ボクがいつでも一人じゃないワケ
 テーブルの上に置かれた料理を見て、ノリスは不満に思わず顔を膨らませた。
「これだけー? せっかく仕事成功したのにさ」
 それに対しガルガドは即座にがつんとノリスの頭をぶん殴る。
「黙れクソガキ、貴様にはこれで充分じゃ。敵地への侵入も尾行も失敗し、強行突破せざるを得なくなって、今回組んだパーティに『お前とは二度と組まん』と言われたのはどこの誰だと思っとる」
「……はーい、ボクでーす……」
 ノリスは小さく手を上げた。まったくもってガルガドの言う通りなのだ。
 イリーナたちパーティと別れて。ガルガドと二人で旅をするようになってから、もうそれなりの時間は経っていた。
 光と闇の街道を抜け、ファンドリアを通って今いるのはロマール。そこで自分たちは別のパーティと組み、犯罪捜査の仕事を受けたのだが――
 今回もノリスはいちいち失敗しまくって、大いにパーティの足を引っ張ったのだった。
「だいたいお前は落ち着きが足りん。仕事をしておる最中にすぐ余所見をしおって、猫かお前は。そんなことだからどのような仕事もうまくいかんのだ」
「………うん」
 ノリスは小さくうなずいた。本当に、そうだなぁと思うのだ。
 変わりたくて。このままじゃいけないと思って、みんなのところを飛び出してきたけれど。
 結局以前と同じようにガルガドに助けられて、足を引っ張って、面倒見てもらってる。
 変わろうと思って必死に頑張ってるつもりだけど、全然変わらない自分って、本当に――なんなんだろう。
 しゅんとなったノリスを見て、ガルガドは言いすぎたと思ったのか渋い顔をしつつお茶を濁すようなことを言った。
「……まぁ、焦ってもなにも始まらん。まずは自分のできることをひとつひとつ片付けていくことだ」
「うん………」
 珍しく優しいガルガドの言葉も、ノリスを浮き立たせはしなかった。以前にも何度か感じたことのある、そのたびに知らないふりをしてそのうち本当に忘れてきた、自分がまるで無価値な存在ではないかという恐怖。
 さんざん無神経だといろんな人に言われてきたし自分でもその自覚はある。けれど、時々、感じてしまうのだ。
 自分は本当にここにいていいのだろうか、と。
「―――ノリス?」
 その時、ふいに、そう自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「―――え?」
 驚いて声のした方を見る。以前にも聞いたことのある声だ。それも何度も。忘れっぽいノリスでも忘れないほど自分の近くにいた人の声――
「お前、ノリスじゃねぇか!? 久しぶりだな、なにやってんだこんなとこで!」
 嬉しげな声と表情でそう言ってくる二十代後半の男を見て、ノリスは仰天した。まさか、なんでこんなところで――
「――お兄ちゃん!?」

 お兄ちゃん――本名イーク・アルゲンスは陽気な声で「乾杯!」と叫び、ノリスの持っているジョッキに自分のジョッキを勢いよくぶつけた。エールがちょっぴりこぼれるのに、「おっとっと」と言いつつ口をつけた。
「……で、ノリス。こちらは?」
 なぜかは知らないが凄まじく不機嫌になっているガルガドに、ノリスはなんとなく身の置き所のない気分になりながら紹介した。
「えっと、この人はイーク・アルゲンスっていって、ボクのシーフの技の師匠で――」
「初めてのオトコ」
「っ!?」
 ガルガドはみしり、と音が立つほどジョッキを握り締め、それから強いて冷静になろうとしているとありありとわかる声で言う。
「ほ、ほう。つまり、ノリスと貴殿――イーク殿は以前交際していた、と?」
「え、うーん、交際っていうか……」
「ま、可愛がってやってはいたな」
「…………」
 なんだかどんどん不機嫌になってくるガルガドに、どーしたんだろーと首を傾げつつもノリスはエールを飲んだ。エール独特の濃い味わいと香ばしい苦味が舌を刺す。
「お、ノリス、お前エール飲める様になったんじゃん」
「そりゃそうだよー、ボクもう十五だよ?」
