この作品には男同士の性行為を描写した部分が存在します。
なので十八歳未満の方は(十八歳以上でも高校生の方も)閲覧を禁じさせていただきます(うっかり迷い込んでしまった男と男の性行為を描写した小説が好きではないという方も非閲覧を推奨します)。
それと、基本的にどこもかしこも下劣な描写だらけですので、そういうものにまるっきり耐性がないという方もやめておいた方がよろしいかと。




『拘』

 覇王の一族タイタニアの五家族の当主の一人、美貌の青年公爵イドリス・タイタニアが現在に至るまでひた隠しにしつつ、関係者を秘密裏に、かつ執拗なまでの熱意をもって探しているある事件がある。
 その事件は法的には存在しておらず、というより存在を知る者すらごくわずか、タイタニアの四公爵の間ですらほとんど知られていない話なのだが、僅少ながら存在するその事件に関するイドリス卿の態度を知る者は、みな口をそろえてこう言った。
『悪鬼を見た』
 と。

 事件はケルベロス星域会戦から二年前、イドリスがまだ二十二歳の頃に起こった。
 イドリスは惑星トゥルケの1817号線にて車を走らせていた。トゥルケは星間都市連盟でいうならばバルガシュに近い星域にあり、タイタニアの支部がある。イドリスはその視察を果たすべくこの星にやってきて、仕事を終え宇宙港へと向かっていたのだった。
 トゥルケの宇宙港はさほど数がなく、どれも都市部からやや離れている。イドリスは支部から一番近い港に船を停泊させていたが、それでも最新式の車でも片道六時間はかかる道のりだった。
 当然都市部からはチューブ(チューブ内の空気を抜いて走らせる超伝導式列車)が出ておりそれを使えば三十分もかからずに着けるのだが、タイタニアの専用便を出すにはやはり前日以前にそれなりの手続きが必要で、イドリスは秘書の過失でそれが果たせなかった。
 なので(その秘書を即座に解雇しはしたものの)、翌日以降に出航を伸ばすという時間の無駄遣いでしかない選択肢以外にはそれしか方法がなかったので、舌打ちしつつもイドリスは車で港へ向かうことになったのだった。
 1817号線は基本的にほとんど人気のない道であるため(山岳その他障害物の関係でチューブのように宇宙港まで直進はできなかったのだ)安全性が心配されたが、イドリスはそれを一言の下に退けた。
「タイタニアの支配する惑星でタイタニアに楯突く輩がいるというならば、見せてみるがいい」
 支配下といっても統治者はヴァルダナ帝国の領主なことを全力で無視した発言だが、むろんそう大言壮語しながらも安全性に対する対策は抜かりがなかった。周囲には合計十車もの護衛を走らせ、イドリス本人が乗る車は防弾防ガス防レーザーの超高級車、爆弾を投げつけられても小揺るぎすらしないという代物だ。イドリスは自身の安全を確信するというより当然のものと認識して、広々とした車の座席でてきぱきと次に予定している視察地の仕事を片付けていた。
 と、唐突にイドリスの乗る車の速度が落ち始めた。イドリスはきゅっと眉を寄せ、運転席への通話ボタンを押して険のある声を投げつけた。
「車の速度が落ちているぞ。なにをしている」
『は、はっ、申し訳ありません! どうやら重力制御用の燃料が少なくなっているようでしてっ……申し訳ありませんが、一度車を止めて点検したいのですがっ』
 イドリスはさらに眉間に皺を寄せ、この運転手の解雇を決意したが、今そんなことを言っても仕方がない。とすっと座席のスプリングに体を預け、重々しく告げた。
「早くしろ」
『は、はいっ』
 すう、と静かに車が道の端に止まる。周囲の車も同様に。イドリスの座席は運転席からは視界が通らないのでわからないが、おそらく向こうでは運転手が慌てて車のボンネットをひっくり返しているだろう。
 待つこと数分、通話が入る。
『イドリスさま、修理が終わりました』
「ああ」
『そして、おやすみなさい』
「――なに?」
 反応するより早く、かろん、と音がして小さな筒がダッシュボードの上に落ちた、と思うや部屋全体に煙が広がった。視界が奪われた、と思うや頭がくらりとして、ガス、という言葉を思い出すのとほぼ同時にイドリスは意識を失ってくずおれた。

「……っ、う」
 頭の奥に錐を突き刺されたような痛みに、イドリスは頭を振りながら目を開けた。
 腕と足がひりひりと痛む。首に違和感がある。頭を巡らせて、はっとした。イドリスの腕と足が広げられ、手首足首がなにかに縛りつけられている。腰もだ。しかも自分は服を着けていない。まったくの丸裸だ。
 これはなんだ、と怒りに顔を歪め、赤く染める――そこに、声がかかった。
「起きたか、イドリス」
「っ!」
 イドリスはばっと声をかけられた方を向く。そこには男がいた。がっしりとしたいかつく逞しい体をしているが、顔立ちからまだ二十代前半と思われる男が、椅子に座って煙草をくゆらせている。
 その男は薄く笑みを浮かべながらイドリスを見ている。イドリスは怒りで目の前が真っ赤になったが、あえて見下すように男を見つめ、冷たく言った。
「タイタニアの支配下で、タイタニアに手を出す愚か者がいようとはな」
 だが男はくくっ、と笑い声を立てるだけだ。
「タイタニアねぇ。まったく、変わらないな、イドリス。お前はいつもただのイドリスじゃなく、イドリス・タイタニアとして扱われたがる」
「……なにを言っている。私は貴様のような男と会った覚えはないぞ」
「そうかい? そりゃ残念」
 男は薄く笑った表情を変えない。こいつ、と苛立ちに眉間に皺を刻むや、男の背後にあった扉からどやどやと何人もの男たちが入ってきた。
「おお、お嬢ちゃんの目が覚めたか?」
「まぁ薬使ったんだから覚めなきゃまずいがな」
「なんだ、まだヤってねぇのか。とっとと始めちまやよかったのによ」
 イドリスは思わず目を見開く。あとから入ってきた男たちは全員仮面を被っていた。革製のようだったが、目の部分と鼻口の部分にだけ穴が開いて、目の部分は偏光ガラスでこちらからは見えないようになっている。しかもボイスチェンジャーがついているようで、声は明らかに電子音がかった、人の肉声とは違う代物だった。
