第一話 破壊への序曲

by Zappie


  世紀末、西方の某大国で、前代未聞の恐るべき快楽の計画が実行にうつされようとしていた。それは過去におこなわれたあらゆる凌辱と残虐をも凌ぐ、巨大な悪徳の精神に支配された悪魔の大饗宴である。
  これにかろうじて匹敵する歴史上の事件をひとつあげるとすると、いまから250年ほど前、かのヨーロッパ・フランスの「黒い森」と呼ばれる隔絶の地で行われた120日に渡る、神をも恐れぬ糞尿と男色と殺戮に彩られたあの同種類の饗宴があげられるであろう。しかし社会のシステムやメディア、科学の発達により、複雑と混乱と物質にあふれかえった現代文明の下におこなわれたこの度の饗宴には、中世のヨーロッパ人達の堕落した想像力がいかに秀でたものであったとしても、足元にも及ばないに違いない。
  この饗宴を考えだした4人の主役達は、表面的には理性的にも常識的にも申し分のない、そして間違いなく世界の動向に絶大な影響力をもつ男達であった。
  その中のひとりであるアンチナチュル大統領は、この計画の立案者であり4人のなかの中心人物である。56歳、その容貌は極めて紳士的であり、その姿を一目見れば彼がこの「大統領」という地位につき、国内はもちろん全世界の人々の人望を一身にあつめている事実を不自然に思うものは誰もいないであろう。しかしその裏ではこの上ない異常性欲と残虐性をあわせもち、人の生命を奪うことなど蚊を潰すことほどにしか思わない邪悪な精神をもっていた。
  「大統領、ご承認を」
  アンチナチュルの向かいに座っているフトルディオ大司教は、一枚の書類をさしだした。「この度の”総会”の概要でございます。」
  今年53歳になるフトルディオは、世界的な支配力をもつ宗教の総本山の高位にある聖職者であったが、実生活ではその権力的立場から利用できる限りの豪奢な放蕩生活を展開していた。その人間性は二重人格の極みという以外に言葉はなく、いうなれば普段、自らが全生命をかけて愛していてしかるべき神の偶像の目前で、神を罵倒する言葉を吐き散らしながら、日々ありとあらゆる犯罪行為に明け暮れているのだった。
  小柄な体格だけにやや小心者のきらいがあったが、その分理屈っぽく細かい性格を買われ、この総会の実務的な進行係を任されている。
  いま4人の主役達は、明日から開催される饗宴---4人のあいだでは”総会”と呼ばれている---の具体的な内容についての最終確認をしている最中だった。舞台となるのは、このアンチナチュルの豪邸から800kmあまり離れた周囲数十キロ四方は蟻の巣ひとつ見つからぬ、死の荒野である。その100メートル地下に建設されたシェルタータイプの秘密基地「ソドムの宮殿」には、すでに100名の犠牲者と半年分の食料、そして快楽を増幅させるために有効なあらゆる種類の薬物や道具が用意されている。これらはもちろん必要に応じて常時、補給される手はずになっていた。
  アンチナチュルは書類に眼を通すと、スーツの下から鉄のような一物を突起させ、沸き上がってくる残虐の炎を燃えあがらせた。

●毎月一月の内の七日間、ソドムの宮殿に集まり、残虐と陵辱の限りを尽くすことがこの「総会」の主たる目的である。
●そこでは己の快楽の追求のみを目的とし、犠牲者の命は尊重すべからず。
●但し、邪悪なる想像力を増進させる過程での犠牲者の生命の一時の延長はこの限りではない。
●常に好奇心を重視し、犠牲者の内部に興味を抱きては即、解剖すべし。
●常に想像力を働かせ、既存の自らの趣味、趣向を応用・発展させ、ひとつの形態にとどまることをよしとせず。
●新たなる趣向を考案しせる場合、犠牲者のみと別所にて試行し、極力の演出をもってこれを発表すべし。
●.........(以下32項目)

  アンチナチュルは高らかに笑いながらその書面にサインをし、隣に回した。
  それを受け取った男は身の丈が2メートル23センチ、体重も200キロ近くある大男で分厚い口髭をはやしており、隆々ともりあがった筋肉の塊のような体格が制服の上からはっきりと見てとれる。
  アンチナチュルの無二の親友であり表向きの行政だけでなく、裏の道楽のつきあいでもお互い一役買っている、ブラスハイム警視総監42歳であった。
  「総監、最終的な犠牲者の調達は大丈夫かな。」
