4.セルの操作
 セル情報とセルワークス

 後半部分、タライの直撃を受けて眼鏡がずり落ちるところまで作ってしまいましょう。
 タイムシートは用意されていた60フレーム全てを使い切ってしまったので、新しいフレームを付け足さなければいけません。
 60フレーム目の適当なセル上で右クリックしてメニューを出します。
 まず「セルを末尾に挿入」を選択して61フレーム目を付け加えます。
 次に61フレーム目のセル上で右クリックしてメニューを出し、「複数セルの挿入」を選択します。
 ダイアログが開きますので、ボックスに「59」を記入してOKボタンを押してください。
 これで新たに60フレーム分の新しいタイムシートが付け加わりました。
 なぜ60フレーム目で直接複数セルの挿入をしないのかといいますと、PGEは「クリックしたセル(パート)の前にフレーム(パート)を挿入する」という仕様になっているからです。
 60フレーム目で「複数セルの挿入」を選択して60フレーム分挿入すると、60〜119フレームが新しく追加されたセルになり、今まで60フレームだった部分は120フレーム目に押し流されてしまいます。
 これを防ぐために、まず一番最後になるフレームを「セルを末尾に挿入」で追加して、残りのセルを追加するわけです。

 後半部分にセルを記入していきましょう。

・A61〜A64セルに9番リソース
・A65〜A120セルに10番リソース
・B65〜B120セルに11番リソース

 記入が終わったら再生してみましょう。さっきまでおすまし顔だったヨミが、突然何かに驚いて呆然となるアニメになりました。
 さて前半は必要なセルを全て用意して順に表示していく、簡単ながらもまっとうなアニメーションの技法で作成されていました。
 これに対して後半は、用意されたセルそのものの表示方法を変えてアニメを作っていく、ちょっとズルい(そして大幅にラクな)技法を使用していきます。

 まずタライ直撃を受けた状態、61〜64フレーム目です。このままでもいいのですが、65フレーム以降の頭をはねあげるための「タメ」が欲しいところです。
 セルアニメの場合は、9番リソースよりもさらに少し身をかがめた別の絵を用意するところです。が、せっかくのコンピューターアニメですので、9番リソースの縦サイズそのものを縮めて簡単に表現してしまいましょう。

 モードを「範囲指定」に切り替えて、A63セルをクリックして選択します。
続いて、シフトキーを押しながらA64セルをクリックします。これでA63・A64の2つのセルが選択されました。
 シフトキーを押さずにA64セルをクリックすると、A63セルの選択は解除されてA64セルだけが選択されますのでご注意ください。
 セルの表示倍率は「セルの情報」欄にある「拡大率」に表示されています。左から順にX(横)拡大率、Y(縦)拡大率です。
 初期状態ではXYとも100で、これが原寸です。これよりも数値を大きくすればセルは大きく表示され、小さい数値にすれば小さく表示されます。
 今回は縦を縮めたいので、Y拡大率のボックスに「98」を記入します。

 一旦アニメを再生してみましょう。身をかがめたというよりは、全体が縮んだような、妙なアニメになってますね?
 これはPGEが全ての画像の座標を、その中心に基点を持っているからです。つまり画像を縮小して表示しようとすると、画像はその中心に向かって縮小していくわけです。
 今回のアニメの場合はヨミが小さくなるのではなくて、身をかがめたい(見かけの身長を低くしたい)わけです。つまり、足の位置が動くと困るわけです。
 それならば、縮んでしまった分だけセルの表示位置を下にずらして、つじつまを合わせてやればいいわけです。
 もう一度、A63・A64セルを選択します(シフトキーを忘れずに!)。今度は「位置」の欄を見てください。ここも左から順にX,Yの各座標位置を表しています。
 これのY座標のボックスに「4」を記入します。
 またアニメを再生してみましょう。「タメ」が入ることで、ヨミの動きにはずんでいるような感じが加わりました。

