仕事で池袋。インドのお店に寄り、こないだたくさん買ったDVDのなかから見れなかったものを交換してもらった。
インド映画「Chachi420」を見る。これは実に面白かった。
この作品はこないだ見たタミル映画「Avvai Shanmughi」のヒンディー語版リメイクである(1月19日の日記参照)。多言語国家であるインドでは、それぞれの言語圏にそれぞれ異なる映画産業があり、ある言語圏でヒットした映画が他の言語圏で同じ脚本でリメイクされるというケースは非常に多い。同じ映画を台詞だけをその地方の言葉に吹替えして公開するということと同じくらい(あるいはそれ以上)ポピュラーに行われている。
面白いのは、オリジナルとほぼ同じ脚本で、同じ俳優も数人か重なっているというのに、映画の雰囲気がえらく違うという点だ。「Avvai Shanmughi」はタミル映画だけにかなり泥臭く、かなりバカバカしいノリだったが、「Chachi420」は典型的なヒンディー映画で、すべてにおいて精錬されたスタイリッシュな出来になっている。ギャグシーンも押さえに押さえられ、その分、登場人物の感情的な面を細やかに描くことに成功している。
主演・脚本はオリジナルと同じカマル・ハッサン。さらに今回のリメイクでは自ら監督までしている。この男、「ABHAY」のような馬鹿な映画をつくるかと思えば(3月8日の日記参照)、こんな見事な仕事もやってのけるとは。なにせ「Avvai Shanmughi」の演出を手掛けたのは「ムトゥ/踊るマハラジャ」の名監督K・S・ラビクマールだったのだ。それをさしおいて、一介の俳優であるハッサンが、はるかにクオリティの高い演出をものにしているとは。しかもインド映画ではミュージカルの歌の部分はプレイバックシンガーという専門の歌手が歌うのが普通だが、ハッサンの歌はすべて本人の声である。それもかなりの美声なのだ。まさにインド最強のマルチ映画作家といえるだろう。
ハッサンの他にも同じ俳優が何人か重なっているが、ほとんどはヒンディー映画の俳優に入れ替わっている。一番大きな違いは、オリジナルでは、かのタミル映画の女王ミーナがヒロインだったが、このリメイクではタブになっている。このタブがまた良いのだ。
どこかのインタビューでミーナが「Avvai Shanmughi」のヒンディー語版リメイクに出演できなかったことに対して「どうしてハッサンはわたしを起用してくれなかったのかしら? でもいいわ。子持ちで離婚した主婦の役なんかでヒンディー映画に進出したくなかったもの」とすねたような発言をしていた覚えがあるが、確かにミーナのファンとしては、どうしてミーナを出してやらなかったんだと思わないでもない。しかし、ミーナの代わりに起用されたのはタブなのだ。演技派で美人。個人的にミーナと同じくらい好きな女優である。そして悔しいが、ミーナよりもはるかに良かった。この映画の成功はハッサンの他にもこのタブの演技力に負うところが多い。もうタブが出ているだけで映画に深みが加わるような気がするくらい、味のある演技をする。そもそもタブというのはそういう女優なのだ。
あとタブの父親役で大俳優アムリシュ・プリが起用されている。これもかなりポイントが高い。ストーリーもごちゃごちゃと解りにくかった「Avvai Shanmughi」と比べて、同じ脚本だというのにずいぶんスッキリして解りやすくなっている。アクションシーンは今まで見たインド映画でもっとも面白いものだ。ハッサンの映像マジックである。
オリジナルと比べて十倍面白い、カマラ・ハッサンの才能全開の傑作であった。