもしれないというほどだった。その上固く、すさまじいパワーでぐんっ、ぐんっ、ぐんっと立ったままリクトの深いところまで一気に突き入れてくるので、リクトの頭はひたすらに惑乱してしまう。
だが、カンダタはそれをむしろ興がったようだった。ずんっ、ずんっ、と圧倒的な力でリクトの中を突き進みながら、時にちゅばっちゅばっと乳首を吸い、時にねろれろと首筋や耳を舐りながら、楽しげに言う。
「おぉい、どうしたよ、そんなに腰振りやがって。そんなに俺のチンコがイイのか、えぇ?」
「ち、や、あ、ひあぁっ」
「そうかそうか、そんなにイイか。何十人って男どもに見られまくってんのに、大した乱れようだなぁ、淫売小僧!」
はっ、とリクトは一瞬我に返った。そうだ、今自分は、股を開かされたところをカンダタの配下の男たちに見られているのだ。何十人という男たちが、焦げるような熱い視線を自分に、自分の痴態に向けている。
そのほとんどが股間から男のものを露出させ、息を荒げながら扱いていた。自分がカンダタのものを挿れられて、乱れているところを――
「ひ、ゃぁっ!」
「おーら、どうした気持ちいいかぁっ! 男チンコ挿れられてガキチンコおっ勃ててるとこ男どもに見られながらシコられて感じてんのかぁっ!」
「や、ち、あ、ぁあっ、ひ、い、イィっ」
「おーらもっともっと突いてやんぞぉっ、お前のケツ奥まで突いてやんぞぉっ、おら乳首もこんなにおっ勃てやがって、ど変態小僧がぁっ」
「ひ、や、あ、あぁーっ……」
ふいにぐいっと顔が引かれた、と思うや唇に熱いものが触れ、ぬるっとした大きなものが口の中に入ってくる。口髭の感触に、キスされたんだと認識しながらも、半ば忘我状態に陥っていたリクトはその唇に、絡みついてくる舌に、むしろすがるように舌を絡め返し、舐め、吸う。
それにカンダタは嬉しげに唸ってさらにキスを深くし、腰を動かす力を増した。ずんっずんっずんっ、とすさまじい速度と力強さでリクトの孔を穿ち、広げ、衝き―――
「おーらイくぞ、イくぞイくぞイくぞイくぞっ、おぉらぁっ!」
「ひぁ、や、あ、ぁーっ……!」
カンダタがリクトの中にどくっどぷどぷっ、と熱いものを注ぎ込むのと同時に、リクトも自身から白濁を吐き出した。そしてまだ忘我から回復していないうちに、カンダタがずるぅっ、と自身を抜き取り、どさり、とリクトを敷かれた絨毯の上に転がす。
「……よぅし、次はお前ら、せいぜい可愛がってやんな」
そう告げられるや、カンダタの配下たちは奇声を上げてリクトに飛びかかってきた。リクトの股を開かせ、後孔に突っ込み、口を開かせて自身を挿入し、手にもものを握らせ、足や胸にまで一物を触れさせ。体中に男の欲望をぶつけられて、リクトは必死に心の中では抵抗しながらも、その怒涛のような欲情の波に、一瞬で呑み込まれた。
「へっへっへぇ……可愛いなぁ、このお嬢ちゃん。突っ込んだらすぐ可愛く喘ぎやがってよぉ」
「何度もイってんのに、ずっと勃ちっぱなしだぜ。根っからの淫売なんだろ、ガキのくせによぉ」
周囲のそんな声に、人の苦労も知らずに偉そうに言うなー! と理性が怒りを込めて反論するが、体はちっとも思うように動いてくれなかった。さっきからもうどれだけ時間が経っているのかわからないくらいくらいずっとヤられてるというのに、腰砕けになるくらいずっと敏感な状態のままだ。
「何度犯っても犯りたりねぇや。こんだけの人数に犯られてるってのに、締まりも上等なまんまだしよぉ」
「拳でも挿れてみっか? どんな風に喘ぐか見てみてぇや」
勝手なことばっかり言って、とリクトの心は怒りに燃える――が、口からは「ひっ、あっ、ひぃんっ……」と喘ぎ声しか出てくれない。前から後ろから突っ込まれて、体中を弄られて、それだけで体は勝手に抵抗をやめてしまうのだ。アリアハンにいた頃からそうだったが、大人数に何度も何度も突っ込まれても感じてしまう自分の体質に、リクトは心底情けなくなった。
