青い目覚め
横尾茂明:作
■ 羞恥戯2
「おじさんなくせにオムライスが好きなんて…やっぱり変かなー?」
男は自嘲気味に頭を掻いた。
「由美…オムライスが大好きなの!」
由美は微笑みながら唐突に答えた。
「お嬢さん…由美ちゃんて言うんだネ」
「おじさんは幸夫って言うんだよ…宜しくネ」
「今日もゴメンネ…急にこんなとこに誘ったりして…」
「おじさん…今朝、君を見て…どうしても君に謝らなければと思ってネ」
「先程…まさか帰りも逢えるなんて思わなかったから…動転しちゃって…」
「本当はもっと素敵なレストランに誘わなければいけないのに……」
「本当にゴメンね」
由美は盛んに謝るおじさんを見ながら(本当は優しい人なんだ…)と思い、心の警戒心が少しずつ氷解していくのを感じた。
店員がオムライスを二つテーブルに置き「ごゆっくり」と言って立ち去った。
二人は顔を見合わせ…そして黙々と食べ始めた…どちらからともなく沈黙に耐え切れず…同時に喋り始めた…そしてお互い譲り合い…お互いに吹き出して笑い合った。
二人は食べ終わり…また沈黙した。
こんどは男が先に喋り始めた。
「由美ちゃん! おじさん嬉しかったよ…念願の由美ちゃんにこうして逢えて」
「おじさん前から君のこと…ずーと見てたの…いい歳をしてみっともないよね」
「君があまりにも綺麗だから…見惚れちゃった」
「今日は君に声を掛けることが出来て…スゴク嬉しかった…有り難う」
「さー遅くなるとご両親が心配するからもう帰ろうか」
「………」
由美はおじさんの言葉でふと我に返った…そして誰も居ないアパートの冷たく暗い部屋を思い出した……。
「おじさん! もう少しいいよ」
「だってもう7時だよ! 由美ちゃんいいの?」
「いいの! …だって…お家に誰もいないもん」
「ご両親…遅いんだ」
「………」
「うーん…でも…この時間だとねー」
「由美ちゃん何時までに帰ればいいの?」
「11時……かな…」
「本当にそんな遅くなってもいいの?」
「うん…いいよ」
「でも…由美ちゃんのその格好じゃー…変に思われちゃうよね」
「………そうだ! 由美ちゃんにお洋服買って上げようか?」
「おじさん…そんなの…悪いヨー」
「うーんいいんだ! 由美ちゃんへのお詫びのしるしだよ!」
「どんなお洋服がいいかなー」
「………」
「とにかく外に出よ」
男は会計を済ますと由美を駅前の商店街に誘った。
商店街のウインドを見ながら二人は歩いた…
そして…とある店の前で由美の足が止まった。
「由美ちゃん欲しいもの見つかった?」
「うん…あのセーター素敵…」
由美は前から欲しかったセーターがまだ売れずに有ったことを喜んだ。
「おじさん…本当にいいの…」
「うん…いいの、由美ちゃんに喜んで貰えるならお安い御用さ」
「おじさん有り難う! …由美…前からこれがスゴク欲しかったの!」
ゆみは飛ぶように店に入った、そしてウインドの所に行きマネキンを指さし
「これ下さいな!」と店員に言った。
店員は男に向かって「お父さん、娘さんにプレゼントですか」と微笑んだ。
男は思わず「ハイ」と答え、
「由美ちゃんこれに合うスカートかパンツも買って上げるよ」
と由美に言った。
由美は目を丸くし…「ありがとう」と応え…店の奥のコーナーに向かった。
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