  「ぬかりありません、大統領。すでに全地球上で考えられる限り上質の11〜17歳までのオブジェクトを厳選して、全国の収容所に分散して保管してあります。いつでも補給体制は整っております。」
  そう言い、ブラスハイムは書類にサインをした。
  ブラスハイムは、普段からアンチナチュルの残虐性を満たす犠牲者達を提供していた。それらのソースは主に国内に多発する誘拐・失踪事件に端を発しているが、今回の大計画の際には今までと比較にならない大量の犠牲者が必要となり、その触手を全世界にまで伸ばしていた。
  半年にも及ぶ極秘の調達活動の結果、現在ではブラスハイムの息のかかっている全国の収容施設に1,000名余りの犠牲者が収容されている。
  それらの「調達活動」の機動力に多大な人力を提供したのが彼の向かいの席に座し、愛用の長く鋭いサーベルを先ほどから見つめている、マサクレ大将軍であった。
  マサクレは45歳、東洋の極小の島国では絶大な権力を誇る政治家である。根っからの軍人気質の凶暴な男であり、その底知れぬ狂気を内に秘めた性格は、4人の中でも最強の筋力と心臓を所有するブラスハイムさえも、そばにいるときは神経を張りつめなければならないほどだった。無口で快楽を追求する時も決して感情を表にあわらさず、その無表情の顔にひときわ目立つ吊りあがった眼ににらまれると、誰もが今にもその妖しく光るサーベルの餌食にされるか解らないような恐怖を感じさせる。
  事実、彼は自分が交わった人間は誰でも絶頂に達する瞬間、その首を切り落とさなければ気がすまない性癖をもっていた。お互い男色のつながりもある彼等のなか、その冷酷ぶりの度を越した異常性ゆえに唯一孤立した存在であるといえる。
  マサクレは回ってきた書類にサインをすると、またサーベルに視線を戻した。
  地球という小さな星に繁栄をほしいままにし、人類の文明の片隅で「富」と「権力」と「快楽」により固く結ばれているこの4人の権力者たちは、表面的な政治経済上でも最良の国際関係を保っていた。
  「我々はこれだけ世界平和に貢献しているのだ。」
  アンチナチュルは、最愛のブラスハイムの肩を叩いて言った。「私のこのボタンを押す人さし指が今だ滅多なことをしでかさないのも、その裏で我々の邪悪な精神が均衡を保っていればこそではないか」
  「まったくです、大統領。我々のおかげで世界の65億人の命が平和を謳歌しているのです。その内の1000人や2000人、快楽の肥やしの為に自由にしようと何のバチがあたりましょう。・・・そうですな、大司教」
  「いやいや、この地球上すべての生命の血を流させたとしても、バチなどあたる訳がありません。この果てしない宇宙の法則からしたら、我々のささやかな犯罪行為など、とるにたらないものです。ビッグ・バン以来、常に拡張し続けているこの宇宙のなかで、今まで何億、何兆、何京の星々が生まれては消えていったことか。それに比べたら、我々はささやかな欲望を満たす度に、たかが数人の人間の命を奪うだけのことです。”犯罪”や”背徳”という言葉は私を燃え上がらせますが、それも天地宇宙万物の定理の前では空しいばかり。私はたったこれっぽっちの罪しか犯していないのかと、がっかりします。しょせん人間の欲望など、単純で微々たるものなのですな。我々はせめて、この地球上のできるだけ多くの生命を好きに玩ぶだけのことで、その鬱憤をはらしてやろうではありませんか。」
  フトルディオはそう言って笑うと、4つのグラスにワインをそそぎ、仲間に配った。
  「この次は犠牲者の血で」
  「乾杯!」
  残虐性を帯びた眼光とともに、4人は真っ赤なワインを飲み干すのだった。
  4人はその夜10時間以上の睡眠をとり、翌日の昼過ぎこの計画のために用意された専用飛行機で”ソドムの宮殿”へと向かった。
  これから毎月7日間行われることになる”総会”のあいだの行政上の進行は、彼等の影武者が行う手はずになっている。それらは現代最高の科学技術をもって生産された、クローン人間達だった。
  到着するまでの数時間の間に同乗していた8人のスチュワーデスのうちの2人の首が、マサクレの刀によって落とされた。それを見て3人の仲間達はこれから始まる快楽への期待感とともに、背筋にゾッとする心地よい恐怖を味わうのだった。

