夏の花

by Qビック

 カーラジオのFM放送が、梅雨明けだと告げていた。
 智子は、ハンドルを握り、山中の曲がりくねった街道を走っていた。避暑地を抜け磨き立ての銀色のボンネットに、木漏れ日が、夏の空を写している。
 智子は、助手席のタクヤの横顔をちらりと見た。

彫りが深い鼻筋が通ったタクヤの顔が、白樺の林と重なった。運転中なので、チラリとか見ることが出来ないのがもどかしかった。
「タクヤ君、こういうところは、初めて?」
「はい、避暑なんて、来たこと無いです。キャンプならありますけど」
「そう。わたしは、3回目よ」
「さすが、社会人は違いますね」
「そうかしら。わたしは、少ない方よ。大学時代から、毎年来ている子もいるわ」
「そうなんですか。僕も大学に入れたら、毎年これるかな?」
「一生懸命、バイトすればね」
 タクヤが無邪気な笑い声をあげると、智子は、胸が締め付けられた。
 わたしの企みをまだ知らない高校生の男の子。わたしの理想。智子が、そう思ったのは、何度目だろう。一年前に会ったときから、もう百は超えたかもしれない。
「綺麗ですね」と、タクヤがつぶやく。
「春の新緑や、秋の紅葉もいいけど、夏の林もすてきでしょう」
「い、いえ。智子さんが・・・・」
「そ、そう。ありがとう」
 年甲斐もなく照れるものだ、と智子は、手のひらの汗をぬぐう。
 智子は、美人だった。会った男は、皆、そう言った。
「でも、もうすぐ結婚しちゃうんですよね」
「そうよ。9月にね」
「いいな。旦那さんは、幸せだ」
「ふふ、オヤジみたいな言い回しね」
 智子は、二十六歳で、半年後、五つ年上の医師と結婚する予定だ。相手は、小太りで、髪が薄く、油で光った丸い鼻が印象的な。お世辞にも容姿がいいとは言えない男だった。看護婦の智子にとっては、腕に定評がある外科医との結婚は、玉の輿だった。
「かなり、山の上の方にきちゃいましたね」
「もうすぐよ。ついてから、ご飯を作ればすぐに昼食をとれるわ」
 智子は、街道をはずれ、山腹に通る一車線の道に入る。
 右側が崖になっており、深い山々が一望できた。
「こんなところにあるのですか」
 タクヤは、小さな冒険に胸をときめかせる少年のように高い声を上げた。
「そうよ。だれにもじゃまされたくないから」
 智子は、タクヤの表情を伺ったが、崖から見下ろす広大な風景に夢中のようだ。
 やがて、車は、カラ松の林の中に立つコテージの前に止まった。
 1建だけのログハウス風の別荘だった。ボーナスのほとんどをつぎ込み借りた別荘だ。回りは綺麗に整備されている。
「みんな、まだ来てないみたいですね」
 タクヤが、白い歯を見せ笑った。
 ハッチバックをあげ、タクヤが食料が入った発泡スチロールの箱を下ろす。白いTシャツに浮き出た背中の筋肉が動く。智子は、股間がうずくのを感じた。抱きつきたいと思ったが、我慢した。時間はタップリあるのだ。
 タクヤは、智子が一人ではとても持てない箱を軽々と運び、玄関へ続く階段を上ってゆく。あんなに細い腕で、よく力が出るものだと後ろ姿を見つめていた智子は、カギを持っていることを気づきタクヤの後を追った。
 狭い階段で、タクヤを追い越すとき、智子の股間がタクヤの太股にこすれた。息がこみ上げて心臓が高鳴った。
「今、カギを開けるね」
 智子は、自分でも声が上ずっているのが解る。
 タクヤは、何事もなかったように、玄関に入り荷物を下ろした。
 智子は、タクヤの顔を見上げながら、逞しい体にあらためて驚くのだった。
 智子の我慢は、限界だった。
 ドアから出て行こうとするタクヤの背中に抱きついた。頬をTシャツにこすりつけ、臭いを嗅いだ。細く見える背中も、こうしていると、以外に広いのに驚かされる。
「智子さん。どうしたの」
 ちょっと、いつもより高いタクヤの声。
「ごめん。ごめんね。誰も来ないの・・・・」
 智子は、タクヤが志望する大学のテニス部の合宿があると偽ってつれてきたのだ。テニスが好きなタクヤをここにつれてくるために。
「みんな、嘘なの。お願い。ここで、一週間、わたしと過ごして」
 タクヤの背中に頬を付けたまま、智子は続けた。
「その間、わたしを抱きたいだけ、抱いていいよ。好きにしていいよ。わたし、タクヤ君の子供が産みたいの」
 タクヤの背中が震えているのが解った。拒否されたら、どうしようかと思った。だけど、止められない。智子は、自分の胸を潰れよとばかりにタクヤの背中に押しつけた。
「智子さん・・・・。もうすぐ、結婚するんですよね」
「そうよ。彼のことは、愛しているわ。結婚もする。でも、わたしが産みたいのは、タクヤ君の子供なのよ」
「智子さん、それって」
「言わないで!結婚したい人と、子供を産みたい人は、違うの・・・・彼の子供も産むけど、その前にタクヤ君の子供が産みたい」
「そ、そんな。裏切りですよ・・・・」
 解っている。でも、智子には止められなかった。タクヤに会うまで、仕事一筋だった。髪もショートだった。でも、タクヤが、長い髪の女の人が好きだと聞いてから、伸した。手入れも面倒ではなかった。女としてみてほしかった。
「タクヤ君には、迷惑かけないわ。彼の血液型がタクヤ君と同じだから、結婚相手に選んだの。絶対にばれないわ。帰ったら、彼に抱いて貰うから」
「そんな」
 智子は、震える手で、タクヤの股間を探った。
ズボンがチャックに沿って盛り上がっていた。
 タクヤ君が、勃起してくれている。智子は、大きな目に涙を浮かべながら、言った。
「タクヤ君は、自分の子供をわたしが産むのイヤ?」
 長いと言っても、ほんの一時の静寂に、蝉の声だけが響いている。
「わ、わかりました」
「大好き!」智子は、両手に力を込めて、タクヤに抱きついた。
 タクヤを振り向かせ、口づけを交わした。