「……貴様ら、何者だ。なにが目的で私を連れ去った」
 あくまで威圧的にイドリスは問うた。こんなくだらぬ誘拐犯どもなどに頭を下げる気は毛頭ない。イドリスはタイタニアの中のタイタニア、四公爵の一角を成す人間なのだ。たとえ連れ去られなにをされるかわからない状況であろうと、こんなクズどもに屈するつもりはなかった。
 だが、怒り出すかと思った誘拐犯どもはみなにやにやと笑っている。一人だけ顔を出している最初の男が、薄く笑ったまま問い返してきた。
「なにが目的だと思う?」
「金か、政治的テロか、復讐か。どれかは知らんが、そんなくだらん理由だろう。言っておくが、タイタニアは犯罪者に金をくれてやるほど放埓でもなければ、テロに屈するほど惰弱でもない。そして復讐であろうとなんであろうと、タイタニアに対する攻撃には全力をもってそれに層倍する苦痛を返すのだ。地獄の苦しみの中死にたくなければお遊びで済むうちにやめておくことだな」
 高飛車に告げると、くっくっくっ、と男たちの間から笑い声が漏れた。さもおかしげな、楽しげな、弱者の無知を馬鹿にする強者の笑い。こんな犯罪者風情に、とかぁっと頭に血が上ったが、口に出しては冷静に、冷たい口調を作って訊ねてみせた。
「なにがおかしい。自分たちの未来が絶望的なのがそうもおかしいか」
「そうじゃねぇよ、お嬢ちゃん。俺らはただ、おかしくてしょうがないのさ」
「あんたがまったく可愛い嬢ちゃんだねぇ、ってな」
「っ……!」
 イドリスはぎっと男たちの方を睨む。お嬢ちゃんだの可愛いだの、そんなことをこんな下衆どもに言われるなど心外などという段階の話ではない。
「貴様らのようなクズどもにそんな呼ばれ方をするほど私は落ちぶれてはいない。命が惜しくば少しは口を慎むことだな」
「ぎゃっはっはっは、なんだこいつ? バカか? この状況でどっちの命が危ないかわかってんのかね?」
 指を差され、イドリスは声にはあくまで軽蔑と冷たい高貴さだけが宿るよう神経を払いながらは、と笑ってみせる。
「愚か者どもが。自分たちの命が安全だと? タイタニア四公爵の一人が消えれば、その部下をはじめとしたタイタニアが総力を上げて――」
「探してはいるだろうが、ここにはたどりつけねぇよ」
 最初の男が、変わらぬ薄い笑みを浮かべながら言う。
「確かにお前が消えれば部下たちはやっきになってお前を探すだろう。だが二十四時間、少なくとも十二時間程度経つまでは上には報告しない。自分たちだけの力でお前を探し出し、失点を回復したいからな」
「………っ」
「それがうまくいかずに警察やら私兵やらを動かすことになってもここはそう簡単に探り当てられない。ここは地下でな、入り口は擬装してあるから至近距離まで近付いて相当念入りに探っても見つけるのは困難だ。見つけにくい場所にあるしな。お前の服は処分したから、発信機の類は存在しない。ついでに言うなら車の発信機は取り外してある、調べる時間は充分にあったからな」
「ふん、たかだか一時間やそこらでタイタニアの隠蔽技術を完全に見破れると思うの」
「出発する前に念入りに調べたんだよ。機材やらなにやらを使ってな。俺はお前の運転手に化けて潜入してたからな、仕事として調べておくと言えば怪しまれずにいくらでも機材を使って調べられる」
「な……」
「まったく、お前らタイタニアはおめでたいよな。いや、お前がおめでたいのか? 広い宇宙ばかり見ているから足元の石に気付かない。ハードウェアソフトウェア双方の錬度を高め活用し優位を得る、そりゃけっこうなことだがな、その一人一人の人間が生きてものを考えてるってことをきっちりわかってない。自分たちの優位を確信して自分が攻撃されるなんて考えてもいない。だからこうして足を取られるのさ」
「……貴様たちの目的はなんだ」
 イドリスは動揺を押し隠して、あくまで高飛車に告げた。どんな状況であろうと、こんな低脳どもに屈することは絶対にごめんだ。
「なんの目的で私を誘拐した」
 その言葉に、男たちはまたにやにやと笑った。最初の男は、薄い笑みを浮かべたまま、きっぱりと告げる。
「強姦さ」
 イドリスは一瞬、この男がなにを言っているのか理解ができなかった。
「……なんだと」
「強姦。あと輪姦。それとホロの撮影か? まぁちゃんと調教も施したいところだが、そこまではさすがに時間がな」
「なにを、言っている、貴様」
 最初の男は、くくっと笑い声を立てて、それから言った。
「お前のケツにチンポぶっ込んでマワしてよがらせて、それを撮影してやろうって言ってるんだよ」
「――な」
「案外血の巡りが悪いな? 目が覚めたら裸で磔にされてたら、少しはそういうこと考えてみるもんじゃねぇのか?」
「馬鹿なことを抜かすな! そんな、馬鹿馬鹿しい、愚かな冗談に付き合うほど私は暇では」
「冗談ねぇ……」
「こいつどこまでやったら現実きっちり認めるかね?」
「やっぱぶち込んでからじゃねぇか? とっととケツ拡げてぶち込んじまおうぜー」
「バァカ、その前に浣腸だろ」
「それより先によぉ、こいつに自分の立場ってのをわからせんのが先じゃねぇか? 鞭打ちとあと針刺しと……」
「まずは、自分の姿をきっちり見せるのが筋だろうな」
 最初の男がそう言って、からから、と部屋の隅にあったキャスターつきの鏡を引っ張ってくる。目の前に置かれた鏡に映し出された自分の姿に、イドリスはかぁっと頬を熱くした。
 イドリスの広げられた両手足首は、それぞれを背後の宙に浮く球のようなものに縛りつけられていた。繊維の荒いごつごつした太い縄で。球は見えないが腰もそうなのだろう。このふよふよと宙に浮いている小さな金属球は、重力を制御しているのだろう、イドリスを体ごと空中に浮かせている。これは犯罪者の護送などに用いる、一般的な拘束具だとイドリスは知悉していた。
 体は完全な素裸、股間の性器すらあらわにされている。首には金属製の、なのに内側には毛皮のついた首輪が嵌められている。そこからだらんと垂らされているのは、犬の散歩のとき使うリードのように見えた。
