密やかな聖書の狭間で

by あかつき

「昨日、ナイフを買ったんだ。人生を切り落とそうかな、と思って。
 ……なんてね、うそ。横を通り過ぎたとき、光った気がしたから。
 気がついたら、レジの前で財布、取り出してた。
 試し切りは、何がいいかなぁ。 薔薇の首? そんなの落としても、つまんない。
 紅い薔薇だからって、切っても紅は流れない。
 だったらあなたの手首を切って、毒を絞り出した方がいい」

 空から降る、咲耶の声。俺の心に降りつもる。
 樹上の咲耶。少しとがったあごのラインが、すっきりと映える角度で上向いて。
 なめらかな線。指で触れたら、すっと滑ってしまうんだろう。

「咲耶が言うと、毒もさわやかな味がしそうだな。グレープフルーツみたいなさ」

「そうだ。グレープフルーツの汁を足の指に垂らして、あなたに舐めてもらおう。爪のどれかが悪戯して、きっとあなたの唇の端に糸みたいな傷を作る。そしたら唾液で治してあげるよ」

「毒の唾液だったりしてな」

「やさしい言葉とか、きれいなものなんかいらない。そんなのに触れたら、逆上してしまう。
意地悪で尖っていて冷たくて、さ。安心する。そういうの」


 咲耶との出逢いを思い出す。
 知り合う女がすぐに恋だの愛だの言い出すのに飽き飽きしていた春。
 抱く前は青い鳥に見えていた女たちが、触れる端から色褪せていった。

 そんなある夜、出張先のホテルで俺は、気まぐれに聖書を手に取り開いてみた。

 どんな辺鄙な片田舎の寂れた部屋にも、ホテルと名のつくかぎり聖書は備え付けてある。何を救うつもりだろう。こんな部屋ではピンク映画の番組表のほうが余程多くの客を救うだろうに。笑わせるぜ。全く。

 そんな冷やかしの心持ちで、俺は黄ばんだ頁を繰った。
 もしかすると、無意識に救いを求めていたのだろうか。聖書という名の、褪せた緋色の冊子に。

 否。俺はきっと、何を期待していたわけでもなかった。むしろ絶望するために開いたのかも知れない。数多の人間を救った神にも、俺は救われないことを明白にするために。

 だが、奇跡は訪れた。

 俺の足元に、はらりと舞い落ちた桜色。
 オニオンペーパー製のそれは、つややかな花弁のように透き通って。
 微かな香り。草いきれのような。

 記された携帯番号。

「見つけて、くれたんだね……」
 コール音が途切れ、俺の耳に柔らかい吐息が届いた。


 約束の場所とおぼしき場所で、俺はタクシーを降りた。
 見わたすと、散りぎわの夜桜の下に、咲耶はいた。
 ガードレールに寄りかかり、弓のようにしなる月を見上げている。
 折れそうに細い首筋。薄い肩。

 実際には、夜を往く他の人々と同じく無機質な街灯の光を浴びているだけなのに。
 咲耶は静かな光を零しているように見えた。
 俺は近づくことができずに立ち尽くした。不用意に近づけば、その姿は闇にとけてしまいそうで。

「開けっ放し」
 突然投げつけられた言葉に、俺はとまどう。
「えっ」
「口だよ、口」

 あわてて右手で押さえる。咲耶に見とれるあまり、呆けたように半開きにしていたらしい。首筋が熱くなる。だが一方で俺は咲耶が幻でなく現実だったことへの喜びに胸を躍らせた。

