青い目覚め
横尾茂明:作
■ 幼心1
「お嬢さん…一人?」
物思いに耽る由美はその声ではっと我に返った。
「お嬢さん…いくら…」
由美は男の言う意味が理解出来ずキョトンとした。
「お嬢さん…いくらなの…」
由美は男が自分の年齢を聞いてるのかと思い「16です」
と怪訝な顔で応えた。
男はニコっと笑い「これは失礼しました」と言ってから
「へー、今時こんなウブな子がいるんだネ!」
と関心した目で由美を凝視した。
由美はこの時初めて男の意図が理解出来た。
クラスで援助交際の話しをしていたのを聞いた事が有ったからだ。
由美は急に恐くなった、辺りに人影を求めたが先の電車は出たばかりでホームは由美と男だけである。
男も辺りを伺い、由美が一人と思い、大胆にも由紀の隣に寄り添うように腰掛け、由紀の肩に手を廻し…うつむく由美に、
「おじさん…お嬢さんのことすごく気に入っちゃった」
「お嬢さんになら…10万円払っても惜しくないな」
「これから、おじさんと食事しない?」
由美は震える手で、男が回した手を払いのけ立ち上がった。
そして駆け出そうと身構えた時、男の手の方が早く由美の腕を捕らえた。
「お嬢さん…ゴメンもう変なこと言わないから落ち着いて」
と言って、由美の腕を引っぱってベンチに座るよう促した。
ゆみは恐怖で涙が出そうだった。男の誘導で由美は再びベンチに腰を下ろした。
「ごめんごめん!」
「おじさんが悪かった」
「この通り謝るから機嫌を直して……さー」
由美のうつむいた肩が小刻みに震え、目から大粒の涙がスカートに落ちた。
「あー、とうとう泣かしちゃったよー」
「本当にゴメン」
「君があんまり可愛いから、まさかとは思ったけど…つい声掛けちゃって」
「本当にゴメンね」
男はおろおろして平謝りに由美に詫びた。
「おじさん向こうに行くからもう泣かないで」
「おじさん…ずーと以前から君のこと見てたんだ…我慢出来ず急に声掛けて…」
「ゴメンネ…おじさん不器用で…声のかけ方も解らず…」
男は立ち上がると由美をもう一度見て…さも惜しそうに
「気が変わったら…今度声を掛けてね」
「なわけ無いかー…」
男は自分の唐突な行為を恥じるようにホームの端に肩を落とし去って行った。
ホームにはちらほら人が増え始めていた。
由美は誰も待ってないアパートの部屋に上がった。
暗がりで電灯のスイッチを探して引いた、一つしかない部屋の暗い電球が点った。
母の作ってくれた夕御飯の惣菜が、部屋の中央の卓袱台に冷たく乗っていった。
由美は鞄を机の横に掛け、椅子に座り、先のホームでの出来事を反芻した。
(私って…そんな女に見えるのかしら…)
(おじさんは…私を可愛いと言った)
(あのまま…おじさんに付いて行ったら…何されるの?)
(Hなことされるんだ! …Hなことって…どんなこと?)
(裸にされて…由美の恥ずかしいとこ…いじられるんだ?)
(おじさんは私に10万円払っても惜しくないと言った)
(お母さんの1ヶ月分のお給料に近い金額…)
(おじさん…そんな大金払って私にどんな価値が有るのかしら?)
(分かんない…由美分かんないよー)
(男の人って…女にお金を払って何がしたいの)
(男の人はHな事がしたいだけだって…この前由紀が言ってたけど)
(この世に男と女しか居なくて…なぜ男の人だけが女にお金を払うの?)
(私がお金を払うのは必要な物が欲しい時………そっかーおじさんは私が 欲しかったんだ…お金をはらってでも私が欲しかったんだ…)
(でもなぜ私を欲しいの? …Hなことがしたいから?)
(Hなことするのにどうしてお金を払うの)
由美は堂々巡りの思考にピリオドが打てず少しイライラした。
そして横の鏡を見た…顔を映した…(これが10万円?)と呟いた。
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