ボヘミアの深い森
横尾茂明:作

■ 孤独と殺意5

肌寒さに目が覚めた、少女は目を擦りながら体を起こす。
そしてピローを大事にそうに抱いていることに気づいた。

(気持ちよくって寝てしまったんだ)
(はぁ…オナニーがあんなに気持ちいいなんて…)

少女は何故か嬉しかった、これからはこの恥戯が寂しさを紛らしてくれると思えたから…。

ピローを外そうとした、性器が奇妙に引っ張られる感覚に下を見る。
性器にピローカバーがベッタリと貼り付いていた。
少女はポッと赤らみ…そっと引きはがす。

窓辺の太陽は高い位置に有った…時計が無いから時間は分からないが、3時間ほど眠ったと少女は感じる。

ベットから降りてシャワーに歩き、栓を捻る。
手を濡らすもまだ冷たい水…少女はそのまま暖かくなるまで待つ。
(オジサン…明後日の夕方には帰ってくるって言ってた…)
(その間私は何してたらいいの…)

(テレビもラジオも無いのに…ただ寝てるだけ?)
孤独に体がブルっと震える、そして紛らすように体を擦りながら窓辺へと歩んだ。

汚れたレースのカーテンを引いて窓ガラスをあける、窓の向こうには木々が溢れその先にボヘミアの深い森が広がっていた…。

視野いっぱいに目を走らせた、しかし人為的なものは何一つ見あたらない。
それら深い森の青は少女の孤独感を助長するだけであった。

閉ざされた風景、その肌寒さにシャワーの音だけが寂しく響いていた。


シャワーを浴び昼食をとる、冷たい食事は美味しくはなかったがじっとしているよりかは気が紛れた。

千切ったパンが床に落ちた、そのとき少女は繋がれたロープが目に入る。
(あっ…そうだ、ロープを切ればいいんだ…)

少女の目は輝き、台所に跳んだ。
包丁…ナイフ…少女はなにか切れるものを求め、目をせわしなく動かす。

しかし時間をかけて台所と部屋中を探したが…何も見つからなかった。
(オジサン…全部持っていったんだ)

ロープの太さが目に焼き付く…。
金属といえばフォークとスプーンくらいしかない…この太さを切り刻むのに何日かかるのか。

少女はその徒労感に肩を落としてベットに座りこむ。

わずかに見えた光明がもろくも消えたとき、またもや身を絞るほどの孤独感に苛まれた。

今日の夜まで…明日まで…明後日まで…ただ漫然と待つそれらの時間は少女にとって途方もなく長い時間に感じられた。

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