「どうして判る? 上見たままで」
「嗅覚」

 微笑を含んだ視線がゆるやかに降りてくる。無数の花弁の残像が咲耶を霧のように包む。
 月の光が躯にしみこむように、その夜、咲耶は俺の全てを柔らかく支配した。


「風を感じていられればいい。そうして達観するんじゃなく、どんどん退化するんだ」

 豊かな葉を茂らせる初夏の桜。俺の意識は樹上で伸びをする咲耶のもとに帰る。
 立ち上がる咲耶。何かを振り払う。鳥のように。

「咲耶、何を……うわっ!」
 次の瞬間、俺は空に潰されたかと思うような痛みに襲われた。

「ああ、痛かった」
 くらくらする頭のそばで聞こえる、ちっとも痛くなさそうな声。

「あんまりふざけるなよ、咲耶」

 俺の右肩の内で、星がチカチカ瞬いていた。だが、そこから崩れるように肌を浸していくものがある。咲耶の囁きが俺の耳を満たす。

「皮や肉が溶けて骨だけになっても、このまま、あなたと抱き合ったままでいられればいい。
 秋が来て冬が来て、また春が来て。被った埃は、雨や雪が流してくれるから。
 骨はどんどん磨かれて、純粋になって。
 夏草や枯れ葉、溢れた水で打ち上げられた魚の臭いに囲まれても、二人だけは崩れない」

 肌が少しずつ重なり溶けていく。さざなみに似て。どこまでが咲耶で、どこまでが自分なんだろう。
 波は広がり、一枚の水面になる。碧色の水。見つめているうちに、水が世界の中心を埋め尽くす。水以外は全て、隙間を埋める空間。俺自身も含めて。碧い湖面に沈む順番を待っている。ただそれだけの存在。

 凍った微笑みが、碧に溶けはじめている。誰の顔だろう。溺れてゆくのに幸せそうに微笑んでいる。溺れるのは、苦しいばかりじゃないらしい。


 俺は引き出しの奥から聖書を取り出し、そっと撫でさする。
 重なる頁の間には、薄紅色をした咲耶の魂が確かに挟まっている。
 聖なる文字は、咲耶の肌。初めて男の前で服を脱ぐ少女みたいに、ピンと張っているのに、自分の無垢さにおびえている。
 だから俺は、文字を読むなどという無作法はしない。ただその面を撫でさする。幾度も。幾度も。
 そうして咲耶を愛撫する。咲耶との繋がりを確かめる。

 咲耶は毒を欲しがっている。
咲耶に与えるなら、舐めると歌いつづけるようになる毒がいい。そうすればどんな鳥よりも美しくさえずるはずだ。咲耶の声は少しも鼻にかかっていないのに、いつもしっとりと露を含んでいる。

 俺は、咲耶に毒を注ぐ。 俺の毒で恍惚となる咲耶。
 思った瞬間、躯が震えた。

 樹上の咲耶をただ受け止めた時でさえ、俺は震えた。背筋の両側を直になぞられたように。
 咲耶を知る前の俺は、抱くのは飽きたと思っていた。俺は知らなかった。こんな快感が、この世に存在するなんて。

 自分のため息が耳に入る。周囲の空気があわてたように色づき始める。周囲の色と引き替えに、俺は今まで側にいた咲耶が幻影と知った。それまでは確かに、息遣いさえ聞こえそうなほど側にいた、咲耶と俺は。


 俺の意識に、ふっと紛れこんでくるもの。咲耶の視線だ。
 木の葉の形が溶けてひとすじの線になり、静かに包みこんでくれる。
 紛れこんで……。窓から紛れこんできた蝶のように。咲耶が視界と意識の間に飛び込んできた。

 白いシャツが光の燐粉をまきちらす。髪が風の形に揺れて細い首筋を際立たせる。咲耶の腰を河原の夏草が包む。すんなりと伸びやかな脚。急に匂い立つ青さ。

 窮屈そうな皮靴を脱ぎ捨てて、咲耶は草に寝転がった。日曜出勤の義兄と、出産を控えた姉に代わって姪の父兄参観に行っていたという。姉が唯一の肉親だと、咲耶は付け加えた。