 続いてズリ落ちる眼鏡です。ここは「一旦大きくズリ落ちた眼鏡がしばらく静止、その後徐々にズリ落ちていく」という、アニメでよくある動きを表現してみましょう。

 B68からB120セルまでを選択します。先刻のようにシフトキーで選択してもいいですが、ここではもうひとつの方法、ワイヤーで選択してみましょう。
 B68セル上でマウスボタンを押します。押したまま、マウスを下に向かって動かして生きます。
 カーソルが表外までいけば、表が下にスクロールしていくのでそのまま下に動かしていってください。
 範囲選択ワイヤーがB68からB120までを囲ったら、ボタンを離します。これで選択できました。

    

 では「セルの情報」欄を書き換えましょう。
 「位置」のY座標ボックスに「10」を、「回転」ボックスに「5」を記入します。
 アニメを再生してみましょう。最初の衝撃で眼鏡がズリ落ちる様子が加わっています。

 最後に、徐々にズリ落ちていく眼鏡です。これは今までと違って、複数のフレームにまたがってセル情報が可変していく動きです。
 このような、複数フレーム上で可変していくセル情報のことを、PGEでは「セルワークス」と呼びます。PGEにはこのセルワークスを、専門に受け持つコントロールが用意されています。

 まずはセルワークスを適用させる範囲を選択します。B91からB120セルを選択してください。
 先ほどから範囲選択をするたびに、タイムシート右上のボタンが使用可能に切り替わることに気づかれた方もいるでしょう。ここがセルワークスを実行するためのコントロール群です。

 セルワークスは、

 1)セルワークスを行う範囲を指定
 2)数値の可変するフレーム数をリミテッド単位で設定
 3)開始値と終了値を記入
 4)レートカーブを設定
 5)適用させたいセルワークスのボタンをクリック

 という手順で行います。
 ではズリ落ちる部分を設定しましょう。
 まず、「リミテッド単位」を「3」に設定します。リミテッド単位とは数値を可変させるフレーム数の単位です。リミテッド単位が3なら、設定した数値は3フレームごとに変化するようになります。

 なぜそんな設定があるのかというと、リミテッドアニメーションで違和感のないセルワークスを実現するためです。
 ご存知の通り、アニメーションには1フレームつづ1/30秒の動きを描いていって表示するフルアニメーションと、枚数を削減するために何フレームかにわたって同じ絵を表示し続けるリミテッドアニメーションがあります。
 商業アニメの大半はリミテッドアニメですし、私や皆さんのような個人が作る分にも、作業量の問題からリミテッドアニメで作成することが大半だと思われます。
 リミテッドアニメの場合、何フレームかにわたって同じ絵が表示し続けられます。それ自体を見ている分にはあまり違和感を感じません。
 しかしそこに、1フレーム毎に数値が変わるセルワークスが混在すると、そちらのなめらかな動きと見比べられて、リミテッドアニメのガクガクした動きが強調されてしまうことがあります。
 それを防ぐためにセルワークスの方も「リミテッドアニメ」させるための仕組みがリミテッド単位です。

 このヨミのアニメは厳密に「3フレーム分同じ絵」を守っているわけではありません。が、一応3フレームリミテッドを想定してタイムシートを書いていますので、リミテッド単位の方も3に設定します。

*この「リミテッド単位」はリソース指定モードで、一度にセルに書き込む数にも対応してます。リミテッド単位3のままでリソース指定モードにきりかえて、適当なセルをクリックしてください。そのセルから3つ下までのセルに選択リソースが書き込まれます。
 何コマか毎にリソースを書き込んでいきたい、というような時にご利用ください。

 長くなりましたが、作業を再開しましょう。「開始値」に「10」、「終了値」に「20」を設定し、「Y移動」を選択します。
 これで縦移動のセルワークスが終了しました。アニメを再生してましょう。眼鏡がずり落ちていく動きが加わりました。
 しかし、どこか少し変です。眼鏡が重力に引かれてズリ落ちるというよりは、眼鏡自体が下に向かって自力移動したみたいに見えます。
 これは下移動が等速度で行われているからです。現実に同じような物理運動がおこれば、最初の加速から徐々に移動速度が落ちていき、最後には止まってしまうという動きになるはずです。
 このような加速度を設定するためのコントロールが「レートカーブ」です。