智子は、震えるタクヤの唇を強引に吸って、舌を歯の間に差し込んだ。タクヤの舌は、おびえたカエルのように口の奥で丸まっていた。智子は、舌先でそれを撫で誘った。タクヤの舌が、動きだし、智子の舌と絡み合った。舌は、二匹のヘビのようにもつれ合いじゃれ合った。ぎこちなく絡みついてくるタクヤの舌をリードしながら、今まで感じたことがない下腹部から突き上げてくる快感に智子のため息は、くぐもった喘ぎになった。
 タクヤの手が、智子の臀部に伸びまさぐっている。
 智子の下腹部にジーンズのチャックが押しつけられた。智子は、下から上に腰を動かし、タクヤのそれを刺激する。こうすると亀頭の縁が引っかかりよい刺激になることを知っていた。
 唇を離しタクヤの目を見つめながら智子が言った。
「奥にベッドがあるわ」
 智子は、ソバージュにした髪を両手で広げ形を整える。
 寝室は、広く落ち着いた雰囲気で、窓のレースのカーテンから、昼前のやわらかい光が差し込んでいた。窓を開け高原の風を通す。タクヤが、智子に歩み寄り抱きしめそのままベットに倒れ込んだ。
 智子は、かすかな汗の臭いを嗅いだ。香水なんて付けていない。タクヤに自分の体臭を嗅いでほしかった。自分も、タクヤの体臭が好きだと思った。
 言葉をほとんど口にしないまま、服を脱ぎ裸になった。
 愛撫などする前から、智子は、自分が十分に興奮していることに驚いた。
 ぎこちない幼稚な愛撫だった。智子は、タクヤの手首をつかみ指先を性器にあてがってやった。
「熱いです。智子さん・・・・」
「入れて良いよ」
 智子は、目の前が一瞬暗くなるほどのオルガスムを感じていた。若い男が、挿入の前に射精してしまう話は良く聞いていたが、自分がそんなになるなんて思ってもいなかった。智子のあげた声にタクヤは興奮し、一気に入ってきた。
 智子は、歓喜の声を上げた。
「わたしは、タクヤ君の子供を産むの」
 タクヤは、すぐに射精した。
 智子は、子宮が精子を吸い込もうとそれにあわせ収縮するのを感じた。こんな感覚は初めてだった。砂漠を放浪し喉が渇ききった旅人の胃袋のようにタクヤの精液を求めていた。

