あれから父のこと、母のこと、そして自分のこと――順は一晩中布団の中で色々なことを考えたが、結局父も母も大好きだということしか分からなかった。 「順、そんなに毎日来なくたっていいんだけど」 「いいじゃんいいじゃん、あたしが来たいんだからさー」 順は今日も、夕歩の見舞いに病院に来ていた。 こうして夕歩と一緒にいると落ち着いたが、夕歩が自分の事情について知っているのかどうかはまだ確かめていない。自分の中で整理できていなかったし、夕歩に直接聞いてみる勇気もまだなかった。 ただ夕歩と一緒にいる時は、いつもの自分を取り戻すことができた。 「……順、天地学園って知ってる?」 いつものように見舞いに来ていたある秋の日、夕歩が突然切り出した。 「天地学園?」 「うん。私立の学校なんだけど、その天地にね、『剣技特待生制度』っていうのができたんだって」 剣技特待生制度。初めて聞く言葉だ。 「私、中学はそこ受けようと思ってるんだ」 夕歩の話によると天地学園という学校では、二人で組んで剣の試合をするという、他とはかなり違った制度ができたらしい。 「そんな学校があるなんて知らなかった」 中学に上がるのはまだ何年か先だったし、中学受験のことなど順は考えてすらいなかった。夕歩と日々を過ごし、父から久我の剣を教わり、静馬のために――夕歩のために腕を磨く。それが順の生活の全てだったのだ。 「再来年までに絶対病気治すから、そしたら順、一緒に来てくれる?」 「んなのあたりまえじゃん!」 夕歩の言葉に、順は勢い込んで身を乗り出した。 一緒に行かないわけがない。 夕歩がついてくるなと言っても、順は夕歩の側から離れるつもりは全くない。ついついまた「久我は静馬についていくんだから」などと言ってしまい、夕歩に呆れた顔をされてしまった。 「へー、天地学園かー」 すごく面白そうだ。 それに二人一組というのも気に入った。あたしたちにぴったりじゃん。 「じゃあ、あたしも稽古頑張らなくちゃね」 「ほんと、ちゃんと稽古しといてよね」 「分かった。約束するっ」 夕歩は必ず病気を治すと言っている。なら自分は、それまでに少しでも強くなっておかなければ。入学試験だってあるだろう。まずはそれに合格しなければいけないのだ。 自分のことで落ち込んでいる暇はない。その日から、順はいっそう稽古に励みはじめた。 夕歩のいないまま秋は終わり、冬が過ぎ、季節は暖かな春を迎えようとしていた。 |
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