 「設定」欄の一番右側のグラフ、これがレートカーブです。これはセルワークスに割り当てる運動の加速度を表しています。
 横軸が時間を表しています。左端が開始時、右端が終了時です。
 縦軸は運動量をあらわしています。下端が開始時、上端が終了時です。

 初期設定では、グラフ線は左下から右上に向けて一直線に伸びています。つまり運動量を等速度で割り当てる指定になっているわけです。
 この線をマウスでドラッグして、動かしてみてください。グラフ線がカーブを描いて変化していきますね。
 今回は、「最初は早く、徐々に遅く」したいので、カーソルを左上に動かして、画像のような曲線に変形させます。

*元の直線に戻したいときは、上の「規定値」ボタンを押してください。初期設定に戻ります。

 もう一度、「Y移動」ボタンを押してセルワークスを再定義します。アニメを再生してみましょう。さっきよりも、「ズルッ」と落っこちる感じになりました。

 このメガネは左のツルが耳からはずれたのか、傾いて落ちてます。それも再現してみましょう。
 回転は+の数値が右回転、−の数値が左回転になります。今回は右回転ですので、+の数値を入力します。
 同じ範囲に今度は「開始値」に「5」、終了値に「10」を記入します。リミテッド単位やレートカーブもそのまま変更せずに使用します。
 今度は「回転」ボタンを押してセルワークスを適用させます。アニメを再生してみましょう。傾きながらズリ落ちる、だいぶそれらしい動きになりました。

*細かいことを言えば、この動きは「右側のツルを中心にした角運動」です。さきほどの方法では「眼鏡の中央」が中心になっており、微妙に動きが違います。
 回転運動の中心をズラす方法もあります。まず眼鏡のリソースのワールド座標を左にズラしておき、タイムシートで表示するさいにはズラした分を右に移動させて元の位置にもどします。
 これで「回転」ボックスの下にある、「平行移動後に回転を適用」チェックを入れると、最初にズラした分だけ回転の中心が移動します。
 この眼鏡程度の動きなら、そこまで厳密にする必要はありませんので、ここでは割愛しております。が、何かを扇形に動かしたい時には便利なやり方ですので、覚えておいて損はありません。
 タイムシートを完成させる

 最後です、落ちてくるタライの部分を記入して、タイムシートを完成させます。
 この金ダライは「ちょもらんま大王」にはない、なんとこのチュートリアルのために描きおろした専用の画像なのです!



 ……すみません、チュートリアルを続けます。
 まずタライを画面に出しましょう。E52からE83まで、12番リソースを書きこみます。
 アニメを再生してみましょう。ヨミの前に謎のUFOが突如出現します。それにもうひとつ気づいたことがあります。
 ヨミの頭上の空間が狭すぎて、タライが落下するところを十分に見せることができません!
 幸いなことに、ヨミの足元には空白がたくさん余っています。ヨミ全体を下にずらして、頭上の空間を確保することにしましょう。

 全体を下にずらすには2種類の方法があります。全てのリソースのワールド座標を下にずらすか、タイムシートの全体を指定して、表示位置をずらすかです。
 一見するとタイムシートの表示位置をずらす方が簡単な様に思えます。ですが、タイムシートには既にメガネをずらすセルワークスが入っています。
 全体のY座標を設定すると、これらのセルワークスをもう一度設定しなおさなければなりません。
 それと、このチュートリアルではあまり関係ありませんが、そのアニメーションカット全体にかかわる様な表示位置は、やはりリソース側のワールド座標で指定しておいた方がいいです。その方がタイムシートが複雑長大になった時の混乱が少なくなります。
 というわけで、リソースのワールド座標を設定しなおすことにしましょう。ついでに、セルワークスを簡単にするために、タライのワールド座標を「ちょうどヨミの頭に当たったとき」に設定します(そうしておくとタイムシート側では「xxから0へ」「0からxxへ」という座標変化のセルワークスを記述すればいいことになるわけです)。
リソース番号 X座標 Y座標 リソース番号 X座標 Y座標
80 80
10 80
11 −4 23
12 −100
248