「そーかそーか、大人になったなー。以前飲ませてやった時はべろべろに酔っ払って俺に抱きついてきたのによ」
「しょーがないじゃん、あの時はホントに子供だったもん。お兄ちゃんだって楽しんだくせに」
「まーな。あの時お前すっげーエロい顔して咥えてくっからさー」
「…………っ!」
 がづん、とガルガドがジョッキを全力でテーブルに叩きつける。ガルガドらしからぬ行為に、ノリスはまた首を傾げた。
「どうしたの、ガルガド? そんなことしたらテーブルにもジョッキにも傷がついちゃうよ」
「……やかましい、クソガキが」
 ガルガドは苦虫を十匹ぐらいまとめて噛み潰したような顔でそう言うと、イークを睨みつけた。
「イーク殿。つまりあなたはまだ年端もいかぬノリスの脳足りんっぷりに付け込んでノリスの体をいいようにもてあそんだのですな?」
「え? どうしたのガルガド、急にそんなこと――」
「お前は黙っておれクソガキ」
「そーだな、ノリス、お前はちっと黙ってなんも考えねーで座ってな」
 イークもにっこり笑ってそう言う。戸惑いながらもノリスは黙ってエールをすすった。二人がこう言ってるんだから黙っていた方がいいんだろう。
「同意は得たぜ? 俺とこいつが初めてヤったのはこいつが数えで十の年だ、もうなにもわからん年じゃないさ」
「年齢は関係ない。このクソガキは今でさえ相当な低能じゃ、当時はまともにものを考えることすらできなかったに違いない。それをあなたは――」
「ガルガド、そーいう言い方ひどくない?」
「黙っておれと言っただろうがクソガキ! わかっておるのかっ、お前のされたことは神の法に反しておるのだぞ! 年端もいかぬ年頃に男におか……」
 とたん、ガルガドの口にイークの手が当てられた。
「こんなとこで話すことじゃねぇだろ?」
 にやりと笑って言うイークを、ガルガドは燃えるような瞳で睨みつけ、イークの手を振り払って立ち上がった。
「行くぞクソガキ。これ以上このような男と話していると魂が穢れる」
「ひでぇな」
「え、えー?」
 ノリスは困惑して眉根を寄せた。そんなこと言われたって、だってせっかく久しぶりに会えたのに――
 イークがにやりと笑ってノリスに抱きついてきた。ガルガドの眉間にぴしっと皺が寄る。
「別にいいよなー、ノリス? せっかく久しぶりに会ったんだからもーちょい話したいよなー?」
「うん、そーだね」
「クソガキ! わしの言うことが聞けんのか!」
 その言い草にちょっとカチンときて、ノリスはそっぽを向いた。
「別に久しぶりに会った人とちょっと話したっていいじゃん。ガルガドがなに怒ってんのかわかんないよ」
「………っ、勝手にせいっ!」
 ガルガドは頭から湯気を出しながら立ち上がり、ずかずかと去っていってしまう。なにもそんなに怒らなくったってさ、と少し寂しい気持ちになりながらガルガドの背中を見つめるノリスの唇に、ふいにイークの指が降りてくる。
「久しぶりに会ったんだ、俺の方だけを見つめてくれていてもいいだろう?」
「なんで?」
 きょとんとして訊ねると、イークは苦笑した。
「そこらへんのノリは全然成長してねぇな……睦言ってやつだよ、睦言。お互いの気持ちを高めようとしてんの」
「……するの?」
「しないのか?」
 逆に言われて、ノリスはちょっと口ごもったが、結局うなずいた。
「……する」
「よし、じゃあさっさと上に行くか。俺一人だから遠慮しなくていいぜ」
「うん」
 ノリスはそう言って、エールをくいっと飲んだ。

 別に、ガルガドを怒らせたかったわけじゃない。
 ただ、せっかく久しぶりに会ったお兄ちゃんと、あっさりお別れするのは寂しいと思ったのと。
 ここのところしてなかったから、溜まってたのと。
 久々にお兄ちゃんとヤりたいって思った、それだけなのだ。
「ン……っむ、ン……」
 部屋に入るやぐいっと体を引かれてキスされた。もちろん舌を絡め、吸い、甘噛みも唇や歯の刺激もする思いきり深いキス。ノリスもそれに応えて舌をイークの口の中に侵入させる。
