ゆうべはおたのしみでしたね
バラモスとの戦いに十分な余裕を持って勝利して(自分の計画が間違っていなかったことにユィーナは会心の笑みを浮かべた)。自分とゲットは、なぜか二人きりでポルトガにいた。
 いや、なぜかではない。ゲットが、バラモスを倒した直後に恐ろしいほど満面の笑みでこう宣言したからだ。
「俺とユィーナはこれから初夜を迎えるから、お前らは先にアリアハンに帰ってろ!」
 ――当然、そんなことを公言するなと鋼の剣でぶん殴ったのだが、それにもディラとヴェイルの白い目にもめげずゲットはユィーナを抱きかかえてポルトガにルーラしたのだ。
 実際、バラモス戦でのゲットでの活躍、というかやる気は凄まじいものがあった。バラモスと戦うまでも次々と襲い来る魔物たちを薙ぎ倒し、ぶち殺し、バラモス戦では会心の一撃を連発し。不得意な呪文でも回復・攻撃を遅滞のないタイミングで行っていた。これまでの旅で築き上げたコンビネーションという以上に、頭の回転が明らかに早くなっているようだった。
 それはやはり、ゲットの鼻先にぶら下げた初夜≠ニいうニンジンのせいだろう。
 ユィーナは深々とため息をついた。できるものならこのイベントはスルーしたいところだが、ゲットがそのニンジンでこうもやる気を出し、実際に活躍してくれたのだからやらないわけにはいくまい。
 そもそもユィーナがゲットに想いを伝えたのは、竜の女王の死を目の当たりにして不安定になっていたからだ。全力を尽くしても、打てる手を全て打っても、救えない命があるということを久々に思い知らされ、ショックを受けていたから。
 この人も。自分の好きなこの人も。自分が全力を尽くしても、いなくなってしまうのではないか――そんな思いに支配されて。
 そう、ユィーナはゲットが好きだった。たぶん、初めて会った時から。十歳の時、死のうと思って街の外に出て、生まれて初めて誰かに助けられた時から。
 けれど、その気持ちを受け容れられるようになったのは最近だった。自分を冷たい女だと考えていたユィーナは自分がそんな感情を抱くはずはないと思ったし、なにより無駄だと思ったのだ。あのような現実の自分を見ていない人などに好意を抱いたところで、まったくの無駄だ、と。
 今もそう思っていないわけではないのだが、勢いで好意を伝えてしまった以上、それなりの責任を取らねばならないと思っている。
 思っているのだが。
「今まで通った街の中では、やっぱりポルトガが一番だと思ったんだ。海が見えるからな。ポルトガの最高級の宿屋のロイヤルスイートを予約してある。最高の初夜にしてやるからな、ユィーナ!」
 背後に炎を背負いつつこぼれそうな笑顔でそう言うゲットに、ユィーナは深々とため息をついた。
 ……なんとかスルーできる方法はないものだろうか。

 早々と済ませたチェックインも、ロイヤルスイートへ案内してくれる赤帽も、ゲットにとっては鬱陶しくてならないようだった。はぁはぁと今から荒い息をつきつつ、燃える瞳でユィーナを凝視してきている。
 ……これはどう考えてもヤらないわけにはいかないだろう。呪文で眠らせたり気絶させたりして逃げ出した程度では、目覚めたあとに即座にこちらを押し倒すのが目に見えている。殴った程度ではめげもしないだろうし、止めるには全力でぶち殺すしか方法はあるまい。そして、ユィーナはそこまではしたくない。
「当ホテル自慢のロイヤルスイートでございます。窓から見える星空と夜の海をお楽しみください」
 そう一礼して荷物をおいて赤帽が出ていく――やいなや。
「ユィーナ――――――――――ッ!!!!」
 そう叫ばれて押し倒してきたゲットを、(その行動を予想していた)ユィーナは即座に鋼の剣で五度殴りつけた。
 さすがに脳天からだくだく血を流してひっくり返るゲットに、ユィーナは冷たく言う。
「私は魔王との戦いのあとで疲れているんです。約束ですからしないとは言いませんが、入浴ぐらいさせてください。第一私はこんな汗臭い状態でセックスする趣味はありません」