 たった一人でも咲耶に家族がいたことを、俺は意外に思った。何となく、咲耶はこの世の誰とも繋がっていないような気がしていた。そう、俺以外とは。

「幼稚園って、ほんとに気持ち悪い場所だよ。
 はーい、みんなお父さんやお母さんにプレゼント渡せましたね。
 はい、おとーさんおかーさんいつもどうもありがとう。はい どういたしまして。
 思わずハムスターのつがいを思い出しちゃった。小さい頃、飼ってたことがある。
 カゴの中から、ぢゅぢゅぢゅって聞こえて、何かと思って見ると、交尾してんの。
 ハムスターたちの今夜の話題といったら、みんな同じに決まってる。
 画用紙で作ったネクタイを壁かなんかにぶらさげてさ……。
 あー、もっと気持ち悪いこと思い出した」

「何?」

 答えず咲耶は草の葉をちぎって潰し、小さい子供みたいに膝を曲げ、爪に塗り始めた。そうしている間も白い額や頬を不規則に撫ぜる、栗色がかった素直な髪。咲耶の髪なのに、関係ないように涼しくなびいている。

「昨日は姉貴の病院にお見舞いに行った。居心地、すっごく悪かった。
 この命を抱くのは私なのよ、みたいな安定感?
 赤ん坊とのこれからの日々に思いを巡らす幸福感ってやつかな。
 4人部屋だったんだけど、そのうちの一人が、
 やっぱり男の子は泣き方からして違うわね、って姉貴に言ったときはむせそうだった」

 ひとつずつ丁寧に塗られた爪が徐々に浮き上がり、別の命を持ち始める。
 爪の上で乾いていく草色が肌にしみ込み、咲耶の全身を浸していったら。
 奇妙な不安にとらわれ、俺は苦笑いする。

 もし仮にそんなことになっても、咲耶の中を流れる紅はどんな色にも負けないはずだ。
 潰れた葉緑素など、あっという間に溶かしてしまうに決まっている。

「咲耶はいつも、ほのぼの系を毛嫌いするんだな」

「それが幸せっていうもんだ、感謝しろ。……息苦しい。そういうの。
 幸せが毛穴に詰まってさ。皮膚の奧に押し込められた血管が膨張して、破裂しそうになる。
 ちまたでは進化が流行ってるけど、それは世間に任せてさ。
 二人は退化して、胎児になろう……」

 咲耶が俺の腕を引っ張って催促する。すでに躯を浮かせながら。
 光が強いほど、影も濃い。影が咲耶を落ち着かせるなら、毒を注いであげよう。

 そのとき、咲耶の胸から無粋な電子音が鳴り響いた。
 これは、何のメロディだろう。俺がぼんやり考えていると、咲耶が硬い表情で告げた。

「ごめん。今日はもう、行かなきゃ」

 そして、俺は見てしまった。
 あわただしい別れの後、再びあのホテルに入っていく咲耶の姿を。


 暗い螺旋階段を、俺はひたすら下りつづける。底知れぬ闇に向かって。
 永遠に続くかと思われた階段は不意に途切れ、くすんだ緋色の扉が行く手を塞いだ。
 いつの間にか握りしめていた銀のナイフを鍵穴に差し込み、そっと回す。
 カチリと音がして、扉は軋みもせず開いた。招いている。俺を。

 明かりとりの小さな窓から、半切れの月がのぞいている。むき出しのコンクリートの平面が空間を区切っただけの部屋。
 用途不明の器具やビーカーやフラスコが散乱し、乱立する無数のガラス管には、透明な液にひたされたウサギや、ラットや、カエルや、様々な生物標本が収められていた。
 それらが月光を淡く反射するさまは、不気味というよりむしろ幻想的な光景だった。ガラスの中の生物たちは、命あるときには決して見せないであろう躯の隅々までを晒し、ご丁寧に内臓までも暴露している。