 柔らかく優しくノリスを包むイークの舌。ノリスの攻撃をふわりと受け止めて打ち返す技に、ノリスは快感に打ち震えた。久しぶりのイークの味。やっぱりお兄ちゃんは上手い。
 キスをしながらお互いの服を脱がす。上着を落とし、シャツを脱がし、ズボンをずり下ろす。こういうのはやっぱり気分が盛り上がる。相変わらず引き締まったイークの腹、そしてその下の半勃ちのペニスを見ると、久々の快感を予測して背筋が震えた。
 ひょい、と体を持ち上げられてベッドに放り投げられる。とっさに受身を取ったが、ちょっと尻が痛かった。
「受身上達したじゃん。体は重くなってんのに」
 面白そうに笑うイークに、ノリスは思わずむっとした。
「受身取っても痛いのは痛いんだからね。ちゃんと優しくしてよ」
「へいへい。――じゃ、優しくしてやっからケツ向けな」
 懐から取り出した香油の瓶を振りながらからかうようにそう言われ、ノリスは不覚にも体温が上昇した。体が覚えてる、イークに施され、教えられた様々なたまらなく体を熱くさせる行為――
 思わず唾を飲み込みながらベッドに置いてある枕に顔を伏せ、腰と尻を高々と上げる。誘うつもりはないが、つい自然に腰が振れた。
「相変わらずやっらしいな。そんなにケツ触ってほしいのかよ」
「うん……いっぱい触ってほしいよ、早く触ってよぉ……」
 演技をするつもりはなかったが、自然ねだるような口調になってしまう。イークはくくっと楽しげに笑った。
「しょうがねぇな、このエロガキは。ほれ、もっと尻上げろ」
「うん……あ!」
 高く上げた尻に温かく、濡れたものが触れたのを感じ、ノリスは声を上げた。息が尻に吹き付けられるのを感じる、これはイークの舌と、唇だ。
 イークの舌はノリスのさっき打って少し痛かった場所をべろべろと舐め回す。濡れたものに痛いところを撫でられる、背筋のぞわぞわする感覚に体が震える。
 そして、尻のラインをつつぅ、と伝うように舐められ、後孔へ――
「っあ!」
「あー、久しぶりだぜお前の匂い。この微妙にウンコの匂いの混じった乳臭いガキの体臭がいーんだよなー、変わってねー、つかたまんねー……」
「やぁ……そんなとこ、匂い嗅がないでよぉ……」
 尻たぶの間に鼻を突っ込まれて匂いを嗅がれ、ノリスは恥らいながらも快感に震えた。お兄ちゃんにいやらしいことしてもらってる。そういう思いが自分に快感を呼び起こすのだ。
「へっへっへ、そう言いながらなんだこれは? チンポ勃ってきてるじゃねぇか」
「やぁ……言わないでぇ……」
「もっと言って、だろ?」
 言いながらイークはノリスの後孔に唇をつけた。ノリスの肛門に、尻の穴に、イークの分厚くてぬめぬめした舌が触れ、入り口を舐め回し、それから中に入ってくる――
「はぁんっ……!」
 ノリスは快感の喘ぎ声を漏らす。イークの舌は自分のイイところを完全に把握していた。柔らかく優しく感じるところのギリギリをなぞり、撫で、焦らすようにすっと引く。その巧みな技に気持ちよく翻弄されながら、ノリスは懇願してみせた。
「お兄ちゃんっ、もっとしてぇ……もっと、奥までぇ……」
「……んぷぅ、んっとに変態だなお前は。男のくせにそんなに尻舐められるのがイイのかよ」
「うん……ボク、変態だよぉ……んっ!」
 ぢゅるるるっ、と最後に思いきり吸われてイークの唇は離れた。はぁ、と吐息をつくノリスの背中を撫でて、こちらを向かせる。
「チンポしゃぶりたいか?」
 先ほどよりもいくぶん元気になっているイークのペニスに、ノリスは思わず唾を飲み込みながらうなずいた。
「じゃあ、ちゃんと口で言うんだ。『チンポ大好きないやらしいノリスに、お兄ちゃんのチンポしゃぶらせてください』ってな」
「……お兄ちゃん、そういうの好きだっけ?」
 思わず不審の目で眺めると、イークは誤魔化すような笑顔でぐい、とノリスの髪を軽く引っ張った。
「年とれば男は変わるんだよ。いいから言え」