 タクヤの腕枕で、智子は、心地よい疲労感に浸っていた。タクヤ君は何回も自分の中に射精してくれた。智子は、嬉しかった。
 柱時計が三時を打った。
「もう、こんな時間だわ。お昼作るね。遅いけど」
 智子は、車のエンジンを掛けっぱなしだということに気がついた。食料品以外の荷物も車の中だ。
 智子は、裸のまま、掛けだしていた。
「智子さん。服は!」
「大丈夫よ。誰も見てないから」
 智子は、裸のまま玄関を出て来るままで走った。
 蝉の声がうるさいまでに囃し立てた。
 タクヤも裸のまま後に続いてきた。
 ほっそりとしているが引き締まった無駄な肉のない綺麗な肌をしていた。
「智子さん。とっても綺麗だ。まぶしいくらいに」
 タクヤが目を細めながら言った。
 智子の体も、忙しい仕事の合間を見てエアロビクスに通って整えてきた均整のとれた体だった。雪国生まれの智子は、肌も白く、太陽の下で、眩しいというのは、あまりにもはまりすぎた褒め言葉だった。
「タクヤ君。わたしを一週間好きにしていいから、いっぱいセックスしよう」
 タクヤは、屈託のない笑みでうなずいた。
「まずは、お昼ご飯。すぐにつくるね」
 キッチンへ行くと、智子は、裸のままエプロンをつけ、分厚いステーキ肉をフライパンの上にのせた。
 タクヤ君には、いっぱいスタミナをつけてもらって、私を妊娠させて貰うんだ。智子は、初めてラブレターを貰った女学生が部屋で一人ではしゃいでいる気分だと思った。
 タクヤは、分厚いステーキをペロリと平らげた。智子は、脂っこい食べ物を見ると胸焼けを心配する婚約者とは、全然違うと思った。
「すごいんだ。みんな一人で食べちゃった」
「こんな厚い肉なんて、初めて食べました」
 タクヤは、血の色をした唇で、そう言った。
「育ち盛りだもんね。たくさん、タンパク質をとって、たくさん精子をつくってね」
 智子がタクヤの股間のものに触れるとすぐに堅くなった。
「お風呂入ろう。洗いっこしよう」
 智子は、握ったままタクヤを椅子から立たせバスルームに行った。
 智子は、シャワーの水温を調節すると、タクヤの前に跪き、真上を向いたペニスを洗った。キトウの裏側を指でこすると硬度が増すようだ。
 突然、水のような精液が、天上へ向かって飛んだ。
「すごいわ。タクヤ君」
 智子は、思わず感嘆の声を漏らした。婚約者のしたたるような精液とはまるで別物だった。
「我慢できなかったんだ」
 タクヤははにかんだ表情をして、智子を見下ろしている。
「どれくらい飛ぶか計ってみようよ」
 智子は、タクヤのペニスを扱き始めた。
「もう、でませんよ。さっき、あんなに出したのに」
「大丈夫よ。若いのだから。思い切り飛ばして」
 智子は、右手で扱きながら、左手で玉を握り徐々に力を込めていった。
「ああ、智子さん・・・・気持ちいい」
 飛び出た精液は、バスルームの壁に飛び散った。
「すごい。すごい。こんなに飛んじゃった」
 智子は、ペニスの先端に軽く唇を触れて言った。
「まだ、出るでしょ。私の口の中にして」
 智子は、自分の喉の奥に、あの勢いで発射される精液を感じたかった。タクヤの返事も聞かないうちにくわえ込んでいた。
「ああ、智子さん。オレ、俺」
 タクヤは、智子の髪をつかみ、快感に体を震わせたが、昼から何回もしているためか、射精することが出来なかった。それでも、智子は、執拗に舌を這わせ続けた。タクヤのペニスの硬さが一団と増してきたかと智子が頬の内側で感じたとき、喉の奥に衝撃を感じた。射精は、二回連続で起こった。
 ほとんど水のように粘りけの無い液体を喉の奥に吸い込むと、透明な精液が体内に染み渡る様子が脳裏に浮かんで、気が遠くなるような感覚が智子を襲った。
「と、智子さん・・・・こんなによかったの生まれて初めてだ」
 タクヤの呟くような声に智子は、微笑みかけた。
「お風呂に入ったら、ゆっくり寝て、明日、またしよう。ローズマリーのお湯だよ。睡眠効果が高くてよく眠れるはずだから」
「その前に、智子さんの体、ぼくに洗わせてください」
 智子は、思春期の好奇心にされるがままに体を預けた。
「綺麗だ・・・・綺麗だ・・・・」
 とうわごとのように感嘆しながら、タクヤは智子の体にボディーソープを塗り、シャワーを使った。
 その指が触れるところが熱っぽくなり、やがて、その熱気が全身を覆った。どんなに高度なテクニックを誇る男の愛撫も、タクヤのぎこちない洗い手にはかなわないのだ。