「いい格好だろう。似合うぜ、イドリス」
「貴様……このようなくだらんことで、私を屈服させられると本気で思っているのか。くだらん、犯罪者の考えることなどしょせん」
「別に屈服させたいわけじゃねぇよ」
 あっさりと遮り、最初の男はとん、と鏡を脇に押しやった。イドリスのすぐ前に立ち、薄い笑いを浮かべたままイドリスを上から下まで楽しげに眺めやる。
「単にお前を犯してよがらせて、それを撮影したいだけさ」
「――っ」
 イドリスは湧き上がる憤激を無理やり押さえ込み、ぷっとその男に唾を吐いた。狙い通り唾は男の顔にぶつかる。
 だが男は笑みを崩さず、顔にかかった唾を手で拭い取る。そして、パァン! とイドリスの顔が吹っ飛びそうになるほどの勢いで平手打ちされた。
「………、っ」
 激痛。直後に男はぐいっとイドリスの頭を引き下げがづっ! と顔に真正面から膝蹴りを入れた。頭の芯がずれるような強烈な衝撃。鼻の奥にくぁん、と鉄臭いものが昇ってきた、と思うや鼻からぶっ、と鼻血がこぼれる。
「鼻血も滴るいい男、ってかぁ?」
「おーい、あんま殴んなよぉ? お嬢ちゃんのきれーな顔が台無しになっちまうだろぉ? このお嬢ちゃんの唯一の取り得なんだからよぉ」
「きっ……、は」
 ぐらぐらくらくらする頭を必死に上げ、男を睨む――だが、男は鏡を引き戻しイドリスの目の前に置くと、イドリスの背後に回った。変わらぬ薄い笑みを浮かべながら取り出したのは、一本の革の鞭。イドリスはぐ、と奥歯を噛みつつ鏡の向こうの男を睨むが、男は涼しい顔でただ笑むのみだ。
「せっかくだ。お約束として、このくらいは押さえておくか」
 言うやびしぃっ! と鞭を背中に振り下ろす。ずきぃん、と背中に走る激痛を、イドリスは奥歯を噛み締めて耐えた。
 びしっ。びしっ。びしっ。背中に振り下ろされる一打ちごとに、イドリスの背の皮が破け肉が裂ける。背中じゅうがひりつき、焼き鏝を押し付けられたように熱く、じんじんじんじんと痛む。だがこの程度の痛みで屈するほど自分は弱くはない、とイドリスはぎっと鏡の向こうの男を睨みながら耐えた。
 男はあくまで薄く笑ったまま、何度も背に、時には尻に鞭を振り下ろした。ずっきんずっきんと痛む箇所に、さらに何条も、何条も。
 必死に耐えながらもイドリスの気が遠くなりかけた頃、男は鞭を下ろし床に放り、くくっと笑った。
「まぁ、これはこの程度にしておくか。意識を飛ばしちまったら面白くないしな」
「……、クズ、が」
「おお、なかなか頑張るな、イドリス。そうでなくちゃ犯し甲斐がない」
 言ってその最初の男はさわりと傷だらけであろうイドリスの背中をそっと撫で(さらに増した痛みにイドリスはぐっと奥歯を噛み締めた)、後ろからなにやら妙なものがいろいろと乗った三段の手押し車を引いてきた。その一番上にある、女の使う化粧水に似た樹脂製の瓶を手に取り、蓋を取って中身をいくぶんか手に空ける。
 妙に粘度の高い透明な液体のようなそれを、男は指先に乗せ、イドリスの後ろに回りこみ――
「……っ!」
「どうした、イドリス。別に強姦ってのがどういうことか、知らないわけでもないんだろう?」
 肛門にその液体をたっぷりと塗りつけられ、イドリスはぞぞぉっと体中に悪寒を走らせながらも男を全力で睨みつけた。男同士の性行為になど興味も関心も持ったことがなかったイドリスは、それがどんなものなのかなどまるで知らない。なので強姦というがそれがどのような行為を指すのか理解してはいなかった。
 なので、それがこんな、おぞましい行為だとは、想像したこともなかったのだ。
「……っ」
 ぬるぬるになった肛門に指が入ってくる。必死に肛門に力を入れて締め出そうとするが、その指は巧みにその筋肉の動きをいなし、粘液をイドリスの内壁にまで塗りつけた。何度も何度も腹の中まで入ってくるのではないかと思うほど深くまで侵入してくる指に、腹の底から吐き気が湧き上がってくる。
「さて……まぁ、とりあえずはこんなところか」
 言って男は手押し車を引き寄せ、その上に乗った肌色のボールのようなものを手に取った。子供の拳程度の大きさで、イチジクのように先が少し突き出ている。
 ぎっと男を睨みつつも警戒の目つきでそれを見つめるイドリスに、男は笑った。
「なんだ、お前これがなにかもわかんねぇのか?」
「……貴様ごときに、お前呼ばわりされる筋合いはない」
 ぴしぃっ! と力をこめてまだじんじんと熱い背中に平手が振り下ろされる。
「が……っ!」
「この程度の苦痛で声を上げるような奴に偉そうにされるいわれもねぇなぁ」
「っ……!」
「くくっ、わりとあっさり声上げちまったなぁ」
「タイタニアの公爵さまっつってもしょせんはただのお嬢ちゃんか」
「貴様ら……っ」
「さぁて、ちょっと足を広げさせてもらおうか」
 言うやぐい、と男はイドリスの両足を持ち上げる。そして折り曲げ、どんどんと大きく広げていく。抵抗しようとしたが男の力は強く、そして体勢上も抵抗できず、イドリスの足は股を開いてしゃがみこんだような、下賤な人間が外で大便を排泄するならばこうなるだろう、という格好に固定させられた。
 男の指先がまたぐちゅり、とイドリスの肛門を探る。ぞわっ、と嫌悪感に鳥肌が立つ。だが男はかまわずイドリスの肛門に指を二本差し込み、わずかに広げ――そこにさっきのイチジク型ボールの先端を差し込んできた。
「………っ………!」
 ずちゅぬぬ、と入ってきたボールは、ぐっ、と男が側面を押すや、ずぬぬっ、とすさまじい勢いでイドリスの中に液体を放出した。半ば固体のように感じられるそれは、あっという間にイドリスの中じゅうに広がり、ぐるるるっ、とイドリスの腹を鳴らす。
「っ……っ!」
「腹の中で液が動いてるのがわかるだろう、イドリス? これはどんな便秘の奴でも一発で治しちまうって浣腸でな、中にナノマシンが仕込んであって腸の隅々まで液が広がり、糞を根こそぎ引きずり出しちまう代物なんだ」
「ぐ……ぅ、ぅっ……」
「まぁ今回は何日も時間に余裕があるわけじゃないし、手っ取り早く済まそうってことでな。……どうだ、そろそろ腸が動いてきたか?」