 部屋の中心、明かりとりの窓の真下に据え付けられているのは、白い手術台。
 その先に進もうとして、俺は息を飲んだ。

 そびえたつガラスの柱。その内部には、咲耶が、青白い標本となって静かに浮かんでいた。
 一糸まとわぬ咲耶の躯には一点の曇りもなく、髪の毛やまつげ、うぶ毛の一本一本までがきれいに揃っている。その柱から目が離せずに俺は立ち尽くした。初めて出逢った夜と同じように。

 俺の耳にかすかな電子音が届く。このメロディは……そうだ、「月光」だ。
 瞬間、鋭い音を立ててガラスの柱が砕け散った。

 背後に人の気配を感じる。
 クックッ、と卑しい笑いを漏らして奴は産まれ落ちたばかりの咲耶を抱き上げる。床に零れた大量の羊水に足をとられ、俺はどうしても前に進めない。
 月光に照らされた手術台は見覚えのあるベッドへと変質し、白いシーツの上に咲耶が人形のように無抵抗に横たえられる。弱々しく伸びた右手は、枕元の聖書をつかみ損ねて虚しく空を切った。

 どこかで赤子の泣き声がする。

『やっぱり男の子は、泣き方からして違うわね』

 明るい日差しの下の、幸せな微笑。咲耶の姉。
 奴はその隣で照れ笑いの仮面を被り、真面目で凡庸な義兄をほのぼのと演じていた。


「すっかり夏だね。陽射しがちゃんと肌を刺してくれて、気持ちいい」
 電車の中、隣に腰かける咲耶。絹糸の髪が揺れている。俺の心の波長に合わせるように、カタンカタンと小刻みに。

「だけどやっぱり、風を受けているのがいちばんいいな」
「何か、吹き飛ばしたいことでもあるんじゃないか」

 電車は緩やかなカーブにさしかかり、ドアの窓から不意に光がさしこんだ。
 天然のスポットライト。咲耶が一瞬、息を止めたのがわかった。
 呼吸を忘れた咲耶は、美しかった。この世のものとは思えないほどに。

「別に……」

 なにげないふりを装う咲耶の返事は、車輪の軋む音に溶けた。
 何も言わない咲耶と、何も言わない俺を乗せて、電車は駅に滑り込む。
 ひときわ高いブレーキ音が、今まで一度も聞いたことのない咲耶の泣き声のようだった。


「サカサナマズなんてのが、いる」

 咲耶の、珍しくはしゃいだ声で我に返る。
 目をこらすと、きちんと逆さまになって泳いでいる魚が見えた。

「あ、ほら、マンボウ」

 プールのように大きい水槽に、二匹。お腹のあたりから切られたような姿で、悠々と泳いでいる。一匹は太っていて泳ぎにも力があるが、片方はウロコがはがれかけていて動きも鈍い。けれど二匹ともお互いを気にすることなく、ましてや観ている人間など鼻にもかけていない様子だ。

「いいなぁ、魚って裸で水の中にいられてさ」

 ガラスにはりついていた咲耶がうらやましそうにつぶやく。当たり前のことなのに、咲耶が言うと生々しい。水の中の咲耶。裸の咲耶。ただ眺めているのも、いいかもしれない。標本のように。

 咲耶は魚。歩く魚。
 魚は泳ぐものと決まってるわけじゃないんだな。
 ゆら、ゆら。溶けて、舞う。咲耶と、俺。

 やけに時間がもたついている。肌も汗でべたついているのに、暑さが遠い。俺は、咲耶のひれに触れようとした。瞬間、するりとひれが……手が引き抜かれる。

「ね、お腹すいた。何か食べよ」
 無邪気な声なのに、目が冷えていた。再び風に触れた俺の手はやり場をなくす。
 そうだな。仮面が俺を優しくさとす。魚は時々ナーバスになるものなんだ。水が揺れるみたいに。