 朝、智子が、蝉時雨の中で目を覚ますと、タクヤが裸のまま、窓縁に手をつき外を眺めていた。タクヤは、振り向きざまに智子に駆け寄り飛びかかってきた。二人は、ベットの上に倒れ込みもつれ合った。
 タクヤの愛撫は、昨日より、大胆に秘部に迫った。
「ああ、タクヤ君、朝からそんな」
 タクヤは、智子の顔にキスの雨を降らせながら、言った。
「智子さん、俺、必ず妊娠させますから」
 タクヤは、そう言うと智子の股間に顔を埋め、舐め始めた。
 智子は、
「空腹は性欲を高め、寝ている間に成長ホルモンにより、性細胞が増殖し、朝のセックスが一番妊娠に適しているかもしれない」と、頭の隅で思った。昨日の極厚のステーキが精液になっているころだろう。若いタクヤの精巣の中では、無数の精子が生産されているはずだ。受精に必要な濃度まで回復するには、一晩で十分だろう。
 そう考えると、智子の股間は、タクヤのペニスを求めてくすぐったいような動かさずにいられないもどかしさに襲われた。
「入れて、タクヤ君、入れてっ」
 智子の子宮が精子を求め、それが、自分を動かしているようだった。
 智子の割れ目が、タクヤの性器を飲み込み、そのすべてを吸い尽くそうと収縮する。
 タクヤは、たまらずに射精を繰り返した。
 二人は、何度も体位を変え混じり合った。
 窓から吹き込む高原の風が、汗ばんだ体に心地よいと気がつくまで。

 もう正午近かった。
 智子は、食事を作りにキッチンへ立った。
 あらかじめ詰め物をしておいた七面鳥をオーブンへ放り込み、冷凍のトロを解凍した。 食事は一日一回でいいかもしれない。昼に食事を取り、午後は、思い切り遊んで、朝に空腹のままセックスをする。このペースが、二人には合っていると思った。
 
 食事が終わると、二人で外へ出た。
 裸のまま、靴だけ履いて。
「なんか、変な格好だね」
 とタクヤが、満腹の腹を撫でながら言った。
「アダムとイブみたいでしょ」
「あれは、靴を履いていない」
「ヘビが出たら、こわいじゃない」
「そしたら、捕まえて食べよう。智子さんが相手だと、体が持ちそうにないし」
「あら、いやだ。タクヤ君だって、もっとしたそうな顔をしているじゃない」
「うん」
 タクヤが素直にうなずくので、智子は、笑い出した。
「そんなに可笑しかったですか」
 タクヤもそう言いながら、もらい笑いをした。
「タクヤ君、ヒゲをそり忘れてるよ。原始人みたい。ここで、レイプして」
「いいよ」
 智子は、走って逃げた。
 タクヤは、追った。
 智子は、林の中で捕まり、腐葉土の上で、交じり合った。
 二匹の獣が一応の満足を遂げると、
「ちょっと、待ってて」とタクヤが別荘へ走って、ひもを取ってきた。
「こうすると、興奮するよ」
 智子胸を白樺の幹に押しつけ、両腕を反対側に回し、手首を縛った。
 タクヤは、後ろから智子の足を抱え上げ、挿入してきた。
 智子は、白樺の幹に顔をこすりつけられ少し痛かったけど、「ああ、すごいっすごいっ」と空中で叫んだ。
 
「ちょっと、すりむいちゃったね」
 タクヤが、智子の傷をなめる。
 夏の長い夕暮れの中で、うるさいほどに蝉が鳴いていた。
「セミ、うるさいね」
「あ、ぜんぜん、気づかなかったよ」
「うん」
 二人は、ローズマリーの湯につかりながら、智子がタクヤのヒゲを剃ってやった。美しい顔の輪郭を指に感じながら、「明日から、私がタクヤ君のお髭を剃ってあげるね」と言った。
 