 設定はすみましたか? それではタライの前半部分、落下して激突するまでです。

 E52からE60まで範囲選択します。セルワークスの「開始値」を「−300」、「「終了値」を「0」に設定します。
 「リミテッド単位」は「1」にします。この金ダライのように高速で移動するものの場合は、リミテッドアニメにすると距離が飛びすぎて違和感がでますので設定しません。
 徐々に加速していく感じをだすため、レートカーブは眼鏡とは逆に右下方向にカーブさせます。最後に「Y移動」ボタンを押して設定を適用させてください。
 アニメを再生します。いやはや、痛そうです(笑。

 しかし金ダライがまっすぐ降ってくるというのも妙な感じですので、空中で少し傾かせましょう。範囲指定その他の設定はそのままで、「開始値」を「0」、「終了値」を「10」にして、今度は「回転」を適用します。これで微妙に傾きながらタライは落ちてきます。

 この後は、金ダライが放物線を描いて吹っ飛んでいく所です。まずは単純に加速していくX座標のセルワークスから設定していきましょう。
 E61からE83までを範囲指定し、「開始値」に「0」、「終了値」に「530」を設定します。
 レートカーブは徐々に減速していくように、左上にカーブさせます。これを「X移動」に適用します。

 次は放物線を描くY座標です。これは2回にわけてセルワークスを設定します。
 E61からE66を範囲指定し、「開始値」に「0」、「終了値」に「−50」を設定します。
 レートカーブは同じく左上に曲げます。あまり曲げすぎると加速度が急につきずぎて、放物線というよりは「急上昇>安定飛行>急降下」という動きになってしまいますので、具合のいいところになるように、いろいろと試してみてください。
 最後に「Y移動」のボタンをクリックして適用します。

 次はY座標の後半です。E67からE83までを範囲指定します。「開始値」は「−50」、「終了値」は「400」を設定します。
 レートカーブは上昇部分とは逆に、徐々に加速していくように右下に曲げます。最後に「Y移動ボタン」を適用します。

 最後にタライをグルグル回転させましょう。
 1回転なんていわずに、派手にグルグル回って欲しいものです。PGEのセルワークスでは、360以上の数値を「回転」に適用させると自動的に2周目、3周目を割り当ててくれます。これを利用しましょう。
 E61からE83を範囲指定し、「開始値」は「10」、「終了値」は「600」、レートカーブは左上に曲げ、「回転」を適用します。

 アニメを再生してみましょう。なかなかの吹っ飛び具合ですね(笑。

 さて最後になりました。この一連のアニメーションは、ヨミの周りは白いのに、その外側は真っ暗です。
 背景も真っ白にしてしまいましょう。

 PGEが用意しているパートは全て使ってしまったので、新たに背景用のパートを追加します。背景はその名の通り、一番後ろに位置するものですから、タイムシートのAパートの前に新パートを挿入することになります。
 Aパートの上で右クリックしてメニューを呼び出し、「パートの挿入」を選択します。
 新たなAパートが作成され、今までのパートはB・C・D…と全てひとつづつ後ろにずれました。

 新Aパートの1から120まで、全部に1番リソースを記入します。1番リソースは80ピクセルx60ピクセルの小さな白い四角ですので、このままではヨミの後ろに隠れて何にもなりません。

 80ピクセルx60ピクセルという大きさにはもちろん意味があます。これを10倍にすれば800x600、ちょうどMMJの画面全体の大きさになるのです。
 では、背景を拡大しましょう。A1からA120セルを範囲指定します。
 セルの情報欄の「拡大率」の下、「縦横比を固定」をチェックして、X拡大率のボックスに「1000」を設定してください。こうすると、合わせてY拡大率のボックスにも同じ数値が入ります。

 これで、アニメ−ションは完成です。再生してみましょう。真っ白な空間で突然金ダライが落ちてくる、シュールコントの世界ができあがりました(笑。