「ぐ……ぅう……!」
 イドリスは奥歯を噛み締めて必死に便意に耐えた。冗談ではない、こんな愚かな、馬鹿馬鹿しい、下劣な行為に、自分が、タイタニアの四公爵の一人である自分が屈するはずが、屈していいはずが。愚かしい、見苦しい、こんな下賤の男たちに囲まれて、見られながらそんな、馬鹿なことが。
 男はイドリスの腹を、尻をゆっくりとさする。時には揉み、撫で、マッサージでもするかのように押す。必死に耐えるイドリスを嘲笑うかのように、薄い笑いを浮かべたまま。
「………っ、………っ!」
 腹がぐるるるるっ、と鳴る。便意はもうどうしようもないほどに高まってきていた。駄目だ、まずい、このままでは本当に。冗談ではない、そんな、馬鹿なことが。
 ぎっ、と男を睨む。イドリスの部下ならば震え上がるであろう、怒りと軽蔑と高貴さに満ちた視線になるよう必死に意識しながら。
 だが男は涼しい顔でイドリスの肛門と玉袋の間をつぅっ、と撫でる。ぞわっ、と体に走った悪寒に身が震え、肛門から漏らしてしまいそうになってイドリスはぐぅっ、と表情を歪めた。
 男を睨み、必死に言う。全身全霊で冷徹な、高飛車な表情を浮かべようとしながら。
「貴様、正気か。こんな場所でこんなことをしてどうする。こんな愚かしい真似をしてもなんの意味も」
「分かりが悪いな、イドリス。言っただろ、俺たちの目的は強姦だって」
 さわ、と男の手が玉袋に触れた。ひ、と漏れかけた悲鳴を押し殺すイドリスを楽しげに観察しつつ、男の手はイドリスのペニスを撫で、竿を軽くしごき、玉袋を揉み、そこから肛門にかけてを念入りに触り、尻を揉みしだきと活発に動き始める。
「だからお前のことをたっぷり辱めるのも予定のうちなんだよ。お前が屈服するかどうかはどうでもいいけどな……どっちにしろ俺たちは楽しめるし」
「ぐぅ、ぅ、あ……!」
 男は両手を使い始めた。イドリスの背後から、ペニスを、玉袋を、肛門を、尻を、同時に揉みしだき始める。腰の奥から持ち上がってくる気色悪さと吐き気に、イドリスは惑乱しそうになった。
「まぁ、これは辱めるってよりは単にあとに都合がいいからって方が大きいけどな」
「い……い加減にしろっ、貴様、ゆる、さんぞっ……!」
「へぇ、こりゃまた頑張るなぁ! この状況でもまだ意地張るか」
「普通なら便所行かせてくれ、ぐらいのことは言うもんだけどな。なんだ、こいつ床に漏らすのが好きなのかね?」
「……っ!」
 顔からさっと血の気が引く。そうだ、このままでは自分は、床に漏らしてしまう。下賤な男たちに見られながら。獣のように無様に。そんな、そんなことが、許されるはずがない。
 イドリスはもはや耐え難いまでに高まってきた便意を必死に堪えながら、『便所へ行かせろ』と口を開こうとする――が、すぐにやめてぐっと奥歯を噛み締めた。自分が、タイタニアの中のタイタニアである自分が、このような下賤の男に頼みごとなどしてよいはずがない。たとえ強制的に排泄させられようと、そんなことで自分の誇りは傷つかない。このような男に頭を下げるより、よほどマシだ。
 ぎっと顔を上げ鏡の中の男を睨みつけながら唇を引き結ぶ自分を、男は面白がるような笑みを浮かべつつ見つめ、ぐい、と腰を引いて尻を突き出させてから、ひょい、とさっきの鞭を取り出した。ざぁっ、とさらに血の気を引かせる自分に楽しげに薄く笑いかけ、ぴしぃっ! と尻めがけ鞭を振り下ろす。
「がぁっ……!」
「誰か、こいつの前弄ってやってくれ」
「お、いいのか?」
「別にかまわねぇさ」
 言いながらさらにびしぃっ! と鞭を振り下ろす。必死に便意を堪えて力を入れている尻に。
 周囲で自分を見ていた男たちのうち何人かが近寄り、イドリスのペニスを弄りだす。玉袋まで揉みしだき、しごき、亀頭を撫でる。一人は胸を、乳首を弄り、ひねり、押し潰す。一人はれろぉ、と舌を伸ばしイドリスの頬に這わせる。
 おぞましさに必死に暴れたが、両手両足の拘束はがっちりとイドリスを捕えて離さない。顎を押さえられ唾を吐くことさえできない。そこに背後の男が、びしぃっ! と肉が爆ぜるかと思うほどの鞭を尻にくれ――
「が……がぁあぁぁぁっ……!」
 イドリスは呻きながら、大便を排泄した。「やったぜ、こいつ!」と男たちは笑い、イドリスから離れて鏡との間に視線を通させる。結果、イドリスは素裸で、肛門からぼどどどっ、と大便を排泄し、ペニスから小便を漏らす姿をつぶさに見させられることになった。
 しばし呻きながら排泄の快感に震え、腹の中のものをすべて出す。ぷぅんと漂ってくる異臭。自分の息が荒くなっていることを自覚しつつ、イドリスは鏡の中の自分から視線を逸らした。奥歯をぎりぃっ、と音がするほど噛み締めても、この自分の姿を見せられるのは耐えがたかった。
「みんなの前で糞漏らして気持ちよかったか、イドリス?」
「き、さま……」
「便所にも行かずにその場で漏らすなんて、さすがタイタニアの四公爵のしつけは違うな。獣でもきょうび便所の場所くらい覚えてるってのに。よほどみんなの前で糞を漏らしたかったわけか」
「きさ、まぁ……っ!」
 くくっ、と男は笑い声を立て、手押し車の二段目から今度は大きな注射器のようなものを取り出す。思わず身を引いたイドリスの腰をつかみ、ぴたりと肛門にそれをあてがった。
「心配するな、ただ中を洗浄するだけだ。糞が根こそぎ引き出されたって言っても、やっぱり細かいのは残っちまうからな。薬液を何度か注射して、きれいになるまで繰り返すだけだ」
「やめろ、貴様っ……!」
「別に暴れてもいいぜ? お前が暴れても、傷をつけないぐらいの腕は持ってる。獣のしつけは慣れてるんでな」
「貴様っ……!」
 全身全霊の殺意を込めて、イドリスは男を睨みつける。だが男は薄い笑いを崩さぬままに、がっしりとした手でイドリスの腰をつかみ、注射器で薬液を注入した。
 注射と排泄が繰り返されること数度。イドリスは何度も便を床に漏らした。そのたびに周囲の男たちは「また漏らしたぜ!」「おお、くっせぇ」「タイタニアの四公爵さまも糞漏らすときは見れたもんじゃねぇな」などと囃したてる。イドリスは憤激と殺意を込めて男たちを睨んだが、男たちは涼しい顔だった。