 次の日も、朝からセックスを繰り返し、昼過ぎに豪華な野生味のある昼食をとり、表にでた。
「智子さん。ウンチするところを見せてください」とタクヤは言った。
「タクヤ君、そんな趣味があったの」
「いいえ、そうじゃないです。ただ、すべてを見たいんです」
 と、タクヤは、顔を赤らめた。
「いいよ。なんでもする約束だもんね」
 タクヤは、靴で地面を蹴り、穴を掘ると「どうぞ」と言った。
 智子がしゃがむと、タクヤは後ろから智子の肛門をのぞき込んだ。
「あ、出てきた」
 智子は、初めて羞恥心を覚え、顔に血が上るのを感じた。
「あ、見ないで・・・・」
「どんどん出てくるよ!こんなになって出るんだ」
 タクヤは、子供のようにはしゃいでいる。
「おしまいよ」
 智子が立ち上がると、タクヤはテッシュをわたしながら、「今度は僕がするよ」と穴を跨いだ。
「わたしにも、見せて」
 智子も、タクヤの肛門をのぞき込めるように、顔を地面に近づけた。
 タクヤの排便が終わると、二人で並んで排泄物を観察した。
「同じ色をしている」とタクヤ。
「同じものを食べていたからじゃない?」
「うめちゃおう」
 二人は、ウンチに土をかぶせ、その上に小さな白樺の苗を掘ってきて植えた。
「きっと、大きな木になるだろうね」
「ぼくらのウンチが肥料になるから」
 この林には、何万匹もの蝉がいる。大きな木になったら、何匹の蝉がこの木にとまるだろうか。

 四日目の朝も、目覚めるとタクヤはすぐに智子の体を求めてきた。一日中一緒にいるためか、タクヤの愛撫は、日増しに巧みになっていった。濃い精液を子宮に注ぎ込むと、いろいろな体位を要求してきた。クンニだけではなく、肛門も舐めるようになった。智子さんのすべてが好きになったと言った。
 その日は、雨が降っていたので、昼食には、マムシの干物をから揚げにして食べてみた。そのお陰かどうか、二人は午後からも、ベッドでじゃれ合っていた。
 時折、昨日タクヤが摘んできたヤマユリの強烈な香りが鼻をついていた。
 智子は、ユリの香りがいやらしいと思った。

ユリの花の雌しべは、ヌメヌメと光り、焦げ茶色の花粉が少しついていた。毒毒しいほど、美しくさくヤマユリは、性器そのものだと思った。
 わたしたちの行為も、この花そのものではないか。
 智子は、そう考えると、タクヤの体に自分から、絡みついていくのだった。

 智子は、その夜、夢を見た。
 大きなユリの花の中で、二匹のヘビがもつれ合っていた。
 一匹のヘビがもう一匹のヘビの尻尾に噛みついていた。
 噛みつかれたヘビも、噛みついたヘビの尻尾に噛みついた。
 二匹のヘビが輪になって回り、やがて歪んで∞。
 ユリの花が、ツバキのようにポトリと地面に落ちた。

 智子が目を覚ますと、心臓が高鳴っていた。
 裸のまま、寝てしまったらしい。タクヤが傍らで、寝息を立てている。
 薄暗い闇の中で、タクヤの睾丸を見つめていた。
 目が慣れてくると睾丸が動いているのが解った。
 上に行ったり下に行ったり、生き物のように動いている。
「こうして、精液を作っているのね」
智子は、眠気が来るまで、愛おしそうに見つめ続けた。

「智子さん、昨日は、あまりよく眠れなかった?」
「ちょっとだけ起きていた。よく解ったね」
「肌が、ちょっと違うような気がして」
「ごめんなさい」
「あやまることないよ。こんなに綺麗な肌の人、他にいないと思うよ」とタクヤは、やさしく尻にキスをする。
 あなたの方が綺麗なのにと、智子は思った。
「そうか、ユリの香りが強すぎたんだね。強い香りがあると眠りが浅くなるって効いたことがある」
 タクヤは、ユリを花瓶から引き抜くと窓から放り投げた。
「あっ」
 智子は、胸の奥にものが支えたような気がした。
 でも、タクヤは、いつものように愛してくれた。
 昼食の後、雨が上がった、外に出て、谷川まで行った。
 昨日の雨で水かさが増していたが、濁りは少なく泳ぐに支障がなかった。
 魚の群れを見つけると、タクヤは、智子を腹に抱え上げ、股を開かせオシッコをするように命じた。
 智子のオシッコが魚の群れの上に落ちると、餌と間違え、魚が飛びつき、がっかりしたように方向転換しては、また、飛びつくことを繰り返した。
 智子の放尿が終わらないうちにタクヤも、放尿した。
 魚の群れは、ただ事じゃないと思ったのか、逃げていってしまった。

