月の夜、ユキオはよく部屋の窓から月を眺めている。三日月でも満月でも上弦でも下弦でも、森からひょっこり顔を出した月がまた森の向こうへ沈んでいくのを見るのが好きなようだった。 そういうところを見ていると、コータには、ユキオがまるで普通の、この世のものではないように思えてしまう時がある。青色がかった髪も、切れ長の瞳も、すらりとした肢体も、この世ならぬもののように、常世の国の住人のように美しいと。 肉体のみならず、その精神も。その気高さ、優しさ、常に前を向く心、そういうもの全てがコータの幼い心にはまるで奇跡のように美しく映った。 ――むろん、コータがここまで言葉にして考えたわけではない。コータはやはりまだ小学五年生の少年にすぎなかったのだし、さして頭がいいわけでも、作文が得意なわけでもなかったのだ。 「――ユキオ……寝ないの?」 おそるおそる問いかけたコータを、ユキオはちらりと見た。 そして、少し目を伏せて、小さく、 「………コータ」 と呟いた。 コータはどきりとした。それは合図。夜二人っきりになった時のための。 一時だけ普段の立場も、これから先のことも、常識も禁忌も全て忘れて、二人きりの世界へ行くための合図。 コータはドキドキしながらベッドから立ち上がり、窓のふちに腰掛けているユキオのところへ向かった。 「………ユキオ」 小さい声で語りかけて、目を伏せているユキオの顔をそっと持ち上げ――キスをした。 まずちゅっと唇を合わせてから、舌を唇の間に侵入させる。唇を軽く舐め、その奥のユキオの舌を優しく撫でつつく。 ここで失敗したらこのあとのあれもこれもお預けになってしまう可能性がある。コータは目を閉じながら、懸命に舌を動かした。 と、 「………………!?」 ユキオの舌が逆にコータの中に侵入してくるのを感じた。 ユキオの舌はコータの舌を根元から先端までぴちゃぴちゃ音を立てながら舐めまわし、絡めあわせ、吸いついた。のみならずコータの後頭部にしっかり腕を回しながら、口内を隅から隅まで思うさま蹂躙し、口内のコータの舌を自分の舌と絡めあわせながら唇を強く吸う。 「…………はぁ…………」 数分後ようやく解放されたコータは、へろへろとその場にしゃがみこんでしまった。腰が砕けて立てない。久々のユキオからのキスは、やっぱり強烈だった。 「どうした、コータ?」 くすりと笑ってみせるユキオの笑顔が恨めしい。 「だって……ユキオから舌入れてくれるなんて久々だったし……」 「……そうかもな」 呟くとユキオはぐいっとコータに肩を貸して、ベッドへと歩き出した。コータは思わず慌てる。 「え、ちょっと、ユキオ……!」 「しないのか?」 「い、いや、そうじゃなくて、したいにはしたいけど……」 そんないきなりだなんて、今までほとんどなかったのに……と恥ずかしげにわたわたするコータに、ユキオは目を伏せた。 「……したくないんなら、いい」 「……ユキオ?」 ユキオは少しうつむいていた。顔をのぞきこもうとすると逃げるように逸らしてしまう。だがその目尻には、刷毛で刷いたような朱色が乗っかっていた。 ――恥ずかしがってるんだ。 そう思った瞬間、コータの中にぼっと燃え上がるものがあった。 「めちゃめちゃしたいです。させてください」 しっかり立ってそう宣言するコータに、ユキオは頬を染めてうつむく。 ――こういうふいに可愛いところ見せてくれるから、俺ユキオから離れられないんだよなー。 そんなことを考えつつ、コータは自分も恥ずかしくなって頬を染めた。 「―――ンっ………」 パジャマを脱がしつつ鎖骨にキスをされ、小さく喘ぐユキオにコータはほくそえんだ。 ユキオは鎖骨がけっこう弱い。別に馴らしたってわけじゃないけど(コータとて小学五年生、そこまでの技術はない)、何回かこうして体を合わせているうちに飲み込んだユキオの弱点の一つなのだ。 パジャマのボタンを一つ一つ外していくと、自然にユキオの意外なくらい白い肌が見えてくる。そしてその中に紅い華のようにぱっと映えるユキオの乳首―― だらしなく笑み崩れそうになる顔をなんとか引き締めつつ、コータはちゅっとユキオの乳首を吸った。 「ンッ……くッ……はァ……ふ……」 ユキオはなかなか声を出してくれない。