 漏らした液が透明になるまで苦痛の時間を過ごさされたのち、最初の男はイドリスの漏らしたものが散乱している床から少し離れた場所に触れる。と、合成樹脂が張られていると思っていた床が突然めくれ上がり、くるくるとイドリスの漏らしたものをくるんで大人の拳程度の大きさの袋に変わった。
「この手の調教に使う道具さ。獣――犬やら豚やらが漏らしたものを手軽にきれいにできる。匂いも消せるしな」
「犬、だと……豚、だと……!?」
「『便所に行かせてくれ』とも言わずいきなり床に糞を漏らす奴を人間様とは呼べんだろ?」
「きさ、まっ……!」
 くくっ、とまた男は笑い声を立て、その袋を脇の手押し車の一番下の段へと放り込んだ。そしてイドリスの体を水平に傾け、足を大きく開かせてから、二段目の引き出しを引く。と、イドリスは困惑に眉をひそめた。そこにあったのはまだ湯気を立てているお湯の入った洗面器だったのだ。
「まぁ、ちょっと待ってろ。下準備するからな」
 言いながら男は洗面器の横のボタンを押す。すると中のお湯がいくらかふわふわと浮き出してきたので(これも重力制御の技術だ)、それで手を洗った。腕近くまで念入りに。
 それからまたお湯を出させてタオルを濡らし、イドリスの肛門と股間を手際よく、かつ念入りに拭いた。熱い感触にイドリスが身をよじったのもおかまいなしに。
 それからさらにもう一度念入りに手を洗い、そしてタオルで拭き、その引き出しを元に戻す。それからその下の段の、洗面器の入っていた方とは逆側のいくつかに分かれている引き出しのひとつを引き、中に入っていた消毒用のアルコールで手をまた念入りに拭いた。
 その引き出しを戻し、その横の引き出しを引き出す。そして中に入っていた真新しい袋を破り、その中から奇妙なものを取り出した。黄褐色の、Yの字になった管だ。Yの字の片一方には、白いバルブのようなものがついている。
 それをその横の引き出しに入っていた陶器製のコップに入れた。コップの中には澄んだ液体が入っている。光の反射から、これも消毒用アルコールのように思えた。
 管を取り出し、その横の引き出しの中のトレイに載せる。それをさらに消毒用のウェットティッシュに消毒用アルコールを染ませたもので念入りに拭いてしばらく置いた。
 それからさらにその横の引き出しを引き、中に入っていた樹脂製の小さめの瓶を取り出す。そして、男はイドリスの脇に立った。
「待たせたな……その分たっぷりいたぶってやるから、心配するな」
 言いながら男はその管の細い先端の方に瓶の中身を塗りつけた。なにをされるのかわからず、必死に男を睨みつけるイドリスに、男はあくまで薄く笑う。
「ここは暴れない方がお前の身のためだぜ。尿道の中が傷つくからな」
「な」
 尿道? と意味がわからず混乱するイドリスをよそに、男はイドリスのぐったりと垂れたペニスを手に取った。
「きさっ」
 腰を引こうとするが、背中にはがっしりと固定された拘束具があるのだろう、動けない。その隙に、男はペニスを持ち上げ、ずぬっ、と尿道に管の先を挿し入れてきた。
「…………!」
 イドリスは声にならない声で絶叫した。なんだ、これは、なんだ。こんな馬鹿な、愚かな、ありえないことが。自分が、イドリス・タイタニアが、ペニスの中に、管を、入れられている?
 体が震える。反射的に暴れ出しそうになるが、できなかった。認めたくない、認めたくはないが怖かった。『尿道の中が傷つく』。それがどんな結果をもたらすのかはわからないが、自分のペニスが本当に壊れてしまうのではないかと思うだけで、体が震えて動かなかったのだ。
「おーおー固まっちゃって、可愛いねぇ、お嬢ちゃん」
「こんなことされるの初めてなんだろうぜ。おぼこいったらありゃしねぇな」
 周囲の男たちの声に怒りを表す余裕もない。ただイドリスは真剣な顔で自分の尿道を犯している男をひたすらに見つめるしかできなかった。怖い、怖い、どうなってしまうのだ、怖い。頭の中でぐるぐるするそんな言葉に、頭の中まで凍りついてしまったようだった。
 ぬ、ぬ、ぬ。ゆっくりゆっくり、男は管を挿し入れてくる。むず痛痒いとでもいうのだろうか、腰の奥を疼かせられているような奇妙な感覚。
 管が残り数cmになったところで、ちくん、とした痛みを覚えた。
「痛いか?」
「………っ」
 必死にこくこくとうなずくイドリスに男は薄く笑ったままうなずく。
「そうだろうな。ここが尿道括約筋だ。ここで必ず抵抗がある」
 そう言ってそのままさらに男は管を挿し込む。ひ、と思わず声を上げかけた瞬間、体中にぞくぞくぅっ! と走った感覚にイドリスは一瞬思考が停止した。
 なんだ、今の感覚は。強烈な尿意を伴った突き抜けるような感覚。脳髄が燃え上がるような、悪寒に震えた時のような、体中が痺れるような強烈な感覚。
「尿道括約筋を突き抜けると、前立腺、そして膀胱……」
 言いながら男はさらに管を挿入してくる。ぬ、ぬ、と管が奥に入っていくたびにさっきの強烈な感覚を覚えた。
「よし、前立腺を通過した。……お、ちゃんと勃ったな」
「っ!?」
「どうだ、気持ちいいだろ?」
 男に薄く笑ったまま見下ろされ、イドリスは呆然と股間を見つめた。そこには隆々と勃起した自分のペニスがある。
 馬鹿な。こんな、馬鹿なことが。ありえない、そんな、自分が、イドリス・タイタニアが。こんな馬鹿なことが起こるはずがない! 自分が、男に強姦されて、こんな、馬鹿な――
「っと、小便が漏れたな。こういう時はこっちをクリップで挟む。で、手を離してやると」
「ひ……あぁぁあっ!」
「尿道の蠕動運動で外に出るから、前立腺が刺激される。……どうだ、気持ちいいだろ?」
「ひ、ひ、ひ……」
 快感。その感覚は、確かにそうとしか言いようがないものだった。体中に電気が走ったような、細胞のひとつひとつまで痺れるような、脳が爆発するような快感。
