淫辱通学
木暮香瑠:作

■ 呼び戻された陵辱1

 有紗は、ダイニングで朝食を取っていた。トーストを手に持ったまま、ボーとしている。口に運ぶでもなく、皿に戻すでもなくトーストを持った手が宙に浮いていた。
「有紗! 早く食べなさい。電車に遅れるわよ」
 母親は、見かねて心配そうに言った。
「……、うん……」
 少し遅れて、有紗は返事をした。トーストを口に運ぶが、焦点が合っていないように虚ろな瞳が宙を泳いでいる。ゆっくり食べる有紗に、母親は注意した。
「どうしたの? ボーとしちゃって……。次の電車でも学校には間に合うって知ってるけど、痴漢が多いから嫌だって言ってたじゃない。その電車にするの?」
「そっ、そうだね。……いつもの電車に遅れちゃうね……」
 有紗は、食べる速度を少し速めた。

 有紗は、昨日の美由紀との時間を思い出していた。一晩過ぎ、冷静さを取り戻したことで、昨日の二人の行為が恥かしくなった。自分たちのした行為が、すごく淫らに思えた。女性同士で、全裸で抱き合ったこと。お互いを舐めあったこと、感じ合ったこと。それらが、フラッシュバックのように思い出される。あんなに燃えてしまった自分が恥かしい。有紗は、顔を真っ赤に染めた。
(次の電車に乗ったら美由紀さんに会っちゃう……。恥かしいな……)
 どんな顔で美由紀と会えば良いのだろう、なんと声を掛ければいいのだろう。有紗には分からなかった。二人だけの秘密だが、友人たちも乗っているだろう電車で、美由紀と同じ空間を共有するだけでも恥かしかった。美由紀と目をあわせるだけでも、友達ににばれてしまいそうな気がする。美由紀に逢い頬を染めてしまう自分を想像し、有紗は顔が熱くなった。有紗は、慌てて朝食を終わらせ家を出た。

 駅が近づいてきた。それだけでも恥かしくなってくる。美由紀がいつもより早起きして同じ電車に乗っているんじゃないか、そんな気さえしてくる。知らず知らず、歩く速度が遅くなる。有紗は、改札の前で思わず立ち止まってしまった。
(どうしよう……。乗らなくちゃ……、この電車に……)
 ホームから、発車を告げるベルの音が聞こえる。改札を抜けホームに入った時、いつも乗る電車のドアが閉まり、発車してしまった。

 しばらくホームで待っていると、背中から声を掛けられた。
「おはよう! 有紗」
 有紗は、ドキッとした。
(みっ、美由紀さん?)
 この駅から乗るはずの無い美由紀だが、声を掛けられただけでも気になってしまう。
「どうしたの? そんなに驚いて……」
 声を掛けてきたのはクラスメートだった。有紗はほっとするが、同時に得体の知れない寂しさも感じた。
「今日は遅いんだね。いつもは一つ前の電車に乗ってるのに」
「う、うん。寝坊しちゃった」
 有紗は、造り笑顔で答えた。

 ホームに電車が入ってきた。いつも美由紀が通学に使う電車だ。ドアが開き、有紗達は通勤通学の波に押され、電車に飲み込まれていく。有紗は、俯いたまま電車に乗り込んだ。瞳は、上目使いにきょろきょろとする。
(美由紀さん……、乗ってるかな?)
 逢うのは恥かしい。しかし、無意識に目が美由紀を探していた。

 数人を挟んで、有紗が乗ったドアと反対側のドアに寄りかかるようにしている美由紀が居た。
(あっ、美由紀さん……)
 有紗を見つけた美由紀は、優しく微笑みを返した。有紗は、頬を真っ赤に染め俯くことしか出来なかった。



 授業が終わり、ホームルームが行われた。連絡事項が多く、その日のホームルームは、いつもより少し長くなった。

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