「……チンポ大好きないやらしいノリスに、お兄ちゃんのチンポしゃぶらせてください……」
 別に間違ったことは言っていないが、なんだか妙に恥ずかしい気持ちになりながらノリスはイークの指示通りの言葉を口にした。イークはにやりと笑って腰を前に突き出す。
「よし。じゃあ、しゃぶれ」
「うん」
 二年前と変わらず自分よりはるかに大きいイークのペニスをノリスはじっと見つめ、それから口に含んだ。懐かしい塩気と固さ、そして大きさ。たまらないしゃぶり心地にノリスのペニスはますます張り詰める。
「ん……いいぜ、もっと喉の奥まで咥え込んで……」
 イークの気持ちよさそうな声に嬉しくなって、ノリスは少し無理をして喉の奥までイークのペニスを導いた。ときおり咳き込みそうになるものの、喉と頬と舌でぎゅっとイークのペニスを締め付け、吸い込みながら顎を上下に動かす。
「う……おお、たまんね。お前上手くなったなぁ……」
「ほお?」
「ああ……おおっ、くっ。あー、駄目だ、我慢できね。……なぁ、ノリス、俺のションベン飲むか?」
「え……」
 以前にはめったに言わなかった申し出に、ノリスは少し目を見開いた。だがイークが思いのほか真剣な顔で言っているのを見て、少し考えてから口を離しうなずく。これまでにもそのくらいなら何度かしている、ペニスを咥えながら男の小便が口の中に出されていく感触というのはそう悪いものじゃない。
「よし、じゃ、おねだりしてみろ」
「なんて?」
「そうだな……『ノリスはお兄ちゃんのおしっこ飲むのが大好きな変態です。変態ノリスにお兄ちゃんのおしっこ、いっぱい飲ませてください』でどうだ」
 どうだって、別にボクが言いたいわけじゃないんだけど、と思いつつもノリスは素直に復唱した。
「ノリスはお兄ちゃんのおしっこ飲むのが大好きな変態です。変態ノリスにお兄ちゃんのおしっこいっぱい飲ませてください」
 その言葉にイークは笑みを深め、ぐいっとノリスの頭を引き寄せて口の中にペニスを突っ込んだ。そしてそのまま小便を放出する。
「んむ! ん、む、むあ、むうあ………」
 ショワァァァ……と音を立てながらノリスの口中に小便が放出される。ノリスはんぐ、んぐと喉を鳴らしながら飲んだ。口の中一杯にイークの小便の少し塩辛くほの甘いような味が広がり、ノリスは自分が便所になったかのような気分にペニスを震わせた。
「ん……ああ、くぅ……たまんねぇなぁ……やっぱ、お前いいわ。すっげ気持ちよかった」
「……そう? よかった」
 笑みを浮かべるイークに笑みを返すと、イークはごくりと唾を飲み込んでぐいっと自分を引き寄せてキスをした。自分が今おしっこしたとこなのに汚いとか思わないのかな、などという思いがちらと頭を掠めるが、口の中を味わわれ自分のペニスをいじられ、そんな考えはすぐにどこかへ飛んでいってしまう。
 キスを終えるとイークはノリスをベッドの上に押し倒し、にやっと笑いながら言った。
「縛っていいか? ていうか、縛るぞ」
「いいよ。どう縛るの?」
 縛られるのなんて二年前はそれこそ日常茶飯事的にやられていたことだ。イークはその答えに満足げに笑むと、ロープを取り出しながら楽しげに言った。
「M字」
 ああM字開脚ね、とノリスはうなずく。足をMの字のように開いて足を抱えさせ、その腕と足を縛るやり方だ。縛り方としてはかなり単純な方。
 うなずいて足を開くノリスを、イークは楽しげに縛った。腕と足を縛られ、ごろんと転がされ、完全に無防備な体勢になる。
「めちゃくちゃやらしいカッコしてるぜ、ノリス。チンポびんびんにして、ケツ穴ぱくぱくさせて。そんなに期待してんのかよ、このエロガキ」
「いいじゃん、久しぶりなんだし……」
「どうしてほしい? 言ってみな」
 イークの言葉に、ノリスは少し考えた。これはやっぱり、いやらしい言葉を期待してるんだろうな。
 ノリスなりに考えて、いやらしい言葉を口にしてみる。
「ノリスのお尻の穴に、いっぱい香油つけて、指入れて」
「それだけでいいのか?」