だが、刺激を与えると時々つまるように息を漏らすことがある。その耐えきれず漏れてしまう、という感じの声がまた、なんというか、たまらなかったりするのだ。 唇から首、鎖骨を経て胸へ。胸から腹をつつつっと辿り、下半身のズボンとパンツを一緒に下ろし―― 「…………」 生まれたままの姿になるユキオを、コータは内心でれでれ、ドキドキしながら見つめた。すごく――きれいだ。 ユキオはそんなコータの視線に、恥じらうように目を伏せながら目尻を紅に染めている。 『……か……可愛い……!』 普段はとても見れないユキオのこんな姿に、思わず息を荒くしてしまうコータ。 しかし当然ながら見ているだけというのは辛い。表情を確認して拒まれていないと確かめつつ、そろそろとユキオの幼茎へ口を近づけていく―― と、その途中がしっと手で動きを止められた。 「え?」 その手は当然ユキオのもの。ユキオがコータの動きを止めたのだ。 「ユキ……わ、わ、わ!?」 そしてそのまま体をひっくり返され、ベッドの上に仰向けになるコータ。 「ゆ……ユキオ……?」 おそるおそる様子をうかがうと、ユキオは顔全体をうっすらと赤く染めて、コータの上に体を乗り出してきた。パジャマのボタンを外し、上を脱がし、下をパンツごとずり下ろし―― 「ユキ……わ、ちょ、あ!」 コータは硬直した。自分のペニスを、ユキオが口に含んだからだ。 自分のペニスが舌で舐められ、暖かく柔らかい口内で吸われるという肉体的感覚もさることながら。自分の小学生にしてはかなり大き目のペニスを、ユキオが朱を刷いたような顔で目を閉じて激しく口で愛撫し、口内に勢いよく入れたり出したりしながら時々様子をうかがうようにこっちを見上げる、そのビジュアルにごくり、と唾を飲みこみもう辛抱たまらんというくらい昂ぶってしまうコータ。 「あ、ユキオ、ユキ、あ、イイ、ユキ、ん、気持ちい、ユキオぉ……」 なによりユキオが、初めて自分のペニスをしゃぶってくれている! 今までちょっとその話を振っただけで睨まれたから諦めてたのに! それにたまらない幸福感を感じ、体中が溶けそうに気持ちよく、ユキオは自然に腰を動かしてしまった。 ユキオが苦しそうな顔をしているのはわかっていたが、気持ちよすぎて腰が止まらない。 「………ンッ、ふぅ………ンっ、んグ………」 「ユキオ、あ、ダメだよ、出ちゃう、出ちゃうってば、ユキ、ユキオっ!」 どくんどくん、ぴゅっぴゅっ。 ユキオの口内に発射して、はぁ……と満たされた溜め息をついてから、はっとコータは気づいた。 『お……怒られる……!』 苦しがってるのがわかってるのに勝手に腰を動かして、おまけに口の中に出すなんて。ユキオに怒られるのはそう珍しいことじゃないが、こういう時に怒られると当然この先はさせてもらえなくなる。 ど、どうしよう、と硬直しつつじっとユキオの様子をうかがうと、ユキオはじっとこちらの顔を睨みながら、ごくりと喉を鳴らした。 「…………!」 ごくりって。ごくりって、まさか。 「あ、あの……飲んじゃった、の?」 おそるおそる訊ねるコータに、ユキオはまたさっと顔に朱を散らしてそっぽを向く。 『か……可愛い〜!』 ユキオのこういう意地っ張りっていうか、照れてるのを隠そうとする(でもバレバレな)ところってめちゃくちゃ可愛い。俺、幸せだ……と感無量のコータ。 ユキオは、そんなコータを一瞬だけきっと睨むと、また目を伏せて、ぐいっと仰向けになっているコータの上――というか腰、すなわちペニスの部分に腰を合わせた。一度射精してくったりとなったコータのペニスに、自らの尻を擦りつけているのだ。 「ユキっ……!」 コータは硬直した。これって、まさか、もしかして、騎乗位ってやつをやろうとしてるわけ? な、なんて積極的な……! こんなユキオ初めてだ……と、すぐさま欲望が再燃しむくむくっとペニスを大きくしてしまうコータ。 だがそれはそれとしてこちらも黙って見ているわけにはいかない。それにこのまま挿れようとしたって入るわけがない。コータは上体を起こして、ベッド脇のローションボトルを手に取った。 息を荒くしながら何度もペニスに尻を擦りつけるユキオに何度も唾を飲みこみながら、ローションをたっぷりと手に取ってユキオのアヌスに触れる。 「………ンッ………」 小さく呻くが、ユキオは抵抗する様子はない。