雨宿り
横尾茂明:作
■ 驟雨4
「いや…ちょっとこれは…これを脱いだら下帯だけになってしまうから…」
「いいじゃありませんか…」
「でもこれを脱いだら…初秋とはいえ…少し寒いような…」一郎はたじろぐ…
「そうだ! 私…今日は父も母もいないし日曜だからちょっと贅沢してみましたの…ウフフ」
「お昼からお風呂に入ったの…残り湯で申し訳ありませんがまだ熱いから入りません?」
「こんな明るい内からお風呂だなんて…なんか天罰が下りそうで怖いな…」
「何を迷信じみたこと仰るの! 帝大の学生さんが…」
「そうですね…でもいいのかなー留守をいいことにお風呂までいただいて…」
「ここには坊ちゃんと私だけ…」
女は意味ありげに一郎を見つめた…。
浴衣に白いうなじ…一郎は先程来よりこの清楚な女の言動には完全に圧倒されていた。
「じゃぁ…お風呂…借りようかな…」
「そうなさいまし、その間にお洋服は乾かしておきますから」
女は立ち上がり、一郎を引っ張るように前を歩いて内庭に面した風呂に案内する。
「…淑ちゃんはいま何してるの?」
「今年から小学校の先生になりましたのよ…」
「へーっ…淑ちゃんが学校の教師ですかー…」
「変でしょうか?…」
「……………………」
「ここです…お湯加減は丁度よいころと思いますよ…」
一郎は脱衣所に入りズボンを脱ぎ…躊躇しながらも半開きの引き戸からそっとズボンを廊下に落とした…。
女が屈んでズボンを大事そうにたたむ…浴衣の襟口から豊かな乳房が一瞬のぞいて消えた…。
「坊ちゃん暖まって下さいね…」
嬉しそうな足音が遠ざかる…一郎は下帯を外しシャツを脱いで湯殿に入る、湯船からお湯をすくい体にかけてから湯船に浸かった…。
(あぁー丁度いい湯加減だ…気持ちいい、しかしこんな真っ昼間から女性一人の家に上がり込んで風呂に浸かるとは…母さんが知ったら発狂するだろうな…)
(偶然の雨宿りが…探してた初恋の人の家…こんな奇跡があるなんて…)
(しかし淑ちゃん…見違えるほど綺麗になったなー)
(たしか俺より三つ下だったから今年18か…見違えるはずだよな…)
(初めて見たときはなんて可愛い子と思ったものだったが…今ではこんなにドキドキするほど色っぽくなってしまって…あれからもう何年経つのか…)
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