「えっと、何本も指入れて、いやらしく動かして、ノリスのお尻の穴いっぱい広げて……」
 これで合ってるかな? というような気持ちでイークを見上げると、イークはにやりと笑ってうなずいてくれた。
「いい子だ」
 香油をたっぷり取った指が、つぷん、とノリスの後孔に触れた。何度か軽く表面を撫で回して、香油を塗りこめ、やがてつぷん、というような感触と共に中に入ってくる。
「んぁ………!」
「……ずいぶんお前のケツ穴拡がったみたいじゃねぇか。俺と別れてから何人ぐらいの男を咥え込んだんだ?」
「そんなにたくさんじゃないよぉ……みんな一度っきりだし……」
「何人だよ」
 どこか固い声で言いながらイークは激しくノリスの後孔に指を出し入れする。ノリスは思わず悲鳴を上げた。
「いたっ、お兄ちゃん、痛いってば!」
「何人咥え込んだんだよ。言ってみろっ」
「じゅ、十五人だよぉっ! 痛いってばだから!」
「…………ちっ」
 イークは小さく舌打ちすると、今度はうって変わって優しくノリスの後孔をいじり始めた。体や唇にときおりキスを落としつつ、たっぷりと香油を使いつつ、少しずつ後孔を濡らし、広げていく。
「あ、はぁ、ふぅ、うふぅ、ん……」
 再び訪れた快感にノリスは喘ぎ声を上げる。やっぱりイークとのプレイは気持ちいい。自分の感じる場所も、タイミングも、快感の波のコントロールの仕方も、すべてをちゃんとわかっている。
 それはやっぱり何度も体を合わせた相手だからだろう。互いが互いにどう出るかわかっている、知り尽くしたがゆえの安心と快感――
「挿れるぞ」
 興奮に震える声でそう言うと、イークはノリスの中に押し入ってきた。
「あ、はぁん!」
 生のペニスが体の中に打ち込まれる快感に、ノリスはしばし震えた。イークの熱い体温が伝わってくる。自分の中が大きく拡げられて、イークのペニスとぴったり密着している。自分の中にぐいぐいとイークのペニスが分け入ってくる。自分の奥を、イイところを、イークの実にちょうどいい固さと柔らかさと熱さを併せ持ったものが突いてくる―――
 気持ちいい………。
 慣れ親しんだ、けれど久しぶりの感覚に、ノリスは涎を流して喘いだ。
「どうだっ、ノリスっ、気持ちいいかっ」
「気持ち、あひっ、気持ちいいよォ……」
「他の奴らより俺の方がずっといいだろっ、どうだ、えっ」
「う、ひっ、うんっ、ひうっ、お兄ちゃんが一番気持ち、いいよぉっ……!」
「俺のチンポがそんなにいいのか、このエロガキ! じゃあ『お兄ちゃんのチンポでケツ穴ずこばこしてもらって気持ちいいです、もっと掘って種付けしてください』って言ってみろっ」
「あ、あひっ、おにっ、いちゃんのっ、ちんぽで、けつあなっ、ずこばこしてもらって気持ちいいでっ、もっと、掘って、もっとしてぇっ……!」
「じゃあもっと掘ってやるよ、チンポも扱いてやるっ! おら、どうだ、気持ちいいかっ!」
「気持ち、い、ああ、い、だめ、でひゃう、イく、イっひゃ………!」
「くぅっ、出すぞっ!」
 どくんどくん、と中に大量の精液が流される感触。その自分の中を満たしていくような、大好きな感触と自分が達したのとどっちが先か、ノリスにはわからなかった。

 そのあとも同じベッドでだらだらと時を過ごしながら、結局ノリスは四回、イークは三回イった。そのあともしばし同じベッドでひっつきながらこの二年間のことを話したりしていたが、そろそろ東の空が白み始める頃、ノリスはのろのろと立ち上がる。
「ん? どしたよ、ノリス」
 優しい声。イークは普段から優しくなかったわけではないが、一番優しくしてくれるのは事後だった。他の男と比べてみると、それだけ誠実だったのかな、とか思う。
「部屋に戻らなくちゃ。ガルガドって、夜遊びすると怒るけど、朝帰りするともっと怒るんだ」
「…………」
「それじゃあね、お兄ちゃん。久しぶりに会えて、嬉しかった――え?」
 ぐいっと腕の中に引き寄せられて、ノリスは驚き動きを止めた。どうしたんだ、この人?
