或る大好きな本があって、幾度となく読み返してきたのだが、ここにきて、突如として面白く無くなった。ページを開いても、言葉が輝きを放っておらず、あれほどまでに酔いしれた名文の数々も、味気ない文字の羅列に変貌を遂げている。
別にその本に飽きた訳ではない。呪われたのだ。いや実際のところ、いつのまにかその本が、インターネットにそこはかとなく漂う邪気を吸ってしまい、本来の精気を失ってしまったのである。
このような場合、お清めが有効となる。
俺は本を祭壇に祀り、塩をかけると、線香を焚いて、手を合わせてから一晩そのままにしておいた。
読書人生30年。実に本の呪を払ったのは初めての経験だった。