亜樹と亜美
木暮香瑠:作

■ 出会い系サイトの罠2

 亜樹は、鞄からタバコを取り出した。部屋に匂いが残らないよう窓を開け、タバコに火を点けた。その時、部屋のドアが突然開いた。驚いて振り返ると、そこには亜美が立っていた。
「お母さんと喧嘩した? お母さん、亜樹ちゃんが心配なのよ」
 亜樹は、話し掛ける亜美を無視し吸う。
「亜樹ちゃん、タバコなんか吸って……。体に悪いよ」
「大丈夫だよ。大人はみんな吸ってるじゃん……。二年ばかし早いだけじゃん……。それより、母さんに言うつもり?」
 亜樹の心配をする亜美に向かって、ぶっきらぼうに言う。
「母さんに言ったら、承知しないからね!」
「言ったりしないわ。わたしは亜樹ちゃんが心配だから……」
 亜美の真剣な眼差しから、本当に心配していることは亜樹自身にも判っている。しかし、肉親に諭されることが嫌なのだ。それも自分にそっくりの人間に言われるのが……。

 タバコの先端から立ち上る紫煙が、夜空を背景にゆらゆらと揺れている。亜樹は、亜美を無視するように、大きくタバコの煙を吸い込みんだ。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ……」
 無理して吸い込んだ煙が肺を刺激し、亜樹は思わず咳き込んでしまう。
「ほらっ、もうやめたら? タバコなんて。亜樹にタバコなんて似合わないよ」
 そんなことは、亜樹だって気付いていた。亜樹自身、亜美がタバコを吸うところなんて想像できない。そんな亜美と、自分はそっくりなんだから……。

「健吾だって心配してるわよ。最近、亜樹ちゃんが変だって……」
「うるさいな!」
 健吾の名前が出てきたことに動揺した亜樹は、思わず怒鳴り声を上げた。
「亜美も母さんと一緒だよ、優しいふりして自分の評判が悪くなるって思ってんだろ」
「そんなこと無いわよ。わたしはただ……」
 亜美の言葉を遮るように亜樹は、ぷいっと顔を背け言い放つ。
「用事無いんだったら出て行って……。タバコが不味くなるから……」
 亜樹は、亜美を無視するように窓の外を見詰め、タバコの煙を吐き出した。
「ひどい……。そんな言い方……、ううっ……」
 亜美は、その大きな瞳に涙を浮かべ部屋を出て行った。

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