「………………………………わかったユィーナ、風呂入ってくるの待つぞ」
 凄まじく未練がましげな飢えた瞳でこちらを見つめながら指を咥えるゲットを無視して、ユィーナは風呂場に入った。さすがロイヤルスイート、風呂場も大きい。基本的に倹約家のユィーナは、こんなことに金を消費しないでもと苦々しく思った。
 湯船にお湯を張りながら、身に着けた魔法の鎧と鎧下、そして汗をたっぷり吸った肌着を脱ぎ落とす。それからお湯をシャワーに切り替え、大人二人分くらいは悠々入れそうな湯船に体を下ろした。
 石鹸とスポンジを手に取る。こんなところまでロイヤルスイートは高級品だ。
 シャワーを浴びつつ体の汚れを落としながらはぁ、とため息をつく。本当に、どうしても、しなければならないのだろうか。
 嫌だ、と思った。
 自分はあんなこと、ゲットとしたくはないのだ。
 初めて男に抱かれたのがいつだったかなんて覚えてはいない。つまりはそのくらい小さな頃だったということ。
 泣き叫ぶユィーナの頬を張りながら、無理やり凄まじく大きなものが自分の体を引き裂いた。激痛で数日はまともに立てなかった。
 物心ついたころからそういうことが何度もあった。母と呼ばれるべき人も、父と呼ばれるべき人もそれを止めはしなかった。娘が傷つけられる見返りに与えられる金銭で、数日はマシな食事が出来たから。
 最後にセックスをしたのが十二歳の時。母と呼ばれるべき人の葬儀の日。喪主となって母の友人たちに対応をしていたところを、大人数人で犯されたのが最後。
 それを最後に、自分はセックスというものを、完全に人生から締め出してきたのだ。誘いは手を尽くして断ったし、自慰など考えるだけで吐き気がした。性欲など微塵も感じたことはなかった。
 自分は、セックスが大嫌いなのだから。男の欲望に女を従わせる暴力行為。男が欲望を吐き出すのを必死に待つ時間。気持ち悪くて気色悪い、その上非常に腹立たしい。あんなもの子供を作る以外に価値などない、もっと魔法技術が発展してセックスしないでも子供が作れるようになればいい。そう思ってきた。
 ――けれど。そういう拒否の感情よりももっと大きいのは。
『セックスしたらゲットは自分に興味をなくしてしまうのではないか?』
 ――そんなことに自分がなによりの恐怖を感じているというのが非常に腹立たしい。せっかくバラモスを計画通りに倒し、これからアリアハンを、世界を改革しようとしているところだというのに。
 はぁ、とユィーナは再びため息をつき――
「ユィーナァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
 ばたーん! と扉が開いて素っ裸のゲットが飛び込んできたのを見て反射的に風呂から飛び出して顔面に回し蹴りを加えた。
「おふぅっ! ……ナイスだ、ユィーナ……!」
 ゲットは倒れもせず、鼻を押さえてサムズアップを送る。その鼻から流れる鼻血は顔を蹴られたせいなのか自分の裸を見たせいなのか、と一瞬考えたが、性的に興奮して鼻血を流した人間は見たことがないので顔を蹴られたせいに決定した。というかそうしておきたい。
 ユィーナはたまらない羞恥に顔を赤らめながら怒鳴った。
「人が入浴している時に入ってくるなんて、なにを考えているんですか! さっさと出て行ってください!」
「それはできんユィーナ。なぜなら俺たちは恋人同士だからだ! 今こそ愛を交わさんとしているというのに風呂に入っている間待てなどと、俺に舌を噛んで死ねというのか! すぐそばに裸のユィーナがいるというのに、俺はそんな拷問に耐える自信はまるでないぞ!」
「そういうことを堂々と……っ」
 第一、恋人同士? いつ自分とゲットが恋人同士になったというのだ――という台詞をユィーナは口の中に飲み込んだ。それは別にゲットの心情を慮ったからではなく、不覚にも圧倒されてしまったからだ。
 ――ゲットの股間の、迫力に。
『なんにもしてないのに既に臨戦態勢……というか、でかっ………!』
 すでに天突くほどに勃起し立ち上がったゲットの男性自身を見てユィーナはごくりと唾を飲み込む。当然欲情からではない。