 あと、ゆっくりしていられるのは、一日だった。明日には、山を下りなければならなかった。二人のセックスは、朝から激しかった。
 タクヤは、子宮に向かって何回も射精した。
「好きだ!好きです!智子さん!」
 タクヤは、叫びながら、智子の尻を抱えてた。
「ああっ、もっと、もっと」
 智子も、顔をシーツに付けたまま、喘いだ。
 昼も近くになるまで、二人は、息が切れるほど、激しく抱き合った。
「智子さん。結婚してください」
 タクヤが言った。
「えっ?ダメよ。約束でしょう。明日までの」
「そんな。好きです。僕が、高校を卒業して、大学に行って医者になるまで待っていてください」
「そんなことをすれば、わたしは、三十半ばを過ぎちゃうわ」
「そんなの関係ないです。わかれるなんてイヤです」
「タクヤ君。よく聞いて。結婚したい男と、子供を産みたい男は違うのよ。わたしは、あなたの子供がほしいと思ったけど、結婚したいとは思わないのよ」
「そうですか・・・・。残酷ですね」
 タクヤは、肩を落として、床を見つめていた。
「ありがとう。気持ちだけでもうれしいわ。本当にタクヤ君と結婚できたら幸せだろうな。だけど、年が十近くも離れている。お互いに無理をしないと、いけないわ。最終的に壊れてしまうほど」
「そんな、僕は、智子さんなら、おばあちゃんになっても愛せます」
「あなた。格好いいしハンサムだし頭もいいし、もっと若くて綺麗な子が見つかるわよ。わたしが保証する。ここを出たら、二人は、他人同士よ。いい?」
「わ、わかりました。智子さんがそう言うなら」
「ごめんね。わたしのワガママに君を巻き込んじゃって」
 タクヤは、切なげに眉を垂らし智子を見つめた。
「そんなことないです。俺の方こそ、いっぱいやらせて貰って、感謝してます」
 しばらくの間、口を閉ざしていたタクヤが言った。
「智子さん。アナルセックスやらせてください」
 一瞬、口を開けたままになった智子だったが、やがてほほえんで、「いいよ」と言った。

 最期の朝のセックスは、少し感傷的だった。蝉は、沈黙していた。
 タクヤは、涙を流しながら、放出した。
「智子さん。やっぱり、分かれなければいけませんか!結婚相手は、医者じゃなきゃだめですか!高卒でもよければ、俺と」
 タクヤは、智子の尻を責めながら言った。
「ダメよ。あなたと私の子供には、良い教育を受けさせたいの。お金をかけたエリート教育よ。普通の子じゃないんだから」
「智子さん!智子さん!」
 タクヤは泣きじゃくりながら、犯し続けた。