 外に排出されようとした管を、快感がひときわ強くなった箇所で男が押し留め、押し戻す。そして管を時計回り方向にねじる。尿道の奥で管がぐるぐると回転する感覚に、イドリスはむせび泣いた。恥も外聞もなく。むせび泣くしかできなかった。囃したてる男たちの声も、耳に入れる余裕はなかった。
「で、ここでここから空気を送り込んでバルーンを膨らませる。膀胱内にカテーテルを留置するわけだな。あとは少しじっとして、時々亀頭を撫でたりしながら……」
「ひぃ、ひぃ、ひぃぁっ」
「しばらくしたらバルーンの空気を抜いて前立腺までカテーテルを戻し、時計回りにねじる。これを三十分から一時間ほど繰り返す。これを十回ほど続けるだけで前立腺の性感が開発されるんだ。いわゆる、前立腺の初期化、ってやつだな。わかるか?」
「ひぃぃ―――っ!」
 何度も何度も泣き叫び、喘ぐ。これまでイドリスが経験していた性行為の快感とはまるで違う代物だった。亀頭を、尻を、そっと撫で回されるだけで何度も脳髄が痺れるほどの快感が走った。射精しそうになると男は巧みにイドリスの気を逸らし、射精しそうでしないぎりぎりの点でひたすらに快感を味わわされる。
 炎で炙られているような感覚だった。精液は出ないのに、射精の瞬間のような快感が続く。それが終わっても体の熱は失われず、何度も何度も快感が繰り返されるのだ。いつ終わるとも知れぬ、どこまでいくとも知れぬ快感にイドリスはひたすらにむせび泣いた。
 ――ぬ、ぬっとペニスからなにかが抜かれていく。疲労にぐったりとしてしていたイドリスの口に、がぽっ、となにかが嵌め込まれた。それはどんどんとイドリスの口の中に液体を流し込んでいく。
「栄養剤、兼利尿剤ってとこだ。慣れないとカテーテルは痛むからな、どんどん小便を出して洗うわけだ」
 自分の顔を男が見下ろしている。あの、薄い笑いで。
 じょろろ、と自分のペニスから薄い液体がこぼれるのがわかった。ずきんっ、と尿道に激痛が走る。だが男はかまわずにイドリスの体勢を立たせた状態に戻し、大きく足を開かせた。
 最初に使った瓶をまた取り出して、力なく頭を投げ出したイドリスの状態など気にも留めず肛門に中身を塗りつける。中にも。奥にも。浅く、深く、舐めるように隅々まで。
「で、俺が一番でいいのか?」
「お前以外に誰がいるよ」
「お前が言いだしたんだしな。そのお嬢ちゃんお前のでかいのでたっぷりよがらせてやれよ」
 なにか、男たちが会話をしている。少しずつ理性が戻ってきて、のろのろと顔を上げて鏡の中を見た。
 涙に濡れた自分の顔の横に、男の顔がある。薄い笑い。ぐい、と腰を引かれた。ぐちゅ、と肛門に指を挿入され、広げられた。
 男は最初見た時と少しも変わらぬ薄い笑いを浮かべたまま、イドリスの耳元に囁いた。
「イドリス、覚えておけよ。これがお前を犯す男の顔だ」
「……っあ!」
 ずぬっ、と肛門の中に、熱く、太いものが入ってきた。数秒遅れて、それがこの背後に立つ男のペニスだと理解する。
 必死に暴れようとする、だが両手足も腰も拘束され、その上腰をつかむ男の手はひどく大きく逞しく、イドリスの抵抗をあっさり封じてしまう。必死に括約筋を締めるが、男は何度も最初の瓶の中身で肛門を濡らし、緩め、ず、ぬ、ぬ、とじわじわと自身のペニスをイドリスの中へと埋めていった。
 入ってくる。男のものが、自分の体に入ってくる。今までとは質の違った恐怖を覚え、体中の血が凍りそうになる――
 だが必死にイドリスは頭を上げ、鏡の中の男を睨んだ。体に残った意地をかき集め、必死に、全力で。
 許されない。自分に負けは、許されない。イドリス・タイタニアともあろう者が、こんな下賤の輩に負けることは許されない。なにをされようと、自分の誇りは穢されない。そうでなくてはならないのだ。
 そのイドリスの必死の殺気をこめた視線に、男はくっくと笑ってみせた。
「いいね、イドリス。予想通りだ。お前はまったく変わっていない。高貴で、誇り高く、高飛車で高慢で傲慢で、世間知らずの愚かなガキで」
 すい、と顔をイドリスの耳元に近づけて、囁く。
「泣かせたいほど、可愛い」
「――――」
 予想外の台詞に、イドリスは一瞬ぽかん、とした。
 とたん、ずぬっ、と肛門の中のものが一気に奥へと挿し込まれた。
「っひ!」
 ひどく太いものが奥へと入ってくる。太く、熱いものが。ぐ、ぐ、と奥へ。自分の中を、割り開いて。
 男の手が自分の体を撫で触る。胸を、脇腹を、下腹を、尻を、太腿を。首筋を舐め、耳の中に舌を挿し込みぴちゃぴちゃと音を立てる。ペニスにそっと触れ撫でる。背中に、首筋に、頭に頬に、何度も唇を落とされながら、太いものが、自分の、中を。
「ひぁ……っ!」
 どろり、と、自分のペニスの奥から白濁液が漏れた。同時に気が遠くなる。脳味噌が、理性が、すべてが吹っ飛ぶほどの、それは快感だった。
 数瞬の絶頂ののち、イドリスはぐったりと体を投げ出す。体中から力が抜け、とても立っていられなかった。
 だが男はいまだゆっくりと腰を動かしながら、くくっと笑い、言う。
「相当よかったみたいだな? いい顔してたぜ」
「…………、…………」
「さて……お前ら、なにしてるんだ、来いよ」
「お、いいのか? お前まだイってねぇんだろ?」
「俺がイくまでこいつの尻使ってたら時間がもったいねぇ。輪姦するってこいつに言ったんだ、約束は守らなきゃな」
「へへへ……違いねぇ」
 は、と顔を上げると、周囲の男たちは服を脱ぎだしていた。仮面は着けたまま、素裸になり股間を露出させる。
 ざ、と顔から血の気を引かせるイドリスに、最初の男は笑って囁いた。
「言っただろ? 『お前のケツにチンポぶっ込んでマワしてよがらせて、それを撮影してやろう』ってな」
 それから、陵辱が始まった。
 イドリスの肛門は何度も何度も男のペニスで犯され、中に精液を注ぎこまれた。口を拘束具で固定させられ、中にペニスを突っ込まれたりもした。前から、後ろから、上から、下から、およそ思いつくありとあらゆるやり方で犯され、辱められた。何度も何度も、何本突っ込まれたかわからなくなるほど。