  「総会」第1日目。
  その夜のディナーはこの饗宴の初回を飾るに相応しい、壮大な量の美味がテーブルの上に並べられた。一流の専用シェフによって料理された特上の小羊、豚の丸焼き、牛ロースのステーキなど、オリーブオイルとガーリックをたっぷり使った肉料理を中心に、珍しい海鮮料理や東洋の珍味などが、果物をくりぬいた容器や丸焼きになった動物の腑に色とりどりに並べられ、巨大なテーブルを飾っている。今日空の上で殺された哀れな女たちの骨付き肉のスープもあった。
  そして、これから始まる乱痴気騒ぎの犠牲者となる美少年美少女達がとりあえず30人ばかり鎖に繋がれたまま、ギリシャ風の薄絹のドレスを着てまわりを取り囲むように並んでいた。
  部屋は中世のヨーロッパに見立てられた豪華な装飾で、四方にはルノアール、ゴッホ、セザンヌ、ダ・ビンチ、ミケランジェロなどの世界中の名画や彫刻が飾られている。アンチナチュルとブラスハイムはその雰囲気にあわせて中世の貴族の格好をしていたが、マサクレはいつもの軍服姿、フトルディオは宗教服をまとっていた。
  「いつもの糞ったれに仕えるときの服装が一番私を燃え上がらせるのです」
  フトルディオは胃の中に、肉をワインで流し込みながら言った。
  4人の中でも一番の酒豪であるブラスハイムは、すでにボトル5本のウォッカを飲み干し、すっかり出来上っている状態にあった。
  他の者たちも十分に酔っ払うほどには飲んでおり、同時に多種のドラッグの効果も脳神経を駆けめぐっている状態だったため、止めどない凶暴な精神はすでに暴走の段階に達している。
  残酷絵巻の口火を切ったのはブラスハイムからだった。
  ブラスハイムは犠牲者達のなかからひとりの若い美少女を捕まえ、繋がれている鎖を素手で引きちぎり、テーブルの上にほうり投げた。皿やグラスがばりばりと砕け、肉やワインが飛び散り、豪華に調整されたテーブルの一部が一瞬にして汚らしく散乱する。
  女は東洋風の顔立ちで、勿論この場に選出されたオブジェクトにふさわしく完璧な肉体と美貌をかねそなえていた。悪魔のような笑みを浮かべて今にも襲いかかろうとしているブラスハイムを脅えた表情で見すえながら、「Help me...」の二文字を何度もくりかえしている。
  「わっはっは! もっと自分の不幸な境遇を嘆くがいい。お前等が涙を流せば流すほど、我々の精神は異常な喜びを感じる仕組みになっているのだ。お前等の白々しい美徳に満ちた表情が悲しみに崩れ、苦痛に歪み、やがて虫けらのように死んでゆくのは何とも言えないいい気分だよ。言っておくが我々は、250年前に先人達が行った饗宴の最大の残虐行為でさえ足元にも及ばないような行為以外は何一つやらないつもりだ。それにお前はこの”総会”の名誉ある最初の犠牲者だ。・・・お前のような女を片手でひねり殺すなど容易いことだが、たっぷりと時間をかけて、出来るだけ苦痛を長引かせ、最後の血の一滴まで苦しめてやろう」
  ブラスハイムは再び女の脚を掴むと卓上から引き摺り下ろし、女が唯一身につけていた薄絹を剥ぎとった。そして自らの一物に腕時計でフォークを括りつけると、女の玉門に一気に刺しこんだ。
  「そうれ、私の特製の一物の味はどうだ」
  警視総監の怪力にしっかりと押さえられ、激痛にのたうちまわることさえ出来ない哀れな娘は、股間からおびただしい血を吹き出させた。
  「ワッハッハ、この女を知っておるぞ」
  フトルディオが横から口を挟んだ。「マサクレ、こいつはお前の国で歌手をやっていた女であろう。雑誌で見たことがある。よく調達してきたな、こんなもの」
  そういうと、フトルディオは女の左の乳房を踏みつけた。
  「ほお、それではテレビを通して、今まで何十万、何百万の男達をたぶらかしてきたわけだな。どれ、私がマサクレに代わって、国家の制裁を加えてやろう。」
  ブラスハイムはオブジェクトを裏返すと、女の尻の穴を両手で押し開き、その特製の一物を一瞬にして根元まで突き刺した。犠牲者の地獄まで響くような悲鳴があがった。
  フトルディオはその手にフォークをつかみ、
  「この糞女、いつも馬鹿な平民どもをたぶらかしている得意の歌でも歌ってみろ!」
  と言って、女の片目に深く刺しこんだ。