タクヤが七回目の射精をすると、智子は、タクヤの泣きはらした下まぶたをそっと、テッシュで拭いてあげた。
「ありがとう。最期までがんばってくれて。帰る支度をしよう」
 タクヤは、ウンとうなずいて、Tシャツをとった。一度脱いでから、一度も着ていなかったシャツだった。
 また、蝉が鳴き出した。
 聞き慣れないエンジン音が聞こえ、ペンションの前で止まったようだ。
 智子は、誰も来ないはずなのにと思って、窓の外を見た。
 黒塗りのベンツから、黒服の男達が降り立ち最期に智子の婚約者が出てきた。
「和紀さん」
 智子は、あわてて服を整えた。
 和紀は、ペンションのドアを乱暴に開けると中に入ってきた。
「智子!やはり、ここにいたのか!探したんだぞ!」
「どうしてここが・・・・」
「探したのさ。君は、友達と海外旅行に行くと言っていたが、どうしても知らせたい緊急の事態が起こったんだ。そして、それが嘘だとわかり、探偵を雇って、やっと突き止めた」
「そんな・・・・」
「智子さん」二階から、タクヤが降りてきた。
「あの少年と、いっしょに何をしていたんだ?一週間の間」
 智子は、和紀の目から、視線を離しうつむいた。
「智子さんは、なにもしていないよ」と、タクヤが階段から怒鳴った。
「君は、黙っていなさい」
 和紀の一括にタクヤは、沈黙した。
「和紀さん・・・・ごめんなさい・・・・魔が差したの・・・・どうしても我慢できなかった・・・・」
「そうか」
 和紀は、タクヤを横目でにらみながら言った。
「美しい少年だな。僕とは、大違いだっただろう」
 和紀の声には、怒りの感情が感じられなかった。それどころか、やさしい。
「怒らないの?」
 智子が和紀の目を見ると、和紀は、ため息をついた。
「ああ、君の行為は、美しくすら感じるよ。君は、気づいてないかもしれないが、君は、ガンだったんだ」
 智子は、なんのことか解らず、口を開けたまま立っていた。
「君は、この前、僕の病院で精密検査を受けただろ。その結果が出た。膵臓ガンだ。もう一年持たないだろう」
「う、うそよ。そんな」
「生物は、無意識に自分の死を予見すると、子孫を残したくなる本能があると、私は考えている。今日までの君のようにね」
 和紀は、智子を眩しそうに見つめていた。
「実に白い肌をしている。素人には解らないが、病的な色だと医者にはわかる」
「そんな・・・・結婚は・・・・」
「こんなことをしでかして、結婚か?いや、しでかさなくても、余命がない君と結婚できるわけがないだろう。わるいが、婚約は、破棄させてもらうよ」
 智子は、嗚咽する口を手のひらで覆いながら、叫んだ・・・・。
「赤ちゃんは!タクヤ君の赤ちゃんは産めるの」
「医師として言うが、下ろした方がいい。すぐにホスピスに入りなさい」  
 智子は、両手で頭を押さえ、髪を乱し、狂ったように叫んだ。
「そんな!わたしは、産みたいの!タクヤ君の赤ちゃんが!」
 和紀が、目配せをすると黒服の男達3人は、タクヤを取り押さえた。
「智子さん、智子さん」とタクヤの叫び。
「タクヤ君に乱暴しないで」と智子は、弱々しく叫んだ。
「残念だよ。最期の相手に僕を選んでくれたら、僕は君を離さなかったかもしれないのに」 和紀は、智子の手を取り、立ち上がるように促した。
 もう、智子には、蝉の声しか聞こえなかった。
 それは、耳鳴りのように、まとわりついて大ボリュームで暗闇へと誘った。智子は、床に倒れ込んだ。

 一年後、ホスピスを赤ん坊を抱え退院する初老の女の姿があった。末期ガンの患者が余命を送る施設でも、何年かに一度奇跡が起こる。生命の奇跡である。
 女の髪は、半分以上白く、手足はやせ細り、しわだらけだった。抗ガン剤の副作用だった。女は、眩しそうに手を掲げ、庭に立つ立木を見つめた。今日の蝉は、いつになくうるさかった。
 医師と看護婦に頭を下げると、待たせているタクシーへ、向かった。
 一人の男が、ホスピスの門の陰から女性に歩み寄った。
 女は、男の顔を見上げた。
 若いが、少しふっくらした面構えだった。
「智子さん。待っていました」
 男が白い歯を見せて笑った。
 女は、記憶を呼び覚ますように遠い目で、空を見た。
「タクヤ君?」
「はい。待ってました」
 男は繰り返した。 
「結婚してください」
 智子は、視線を空中に這わせると、
「タクヤ君。わたし、こんなにおばあちゃんみたいになっちゃって・・・・」
 と言った。
「僕は、言ったでしょう。おばあちゃんになっても愛せるって」
 タクヤの目は、智子の目をまっすぐに見つめている。
「タクヤ君、気持ちは嬉しいんだけど・・・・あなたの一生を台無しにしちゃうわ。わたしの体には、もう、内臓が半分も残ってないの。子宮もないわ」
「そんなこと、関係ありませんよ。僕と二人の子供もいるじゃないですか」
「それに」とタクヤは、智子手首を握り、自分の股間に当てた。
「玉とられちゃったんです」
 フフフッ智子は、泣きながら笑った。嬉しいか悲しいのか解らなかった。
タクシーのドアが開くと、智子を乗せ、タクヤは、反対側から乗った。
「僕、プロポーズします。高校中退したけど、一生懸命働きますから」
「ええ、もちろんよ。とても、うれしいわ。でも、一つ問題があるの・・・・」

 赤ちゃんに、あなたの名前をつけちゃった・・・・



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