 そして、イドリスは、その行為の中で、確かに何度か気が遠くなるような強烈な快感を覚え、射精した。白濁した液を、ペニスから漏らすようにこぼして。
「……全員、満足したか?」
 一人離れ、椅子に座ってイドリスが犯されるさまを眺めていた最初の男が声をかける。男たちはみな、少しばかり疲れの見える声で応の答えを返した。
「まぁまぁの味だったぜ。やっぱお前の仕込みは大したもんだよなぁ」
「タイタニアの四公爵さまもしょせんは男ってか。ケツとブツを責められりゃああっさり落ちちまうよなぁ」
「だ……ま、れ……」
 イドリスは、体力も精神力も尽き果て、気絶しそうな疲労を感じながらも、必死に顔を上げ、男を睨んだ。自分を犯した、最初の男を。
 負けたくない。負けてはならない。決して決して負けてはならない。自分はタイタニアの中のタイタニア、四公爵の一人イドリス・タイタニアなのだから。
「きさまら、ごときに、この、わたしが……」
 くっく、と最初の男は声を立てて笑った。
「いいね。まったく、たまらん。もう精根尽き果てたかと思ってたんだが、まさか用意したものを全部使わせてくれるとはな」
「………な、に」
「そいつを横にさせろ。仰向けに」
 す、と立ち上がり男はこちらに歩み寄ってきた。手押し車を手元に寄せ、下から二番目の引き出しを引き出す。
 む、と伝わってきた熱気にイドリスは目を見開いた。暑い、いや熱い。なんだ、これは。なにを、いったいなにを、されるんだ。
 男は厚い断熱性の手袋をし、その引き出しの中からなにか細長いものを取り出した。いや、細長いのは途中までで、先端には平たい判子のようなものがついている。
 男はその先端を見せびらかすようにイドリスに向けた。その判子のようなものには、奇妙な図柄と文字が書いてあった。図柄は妙に卑猥な感じのする先端の丸いくびれのある太い棒、文字は鏡文字なので読みにくいが、あれはたぶん『犯して』と――
 まさか。
 イドリスは猛烈な勢いで暴れだした。だが最初の男はあくまで冷静に「押さえつけろ」と命令する。屈強な男たちが何人もイドリスの体にとりつき、大きく股を開かせ尻を天に突き出させた。
「やめろ……」
 最初の男がゆっくりと近付いてくる。こちらまで熱気の伝わってくる焼印を持って。そう、あれは焼印だ。奴隷に、家畜に主人が押しつける、所有権を主張する古代から伝わる烙印。
「やめろ……やめろっ」
 暴れても押さえつけられて身動きすらできない。イドリスはただひとつ自由な口を必死に動かした。
「やめろ、貴様、そんなことをすればどうなるかわかっているのか、殺すぞ、貴様などには想像できないほどの苦痛と屈辱を与えてやるぞ、命が惜しくないのか、貴様のような輩が私にそのような真似をして許されると」
「へへっ、この状況でもまーだ強がってやがる」
「お嬢ちゃんの頼みのタイタニアの力ってのがどんだけすごかろうとなぁ、今やられそうになってることをどうにかする役には立たんだろ、なぁ?」
 男はイドリスの尻へと焼印を伸ばす。熱が伝わってくる。火を直接当てられているかと思うほどの熱が。
「やめろ……やめろ、やめろぉっ」
 男は、くくっと笑い、言った。
「お前の大好きなタイタニアは、自分より力の弱い立場の人間にそんな風に命令されて、聞いてやったのか?」
 そして焼印をイドリスの尻へと押し付けた。
「ぎゃあああああぁぁぁぁっ、ああぁっ、あぁっ、ああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
 じゅうっという音、肉が焼ける匂い、そして激痛。じょろおぉっ、とペニスから小便が漏れ、じゅわぁっと音を立てた。
「ひゃっはっは、こいつ漏らしやがったぜぇ!?」
「タイタニアの四公爵さまのケツには公衆便所の焼印ってか!」
 周囲の男たちが囃したてる声をほとんど聞きもせずに、イドリスは気絶した。最初の男の、薄い笑いを視界に入れたまま。

『ひ……あぁぁあっ!』
『尿道の蠕動運動で外に出るから、前立腺が刺激される。……どうだ、気持ちいいだろ?』
『ひ、ひ、ひ……』
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅっ。
 ホロビデオの音声と生々しい水音、そして肛門の感触にイドリスは目を覚ました。そして即座に目を見開き、自分が仰向けにされていることを認識しながら、ぎっと目の前の男を睨みつける。
「お、起きたか、イドリス。まだ起きないようだったら気付け薬でも使おうかと思っていたところだ」
 あの最初の男はあくまで薄い笑いを浮かべたまま、イドリスの肛門をペニスで犯しながら声をかける。イドリスは息が荒くなるのを感じた。怒りで脳味噌が沸騰しそうだ。自分の尻を割り開いているものに、自分の腰の奥が痺れるように疼いているのが、それに拍車をかける。
「貴様……はな、れろっ」
「そうだな、そろそろ出すか」
「ひ!」
 ぐいっ、と腰を大きく動かして男はイドリスに剛直を叩きつける。あまりの勢いにイドリスは喘いだ。ずん、ずん、ずん、と何度も男は腰を叩きつけながら、イドリスのペニスや体のあちこちを弄る。イドリスの体は意思に反して快感に震え、ずんっ、と最初白濁を漏らさされた場所を衝かれびゅっ、びゅっと噴き出す熱いもので叩かれると同時に、強烈な快感に震えつつペニスからまたわずかながら白濁をこぼした。
「き……さ、ま……」
『前立腺の初期化、ってやつだな。わかるか?』
『ひぃぃ―――っ!』
 むせび泣く声に、快感の余韻に息を荒げていたイドリスははっと顔を上げ、かっと顔を朱に染めた。目の前に投影されているホロビデオに、自分が映っている。この男の手によって、思うさま弄ばれ喘がされている自分が。
「貴様……それはっ」
「ああ、撮影したホロ。お前が起きるまで退屈だったから、お前を掘りながら観てた。なかなかいい出来だぜ。お前は顔はちょっとお上品すぎるが、その顔がここまで乱れるっつーのなら金を出す奴けっこういそうだな」