『こんな……こんなの、入るのか………!?』
 ユィーナが今までセックスした相手はみなこれよりはるかにささやかな一物しか持ってはいなかった。というか物理的に幼いユィーナの体にこんなものは入らなかったのではないだろうか。
 目測で、ざっと二十cm以上。ひょっとすると三十cm近いのではないだろうか。
 そんな超巨根がずどぉぉぉん、と言いたくなるほどの迫力を持ってユィーナの目の前に聳え立っている。その圧倒的な存在感に、ユィーナは頭がくらくらした。
 ――そんなユィーナの視線が、ゲットにはまるで欲情に堪えかねているかのように映ったらしい。
「ユィーナ―――――――――――――ッ!!!!」
「!? ちょ、待……っ!」
 制止は間に合わなかった。ゲットは魔王の突進よりも早く力強く、ユィーナに襲いかかってきた。
「! ん、む、むぐ……っ!」
 飢えた獣のような顔が近づいてきたかと思ったら勢いよく口を吸われた。ああファーストキスなんてことを考えられるほどきれいな体ではないけれど、ゲットとは初めてだなぁ……などと感慨に耽っている暇はまったくない。
 痛いのだ。唇というのは粘膜、敏感で弱いところ。そんなところを高レベル勇者の肺活量で思いきり吸われれば痛みもする。
 痛みはそれだけでは終わらなかった。ゲットはその無遠慮な手でユィーナの乳房をまさぐってきたのだ。絶壁というほど薄くはないが豊かな方でもないユィーナの乳房は、ゲットの豪腕によって揉みしだかれ潰れそうになった。
 のみならず、はぁはぁ、はぁはぁ、と獣よりもまだ荒い息をつきながらゲットはユィーナの体を壁に押し付け結合を果たそうとしてきた。ゲットの超巨根がユィーナの股間、淡く色づいた女性としてのクレバスをぬるっ、ぬるっと滑る。そのぬめりはゲットの男性自身からこぼれる先走りだと気づいて、ユィーナは思いきり惑乱した。
 離しなさいと怒鳴って殴りつけなければ、だけどゲットの逞しい腕はしっかりと自分を捕らえて離さない、そもそも口が塞がれている、こんな状態でキスを続けるなんて、というかそんな大きなものがまだ濡れてもいないところに入るわけないでしょうが、そう言わなくちゃいけないのに、ああゲットの体が大きな体がたまらなく熱くなっている、それは私のせいなのかしら――
 頭をぐるぐるさせながら必死に暴れていると、ふいにゲットが「うっ」と呻き、どぴゅ、どぴゅ、という音が体に伝わってきて、ユィーナの股間は白濁で濡らされていた。
「……………………」
 力なくユィーナの体を離すゲットを、ユィーナは信じられないような思いで見つめた。だって、まさかそんな、挿れる前に? そんな男はさすがに初めてだ、予想だにしていなかった。
 だが事実ユィーナの股間には数年前までは毎日のように見ていた白濁がかけられている。粘り気たっぷりのひどく濃そうなやつが。ゲットの男性自身も――
 とこっそりゲットの股間をうかがってユィーナは仰天した。微塵も萎えていない。
「……すまん、ユィーナ。俺としたことが、ユィーナの裸を初めて堂々と見れて頭に血が上って……乱暴にして、それどころか先にイったりまでして……!」
 うつむきながら唸るようにそんなことを言い出したゲットにユィーナは瞠目した。
「堂々とって、こっそりとは見てたんですかあなた」
「それはさておき。心配するなユィーナ、俺は今日のために教本を見て勉強したんだ。必ずお前を天国に連れてってやるからな!」
「……天国って、なにで勉強したんですかあなたは」
 ビシィ! といい笑顔で親指を立てるゲットに、ユィーナは思わず突っ込む。するとゲットはいい笑顔のまま答えた。
「保険の教科書と、官能小説だ!」
「……………………」
 ユィーナはくらくらする頭を押さえた。そんなもんで行った予習のもとに自分は犯されようとしていたわけか。
 ゲットはろくに知識もないまっさらな童貞。先が思いやられる、でもそれはそれで少し嬉しいような気も―――
 じゃないじゃないじゃないじゃない!
