アイノカタチ
白楽天:作

■ 1章「始まり」3

磨けば光るダイヤの原石とはよく言ったものだ。


章介は佳奈を抱きかかえリツコの部屋に入ると、そのまま佳奈をベッドの上に横たわらせた。
まだ起きることはないだろうが、念には念を入れて丁寧に扱う。偶然出会ったこんなにも綺麗な少女を自らの手で調教するのだ。
こんなところでみすみすチャンスを逃すわけには行かない。
章介を部屋に案内した後店を閉めに表に出て行ったリツコが戻ってきた。
準備はOKよ、と言わんばかりに妖しく微笑み後ろ手に部屋のドアを閉める。

島田佳奈
17歳、9月19日生まれの乙女座、一人っ子で兄弟無し。
身長はリツコよりもやや低めだということから163〜5cmくらい、体重は量らずとも細身であることが見た目よりうかがえる。
父は3年前に他界、母は佳奈を女手一人で育てようと試みるが無理がたたり現在は入院中。
佳奈は奨学金で学費を賄いながら、ルノワールのバイト代と父の遺産で母の治療費を捻出している。

これがリツコの知りうる限りの佳奈についての情報だった。
章介は不憫な暮らしを強いられながらも懸命に働く佳奈に何か心動かされるものを感じた。
といっても、その献身さ、健気さが章介にはマゾ特有のものに感じられ、いまさら調教を取りやめ、解放するつもりなど毛頭なかった。
佳奈は2人の調教師がどう甚振ろうか思慮を巡らせながら狙っているとも知らず、相変わらずすやすやと穏やかな寝息を立てている。
今や佳奈は完全に一糸纏わぬ姿になっていた。
章介とリツコは佳奈の身体を観察するため着ていたルノワールの制服を脱がしていたのだ。
まだ大人になりきっていない身体と下腹部の薄っすらとした翳りにあどけなさが残り、穏やかな寝息を立てている眠り姫はこれから先の身の上を知ったらどのような反応をするだろう。

しかし、今回のターゲットはいつもとは違うやり方で落とさねばなるまい。
今まで章介は、サイトで調教希望の女性を選び出し、そこにお互いの利が一致するので問題なく調教をすることができた。
だが佳奈に関しては、本人が調教を希望してはおらず、まして実際マゾの気質を持つのかどうかも定かではない。
マゾかどうかの問題は、場数を踏み、クレセントから調教師として認められている章介やリツコには大きなものではなかった。
例えマゾでなくとも手はかかるが、マゾに仕込むことはできる。
問題は佳奈が調教について何も知っていないことにあった。どうやってこちらの世界に引きずり込むか……
なにかしら佳奈本人が認めるような状況にしなくてはならない。

「私に考えがあるわ」
リツコは少し考えた後、息を吐き出すように呟いた。
章介もある程度考えはまとめていたがリツコの案に耳を傾ける。
やはり調教師同士、考え方は似ている。軸となるものは2人の考えで大差はなかったので、2人はさっそく行動に移った。


「………ん、うん」
薬を盛られて30分ほどが経過してから、佳奈はもぞもぞと寝返りを打ちながら眼を開ける。
まだ覚醒しきっていないのか、天井を見る眼は焦点が合っていなかった。
(あれ? 私、寝ちゃったんだっけ?)
(ここはどこだろう? 女の人の部屋っぽいけど……)
(うう……頭がまだぼんやりする……なんか身体も熱いし……風邪でも引いたのかな)
ゆっくりと上体を起こし、ベッドサイドの鏡で自分のルノワールの制服姿を見ると、佳奈はリツコが出してくれた食事の最中に寝てしまったことを思い出した。
もっとも、制服を1度脱がされ再び着せられているという事実を佳奈はまだ知らない。それどころか寝ている間に自分に起きたことは何一つ気づいていなかった。
「あら、佳奈ちゃん。やっとお目覚めみたいね?」
リツコが手に水と服を持って部屋に入ってくる。
「あ、リツコさん……ごめんなさい。私寝ちゃったみたいで……働くって言ったのに」
佳奈は恥ずかしげに俯き頭を下げた。そして、自分の寝ているベッドはリツコのものだと合点し慌てて立ち上がろうとするが、立った瞬間足元がふらつき、リツコに支えられるようにして再びベッドに腰掛けた。
「ダメよ。今は休んでなさい。顔も赤いし、熱もあるみたいだわ。」
リツコが佳奈の頬に手を触れると佳奈はピクンと軽く跳ね、眼を伏せると甘い吐息をついた。
(なに? 今の……変な感じ……)
異性との関係をいまだに持ったことのなかった佳奈には、触れられただけなのにそこが熱を持つような感覚がまったく理解できなかった。
経験豊富な人間でもこれほど極度に敏感な状態は経験したことはないだろう。
佳奈は寝ている間に裸にされた後、たっぷり媚薬を塗り込められたのである。
章介とリツコは佳奈のほぼ全身にクレセントの調教師のみが手に入れることのできる特殊な媚薬パウダーを塗りつけた。
外性器はもちろんアヌス、乳首や内腿、脇の下、首筋、二の腕、背中まで白銀色のパウダーが全身に行き渡り、佳奈の身体に薄っすらと光沢を持たせるくらいに丹念に塗りつけた。
このパウダーは一般の既製品のものに比べ、効果の持続が長く、そして1度火照った身体は効果が続く限り冷めないという被験者の女性にとっては恐ろしいものであった。

そんなことを知る由もなく佳奈は自分の身体に困惑する。
(やだ……ほっぺが熱いよ)
(なんか体中が熱くなって……)
「佳奈ちゃん大丈夫? 寝汗かいちゃったでしょ? これ私のパジャマなんだけど……着替えた方がいいわ。このまま制服着てても風邪引いちゃうし皺になっちゃう」
リツコが声をかけてくれたことは佳奈にとっては幸いだった。リツコに意識を向けていれば少しは身体もマシになるはずだと考えたのだ。
「はい。ありがとうございます。本当にいろいろ迷惑かけてしまって。」
「いいのよ。佳奈ちゃんは私の大切なコだし。章ちゃんも気に入ったみたいだしね」
「章ちゃんって、さっきのお客様ですか?」
「そう。私の友人なの。まだお店に残ってるわ。ほら、手上げて。着替えさせてあげるから」
リツコからパジャマを受け取った佳奈はリツコの突然の申し入れに当惑する。実際はすでに緻密に練られた作戦の一環なのだが佳奈は当然知らない。
「え、そんな…いいです」
「遠慮しなくていいわよ。女同士なんだから平気でしょ? それにさっき立てなかったくらいなんだからここはおとなしく従いなさい」
リツコはやわらかく微笑みながらひたすらに促すが、その眼と口調には少しばかり“調教師リツコ”に通ずるものがあり、口には出さぬものの、有無を言わせず、といった雰囲気が漂っていた。

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