それにほっとして、コータはユキオのアヌスの周りに、中に、中のヒダヒダ一つ一つにまで、ローションを塗りたくる。そのたびにユキオは小さく呻いて震えるが、コータの方も何度も味わったその感触に興奮して震え気味だった。 指が三本楽に出入りできるようになった頃―― ユキオはがしっとコータのペニスをつかんだ。 思わず震えるコータにかまわず、ユキオはそのペニスの上に自分の腰を動かし、数度深呼吸してぐいっと下ろす。 「んはあ―――っ……」 「く、ンッ……」 数度のトライののち先端が入った。それから息を吐きながらぐぐぐっと体を下に落とす。は、は、は、と短い呼吸を繰り返しながら、ぐいぐいと腰を何度も捻り―― ついに根元までコータのペニスを収めた。 「す……すご………全部入っちゃった………」 喘ぐコータをちろりと見ると、ユキオは休みもせず腰を上下に動かし始める。 「ゆっ、あ、ユキッ、はあ、ユキオっ? ふぅ、んはぁ」 積極的すぎるユキオに、コータは思わず問いかけてしまったのだが、それも襲いくる快感の前に流されていった。ペニスの先端がユキオの中のヒダヒダを掻き分けていく感触。ペニスの先端から根元までをユキオの熱く柔らかい中が締め付け、愛撫する。そしてどんどん奥に進んでいくと一番奥の固い部分にペニスの先端が押しつけられ、包み込まれる。 視覚的にも強烈だった。自分のペニスがユキオのアヌスに凄い勢いで抜き差しされるのが余すところなく見える。ユキオの自分よりいくぶん小さいペニスがその前でぺちぺち自分の体に叩きつけられる。何度も短く息を吐きながら、汗を飛び散らせながら、自分の腰の上で激しく動くユキオ―― ――きれいだ。 コータはたまらず、ユキオを抱き締めた。驚いたか一瞬動きを止めるユキオを、下から何度も突き上げる。 抱きしめながら突きながら片方の手でユキオのペニスを激しく扱き―― 「あ、ああ、すご、ユキ、ユキオ、すご、イイ、すごくイイよ、ああ、イく、イく、ああ、イくぅ―――っ………」 「………っ!」 数十秒後、コータはユキオの中に精液を吐き出した。 それに数秒遅れて、ユキオもコータの手の中に射精した。 「………悪かった」 後始末をして素裸で二人同じベッドに寝ているけだるい時間。ユキオがふいに、こちらを見ずにそんなことを言った。 「なにが?」 きょとんとするコータに、ユキオはぽつぽつと言う。 「……今日のは、お前に八つ当たりした。ちょっと――ミッションのこととかでイライラしてて、なんだか無茶苦茶やってみたくなって、それでお前にその感情をぶつけてしまったんだ。――悪かった」 「そんな……」 八つ当たりって言っても殴られたわけでも蹴られたわけでもなし。むしろ積極的にしてくれるっていうのは俺としては嬉しいんだけど――と言おうかと思ったが、怒られそうでもあり照れくさくもあったので、代わりにこんなことを言った。 「八つ当たっていいよ」 「え?」 きょとんとするユキオに、コータは(自分としては優しい笑いのつもりだが、はたから見ると情けない感じに)笑いながら続ける。 「俺、弱い代わりに打たれ強いから。ユキオがイライラするんなら俺にぶつけてくれていいよ。その方が俺、嬉しいし」 「………お前って………」 ユキオは思わずといったように吹き出した。珍しくくっくっと声を立てて笑うユキオに、コータもへへへと笑いながら言う。 「少しは頼りにしてくれよな。俺、これでもユキオのパートナーのつもりなんだから」 ユキオはくつくつ笑いながらコータを見ると、ふいに掠めるようなキスをひとつくれてにっと笑いかけた。 「――信頼してるよ」 コータは一瞬硬直して、ぼっと顔を赤くした。 ユキオって、ユキオって、やっぱり……すごい。 「……うむ、今日もいい絵が撮れた。やはりユキオたちの部屋に隠しカメラを仕掛けて正解だったな」 ガリレイ博士は研究室で一人、そんなことを呟いていた。 「やはり大人向けのこういうシーンもなくてはな。十八歳未満お断りの特殊ミッションの途中にボーナス映像として入れることにしよう。それにしてもまあ小学生だというのによくやるな、まったくけしからん……」 自らを省みるということをしない、やっぱりどーしよーもないガリレイ博士であった。 |