 ユィーナはぶるぶると首を振ると、冷厳とした瞳でゲットを睨み、言った。
「私がレクチャーします。保険の教科書と官能小説は忘れなさい。女がそう簡単に喘ぐと思ったら大間違いです。最低でも私が要求する程度のことはこなしなさい」
 それでも自分が性感を感じることはないだろうが、というユィーナの思考は、ゲットが「ユィーナァァァァァァァッ!!! 俺に一から教えてくれるんだな、家庭教師プレイかっ! 初っ端からそれはなにかと思うがだが俺はユィーナの望みならどんなプレイであろうともっ……!」と言いながら押し倒してきたことで遮られたが、今度は抱きしめられる前にぶん殴ることができた。

 とりあえずざっと湯をかけて体を拭き、その間もすぐ我を忘れて襲いかかってくるゲットをぶん殴りつつ、ユィーナはベッドの上に座った。
 手順は頭の中からいつでも出力できる――だがそれでもユィーナは羞恥と惑乱で死にそうだった。なんで私がこんなことを、という言葉ばかり頭の中にぐるぐるしていて、頭の中がかんかんする。
 けれどそれをプライドにかけて必死に抑えつつ、ゲットを睨む。
「……まず、キスからです」
「おうっ!」
 勇み立って押し倒してくるゲットを、ユィーナは即座に殴り倒した。
「だからそのすぐ押し倒してくるのをやめろというんです! 女の性感というのは乱暴に扱えばまず引き出せないと思いなさい!」
「そうか、それならどうすればユィーナが気持ちよくなれるのかしっかり教えてくれユィーナ」
 鼻息を荒くしながらそうせがまれて、屈辱……! と唇を噛みながら教える。
「……キスから、と言いましたが、それが分かりやすいからそう言っただけで実際は状況次第です。少なくとも、乱暴にまさぐっているだけでは誰も……その、感じません」
「じゃあユィーナはどんなのが感じるんだ」
 はぁはぁと息を荒げながら迫るゲット。そもそも私はセックスなどしたくない! と怒鳴りたくなるのを抑えて、極力冷静に言う。
「ともかく、最初は優しく触ったりキスをしたりしながら、相手の気持ちを少しずつ高めるんです。女とのセックスに必要なのは直接的な性感よりもむしろムードです。雰囲気を作りながら体のあちこちを触ることで気持ちを高めていくんです」
 ――なにを自分のことのように言っているのだろう自分は。自分だってムード作りなんてしたことないのに。
 みんな伝聞だ。そういう話には事欠かない環境で育ったから。自分はセックスの時はいつも抵抗する気力がなくなるまで顔を殴られていた。当然気持ちいいなんて感じたことはない。男たちは常に無理やり押し入ってきた。
 けれど、ゲットのあの超巨根からして、ある程度自分の膣内を濡らさなければ入ってくるのは不可能だろう。一応それ用のローションは用意してあるが、少しでも足しになればと思ったのだ。
 ゲットはふんふんとうなずいている。なんだか孤児院で年下の子供たちを相手に教鞭を取っていたころのことが思い出され、ユィーナは頭を押さえた。今の状況にはあまりにそぐわない思考だ。
「……愛撫を行いつつ膣に指を挿れ、馴らします。ローションを用意してありますから、それを使ってください。ローションを中に塗りこめつつ少しずつ膣口を広げ――」
「舐めるんじゃ駄目なのか」
「………っはぁ!?」
 仰天して睨むユィーナに、ゲットは真剣な顔で聞いてくる。
「舐めるんじゃ駄目なのか? 俺は、最初は薬とか道具とかの助けを使わず繋がりたい」
「道具って……」
 ローションは薬や道具というより必需品では――いや違うのか? なくても大丈夫な人は大丈夫だから道具か? いや道具と言われて想像するものとは明らかに違うと思うのだが。
「俺たちの体だけで、繋がりたいんだ。駄目か? ユィーナ」
「…………かまいません」
 本当は気が進まない。ローションを使った方が簡単に膣口を濡らせる。
 だが、ゲットがそうしたいというのならばかなえてやらねばならないだろう。自分はゲットに言った言葉の責任を取るためにゲットとセックスするのだから。
「そうかっ!」
 ゲットは勇み立って体を震わせる。なんだ? と思って、もしかして襲いかかりたいのを我慢しているのでは、と思いつき心底脱力した。
「……あとはやりながら教えます。とりあえず、好きにやってみてください」
「おおおおうっ! ユッィーナァァァァァァァァァァァッ!!!!」
 どすん、とベッドの上に体を押し倒されたがユィーナは殴るのをこらえた。とりあえず、ゲットのやりたいようにさせよう。
 が、ゲットは今度は思いのほか優しくユィーナに触れてきた。体は必死に激情を抑えているのかがくがくと震えていたけれども。
 自分の後頭部を支えられ、ちゅ、とそっとキスされる。それから遠慮がちに唇を舐め、ある程度は協力してやらなければまずいだろうという考えの下にこちらからも舌を絡めてやるとゆっくりと吸いついてくる。
 ……これなら、とりあえずは痛くはない。気持ちいいかは別として。
 ゲットはふー、ふー、と鼻息も荒く、唇をゆっくりと体の下方向へ移動させてきた。首筋を舐め、吸いつき。胸に顔を埋め、匂いを嗅ぐようにぐりぐりと押しつけながらそっと乳房を揉む。
 とりあえず、痛くはない。舐められるのは抵抗があったけれども。痛くは……
「あ……っ」
 乳首を吸われた瞬間出た声に、ユィーナはばっと唇を押さえた。なに。なんだ、今の声!?