「行くなよ」
「おに――」
「なぁ、ノリス、あいつ捨てて俺とより戻さないか? 一緒に組んででかいことしようぜ。お前もずいぶん腕上げたみたいだし……その方が絶対いいって。俺にも、お前にも。な? うんって言えよ、俺ずっとお前に優しくしてきてやっただろ?」
 ノリスは驚いた。イークがこんなことを言ってくるとは思わなかった。こんな、まるで自分にすがりつくような台詞を吐くなんて。
 驚きはしたが――
 ノリスはあっさりと、首を振った。
「悪いけど、それは駄目だよ」
「……なんでだよ」
「ボク、今、変わろうって思ってるんだ。今までのボクよりいいボクになろうって。一人前の冒険者になろうって。まだまだガルガドに迷惑かけてばっかだけど、それでも諦めちゃったらなにも始まらないって思うから」
「……そうかよ」
 イークの腕が外され、ベッドの上に落ちた。大丈夫かな? とちょっと心配して見ると、イークは苦く笑んでこちらを見る。
「行けよ。とっととお前の仲間のとこへ行っちまえ」
「……うん、わかった」
 ノリスは素直にうなずき、服を着て部屋の外へ出る――
 と、そこに声がかかった。
「ノリス」
「? なに?」
 振り向いて訊ねると、イークはちょっと笑って言った。
「ありがとな。今まで」
「……うん?」
 なんでそんなことを言い出すのかわからずノリスはきょとんとしたが、それでも小さくうなずいて、今度こそ部屋の外へ出た。

 こっそり鍵を開け、こっそり部屋の中へ入る。忍び足は自分でも会心と思えるほどの出来栄えだったが、ベッドに入ろうとした瞬間低い声がした。
「戻ったのか」
「あ、う、うん……」
 気まずいなぁ、と思いながらもノリスはベッドの上に正座した。できるならお説教短くしてほしいなぁ、眠いし、などと思いながら。
 だが、ガルガドは説教を始めもせず、怒りもせず、なんだか静かな顔で言ってきた。
「ノリス」
「……はい?」
「お前、あの男と共に行くのか」
「……はぁ?」
 ノリスは唖然とした。なんでそんなこと考えつくんだろう?
「行かないよ。なんで?」
「……好いているのではないのか」
「そりゃ好きだけど、ボクガルガドと一緒にいる方がいいし」
「………そうか」
 少し戸惑ったような声でそう言って、もう一度普通の声で「そうか」と言うガルガド。なんなんだろうなー、と思いつつも笑って言った。
「第一、ボクがなにしてもいちいち面倒見てくれるような人、ガルガド以外にいないでしょ?」
「……ちょっと待て。わしはいつからお前の面倒を見ることが確定したのだ?」
「え、だってそのつもりで一緒に来てくれたんじゃないの?」
 きょとんと言うと、ガルガドはふっふっふ、と不穏な笑い声を上げた。
 あ、ヤバい。
 と思うもすでに遅し、ガルガドはベッドの上にすっくと立ち上がっていた。
「そこに座れクソガキ。お前にはマイリーの、いやむしろ人の心得というものをしっかと叩き込んでおかねばならんようだな……!」
 ――それから昼まで、ノリスは何度も舟を漕ぎながらもガルガドにえんえんと説教され続けた。
 それでも、ガルガドではなくイークと旅をすればよかった、などという考えはちらとも浮かばなかったのだけど。

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