  また悲鳴があがる。
  「けっ、何だそれが歌か。曲名はなんだ。とても音楽には聴こえんぞ。」
  フトルディオはせせら笑いながら思いきりフォークを引き抜いた。勢いで眼球がとびだし、神経の糸をひいて顎の下にぶらさがる。
  女が気違いのように首をふって叫んだ。もう発狂しているかもしれない。
  目玉をささえていた神経の糸がちぎれ、目玉が足元にころがった。フトルディオはそれを拾って口にいれ、気持ち良さそうにくちゃくちゃと味わった。
  一方でマサクレは、15歳の処女を後ろから犯しながら、抜き身の刀を頭上に振りかざし、肩越しに恐怖の目で哀願の声を発する少女を無表情の眼差しで睨んでいる。
  フトルディオはズボンを下ろすと、空っぽになった女の眼孔に一物を突っんだ。それを見て、ブラスハイムは女の尻を叩いて喜び、
  「大司教様、そこの感触はいかがですかな!」
  と聞く。
  「ごつごつしていてなかなかのものです。先っぽが脳髄の一端に触れている感じがたまりませんわい」
  フトルディオは満足そうに言った。
  「なるほど。では私も次に試してみましょう」
  「ワッハッハ、それはぜひ見物したいものですな。総監のことですから、オブジェクトの脳みそもめちゃくちゃに引っ掻き回してしまうでしょう!」
  二人は大声で笑いあった。暫くして、女がぐったりと動かなくなった。
  「やっ、ショック死してしまったようだぞ」
  ブラスハイムが残念そうに舌を鳴らす。
  「丁度いいでしょう、まだ気を遣るには早すぎます。オブジェクトの数はたっぷりあるのですから。今度はチョイと、時間をかけていたぶってみましょう」
  フトルディオはべとべとになった下半身から脳漿をしたたらせ、舌なめずりをする。
  「馬鹿な、俺はこの糞女を最低一時間はいたぶってやるつもりでいたのだ」
  ブラスハイムは不満をあらわにして、死体をテーブルの上に叩きつけた。「おのれ、こんな簡単に死におって!!」
  ブラスハイムは奮起して席に着くと、目の前に横たわる死体に一瞥もくれず、食べ残しの豚肉に噛みつき、飛び散った血で真っ赤に染まっているスープをずるずると音をたててすすりだした。
  既にフトルディオは次の「趣向」に走っていた。2メートル近くもある長い槍を何本も用意させ、次から次へとオブジェクトの身体に突き通している。股間の穴から挿入し、切っ先の行方を慎重にあやつりながら、肩の辺りへ突き出す。何をやっているかというと、致命傷になる心臓や肺を巧みに除けながら、何人まで殺さずに人間を串刺しにできるかゲームをしているのである。
  「よおし、これで5人目」
  13歳の美少年の肛門に槍を突き立てているフトルディオの表情は、真剣そのものだ。   綺麗に並べられた四体の串刺し少年少女達は、みな身動きできずピクピク手足を痙攣させていた。皆まるで別世界の異物を見るような不思議な眼で、自分の肩から突きだしている槍の先を見つめている。少しでも声を発したり動いたりするだけで身体中に激痛が走るとみえ、泣くことももがくこともできないようだ。
  「大統領は何もされないのですか。さっきから何もせずに、ずっと黙って見ているだけのようですが」
 むしゃむしゃと血のしたたる肉を食いながら、ブラスハイムがアンチナチュルに話しか ける。大統領は赤鬼のような顔でカッカッカと笑い、ポケットからリモコンを取りだした。
  「いやいや、今夜はちょっとした大掛かりな”見せ物”を用意しておったのですが、それが余りにも楽しみなので何もする気がおきなかったのです」
  「ほう、それは楽しみですな。早く見たいものです」
  アンチナチュルは壁の大時計をちらりと見やった。
  「よろしい。そろそろ時間です。ご覧にいれましょう」
  アンチナチュルがそういってリモコンのスイッチを押すと、中世のロココ調の壁が音をたてて二つに裂け、中から場違いにも近代的なスクリーンが現れた。
  「皆さん、お楽しみの途中ですが、しばしこちらをご覧下さい。本日は、この総会のオープニングを飾るに相応しい、最高のアトラクションをご用意しました」
  ブラスハイムはアンチナチュルの演出に注目する。
  フトルディオは7人目の犠牲者である11歳の美少女に、胃の辺りまで槍を刺しこんだまま、興味津々とモニターを見つめだした。