 今の声はほとんどあれのようだった。あれ――喘ぎ声。感じた時に漏れる声。
 冗談じゃない、自分は少しも感じてなどいない。こんなセックスごときで我を忘れたりするはずがないのだ。気持ちよくなんか全然ない。
 ただ、乳首を吸われた瞬間。ぞくぅっ、と背筋に悪寒のようなものが走って――
「ちょ……ゲット! まじまじ見ないでください!」
 いつの間にか股間にまで下りてきたゲットの顔が、自分のヴァギナを凝視しているのに気づき、ユィーナは仰天して怒鳴った。
 ゲットは不思議そうな顔で股間から自分の顔を見上げる。
「なんでだ」
「なんでって……そんなもの、見るものじゃないでしょう!」
「なんでだ。すごくきれいだ。色もピンク色で。ユィーナのいい匂いがして。俺はずっと前から間近で見てみたいと思ってたんだ」
「…………っ!」
 がつん、と膝蹴りを鼻面に叩き込んだ。
「見てる暇があるならさっさとやりなさい!」
「わかった」
 ゲットはうなずくと、その場所にちゅ、と口付けた。
「………っ………」
 ユィーナはその奇妙な感触に身震いをした。クンニリニングスは初めてではないが、慣れているわけでもない。
 そっと優しく入り口を舐め濡らし、ゆっくりと舌を侵入させてくる。ちゅ、ぢゅ、とときおり吸い上げながら、舌を膣内に侵入させていく。
「……っ指も、挿れて……一本ずつ……少しずつ、広げて」
「ああ」
 ちょっと聞いただけでは冷静に聞こえそうなゲットの声だが、興奮は微塵も薄れていないのは荒い息が股間に吹きつけられるのでわかる。
 指が、入ってきた。ひどく大きくて、無骨な指。それが舌で濡らされた自分の膣内を、ゆっくりゆっくりまさぐっていく。
「…………」
 息が少しずつ荒くなってくるのを必死に隠した。こんなのは生理現象だ。感じてなんかいない、感じてるなんて思われたくない。淫乱だなんて思われたくない。慣れてるなんて思われるのは嫌だ。
「ユィーナ……ユィーナ……」
 熱に浮かされたような声で囁きながら、ゲットは指で自分の中を弄る。舌で入り口をぺろぺろ舐めながら指で自分の中をゆっくり広げていく。ああ、今指が増やされた。どんどん、どんどん自分が広げられていってしまう――
「あ………っ!」
 ぞくぅっ! と電流のようなものが背筋を走って、ユィーナは堪えきれずに声を漏らした。
 そしてすぐに口を押さえる。なんだ。なんだ今のは!?
 感じたことのない感覚だった。一瞬頭が真っ白になった。脳天から足の先までびりびりと痺れるような、強烈な感覚――
 それを知ってか知らずか、ゲットの指と舌は勢いを増した。ぢゅるぢゅると膣口を吸い上げつつ、二本の指で自分の中をどんどん、激しく、力強く探り、広げていく。
 痛いと、思うはずなのに。
「あ……っ、や、んっ、やめっ……、離して、いや……っあ!」
 こんな声出したくないのに。自分は淫乱なんかじゃないはずなのに。
 腕に力が入らない。喉が勝手に声を漏らす。変だ、変だ変だ変だ。体が震える。股間が疼く。なんで? なんでなんでなんで? つま先が痺れる。腰の奥がじんじんする。こんな、こんなの、おかしいのに。
「ユィーナ……ユィーナユィーナユィーナっ……うっ」
「や……っ、あ……っ、ひ……っぁ、いやっ……やっ、あっ!」
 いやだいやだいやだいやだ、なんでこんな声が漏れるんだ!? いやだ、恥ずかしい、こんなのおかしい。自分はこんな、こんなことで乱れたりはしないはずなのに。
「ユィーナ……」
 いつの間にかゲットの顔が間近に迫っていた。ユィーナは泣きたくなりながらその顔を見つめる。
「ゲット……っ」
 ユィーナはたまりかねてゲットに抱きついた。この苦しさをどうにかしてくれるのはゲットだけだと頭のどこかで確信していたのだ。自分を、こんな冷血女を乱して、救ってくれるのは――あなただけ。
「………ユィーナッ!!!!」
 ゲットは叫ぶと自分を再び押し倒し、女のクレバスにその剛直を叩きつける――
 その瞬間、さっきの確信はまるっきり勘違いだと実感した。
「…………っ痛い! すごく痛いんですが! もっとゆっくり、そっと挿れてっ……あーっ!」
「すまんっ、ユィーナすまんっ、腰が止まらんっ!」
 そんなことを堂々と言うな! と言いつつ必死に暴れる。痛い。とにかく痛い。体が裂けそうに痛い。ゲットはぐいぐいと、その超巨根を自分の中に割り込ませ、勢いよく腰を動かし欲望を叩きつけ――
 どぴゅっどぷっどくんどくん。
「……………………」
 ユィーナは絶句した。三擦り半? これまでにもう二度も出してるのに?
