ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 幼馴染から恋人へ2

 志穂が自分のことをボクって言い出したのはいつからだったろう。幼い頃の記憶を辿る。

 小学生四年生の頃までは、志穂は普通にかわいい女の子だった。髪だって背中に届くほど長かった。お互いの家が近く、通学路が一緒ということもあり、圭一と志穂はすぐに仲良くなった。そして悪戯好きの後藤宗佑、圭一と同じサッカークラブに入っていて仲良くなった。いつの間にか、三人でいることが多くなった。

 四年生の頃、学校でスカート捲りが流行った。
「きゃーーーっ!!」
 悪戯好きの宗佑が志穂のスカートを捲った。恥ずかしさに顔を真っ赤にしてスカートを抑える志穂の仕草がとても可愛かった。
「やーーーい、志穂のパンツ、ウサギのパンツ!」
 そのキャラクターがプリントされたパンツをからかった。
「宗佑のバカ!!」
 泣きそうな顔で恥ずかしがりながらも、宗佑を睨みつけていた。

 次の日から志穂はスカートを止め体操着のショートパンツ姿で登校する様になった。その頃の男子は、遊んで汚すことを気にしなくて済むので、体操着のショートパンツで登校していた。
「ちぇっ」
 それを見た宗佑が、スカート捲りを封じられた悔しさから舌打ちをする。
「これで宗佑にスカート、捲られないよね」
 志穂が俺に向かって微笑んだ。

 六年生になる頃には、人より胸の成長が良い志穂は男子児童たちの注目の的となった。そして、幼馴染でいたずらっ子の宗佑の格好の餌食となった。

「志穂がブラジャーしてるぞ! オッパイタッーチッ!!」
 宗佑が志穂の胸に掌をタッチする。
 志穂も驚いただろうけど、僕も驚いた。女の子の胸を触るなんて……。志穂は両手で守るように胸を押さえて、顔を真っ赤にして今にも泣きそうだった。

 次の日、志穂は髪を切って登校してきた。そして自分のことをボクって呼ぶようになった。自分が女の子であることが悪戯される原因になってると、まるで男子のような格好に男子のような言葉遣いで自分のことをボクと呼び出したのだ。

 中学になっても、志穂のボクという喋り方は変わらなかった。いや、変わらないというより今までより一層少年のような喋り方になった。
「制服がスカートなんてイヤだな。風が強いと捲れちゃうんだよな」
 そう言って、スカート姿になった分、より少年っぽく喋るようになった。それが一層男子生徒たちの注目を浴び、明るく優しくボーイッシュな女の子って男子にも女子にも人気者になっていった。
「スカートの下に、どうせ体操着穿いてんだろ」
「穿いてはいるけど……」
 志穂はそう言って顔を赤らめた。いくら体育用にショートパンツを穿いていても、風でスカートが捲れることを恥ずかしがるように……。

 その年代の男子の話題といえば、誰が美人だとか、誰がかわいいとか、誰の胸が大きいとかだ。
「C組のXXの胸、でかいよな」
「でも顔がね。あの顔じゃ、オッパイがどんなに大きくても勃たねえな」
「やっぱ志穂じゃね? あいつ意外に大きいぜ、オッパイ。ボーイッシュだけど、目も大きいし結構かわいい顔してるぜ」
「それに、あいつの脚、なげーしな。あの顔にあの胸、スラリとした足って反則だよな。体育の時のアイツの生足見てたら、勃っちゃってしょうがねえよ」
「勃つ、勃つ。きゅっと吊り上がったお尻から伸びた足、見てるだけで勃っちゃう」
 その頃には、胸もさらに大きく成長し、それを悟られないようにスポーツブラで押さえ込み、ちょっと大きめの身体のラインの出ない服を着るようになっていた志穂だが、それでも隠れ巨乳として男子の間では評判になっていった。

「アイツ、カワイイとこもあるぜ。雑誌のグラビア見せたら、顔を真っ赤にして顔背けるぜ」
 志穂の話になる時には、いつも宗佑が話題を切り出す。
「そうそう、Hな話になると、途端に大人しくなって逃げてくよな。男っぽくしてるけど、その辺の女子以上にウブだよな」
 志穂が男っぽくすればするほど、女の部分が際立って注目を浴びていた。

「なかだし、ほ!」
 彼女の名前、中田志穂をもじってそう呼ぶ宗佑に、
「なかだじゃない、ボクの苗字は『なかた』だ!」
と、志穂が食って掛かる。宗佑は近づいてきた志穂に雑誌のグラビアページを見せる。巨乳グラビアアイドルの小さなビキニを身に着けた姿のグラビアページだ。
「そんなもんボクに見せるな! バカ佑!」
 強気な言葉とは裏腹に、真っ赤になった顔を背ける志穂。男子も女子も、そんな志穂を可愛く思っていた。

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