――と。そんなことを考えているリクトの耳に、ふいにことり、という音が聞こえた。
妙に耳に残るその音に頭を上げかけるよりも早く、しゅーっ、という音がすると部屋の中がもくもくと煙で満たされていく。「なんだぁ?」とたいていの男は戸惑っていた様子だったが、一度ヤってからは後ろに下がりにやにやと自分を見ていたカンダタが、驚愕の声を上げた。
「こりゃあ……! お前ら、逃げろ! こいつは痺れ毒の煙だ! とっとと逃げねぇと軍だのなんだの、敵が襲ってきやがるぞ!」
その声に一気に男たちは緊張し、慌ててリクトから自身を抜き取ってばたばたと逃げていく。剣戟の声や悲鳴や絶叫がいくらか聞こえたのち、周囲はしーんと静まり返った。
痺れ毒の煙と言っていたカンダタの言葉は正しかったらしく、リクトの体は痺れ、指をまともに動かすこともできなかった。うわやばいどうしよう、でもカンダタの敵ってことはこっちを助けてくれる人だったりするのかな、などと考えていると、ふいに目の前に一人の男が立ちふさがる。
一瞬やばい、と思ったものの、すぐにほっとする。その男はジェド、リクトの仲間で一番頼りになる盗賊だった。
「じぇ……ど、さ」
麻痺の煙のせいか、口もろくに動かないなりになんとか事情を訊ねようとするリクトの気持ちを読み取ったのだろう、ジェドは淡々とした声で応える。
「カンダタ盗賊団の連中は全員逃げ出した。こっちが何十人もいるように思わせたから、少なくともしばらくは戻ってこないだろう」
「あ……そ」
「ゼッシュとエイルはその後を追っている。お前が何十人という男に犯されているのを見て、我を忘れたようだ」
「そ……ぁ」
それはいいのだが。ジェドはなぜ、そんな無表情で自分を見ているのだろう? これまでジェドは、いつも自分の前では、優しさが伝わってくるような、厳しさはあったものの自分を気遣うような表情を崩さなかったのに――
と、ジェドはふいに、ぐいっ、と自分を絨毯の上に転がした。抵抗のできないリクトは、ごろんと転がって、股を開いたままジェドと向き合う格好になる。なにするんですかこんな格好恥ずかしいんですけど、と主張しようとしたが、口からは「な……あ」という情けない声しか出てこない。
ジェドは、そんなリクトと向き合ったまま、低い声で呟く。
「……勃ってるな」
「え」
言われて初めて、自分がまだ勃起していることに気づく。ひどく恥ずかしくなって股を閉じようとしたが、体は痺れてまともに動いてくれなかった。そんな自分に、ジェドは低い声のまま、どこか呪うような口調で続ける。
「あんなに山ほど男に犯されて。精液まみれにされて。――それで、勃っているのか。この、淫売が………!」
急に声にマグマのように滾る怒りの感情が混じったかと思うと、ジェドはぐっ、とリクトのペニスを足で踏みつけた。これまでずっと自分に優しかったジェドの暴挙に、リクトは仰天して身をよじる――が、麻痺した体ではとても逃れることはできない。
「……こんな風に踏まれても感じているのか。一物をこんなにいきり勃たせて。男に責められるのがそんなに気持ちいいのか!」
「っ……っ」
「ならそうしてやる。好きなだけ責めいたぶってやる。お前がそんなに好きだと言うならな!」
誰も好きだなんて言ってなーい! とリクトは心の中で必死に主張したが、ジェドの瞳の中の切羽詰まった光は当然ながらそんなものでは消えなかった。素早く自分の前を寛げ、リクトの上にのしかかり、胸の先に、太腿に、リクト自身に触れながら、ジェドのペニスを挿入する。
「っぁ………!」
ぞくぞくぞくぅっ、と体中に走った快感に、わずかに身をのけぞらせる。ジェドの手つき、指捌き、腰使いはおそろしく巧みだった。リクトの経験の中でも有数、少なくともカンダタ級。まだ体中に快感の残滓が残っていたリクトは、たちまちのうちに追い詰められ、昂ぶらされる。
「ふん、あっさりとはしたなくどこもかしこも勃たせて。お前は本当に淫売なんだな」