 若いんだからしょうがないのかな……と思いつつも、なんというか、拍子抜けというか、これで終わり? というか……。
 別に、不満を抱いているわけでは断固としてないが!
「……ユィーナ……」
 ゲットが荒い息をつきながらこっちを見る。ユィーナも戸惑いつつも見返す。その顔がひどく男らしいというか、獰猛で飢えているというのとは別の意味で獣くさく見えて、知らずユィーナの胸はどきりとする。
「……っまだまだぁ!」
「え、え、え!?」
 今度はユィーナの足をぐいっと持ち上げつつゲットは腰を動かし始めた。
 ……こいつ、もう三回もイったのに全然萎えてない! どういう精力をしているんだ、一番ヤりたい盛りとはいえ!
 呆然としながらも、ユィーナは声を上げていた。痛みと、衝撃と、相手の体温を肌で感じられるというかすかな快感のせいで。
「ユィーナ、ユィーナユィーナユィーナ、愛してる……!」
「あ……っ、あ………!」

 一晩中盛ったあと、ゲットはぱったりと眠ってしまった。なんのかんの言いつつ魔王との戦いのあとだ、疲れていたのだろう。
 ユィーナはヤられすぎてもはや完全に感覚が麻痺したヴァギナからずるずるとゲットの男性自身を抜き取り(ゲットは挿れたまま意識を失っていたのだ)、しっかり自分を抱きしめて放さないゲットの腕にはぁ、とため息をついた。
 もはや空は明らんできている。徹夜してしまったか、とユィーナはため息をついた。自分は生活リズムを狂わせるのは嫌いなのだが。
 膣からどろりと精液が漏れる。たっぷり中出しされてしまった、ともう一度ため息をついた。濃さも量もスペシャルクラス。もし自分が元遊び人で避妊の呪を知っていなかったら確実に孕んでいるところだ。
 これでゲットは満足したのだろうか、と窓から朝の海を眺めながら思う。あんな風に、可愛くもなければ初々しくもない、痩せた自分の体を抱いて本当に満足できたのだろうか?
 なんだろう。なんなのだろうこの感覚。怖い。ゲットに嫌われるのが、怖い。
 なにをいまさら、もともとゲットの好意など妄想からくるものだと自分は思っていたではないか――
 でも怖い。不安になる。昔の詩を思い出した。抱かれる前とあとでは相手に対する思いの質が違う、と。それを聞いた時は馬鹿馬鹿しいと思ったものだが――
 なぜか今、自分はたまらなくゲットに嫌われるのが怖い。逃げ出したいほど。
 ゲットの方をちらりと見た。ゲットはたまらなく幸せそうな顔でむにゃむにゃと寝言を呟いている。なんとはなしにムッとして、思わず鼻をつまんでやろうとするとゲットがむにゃむにゃと言った。
「ユィーナ……愛してる………」
「……………………」
 ユィーナははぁ、とため息をつき、それから少し笑った。
 先のことはわからない。この愚かな勇者の気持ちがどうなるかなんてそんなことはわからない。けれど。
 今はとりあえず、こうして勇者の腕に抱かれていよう。彼とのセックスがそう嫌なものではなかったというのは、思ってもみなかった僥倖なのだし。
 痛かったけど、気持ち悪くはなかったのだから。
 そう決めて、微笑みながら、ユィーナはゲットの腕の中で眠りについた。

 翌朝アリアハンに戻って、祝賀パーティを行っていた真っ最中に大魔王ゾーマが現れまた旅に出る――なんて展開は、さすがにユィーナも予想だにしていなかったことだったけれども。

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