「こんなとこで選り好みしてもしょうがないし、ここでいっか」
 細い指が無造作に指さすありふれた店。スパゲッティのサンプルがガラスケースの中に蒼白くたたずんでいる。似たようなカップルが数組、店を覗いては通り過ぎていく。粘土人形みたいに次々に形を変える、人と、人。 対になって。 魚と、魚。 奴と、咲耶。
 違うな。 咲耶は今、俺の隣だ。

 そのとき、壁に寄りかかっていた咲耶が、クックッと笑った。
 棘みたいに、神経に障る。

「何がおかしいんだ」
「だって、ここで待っている人はみんな、お腹がすいてるわけでしょう。だったら、ここに並んでいるのは人間じゃなくて欲なんだもの。おかしいよ」

「そういうふうに言うやつが、いちばん飢えていたりするんだよな、実は」

 目の前で、顔が固まった。唇をきゅっと結んで、俺をまっすぐに見上げる。この目。
 いつだって、俺を、俺の奥を射る目。

「そう、飢えてるよ。人一倍」
「だから俺だけじゃ、その飢えは満たせないわけか」

 端正な顔が、今度は歪んだ。
 哀しいとも辛いとも表現しがたい、初めて見る表情。

「知ってる、んだね」

 頷く俺。やがて薄紅色の唇がそっと開かれた。

「悪いことだとは、思わない。だって、誰にも迷惑はかからない。
 あの人は、言った。『姉さんと結婚したのは、咲耶が欲しかったからだ』
 皆、幸せでいられるのに、これが罪であるはずがないもの」

「幸せなのか。咲耶は」

「あなたが思うほど、酷いことじゃないよ。あの人は、とても優しいから。
 それに、今までどれだけ躯が飢えてたかってこと、教えてくれたのは、あの人だもの」

「だったら、どうしてホテルの聖書なんかにあんなもの、挟んだんだ。ほんとうは、誰かに救ってほしかったんじゃないのか」

「そんなんじゃない。自分が裁かれるのか、試したかった。ただ、それだけ」

 咲耶は顔を上げ、俺を見つめた。まっすぐな瞳で。

「それともあなたが、裁いてくれるの」


 俺の下で、咲耶がもがいている。河原に打ち上げられた魚みたいに。
 きつく眉をひそめて、喘いでいる。

 唇を重ねる。全てを飲み込むように、強く、強く吸い取る。舌を絡める。
 ほころんだ唇の端から、透明な唾液が滴り落ちる。

 硬く閉ざされた瞼をふちどるまつげの先が、微かにふるえている。
 罪の意識に? 否、肉体が支配される純粋な悦びに。

 そう、役立たずの精神は、行きずりの屑箱にでも捨ててしまえばいい。
 俺の躯の全ては咲耶を求めている。快楽の淵へと咲耶を追い詰める。

 全てを手に入れたくて、俺は咲耶を抱く腕にさらに力を込めた。
 月明かりにほの白く透き通る躯を、俺は夢中で貪り続ける。

 だけど、足りない。咲耶の躯。
 俺の全てを埋めたいのに、細い腰は耐え切れず痙攣を起こしかけている。
 咲耶の、俺の肉体の限界に、歯ぎしりする。

 奴よりも、誰より深く咲耶に届きたいのに。
 もっと、もっと深く……。

 カラン、とそのとき咲耶の掌から銀色の魚が逃げた。刃先に宿る、光。
 俺は動きを止め、覚めた目でそれを拾いあげる。

「……いいのか?」

 虚ろな瞳で、咲耶はこくりと頷いた。人形みたいに。
 俺の中で、何かが音を立てて砕け散った。

 いつまでも崩れることなく抱き合う。咲耶と、俺。
 恍惚を、碧い水が静かに浸していく。

 咲耶の骨は、きっときれいな真珠色をしているはずだ。

 全ては褪せた緋色の聖書に挟んでおこう。
 そうして寂れたホテルの一室で、ひっそりと待ち続ける。
 誰かの腕に、再び舞い降りる夜を。

『見つけて、くれたんだね……』



  了



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