「ひっ……っぁ、ッ……んっ!」
「なんだこの乳首は。何人の男に吸われたんだ、こんなに固く尖らせて。もう性器でしかないだろうが、淫乱の変態が。男に尻を掘られながら乳首を弄られて、そんなに嬉しいのか色狂いが!」
「ひぁ、ぁ―――っ………!」
だから違うんだってば! と心の中で必死に主張しながらも、ジェドの手でリクトは風に舞う木の葉よりあっさりと弄ばれる。男としてはありえないと言われた固く勃ち上がった乳首を巧みに捻られ、引かれ、潰すように擦られ。そんな巧みな愛撫を施されながらも、後孔ではジェドのものがおそろしく巧みに弱いところを突いてくるのだ。カンダタのように大きくはないが、弱点を突く的確な腰使い、ある時は引きある時は進めるストローク、こちらの動きに合わせて焦らしと弱点を突くのを組み合わせる巧みさ、そんなカンダタにはない見事な技術でもって、鍵穴に差し込まれる鍵のようにリクトの体を開いていく。
胸、尻、足、首、耳、股間、それこそ体中を巧みな手で弄られ、後孔の弱いところを衝かれ、圧倒的な快感に押し流されて、たちまちリクトは達する――
「……そう簡単に、イかせると思うのか」
「ひぁっ!?」
と思った瞬間、ジェドにひどくきつく股間のふぐりを握られ、リクトは身を震わせた。一瞬ぞくぞくっ、と快感が走ったものの、それでは刺激が強すぎて達せられないような、そういう力加減だったのだ。
「何度もイったくせに、男に触られただけでまたはしたなくイく、そんな奴をそう簡単に開放するとでも? お前の体には少し躾が必要だ――俺が満足するまで、イけると思うな」
「ひ、ぁ、ぃ、ぁあッ………!」
快感と痛みをくりかえし与えられながら、後孔を衝かれ、前を、胸を、体を弄られ、それでもイかせられることはなく快感が体中に満たされて――
そんな終わらない反復に脳まで浸からされて、いつしか、リクトの意識は闇の中へと沈んでいった。
「………すまなかった」
「……………」
土下座するジェドから、リクトはぷいっと顔を逸らす。
「本当に、本当にすまなかった………!」
「……………」
ひどく切羽詰まった声で謝られながらも、リクトはやはり、ぷいぷいっ、とそっぽを向くのをやめない。
リクトとしてはそんなの当然だろ! と主張したい気持ちだった。だって、こっちの信頼を裏切ったんだから。
リクトはジェドは自分のことを変な目で見ない、優しいいい人だと思っていたのだ。それが、実は初めて会った時から欲情してたとか、でもリクトにいい格好をしたくて言えなかったとか、なのにリクトがカンダタたちにヤられまくっているのを見て我を忘れてしまったとか(そういうことをジェドはリクトが意識を失ったせいでパニックになり、ひたすら頭を下げながら言ってきたわけだ)、もう裏切られたとしか言いようのない気持ちだった。
「すまない……リクト。だが、俺は……俺は、本当に、君のことを……」
「……だからって、人にあんなことしていいわけないだろ」
ぼそっ、と告げるとジェドはうぐっと言葉に詰まり、「すまない……」とまた土下座する。ほんっとにもー、とリクトは心底ため息をつきたい気分だった。ジェドさんにまで欲情されてるとか、男ってものがますます信用できなくなっちゃったじゃないか。まぁ今に始まったことじゃないけど。
っていうかそもそも、俺は男とどうこうしたいわけじゃなくて可愛い女の子をお嫁さんにしたりちょっとくらいは女の子にモテモテになってきゃーきゃー言われたりしたいのにっ、と拳を握る――と、ジェドが(ジェドにはまったく似合わない、情けないほど小さな声で)訊ねてくる。
「リクト……俺は、もう、君と一緒にいては、いけないのだろうか」
「……は?」
「君を裏切ったのはわかっている……だが、俺は……俺なりに、君のことを……せめて、君を護るための壁にでもなれたならと、そう……君にとっては迷惑なのかもしれんが、本当に……」