  マサクレもすでに血糊のこびりついたサーベルを、冷たくなった少女の尻の皮で拭っている。
  巨大なデジタル・スクリーンには、何処か南の島のような美しい光景が映っていた。
  カメラは誰もいない海岸から青い空へとなめるように動いた後、一直線にパーンダウンして、ヤシの木のひとつをとらえた。
  そこには全裸の美少女が虚ろな目で、木の幹に縄で縛りつけられていた。
  酷いものもらいのように赤くはれた瞳は、まだ生への執着が残っていた時の泣き叫んだ様子を物語っており、肌に深く食い込んでいる縄は、身をよじってもがいては何時間となく続けられたであろう抵抗の跡をはっきり焼きつけていた。しかし今では死の恐怖も通り過ぎて、自らの不幸な境遇に黙って身を委ねているという感じである。
  マサクレの目がきらりと光った。
  「あれは・・・、先月誘拐されたはずの、貴方の娘さんのジュスティーヌですな」
  「その通りです、大将軍。昨日からこの南太平洋の無人島に、監禁しております。これから我々の邪悪な想像力を最高値にまで高める、現代科学の極地を利用した素晴らしい”処刑ショー”をお目に掛けようと言う寸法です。」
  アンチナチュルがリモコンを操作すると、デジタル・スクリーンの画面表示が左右に分かれ、右にジュスティーヌ、左の画面には核ミサイルが映った。その弾頭は今まさに発射せんとハッチが開けられ、天に向かって大統領の号令を待機している状態だった。
  「おお!」
  三人の間にどよめきが上がる。
  「なるほど、大統領、こりゃあいい。貴方が今日を核実験の日に選んだのはこのためでありましたか! 私にも秘密にしていたとは憎らしい。」
  ブラスハイムは飲んでいたウォッカを吹きだし、大笑いした。「この画像はどうやって撮影しているのですか?」
  「超高性能のデジタル・ビデオを人工衛星でリモコン操作しております。彼女のこの24時間の苦悩の様子は、ご希望でしたら後ほどVTRでご覧にいれましょう。彼女の来るべき運命は、ビデオ・カメラに設置しておいたスピーカーで数時間前に告知しておきました。勿論、私の声でです。何不自由なく育ってきた箱入り娘の、死刑宣告の瞬間というのもなかなかの余興でありましょう。私はこの日のために娘を大事に育ててきたようなものです、わはははは!」
  4人は宮殿中に響き渡るような声で笑いだした。
  「それにしても今思いだしてみると白々しいですな、あの誘拐事件についての涙の会見!」
  フトルディオは興奮のあまり、11歳の美少女に半分まで挿入していた槍を握ると、少女の体内をめちゃめちゃに刺しまくった。少女は身体のあちこちから槍の切っ先を出没させ、血ヘドを吐いてすぐ死んだ。折角のスコアも7つ止まりだが、返り血を浴びてみるみる朱に染まってゆくその姿は、本当に楽しそうにみえた。
  普段、全く感情を表に出さないマサクレもさすがに他の三人につられて顔を興奮に痙らせ、バットのように刀を振り回す。後ろに立っていた数人の美少年達の首がボールのように宙に舞い、デジタルスクリーンの前を弧を描いて横切った。これがマサクレの精一杯の感情表現なのである。
  ブラスハイムは、怪力で目前の屍の手足を粘土細工のように千切っては画面に投げつけ、まるで行儀の悪いスポーツ観戦のように振る舞っている。そして足を一本だけ残してテーブルの上をバンバン叩きながら歓喜の声をあげていた。
  アンチナチュルも我慢できずに、足元に転がっている今し方マサクレが打ったホームランボールを拾いあげて口の部分を一物に被せ、髪の毛を鷲掴みにして上下に動かしはじめた。
  興奮の雄たけびをあげながら、アンチナチュルは片手でリモコンの中央に赤く光る大きなボタンを押した。
  デジタル・スクリーンには煙と音をたて、ミサイルの発射される光景が映る。
  大統領の上ずった声が響いた。
  「核は20分後に、我が娘に直撃する予定です。ぶぁはははは!」
  4人は堪えきれずに、各々の趣向に興じながら、爆笑した。
  終わることのない破壊の世紀末を象徴するかのように、彼らの笑い声はいつまでもソドムの宮殿にこだましていた。

つづく


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