 イドリスの肛門からペニスを抜き、身支度をしながら平然と笑う男を、イドリスは全身全霊の殺意を込めて睨みつける。この男の首をすぐさま落としてやりたい。なんとしてもこの男を殺し、そのホロビデオを取り戻さなくてはならない。懸命にその方法を探りながら、イドリスは嗄れた喉を震わせた。
「そのホロを、どうする気だ……っ」
「別に、どうも。ただ、持っているだけさ」
「ばか、な。信じ、られるか……」
 タイタニアの四公爵を辱めた状況を撮影したものなど、政治的にも犯罪的にも金の種だ。そんなものをただ持っている奴など、いるわけがない。
 が、男はあくまで涼しい顔で笑った。
「なら俺を探せばいい。俺は逃げるし隠れるけどな」
「な、に……?」
「いいことを教えてやるよ、イドリス。俺はこれから未開拓の宇宙に旅立つんだ。新しい開拓できる星を探してな。だから俺を探すなら、この広い広い宇宙を隅から隅まで探さなくちゃならないってことになるな」
「……な」
 一瞬呆然とするイドリスに、男はまだ薄く笑う。
「もちろんこれが嘘だという可能性もある。実は俺は星間都市連盟のスパイでこれを連盟に持ち帰るつもりなのかもな。実は犯罪結社の人間で藩王にこれを渡すかも。あるいは単なる強姦魔でこれを宇宙中のネットに公開する気かもな。あるいはセルとして売り出されたり? 宇宙中が震撼する大スキャンダルだな」
 楽しげに言う男を、イドリスは神経が焦げるような怒りを覚えながら殺意を込めて睨み直す。
「貴様、ふざけるな……っ」
「ふざけてなんかない、俺は本気さ。もしかしたら明日にもお前の世界は崩壊するかもしれない。あるいはお前が忘れた頃に、あるいは死んだあとにこのセルが見つかり、イドリスとタイタニアの名を笑いものにしてしまうかもしれない」
「………っ」
「――だからお前は俺を探さずにはいられない」
 すい、と男はイドリスの間近まで顔を近づけてきた。薄く笑った顔が、間近から静かにイドリスの瞳を見つめる。その視線に、なぜかイドリスの背はぞくり、とした。
「宇宙の隅から隅まで、死ぬ気で探さずにはいられない。見つからない間は怖くて怖くて、俺のことばかり考えずにはいられない――」
 間近にある顔が、くくっ、と笑う。
「なんて素敵な遠距離恋愛だろうな、イドリス。旅の楽しみにはもってこいだと思わないか?」
「……っ、きさ、まぁっ……」
「待ってるぜ、イドリス。お前が俺を殺しに来るのを。俺の高慢で、愚かな、愛しい人形」
 男は笑ったままの顔を、すい、と動かした。そして額に濡れた感触があった、と思うや、すいと体を離し、尻のまだ痛みを訴えている刻印を優しく撫でてから、イドリスに背を向け部屋の外へ向かおうとする。
「貴様っ……待て!」
「じゃあな、イドリス。またな」
 それだけ言ってその男はすっと手を上げ、部屋の外へと出て行った。イドリスはしばし呆然としたが、腹の底から湧き上がる怒りに肩を震わせた。
「おのれ、許さんぞ、貴様――いつか必ず見つけ出し、おれの前に引きずり出してひれ伏させ首を落としてやる。覚えていろ、この日の屈辱、けしてけしてけして忘れんぞ……!」
 そう怒りに打ち震えていたイドリスが、最後にあの男は自分の額にキスをしていったのだということに気付くのは、相当にあとになってからのことであった。

 それから数時間ののちにイドリスは自分の護衛たちの手によって救出された。この場所の座標にイドリスがいる、というメッセージがメッセージサービスの手によって届けられたのだという。素裸で拘束され肛門から白濁を滴らせるイドリスを、護衛たちがどのような目で見たか、そしてイドリスがどれほどの怒りを覚えたかは言うまでもない。
 救出されたのち、イドリスは当然全力をもって行方を捜し始めた。あの名も知らぬ、自分を犯した最初の男を。
 他の男は顔も声もわからないので探しようがなかったというのもあるが、なによりもイドリスはあの男に最も強い憎悪を抱いていた。自分を、自分の誇りを地に落としたあの男を、なんとしても見つけ出さずにはおれなかった。
 だがイドリスの執拗な捜索にも関わらず、男の行方はようとして知れなかった。トゥルケのすべての映像媒体を徹底的に調査しても、男の姿はまるで見えなかった。
 タイタニアの四公爵としては私情で成果の上がらない犯罪捜査にいつまでもかかずらっているわけにはいかない。イドリスは歯噛みしながら四公爵としての公務の日々に戻った。
 だが、むろんあの最初の男の行方は常に捜索させている。自分を救出した護衛たちをスタッフにした捜査班を結成させて。情報の流出を防ぎ、失点を取り戻させようと必死に働かせようと。
 だが、それでもあの男の行方は知れなかった。名前も年齢も職業も出身地もわからない、わかるのは顔と声と言動だけ、というのでは手がかりがなさすぎる。
 いや。本当は、そうではないとわかっていた。
 あの男は、以前からイドリスを見知っていたような素振りを見せていた。あの男がどのような動機で犯行を思い立ったにしろ、以前、おそらくは顔がわからなくなるほどの時間を経た過去に、イドリスは奴と会っている。イドリスはむろん教育は主に家庭教師に行われたが、タイタニア以外の子供と関わりがまったくなかったというわけではなかった。だからイドリスの過去を徹底的に洗えば、おそらく手がかりは見つかる――
 それを理解しつつも、イドリスはそれを捜査班に話すことはしなかった。というより、できなかった。
 もし本当に自分が以前あの男と出会い、関わりを持っていたら。もし、それが自分にも、なんらかの影響を及ぼしていたとしたら。あの自分を捕え、犯し、弄び、辱めた男が、自分の過去にも大きく関わっていたとしたら。
 そうしたら自分が、本当にあの男に支配されてしまうような気がして、思い出そうとする思考を必死で抑えずにはいられなかったのだ。
 だからイドリスは、今日も腹の底に怒りと苛立ちと、そして恐怖を抱えている。世界が崩壊する恐怖を。支配される恐怖を。神経が炙られるような、焦がされているような焼けつく熱と共に。
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