アイノカタチ
白楽天:作

■ 2章「調教開始」10

(どうしよう……)
今更逃げ出すとか断るつもりはない。
ただ、緊張、不安、期待、興奮やらが綯い交ぜになったような混沌とした感情が佳奈の中を満たしている。
こんな時自分は、女は、どうすればいいのだろうか。
(章介さんは委ねればいいって言うけど……)
自分より一回り以上年上の恋人の穏やかな表情が思い浮かぶ。
確かに、章介に任せれば自分は何も心配は要らないのだろうと佳奈もわかってはいる。
(委ねるって……どうすれば?)
考えてみたところで、明らかに経験不足の佳奈には答えが思いつくわけもなく、結局むすっとした表情を浮かべながら麦茶を飲み干す。
(私だって章介さんに比べたらまだ子供だけど)
(一応女だもん……)
(章介さんにだって喜んでもらいたいって思うのは当然じゃない……)
(でもどうすればいいかなんて……)
「やっぱりわかんないよ……」
「何が?」
「ひゃっっ!?」
突然後ろからかけられる声に驚いてグラスを取り落としそうになるのを慌てて両手で持ち直す。
振り返ると、そこには案の定この部屋の主である章介が立っていた。
例のごとく穏やかな表情を浮かべ、半乾きの髪のまま肩にバスタオルをかけボクサーパンツだけを身に着けている。
ちょうど顔の高さに章介の股間があるため佳奈の目もそちらに向いてしまい、否が応でも頬を染めさせる。
「あ……いや、その……」
「ん?」
訝しげにしゃがみ込む章介の端正な顔立ちが佳奈に近づき、しどろもどろになって目を泳がせる佳奈に話すように促す。
「……なんでもないです……」
「そう? ま、いいけど。」
言いたくないなら言わなくてもいい、そんな様子で追及してこないところに章介の温かさを感じる。
(ああ、この人はこんなにも優しいんだから……私が考え込む必要はないんだ)
(私はただ委ねるだけ……従ってれば……)
「あの、章介さん。」
佳奈はグラスをテーブルに置いて章介に向き直ると、章介の言葉を待たずに言葉を続ける。
「私を抱いてください。」
躊躇いを感じさせない、しっかりとした声は、その言葉が意味する以上に佳奈の想いの丈を綴った。
それと同時に、佳奈は自ら未知の領域に足を踏み入れたのだ。
眼前の“捕食者”が心の底で怪しく微笑んだことも知らずに。


佳奈の言葉に驚くような素振りを見せた後、章介は無言でベッドルームに案内した。
リビング同様飾り気のない部屋に設えられたパイプ製のコイルベッドの傍まで来ると、佳奈をその横に立たせる。
「まずは、服を脱ごうか。」
「は、はい。」
穏やかだが、相手に拒否権を与えない言い方は章介の常套手段だ。
女に行動の決定権があると錯覚させ、さも自らの意思でそうしているように感じさせるのはかなり効果が大きい。
あくまで命令なのだが、命令されたと感じるか自身の意思と感じるかで結果は違ってくると章介は知っている。
佳奈も見事に罠にかかり、ブラウスのボタンを手際よくはずしていく。
恥ずかしげな表情で章介を一瞥してからブラウスを足元に落とし、下着姿を章介の眼前に晒した。
顔を真っ赤に染め上げているが決して隠そうとはしない。
そんな佳奈に章介は新たな命令を下す。
「じゃあベッドに横になって。佳奈の身体をよく見せて。」
「はい。」
いそいそとベッドに上がり仰向けになって手を臍の上で軽く組み、ベッドに腰掛けた章介をじっと見つめる。
小さな声でいい子だ、と佳奈を褒めた章介は足の指の先から顔までゆっくりと佳奈の肢体に目を這わせていく。
その視線は決して嫌らしい、下卑たものではなくて、まるで芸術品を鑑賞する学芸員のような真剣な眼差しだった。
「ん……」
そんな視線に降参するかのように、佳奈は目を伏せ吐息を漏らした。
“鑑賞”している章介にも、佳奈本人にも視姦で感じてしまったことは明白だった。
(私……見られただけで感じてる……)
段々と身体の心が熱くなる感覚に戸惑いながらも視姦を受け入れる佳奈の心に、恥ずかしさだけでなくもどかしさもこみ上げてくる。
今、昨日のように触ってもらえたら。
じっくりと蜜を溜めつつある秘所に章介を受け入れたら。
どんなに幸せな気持ちになれるのだろうか?

柔らかくキスをしてくる章介に応えるように佳奈も薄桃色の唇を合わせる。
その唇や中に見える白い歯と赤い舌は、ただただ佳奈の気持ちを代弁するかのように章介を待ちわび受け入れている。

やがて章介の手が佳奈の胸に伸び、優しくまさぐるように撫で回すようになると佳奈の吐息も一層熱と艶を帯びたものに変わり、ショーツには溜めきれなくなった蜜がしとしとと姿を見せ始めた。
「佳奈。脱がせるよ。」
章介の例の言い方に佳奈は無言で頷く。
佳奈自身も章介を欲しているため、そこには拒否権などとうに存在しなかった。
章介が背中に手を入れると、佳奈も意図を汲みホックを外し易いように背中を軽く浮かす。
胸と背中に巻きつく一種の拘束感のようなものがふっと無くなると、佳奈の柔らかな双乳がブラを押しのけるように顔を出した。
次に章介の手が腰に当てられると、先程のように佳奈は腰を浮かせてショーツを半分ほど下げてから章介が脱がしていくままに委ねる。
ようやく全ての布を取り、無垢な姿を再び章介のもとに晒した佳奈は、羞恥に身体を染めて潤んだ瞳を章介に向けた。

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