「いや、ちょっ……なんでそういうことになるんですか?」
思わずジェドの方を向いてそう訊ねると、ジェドはばっと顔を上げて瞳を輝かせた。
「……これからも、一緒にいていい、ということか?」
「いや、そりゃ、まぁ……とりあえず、他に当てもないですし……ジェドさんがこれまで、いろいろ助けてくれたのも確かだし……そりゃ、まだ怒ってはいますけど……パーティから出て行けとか、そういうのはさすがに、ないかなーって……」
ぽそぽそと言うと、ジェドは目をみはり、それからふっ、といつもの優しい、でも普段より少し嬉しげな力のこもった笑みを浮かべて、告げる。
「ありがとう、リクト。君は……本当に、優しいな」
「や……まぁ、別にそういうわけでもないですけど……」
ぼそぼそと言うと、ジェドは……なんというか、優しげというか温かみがあるというか、いやあんまり認めたくはないが正確に表現するなら愛しげに微笑んで、リクトをそっと抱き寄せた。
「リクト……君は、俺の人生の中でただひとつの、まばゆい光だ」
「いやあの俺そんなのになったつもりないですから、本当それただの思い違いだと思いますから、そんな風に思い込まないでっ」
「リクト……」
「や……ぁ、だ、め………」
ぐいっ、と引き寄せられ、後頭部からまだ裸の背中を優しく撫でられて、体が勝手に解けていく。潤んだ瞳で見つめるリクトを、ジェドはぐいっと抱き寄せ、唇を――
「なななななななっ………! 俺のリクトになにしてやがるこの変態野郎ぉぉぉぉぉっ!!!」
落とされる直前にそんな絶叫が聞こえ、それとほぼ同時にぶおんっと振り下ろされた剣と杖を避けて、ジェドは立ち上がった。いつの間にやってきたのか、殺気立った視線で睨みつけてくるゼッシュとエイルを、ジェドは鋭く睨み返す。
「てめぇぇぇ……やっぱりリクトを狙ってやがったんだなこのむっつり変態野郎!」
「いい人の振りをしておきながら、結局は欲情していたわけか。この恥知らずの好色漢が」
「……貴様らに言われる筋合いはないな、見境なしにリクトを押し倒す助平男に倫理観のない変質者が。俺は貴様らのようなどうしようもない男どもよりは、まだリクトを大切にできる自信があるぞ」
「なに抜かしてやがんだこのクソ野郎!」
「それこそ貴様に言われる筋合いはないな」
三人が一気に殺気立ち、それぞれの武器に手をかけて、場が今にも殺し合いを始めそうな雰囲気に染まり――
「……くしゅっ」
リクトが小さくくしゃみをするや、その雰囲気は一気に霧散した。三人が全員こちらに駆けてきて、必死の形相で言い募る。
「リクトぉぉぉーっ!!! 大丈夫かリクト、俺のリクトっ、こんなにひどいことされてっ………! 心配するな、今度奴らが出てきたら速攻で首ぶち落としてやるからなっ!」
「要するに取り逃がしたっていうことだろうが。いいからとっとと水場に行くぞ、お前の体にかけられたその薄汚い白濁を落とさなければろくに話もできないからな」
「子供でもないのにそんな言い方しかできないのか。リクト、ちょっと我慢していてくれ。毛布でくるませてもらうが……暑くないか?」
「あーっ、てめぇ俺のリクトになに触ってやがんだっ!」
「リクトがこんな状態の時にそんなことで騒ぐな、脳味噌なしの猪馬鹿が」
「ふん、貴様はさっき自分がなにをしていたと思っている? よくまぁそんな台詞が吐けたものだな」
ぎゃんぎゃん騒ぎながら仲間たちは自分を毛布でくるみ、水場まで連れていってお湯と石鹸で体を洗ってくれた。そうして休んでいるようと主張して、ゼッシュとジェドで後退しつつ塔の外へと連れ出す。
……こういう気遣いしてくれるのはまぁ、いいとしても。これから先、さっきみたいな三つ巴状態が毎日のように繰り広げられるわけか。
そうしてジェドも含めた三人が、それぞれに自分の体をどうにかしようとしてくるのだろう。その状況を予想し、あまりに暗澹とした未来にリクトは思わずはぁぁぁぁ、と深いため息をついた。