淫辱通学
木暮香瑠:作

■ 謂れなきお仕置き2

 三人は、並んで駅へと向った。ホームに入ると、柱から影に権堂雄一がこちらを睨んでいた。その表情には、邪魔者の法子が一緒なことに腹立たしさを浮かべていた。三人が電車に乗ると、雄一は一つドアをずらして乗り込んだ。有紗はチラッと一瞥したが、雄一を無視し法子の会話に加わった。
(ばれてしまうわ……。バイブのスイッチが入ってないこと……)
 会話に加わった有紗ではあるが、法子の声は頭の中を通り過ぎていく。内容など理解する余裕は無かった。

 電車の中では、はしゃいだ声の法子が喋りつづけている。有紗と美由紀の心配など気付いていない。美由紀も、時折振り返っている。雄一の存在に気付いているようだ。雄一の言いつけを破って、バイブのスイッチを入れていないのだ。美由紀も、そのことを気にしているみたいだ。ドア一つ離れたところには雄一がいる。有紗と美由紀は、雄一の視線を背中に感じながら法子に笑みを向けた。

 電車は、有紗の家のある街より一つ手前の駅に近づいていた。次に止まる駅名を、アナウンスが告げている。
「あああ、もう着いちゃった。残念!」
 法子は、折角美由紀と知り合いになり会話できたのに、別れなければならない時間が来たことを惜しんだ。いかにも名残惜しそうに、美由紀の顔を見詰めている。電車は駅のホームに滑り込み、ドアが開いた。
「じゃあね! 有紗、また明日ネ。美由紀先輩、さようなら……」
 法子は、美由紀と別れることが心残りのように電車を後にした。

 法子の後姿を見送った二人の表情が曇る。二人は俯いて、交わす言葉も無かった。動き出した電車の中、雄一が乗客を掻き分け二人に近づいてくる。その時間が、無性に永く感じられた。有紗の頬を一筋の涙が伝った。無邪気に笑っていた法子が羨ましかった。あの無邪気な高校生活とは違う世界に、自分は踏み込んでしまっている。その世界に引き戻しに雄一が近づいてくる。もう戻ることはできない世界に踏み込んでしまったんだと思うと、切なさが涙を瞳に溢れさせた。その涙を、美由紀は見逃さなかった。

 二人の後ろに立ち塞がった雄一が、小さな低い声を発する。
「美由紀、バイブのスイッチを入れてないみたいだな」
 他の乗客には聞き取れないほど小さな声だが、しかし、その声にはある種の凄みを含み二人の心を揺るがした。
「す、すみません。有紗ちゃんのお友達が一緒だったから……」
 美由紀は、ビクッと背筋を凍らせ言い訳を口にした。
「言い訳なんぞ、するんじゃねえ!」
「はっ、はい……」
 美由紀は、強張った表情の顔を俯かせた。

「有紗、あの女、お前が誘ったのか? アナルバイブから逃れようと思って……。えっ!?」
 続いて有紗の耳元で雄一が訊ねる。
「ち、違います。偶然、逢ったんです。偶然一緒になっただけです、本当なんです」
 有紗は小さな声で答える。次の駅は、有紗が住んでいる町の駅だ。有紗の事を知っている人が乗客にいるかもしれない。雄一との関係を知られないよう雄一の顔を見ないように小声で言い訳を言った。有紗がどんなに言い訳をしても、雄一が信じる筈はなかった。
「へっ、お前が考えたかどうかはどうでもいい。バイブを動かしてなかった罰だ! お仕置きが必要だな」


 電車は、有紗が住む街の駅に滑り込んだ。
「さあ、降りるぞ」
「えっ? ここで……?」
 有紗は、驚きと共に表情を曇らせる。いつもは隣町で陵辱を受けている。それが今日は自分の住む街で降りるように命じられた。
「いやっ……。ここでは許して……」
 自分を知った人が多く住むこの街で、恥かしい姿は見られたくない。有紗のそんな気持ちを押さえつけるように雄一は命じる。
「降りるんだ。俺に逆らう気か?」
 雄一が、有紗の困惑の表情見て意地悪く微笑む。それとは対照的に、有紗と美由紀の顔は曇っていった。雄一は電車が滑り込んだ駅で二人を降ろし、一緒に連れて駅を出た。

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